※本稿は、森優子『敵をつくらないホンネの伝え方』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■「白髪でも仲間に入れてもらえるか」と言えるか
ユーモアが場を和ませることは言うまでもありませんね。
ユーモアは、思わず相手がクスっと笑顔になるような内容が面白いものです。
私の周りには粋なユーモアに長けている人がたくさんいます。その中で、すぐに思い浮かぶ人が3名います。
1人は士業をされている男性です。先生は偉い方なのに謙虚で、大勢で会食のとき、頃合いを見計らって自ら他のテーブルに挨拶に行くのですが、「こんな白髪の私でも仲間に入れてくれますか?」と、ちょっと自虐的なユーモアで声をかけ笑いを誘うのです。その場にいた誰もが緊張の糸がほぐれて、ウェルカムコールとなるのです。
もし若い年代の方がこのユーモアを参考にするとしたら、「実は私、若白髪だらけなのですが、お仲間に入れてもらえますか?」と言ってみてはいかがでしょうか(笑)。
もしくは、笑いは誘わないかもしれませんが実年齢を入れて、「○○歳の未熟者ですが、同席してもかまいませんか?」でもいいでしょう。
人数が多い会食でありがちなのが、気がつくといつの間にか話し相手がいなくなっていることです。そんなとき、勇気を出して会話をしたいと思う人のテーブルに行くときの声のかけ方として、参考にしていただけたら嬉しいです。
■居心地がよくなるテンプレのような自虐フレーズ
2人目も、ちょっとした自虐ユーモアの達人です。
その男性は、商業施設などの看板をデザイン・制作している会社の社長です。
長きにわたり会社を維持してこられたのには、計り知れないほどのご苦労があったでしょう。そのことに触れて絶賛すると、「いや~もうダメだねえ」と真顔でおっしゃるのです。
誰かが、はつらつとした姿を絶賛したときも「いや~もうダメだねえ」と言い、毛穴のないきれいな肌をほめられたときも「いや~もうダメだねえ」と言うのです。
テンプレートのような自虐フレーズがおかしくて、それを聞くたびに私は、何とも言えない居心地のよさを感じるのです。
謙虚さが根底にあるこの自虐的なユーモアに魅せられた若者は多く、その証拠に「○○社長大好きなんです」という声をよく耳にします。
■ユーモアに長けている人は穏やかにボソッと言う
最後の1人は、艶やかなユーモアに長けているジュエリー業界の役員の男性です。
丸テーブルでの会食のとき、思いっきりケチャップをジャケットに飛ばしてしまい、周囲の「ありゃりゃ」の声をバックに、慌てておしぼりを手に取った私に、その男性は次のように言って、恥を笑いに変えて救ってくれたのです。
「ケチャップにも愛されちゃったね」
別の日に、若いお嬢さんが醤油をうっかりスカートにこぼして焦っているときも、「お醤油さんに愛されちゃったね」と言って彼女を安心させていました。
本心は、皆と同様「ありゃりゃ」なのかもしれませんが、それを艶やかなユーモアで包んで、ラブリーな笑いにシフトさせてしまうのですから、さすがジュエリー業界の役員です。
3人に共通しているのは、少しゆっくりした口調です。
粋なユーモアにハードルの高さを感じる人は、相手を笑わせようとして無理をしないことです。無理をすると失敗する可能性があるからです。何も爆笑させなくていいのです。笑わせようとするのではなく、場を和ませようとしたほうが上手くいくことが多いでしょう。
そして、それでもユーモアを言うのは難しいと感じる人は、無理をする必要はありません。その分、誰かがポツンと言ったユーモアに対して笑顔で反応してあげましょう。
■声量は「大き過ぎず、小さ過ぎず」
何事も「過ぎる」のはよくないと本書でお伝えしていますが、声量も同様です。
もちろん、危険を知らせるために「危ない!」「前を見て!」などと叫ぶ場合は例外です。また、会場の1番後ろの観客にまでセリフが届くようにしなくてはならない舞台俳優も別ですが、通常会話での大き過ぎる声はいい印象からは遠いでしょう。
なぜなら、大き過ぎる声は、騒音のように感じさせてしまうからです。
たとえ話し声でもそれが続けば、相手は圧迫感で聞き疲れてしまうでしょう。
加えて、周囲の目を気にして、ハラハラするストレスを抱えてしまうことにもなりかねません。
では、小さ過ぎる声の場合はどうでしょう。
少なくとも、周囲の目を気にするストレスはないでしょう。ですが、聞き取りづらさからくるストレスが発生します。前かがみになり、耳を傾けながら聞き逃すまいと集中するため、疲れてしまいそうです。
「聞こえないからもう少し大きな声で話して」と言えない相手だと、集中力を保つのも限界がきて、ヘトヘトになる可能性があります。
つまり、声量もバランスが大切なのです。
ちょっと思い出してみてください。電話で話しているときに相手の声が大きくて、思わず持っていた受話器を耳から10センチほど離した経験はありませんか?
または相手から「聞こえない」と言われて、慌ててスマートフォンの音量を確認しようと手こずった経験もあるのではないでしょうか。
適材適所ではないけれど、声もその時々の場所において、相手に不快感を与えることのない適切な音量で話すことを心がけたいものです。
そういえば、中国の孔子の言葉に、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」というものがあります。何事もやり過ぎてはいけないのです。
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森 優子(もり・ゆうこ)
コミュニケーション・アドバイザー
マリアージュコンサルタント事務所代表。短大卒業後、西武ライオンズ・西武鉄道のチアリーダーに従事。結婚、離婚を経てシングルマザーになり、(株)リクルート、(株)リクルートキャリアにて求人広告の企業営業を担当。入社2年目には、通期を通して「売上、新規売上、新規社数」の目標を完全に達成した者だけに与えられる「グランドスラム賞」を取り表彰される。ほかにも、月間MVP賞や月間売上トップ賞をたびたび獲得。その一方で、生活のため夜は銀座のクラブホステスとして14年間働く。2013年、両親の介護のためにホステスを引退。2015年より現職。著書に『感じのいい人は、この「ひと言」で好かれる』(三笠書房)、『雑談が上手い人 下手な人』『嫌なことを言われた時のとっさの返し言葉』『会話が上手い人 下手な人』(以上、かんき出版)
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(コミュニケーション・アドバイザー 森 優子)