※本稿は、佐藤美和『世界のハイパフォーマーを30年間見てきてわかった一流が大切にしている仕事の基本』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■宛名の順序でトラブルとなったメール送信
ビジネスメールを送るときは、送信ボタンを押す前に本文を念入りにチェックします。誤字脱字がないか、レイアウトは読みやすいか、文章にわかりにくい部分はないか、句読点や記号などを正しく使用しているか、添付ファイルは正しいか。
「これで完璧。安心して送信できる」と思いたいところですが、一流の気配りはこれだけでは終わりません。相手に失礼がないか、負担をかけないか、あらゆる角度から細部までチェックします。メールの宛名の並び順については、絶対的な決まりがあるわけではありません。でも、宛名の順で、人間関係もビジネスも壊しかねないことがあるのです。
ある企業で1人の社員が送った1通のメールが、取引先とのちょっとした揉め事に発展したことがありました。送信したメールの宛名が「経理部マネージャー(男性)→経営管理部シニアマネージャー(女性)」の順になっていたのが原因です。
このメールについて、取引先から「経営管理部よりも経理部のほうが上だと思っているのですか? それとも、『男性→女性』という発想ですか?」と問い合わせが入ったのです。
一流は、役職の高い順(例:部長→課長)、同じ役職ならば苗字の五十音順(例:相川→阿部→石塚)という具合に、誰にでも納得してもらえる自分なりのルールを決めて宛名を入力します。
■映画のエンドロールのクレジット順にもルールがある
映画のクレジット(エンドロールで表示されるキャストやスタッフの名前)の順番で揉めた、という話を聞いたことはないでしょうか。
たかが名前の順番くらいと言ってはいられません。エンドロールは、主演俳優が最初で、最後は一番格上の俳優の名前がくるという業界の常識があるのです。このように何番目に名前が並ぶのかは、ビジネスでは、とても大事なことのひとつです。
メールの書き出しのあいさつ文も、定型文がふさわしいかどうかを都度考えます。お客さまを訪問した直後に、「本日はお時間をいただきありがとうございました」といつも通りのあいさつを冒頭に入れてメールを送信したら、先方から丁重なお詫びの電話が入った場面に居合わせたことがあります。
実は先方の出席者の1人が緊急の要件でその会議を中座していました。その人は、メールでチクリと嫌味を言われたと受け取って慌てて電話をしてきたのです。
メールのタイトルは、一目で、こちらが伝えたいことがわかるようなものにします。
■細部にまで心配りの行き届いた一流のメール
「【承認お願い】トナー発注について」や「(本文なし)A社からお礼電話あり。折り返し不要」のように何の件なのか、アクションは要るのか不要なのかがタイトルだけでわかるメールは、受信者にとっては大変ありがたいものです。
添付ファイルは、モバイル端末でメールを見る人のことを最優先に考えます。パスワードをかけたZipファイルはモバイル端末では解凍できません。Wi-Fiにつながらない環境では、容量の大きいファイルが添付されたメールを開くだけで、端末のバッテリーを大量に消費してしまいます。クラウドストレージを使えるのであれば、そこに保存してリンクを送ります。
あらゆる状況を想定して、細部にまで心配りの行き届いた一流のメールには、いつも驚かされます。
「メールには迅速に返信すべし」というのは、すっかりビジネス常識として定着しました。ポップアップ機能を活用して新着メールをキャッチし、数分以内に返信することを実践している人もいます。
「LINEと違ってメールは既読になったかどうかわからないから、返信があるまで相手はメールが届いたかどうか心配に違いない」という思いやりから、とりあえず、受信御礼のメールを送信する人もいます。
しかし、いくら返信が早くても、「メールを拝受しました。検討してご連絡します。取り急ぎの御礼とご報告まで」というメールでは意味がありません。なぜなら、このメールによって、進む仕事は何ひとつないからです。
■次のアクションを早く確実に進められる返信を
そもそも、なぜメールはすぐに返信することが望ましいとされるのでしょうか?
ビジネスメールをやりとりするのは、「仕事を次に進めていいかどうかの確認」のためです。来月休暇をとることを承認してほしい、方向性が間違っていないか確認したい、不在中にきた電話に折り返してほしい、来週の会議に出席してほしい……。メール送信の目的はさまざまでも、こちらの要望や質問に対して、「OK」「この件は終了していい」「このまま進めていい」「ダメ。考え直して」など、相手の反応によって、次のアクションを決めたいのです。
一流は、この目的がわかっているから、次のアクションを早く確実に進められるようなメールを返します。それを突き詰めていったら、一瞬で読み終えることができるシンプルなメールに落ち着くのです。
だから、本文には結論だけ。分量は1~3行くらい。
ずいぶんと素っ気ないメールだという印象を受けるかもしれませんが、普段からいい人間関係を心がけていれば、シンプルなメールが原因で受信者との間にわだかまりができることはありません。
■顔を合わせる際にはフォローを忘れずに
はじめてやりとりをする相手や、「必要最低限のことしか書いてくれないなんて、自分は嫌われているのかな?」と気にするかもしれない相手だったら、「要件のみにて」のひと言を添えておきます。そして、顔を合わせる機会に、シンプルな返信をする理由について説明すればいいのです。
受信するメールは即断できる内容のものばかりではありません。締切間近の仕事を抱えていて、メールをちゃんと読んでいる余裕はないことだってあります。こんなときは、「○○日に回答します」と返信します。いつ結論をもらえるのかさえわかれば、相手はその心づもりで他の仕事を進められるからです。
ある部下からのメールに、思わず「メールの要件は何ですか?」と電話をしてしまった上司がいました。そのメールには、季節のあいさつと日頃の感謝を丁寧につづったあとに、本題が長文で書かれていました。
その上司は部下に、メールには要件を1文だけ、説明が長くなりそうなときは、メールではなく直接話しにくるようにと指導したそうです。
メールの返信ひとつにしても、考え抜いた究極の形にしている一流はどこか違うと言わざるを得ません。
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佐藤 美和(さとう・みわ)
ビービーエル 代表取締役 人事戦略・組織開発・人材開発コンサルタント/企業研修講師
一橋大学大学院国際企業戦略研究科修士課程修了。2023年度Asia Business Outlook誌が選ぶ「アジアの組織開発コンサルタントトップ10」に日本から唯一選出。アメリカン・エキスプレス・インターナショナルにて、アジア太平洋地域オペレーションセンター設立プロジェクトを担当。アーサーアンダーセン ヒューマン・キャピタル・サービス、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)戦略コンサルティング部門にて、人事戦略策定等のコンサルティングに従事。日本GEにて人事本部組織・人材開発責任者として、グローバルタレント育成等に従事。現在は、ビービーエルを起業し、組織・人事コンサルタントとして活動している。
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(ビービーエル 代表取締役 人事戦略・組織開発・人材開発コンサルタント/企業研修講師 佐藤 美和)