※本稿は、西田宗千佳『スマホはどこへ向かうのか?』(星海社新書)の一部を再編集したものです。
■スマホの寿命は何を基準にすればいいのか
スマートフォンも機械である以上、寿命は存在する。ただ、その考え方は他の機器とは異なる。
なんらかの理由で壊れた・電源が入らなくなった時はわかりやすいだろう。これは修理するしかないし、発売から時間が経っているとか、すぐにスマホを使いたいなら買い替えた方が良い。
画面が割れたくらいなら、今は修理も簡単になっている。「画面が割れる」という言い方をするが、正確には、ディスプレイを守る「カバーガラス」が割れる場合がほとんど。そのまま使える場合もあるが、怪我の可能性も増えるので、できるだけ修理して使った方が良い。
次に、買い替えなどの指針として使われることが多いのが「バッテリーの劣化」だ。スマホを使い続けるとバッテリーが劣化し、フル充電にしても動作する時間が短くなる。
バッテリーは充放電を繰り返すことで劣化する。
自宅などで「ケーブルをつなぎ、満充電を維持したままスマホを使い続ける」人は多いが、発熱の影響もあって劣化を招きやすい。本来は避けるべき使い方だ。
■「OSアップデート」のふたつの意味
現在は、スマホの側に「いたわり充電」などの名称の機能が搭載されるようにもなってきた。これはあえて満充電にしない(80パーセントから95パーセント程度で充電を止める)ことで、バッテリーの劣化を防ぎ、より長く使えるようにする仕組みである。
それでもバッテリーが劣化した場合、メーカーに修理を依頼して交換することもできる。だいたい2年から4年程が1つの目安となるが、スマホの新機種も出ている頃なので、ここで買い替える人も多いだろう。
そしてもう1つ、IT機器ならではの「寿命」になるのが「OSのアップデート期間」だ。
スマホのOSは定期的にアップデートしている。これは機能を向上させるためだけのものではなく、セキュリティを維持するためのものでもある。
まったく欠陥のないソフトウエアは作ることができない。目立たないがどこかに不具合は隠れている。
■ハイエンド機種の方が長寿のワケ
すなわち、スマホの寿命とは「OSのアップデートが続く間」と言える。最近はメーカー側でも、「セキュリティ対策のアップデートを何年続けるのか」を明示する動きが出てきた。
例えばグーグルは、Pixel8以降について「発売から7年間、セキュリティアップデートを保証する」としている。サムスンも上位機種では7年、安価な機種では5年間保証すると明言している。シャープも5年間の保証を打ち出すようになった。
アップルは明確にアップデート期間を打ち出していないが、過去の例からいえば、7年ほどはアップデートを提供している。そもそもグーグルの施策が、「アップル製品はアップデートが長く提供される」という定評への対策なのだ。
これらの保証はあくまで「新製品発売時期」を起点としている点にご注意いただきたい。例えば9月に発売された機種を翌年4月に買った場合、期間はすでに半年過ぎていることになる。
すなわち「ハイエンド機種を発売日に買う」ほど、アップデートできる期間=製品寿命が長い……という話でもある。
スマホを中古として売る場合、ハイエンドかつ発売時期が新しいほど価値が高いが、それは「商品の人気が高い」ことに加え、「製品寿命がそれだけ長い」からでもある。
■なぜスマホの電池は内蔵式なのか
ほとんどのスマートフォンで、バッテリーは「内蔵式」を採用している。過去のフィーチャーフォンでは「交換式」が多かった。
先ほど解説したように、スマホのハードウエア的な寿命には、バッテリーの寿命が大きく関係している。「交換式にすればスマホの寿命は延びるのでは」という声もあり、これもわからない話ではない。
しかし、これは現実的な話ではないし、一定の理由があって「内蔵式」になっていった経緯がある。スマホメーカーがスマホを売るためにバッテリーを交換できなくした……という人もいるが、それは誤解だ。
スマホに限らず、現在はノートPCやゲーム機などでもバッテリーが内蔵式になっている。これは「バッテリー動作時間をできるだけ延ばす」ためでもある。
現在のデジタル機器で使われているのは「リチウムポリマー」と呼ばれる技術だ。
■私たちが内蔵型を選んだ
リチウムイオンを使ったバッテリーは可燃性もエネルギー密度も高いので、破損によって火災に至る可能性がある。事故を防止するには、硬いケースなどで守らねばならない。
交換式のバッテリーがケースに入っているのはそのためなのだが、バッテリーケースとそれを本体に収納する機構をつけると、バッテリー容量はその分減る。動作時間と薄型化を両立させつつ、バッテリーを取り外せるようにするのはなかなか難しいのだ。
実のところ、バッテリー交換式のスマホは今も存在するし、初期には交換式のスマホがあった。
だが、消費者はそれらよりも「少しでも薄くて軽く、動作時間の長いスマホ」を選んだ。バッテリー交換式にしても、現実的な問題として、交換しながら使う人は少数だ。これはPCやゲーム機も同様。バッテリーが交換できることよりも、すぐどこでも充電できることを選ぶ人は多いし、実際それで日常的な不満はカバーできる。
デジタルカメラではバッテリー交換式が多いし、スマホやPCも「厳しい環境で使う業務用」には交換式がある。
■安全性の問題
容量の他にも、メーカーがバッテリー交換式をいやがるようになった理由がある。
それは安全性だ。
交換式だから安全でない、という話ではない。「社外で製造された粗悪なバッテリーが引き起こす問題」が懸念されるからだ。
安価な社外品バッテリーの中には、製造時の検品や輸送時の管理の問題から、ショートなどの問題を起こしやすいものがある。バッテリーが大容量化したこともあって、焼損事故も深刻なものとなりやすい。
メーカー側としては、できるだけ自社製のバッテリーを使って欲しいと考えている。純正ならば、製造工程や組み合わせた時の状況をちゃんと把握できるからだ。
だが交換式だと、「非純正バッテリー」を排除するのは難しい。
バッテリー交換式だったフィーチャーフォンの時代には、社外品のバッテリーを使ったことによる焼損事故がいくつかあった。今、そうした事故は、電動工具や掃除機などで深刻化している。
■やっぱり“長寿”は難しい
スマホのバッテリーが交換式になれば、電動工具や掃除機、モバイルバッテリーで起きていることと同じ問題が発生するのは間違いない。だからスマホメーカーは、バッテリー交換式にすることに及び腰という側面もあるのだ。
ただ、今のスマホバッテリーに課題があることは間違いない。どんな使い方をしても長寿命を維持するのは難しい。
バッテリー修理の難易度が高いと、スマホの寿命は短くなる。だから、交換修理を簡単にし、いざという時のコストを下げる流れが拡がっている。
海外では、部品を集めての個人修理も広がっている。だが日本では、スマホを個人が修理すると電波法違反に問われる可能性がある。そのため、認定を受けた修理業者を増やし、コストと修理の簡便さを高める流れが主流だ。
----------
西田 宗千佳(にしだ・むねちか)
ジャーナリスト
1971年、福井県生まれ。パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」を専門とする。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。
----------
(ジャーナリスト 西田 宗千佳)