住宅ローンはどのように返済していくのがいいのか。ファイナンシャルプランナーの横田健一さんは「年金生活に入る前に全額返さねばならないという考え方は合理的ではない」という――。
(第2回)
※本稿は、横田健一『増やしながらしっかり使う 60歳からの賢い「お金の回し方」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■住宅ローンの返済の前に確認すべきこと
定年後も住宅ローンの返済が続き、完済できるのは70代半ば、という人も少なくありません。30代後半で35年返済のローンを組めば70代以降も返済が続くことになるので、そう珍しいことでもないのです。
今後の返済はどうするかを考える前に、まず行いたいのが、ご自身が利用している金利タイプの確認です。7~8割程度の方が利用しているのが、借入後も定期的に金利が見直される変動型です。
金利が上がれば利息が増えますが、多くの金融機関では金利は半年ごとに見直すものの、返済額は5年間変更しない「5年ルール」を採用しています。金利が上がっても、前の見直しから5年間は返済額を変えず、返済額に占める利息と元金の割合を変えていきます。
簡単にいうと、毎月10万円を返済し、3万円が利息、7万円が元金の返済に回っていたのに、金利が上がると利息が3.5万円に増えて、元金の返済に回る額が6.5万円に減るといったイメージです。同じ額を返しているのに、ローン残高の減りが鈍くなるのです。
■返済額は増えることを想定すべき
5年経過後に返済額が再計算されますが、返済額が増える場合は、元の返済額の125%までに制限する「125%ルール」が多く採用されています。25%も返済額が増えるのは大きいですが、金利の上昇幅が大きいと、返済額を上限まで増やしても利息が多くて残高がなかなか減らないということもありえます。変動型を借りている人は、5年ルールや125%ルールが適用されるか、適用されないかを確認しておきましょう。

また金利が1%上がると返済額がどれくらい増えるかなどを、シミュレーションサイトや金融機関のサイトで試算してみることをおすすめします。
ローンがどのくらい残っているかは、金融機関から送られている返済予定表の記載を参考にします。ローンの残りが多いほど、残りの返済期間が長いほど、返済額への影響は大きくなります。
たとえばローンの残りが1000万円、残りの返済期間が10年で、金利が1%から2%に上昇した場合、返済月額は約4400円多くなります。金利が上昇していますので、返済額はある程度、増えることを想定しておくのが無難です。5年ルールや125%ルールがあるため、正確に試算するのは難しいですが、イメージをつかんでおきましょう。
■借り換えの基準となる金利
住宅ローンは家計の中で大きな割合を占めていますが、借りたときのままの状態で放置している人も少なくありません。
金利水準が高い場合には、「借り換え」によって負担を減らす方法もあります。借り換えとは、今より金利が低いローンを借りて、元のローンを完済することです。金利が低くなる分、返済負担を軽減できます。
返済中のローン金利が2%近ければ検討する価値がありますし、2%を超えているなら間違いなく借り換えた方がいいと思います。
借入残高が1000万円以上、返済期間の残りが10年以上、1%以上金利が低くなればメリットが得られるといった記事をみかけることがありますが、実際にはケースバイケースです。

たとえば残高が800万円、金利2%。残りの返済期間が6年間だとします。毎月の返済額は11万8003円で、今後の金利負担は約49万6000円です。これを0.75%に借り換えると、毎月の返済額は11万3664円になり、金利負担は約18.4万円へと、31万円程度軽減されます。
35歳のときに35年返済・金利2%で4000万円を借り入れ、毎月返済額が約13万2505円というケースでは、25年後のローン残高が約1440万円。今後の金利負担は約150万円です。これを0.5%に借り換えると、毎月の返済額は12万3055円、金利負担は約37万円となり、113万円近く削減できます。借り換え手数料が50万円程度なら、実質60万円ほどの効果が得られます。
■繰り上げ返済しなくていい理由
重要なのは、借り換えのメリットがありそうなら早めに実践することです。なぜなら、収入の点から考えて、現役のうちでないと借り換えが難しいからです。どの程度の効果があるかは手数料などのコストも含めて見極める必要があります。最新の残高、期間、金利差によって異なりますので、自身の場合はどうか、試算してみましょう。
大手銀行のホームページなどで試算できます。
前述のとおり、30代後半で35年ローンを組んで家を買い、70歳以降まで返済が続く人も珍しくありません。4000万~5000万円を借りていれば、60歳時点でもかなりまとまった額が残っているはずです。
一般的には65歳までに完済するのが望ましく、余裕のあるときに繰り上げ返済し、退職金で残りを一括返済するのがよいとされていますが、繰り上げ返済する必要も、返済を急ぐ必要もありません。
繰り上げ返済しなくていい理由の一つは、繰り上げ返済した分、金融資産が減ってしまうからです。
50代や60代前半では子どもの教育費が残っている場合もあり、手元の資金が減るのは不安にならないでしょうか。
■団信がなくなってしまう
住宅ローンを完済すると団体信用生命保険(団信)がなくなってしまうのも、返済を急がなくていい理由です。
団信とは債務者が死亡または高度障害になった場合に借入残高分の保険金が支払われて返済の必要がなくなる保険です。住宅ローンを借りる際には、団信に加入し、銀行ローンでは金利にその保険料が含まれています。
団信により、万が一死亡した際には返済の必要なく、自宅が残ります。
仮に1000万円でローンを繰り上げ返済して完済し、その後、死亡すると、返済は残っていないものの手元資金が1000万円減った状態になりますが、繰り上げ返済をしなければ、1000万円を残したまま、団信によって返済も不要になるというわけです。
繰り上げ返済では、先々の返済分を前倒しして返済することで金利負担が軽減される効果があります。
金利が高い場合には、その効果も大きいですが、現在は金利が低いため、繰り上げ返済による金利負担の軽減効果は限定的です。
金利が高い場合を除けば、必ずしも返済を急ぐ必要はないでしょう。
■年金生活前に返済すべきルールはない
さらに、繰り上げ返済で手元資金が減ると、投資に回せるお金が減ってしまいます。住宅ローンの金利が1%なら、繰り上げ返済で1%の金利負担が減ります。
しかし繰り上げ返済する資金を世界株インデックスファンドに投資すれば、長期的には5~6%程度のリターンが期待できます。繰り上げ返済してしまうと、その運用機会がなくなってしまうのです。
住宅ローンが残っていると不安とか、年金の中から返すのはしんどいという声もあります。しかし、給与でも、年金でも、預貯金でも、お金に色はなく、どこから返してもいいですし、年金生活に入る前に返さねばならないという考え方は合理的ではありません。
繰り上げ返済は金利がカットされるので運用と同じ効果があるといわれます。しかし多くの場合、適用されている金利は低く、運用の方が有利と考えられます。手元資金は運用し、団体信用生命保険を確保しながら返済を続けていくのも選択肢といえます。
■運用に不安を覚える人には
運用は不確実だけれど金利は確実にかかる、と考える方もいます。
たしかに運用は不確実、借入金利はかかり続けます。投資経験がある方は世界株インデックスファンドで年5~6%程度が期待できるということは納得しやすいと思いますが、リスクが気になるのであれば、繰り上げ返済を検討してもいいでしょう。
あるいは、金利が0.8%程度なら、繰り上げ返済を急がず、個人向け国債の変動10(後述)など、住宅ローンと同水準の利回りが期待できるもので資金を運用する方法もあります。そうすれば、手元資金をキープしながら団体信用生命保険を維持することができます。

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横田 健一(よこた・けんいち)

ファイナンシャルプランナー

1976年生まれ。東京大学理学部物理学科卒業、同大学院修士課程修了。マンチェスター・ビジネススクール経営学修士(MBA)。野村證券でデリバティブ商品の開発やトレーディング、フィンテックの企画・調査などを経験後独立。情報サイト「資産形成ハンドブック」やYouTubeなどで情報発信しながら、個人の資産形成をサポート。CFP®、ウェルビーイング学会会員(ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会所属)。著書に『新しいNISA かんたん最強のお金づくり』(河出書房新社)がある。

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(ファイナンシャルプランナー 横田 健一)
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