日常生活を整えるには何をすればいいか。精神科医で禅僧の川野泰周さんは「日常生活のさまざまな行動のなかで片づけを“ルーティン化”するといい。
例として、禅僧が修行時代に経験している生活スタイルがわかりやすい」という――。
※本稿は、川野泰周『半分、減らす。』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■日常生活で片づけを「ルーティン化」する
部屋が散らかる原因は、物を捨てないことだけではありません。
当たり前のことではありますが、私たちは散らかった物をしばしば、「片づけない」ままにしてしまいがちです。
片づけが苦手な人は、「物は使ったら、もともとしまってあった場所に戻す」という単純すぎるくらい単純な「片づけのルール」に則って行動することが難しいのです。
どうすれば改善できるのでしょうか。
ベストな方法は、「日常生活のさまざまな行動のなかで片づけを“ルーティン化”してしまう」ことです。
たとえば「帰宅後の行動」を考えてみましょう。
なんといっても帰宅後は物を散らかしてしまうリスクが最も高い時間帯です。まず帰宅後の行動を振り返ってみましょう。
洋服を脱いで、そのへんにポイと投げ捨てていませんか? カバンや時計などをはずして、適当な場所に置きっぱなしにしていませんか?
お風呂に入ろうと、洗濯された下着やパジャマなどをタンスまたは“洗濯物の山”から引っ張り出すとき、洗う物はそこらへんに放っぽりだしたままにしていませんか?
数え上げればきりがありませんが、これを繰り返していると部屋は散らかり放題になるのもしかたありません。

■帰宅したら靴を脱いできちんとそろえているか
ではどうルーティン化すればいいのでしょうか。その一例をあげてみましょう。
「帰宅後の片づけ」のルーティン化
①帰宅したらまず、靴を脱いできちんとそろえる。あるいは簡単に汚れを拭いて下駄箱に入れる。
②手を洗い、うがいをする。
③クローゼットに向かい、スーツとネクタイを脱ぐ。そのときにポケットの中身を点検し、時計や財布、パスケースなどと一緒に、タンスの引き出しや「携帯品ボックス」のようなところにしまう。
④使い終わったハンカチや、紙ゴミなども取り出して、ポケットは完全に空の状態にしてから、スーツはハンガーにかけておく。
⑤クリーニングに出すものは専用のボックスに、自宅で洗濯するものは風呂場の脱衣カゴに、というふうに分ける。

そんな具合です。
■生活習慣を変容させるのに平均「66日間」
なんだ、そんなこと、当たり前にやっているよという方もおられると思いますが、その一方で、どれも全然やってない! という方もいらっしゃるのではないでしょうか。それほど、帰宅後のルーティンは人によって千差万別です。

ご紹介した動作の一つひとつはどうということのないものばかりですが、「手順を決めてルーティン化する」ことで、いちいち「次、何をしよう。これ、どこにしまおう」などと考えなくていいようになります。
ではこうした新しい習慣をルーティン化するためには、どれくらいの期間、意識して行動することが必要なのでしょうか?
2009年にロンドン大学で発表された研究結果によれば、人は個人的な生活習慣を変容させるのに平均「66日間」を要することがわかりました。
もちろん個人差があり一概にはいえないのですが、少なくともちょっとがんばって日常動作を変える試みを二カ月か三カ月、毎日意識して行なえば、やがて自然な習慣として定着する可能性が高いというわけです。
■禅僧の生活「たった7分間」ですべての用が終わる
考えない片づけ――これがコツです。
帰宅後のルーティンと同様、朝出かけるまでの動作や、食事後の動作、休日の過ごし方のスタイルなども、「使った物はあるべき場所にしまう」ことも含めて、ある程度ルーティン化することをおすすめします。
常に同じ片づけ動作を自動的に繰り返すことができるようになると、部屋に散らかっている物を自動的に半分――どころかもっと減らすことができます。
私たち禅僧が修行時代に経験させていただく生活スタイルは、きわめて単純明快です。たとえば朝は鐘の音を合図に起床し、それからたったの7分間ですべての用を足して、本堂に行って全員で朝のお勤めのお経をよみます。
また夜は、着ていた衣を脱いで柔道着のように、くるっと丸めて棚に収め、代わりに丸めておいたせんべい蒲団をバッと広げて敷き、ものの20秒で灯りが消されて就寝してしまいます。
入門当初はうまく動くことができず先輩に怒られてばかりでしたが、慣れてくるとこれが実に爽快! 物が散らかる隙もありませんし、そもそも修行僧は散らかる物自体を、持ち合わせていません。
■荷物が軽いと、心も軽くなる
外出の際、どうしても持ち物が多くなってしまうという方は、意外と多いのではないでしょうか。

仕事で取引先を訪問するとき、地方に出張するとき、プライベートで小旅行をするとき、「これも必要かな。あれもあったほうがいいだろうな」と、ついつい荷物が増えていってしまうものです。
仕事に関係する資料などは減らしようがないかもしれませんが、それ以外のもので減らせる荷物、意外とあるのではないでしょうか。
いまの時代、もし忘れ物があったとしても、よほど人里離れた場所でない限り、コンビニで手に入れるという最終手段もあります。
また、仕事で念のため確認できるようにと持っている紙の資料などは、日ごろからPCやタブレットに画像データにして入れておいたり、USBに入れて持っておいたりすることも可能です。
旅も含めて移動は、身軽にしておくことがおすすめです。なぜなら荷物が軽いとその分だけ、気持ちも足取りも軽くなるからです。
旅先の乗り継ぎで、小一時間空いたときをイメージしていただきたいと思います。
もしご自身が大荷物を持っていたとすると、まず考えるのは「どこのカフェに入ろうか」「待合室で空いている椅子はないかな」といったことになるのではないでしょうか。
それがもし、軽い手荷物か、あるいは背中に背負えるリュック一つだった場合、「近くに面白そうなお土産屋さんがあるな」とか、「歩いて五分くらいのところにパワースポットの神社があるらしい。ちょっと行ってみようかな」といった、「少し足を延ばす」発想が浮かぶかもしれません。
旅先でちょっと足を延ばした先には新しい発見があり、それがたとえ出張でもプライベートの旅行でも、旅の思い出にいろどりを添えてくれるに違いありません。

■帰宅したら「すぐ」チェックすべきこと
そのためには、ふだんからなんとなくカバンに入れっぱなしになっているけれど、実はほとんど使うことのない物をチェックして、こまめにカバンから出しておく習慣をつけましょう。
いつも重いカバンを持ち歩くのが習性のようになっている方は、ぜひ「半分、減らす」をメドに荷物を減らしていってみてください。
そうしたことを日ごろから意識をするのは難しいと感じている方も、「旅から帰ったそのとき」にカバンやリュックのなかをざっとチェックする習慣なら、身につけやすいと思います。
近年では感染症対策のため、外出から帰宅した際、すぐにアルコール入りのウェットティッシュでカバンの底や持ち手を拭くという方もいらっしゃると思います。ぜひ「消毒作業」と「荷物整理」を、帰宅時のルーティンとしてセットにしていただくことをおすすめします。
玄関を開けて靴を脱いだらまず、「持って行ったけど、結局は使わずに持って帰ってきた」という物から省いてみる。おそらく、「半分」どころか、もっとたくさんの持ち物を減らして、カバンを軽くすることができるのではないでしょうか。

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川野 泰周(かわの・たいしゅう)

林香寺住職、精神科医

RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長。1980年横浜市生まれ。2005年慶應義塾大学医学部医学科卒業。慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。禅修行の後、2014年臨済宗建長寺派林香寺(横浜市)住職。
寺務の傍ら都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたる。『人生がうまくいく人の自己肯定感』(三笠書房)、『「精神科医の禅僧」が教える 心と身体の正しい休め方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。

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(林香寺住職、精神科医 川野 泰周)
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