企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入する企業が増えている。ファイナンシャルプランナーの高山一恵さんは「企業型DCの商品には定期預金、貯蓄型の保険、投資信託がラインナップされている。
資産運用においてはどれを選ぶかが重要だ」という――。
※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんの元に寄せられた相談内容を基に、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。
■加入済みの人も要確認の「落とし穴」
新入社員の皆さん、つい最近、会社から「企業型確定拠出年金(企業型DC)」について説明がありましたか? もしかすると、知らず知らずのうちに企業型DCにおける大事な決断を既にしているかもしれません。今回は、加入済みの方にも注意してほしい、企業型DCの「落とし穴」について解説します。
私が企業型DCの落とし穴に気がついたのは、お客さまの濱田さん(仮名/34歳)からのご相談でした。メーカー勤務12年になる濱田さんがある日、同期から「企業型DCってめっちゃお金増えるね」と話を振られたそうなのですが、「企業型DC? ナニソレ? 美味しいの?」なノリで、まったくわからなかったとのこと。
そこで調べてみると、自分も入社当時から加入していたことが判明。12年間貯め続けたお金が一体いくらになっているのかとワクワクしながら管理画面を見てみると、ほぼきっちり、月々7000円の掛け金×12年間分のみ。ではなぜ同期は「めっちゃお金が増えた」と言っていたのか――そんな疑問を抱えて濱田さんが私のもとにやって来たのでした。
結論から申し上げると、同期の方と濱田さんの資産に差がついてしまったのは、企業型DCで選んだ金融商品の差だったのです。

■私的年金制度のひとつ「企業型DC」
ではここで、「企業型DCとはなんぞや?」から学んでいきましょう。企業型DCこと「企業型確定拠出年金」とは、2001年から始まった私的年金制度のひとつです。企業が掛け金を拠出し、加入者が運用します(※従業員も拠出する「マッチング拠出」の制度もあり)。その成果は60歳以降に一時金、または年金として受け取ることができます。これまでの退職金のように決まった額を用意することが厳しくなりつつあることを背景に、採用する会社は年々増加しています。
実は「iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)」も、確定拠出年金の一種。ただ、個人加入のiDeCoは、掛け金の支払いも金融機関や商品の選択も自己責任になりますが、企業型DCの場合、掛け金は企業が負担し、金融機関も会社が決めます。逆に言えば、企業型DCは個人で加入できるものではなく、自分の勤務先が導入していなければ加入できない制度なんですね。
そしてここが濱田さんの「落とし穴」になるのですが、企業型DCの場合も「商品」は自分で選んで運用する必要があるため、同期と資産に差がついてしまったのです。濱田さんが選んだ商品は「定期預金」、同期は「投資信託」でした。
■デフォルトで「定期預金」が設定されている場合がある
企業型DCの商品には「定期預金」と「貯蓄型の保険」、「投資信託」がラインナップされていますが、デフォルト商品として「定期預金」が設定されている場合があります。これがまさに濱田さんがハマった落とし穴で、よくわからないまま未選択でほったらかしにした結果、12年間、定期預金で運用がなされていたのです。

濱田さんのようなケースは決して珍しいことではありません。企業型DCを採用している会社の従業員は基本的に強制加入となるため、自分自身で運用する商品を選ぶ必要があるわけですが、先程のデフォルト設定の影響もあるのか、今でも各年代、2、3割程度の人が定期預金を選択していることがデータでも明らかになっています(運営管理機関連絡協議会のデータより)。
大企業の場合、金融機関の人が講師としてやってきて商品の説明をしてくれる場合もありますが、そういった手厚いサポートが受けられるケースの方が少ないようなので、企業型DCを採用している会社にお勤めの方はぜひご自身で一度、選択商品をご確認いただきたいと思います。
■投資信託で「長期・積立・分散」でお金を育てる
私のおすすめは断然、「投資信託」です。元本割れのリスクはありますが、企業型DCは基本的に60歳まで下ろせないので、「長期・積立・分散」投資することでリスクを抑え、お金を育てていける可能性が高いです。また、企業型DCの運用益は非課税なので、効率よくお金を増やせますし、増やしたお金を受け取るときにも税制優遇があります。
一方、定期預金と貯蓄型の保険は元本が保証されている点がメリットですが、金利が上昇傾向とはいえ、まだ大手銀行の定期預金の金利は0.275%で、ただ置いておいてもほとんどお金は増えません。貯蓄型の保険は定期預金より若干金利がいい程度で、ほとんど変わりないと考えていいので、そういう意味でも投資信託が私のイチオシです。
■「配分変更」と「スイッチング」
既に定期預金を運用中という方もご安心を。「配分変更」と「スイッチング」という方法で変更が可能です。配分変更とは、これまで運用してきた定期預金分はそのまま保持しつつ、自分の好きなタイミングで投資信託商品に掛け金を割り当てる方法のこと。たとえば、これまで定期預金で運用していた毎月5000円の掛け金を、次月からは投資信託の購入に回して運用する、ということですね。

もうひとつのスイッチングは、これまで運用してきた定期預金分を売り払って、投資信託に変更する方法です。つまり、定期預金を解約したそのお金で、投資信託商品を買うかたちになります。
相談の結果、濱田さんは「スイッチングですべて変更するのはちょっと怖い」ということだったので配分変更を選択し、今年からの運用分はすべて投資信託の商品を購入しています。
また、2022年からはiDeCoと企業型DCを併用しやすくなったので、それぞれ違う商品を購入して「長期・積立・分散」投資を続けていけば、リスクを抑えながらお金を育てていきやすいと思います。
■長期的な目線で淡々と続ければいい
一方、現在はトランプ関税ショックで確定拠出年金等の評価損益額が乱高下しているかと思います。私のもとにも、「どうなるんでしょうか?」というお客さまからのお問い合わせが止みません。ただ、企業型DCは60歳まで下ろすことができないこともありますし、落ち着いて、長期的な目線で淡々とやり続けていけばいいのかなと思います。
2022年の改正で企業型DCの受給開始時期の上限が70歳から75歳までに延長されていることもまた、「長期・積立・分散」投資にかなっているでしょう。実際、投資先を分散して20年間、積立投資を行った場合、運用成果は年率2~8%の範囲になるという過去のデータもあるので、堅実、着実に、じっくりとお金を育てていきましょう。
トランプ大統領の動向で相場が一喜一憂する状況はしばらく続きそうですが、いつかは回復局面もやって来ます。私個人も、今は「買い時」と捉え、せっせと商品を買っていますよ。
そしてこれを機にぜひ、見逃しがちな社内報やイントラネットなどで自社の企業型DCの情報をキャッチアップしてみてください。
そして、ほったらかしにしたままになっている方はなるべく早めに、ご自身の商品を今一度ご確認を!

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高山 一恵(たかやま・かずえ)

Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士

慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年前後のお金の強化書』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。

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(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 高山 一恵 構成=小泉なつみ)
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