「こんなに頑張っているのに、なぜか成果が見えない」。そんなときはどうすればいいのか。
アドラー心理学とコーチングを学んだという佐藤悠希さんは「本当にやる必要のある努力を見極めるための方法がある」という――。(第1回/全2回)
※本稿は、佐藤悠希著『不毛な時間をゼロにする』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■忙しいだけで満足するな 「やってる感」を一掃せよ
私の知人で、仲の良い女性経営者がいます。
彼女は素晴らしい志に加えて、知識や経験、人柄が良いからこそ、「これを教えて」「あれも助けて」と周りから頻繁に相談や頼みごとを受けていました。
最初は人の役に立つ喜びを感じていたようですが、あれこれ引き受けるうちに、本当にやりたかったプロジェクトが進まない状態になっていました。
そこで、わたしは仲が良い関係に甘えて、ついつい指摘してしまいました。
「あなたのやってること、9割ムダじゃない?」
我ながら、なんて非道なのでしょうか……。彼女はずいぶんとショックを受けていました。しかし、冷静に考えると「自分の10点満点の未来」とは関係ない頼まれごとがほとんどだったと気付いたのです。
そこで「あなたがやらなくても、じつは影響がないかもしれないよ。そもそも、本当にやりたいの?」と問いかけてみました。
わたしの言葉を聞きながら、彼女はどことなく納得しているような表情を浮かべていました。

その後、彼女は思い切ってそれらの仕事を断ったり、他の方にお願いしたりしていきました。
その結果、彼女にとって「10点満点の未来」に直結するプロジェクトに集中でき、ビジネスもさらに伸びたそうです。
この女性経営者は、途中でなんとか軌道修正することができました。しかし現実には同じような状況をうまく変えられない場合も多々あります。
■ハンバーグの前にサラダでお腹いっぱいになるな
特に忙しいビジネスパーソンの場合は、日々新しい緊急のタスクが降りかかってきますから、目の前のことに追われてしまい、大事なことに時間を割けない状況になりがちです。
そうして、自分のキャパシティを超えて引き受けたり、周りから期待されるタスクを優先しすぎる場合は悲しい結果になります。
「こんなに頑張っているのに、なぜか成果が見えない……」
全身全霊で取り組んでいる【努力】に対して、結果がまったく追いついてこない。いつの間にか「不毛な努力」を続けている事態に陥ってしまうのです。こんな状況、誰だって絶対に避けたいはずです。
にもかかわらず、多くの職場で「不毛な努力」のように思えることが頻発するのはなぜなのでしょうか?
その原因のひとつは「やってる感」にあります。
やってる感とは言うなれば、何かそれらしい「理由」や「大義名分」はあるけれど、目標に近づいているのかどうか不明なタスクをこなすことです。
代表的な3パターンを見てみましょう。

■「やってる感」とは、「行動している自分に安心してしまう心理状態」
①誰かの気持ちを理由にしたタスク
「他人の期待に応えたい」「断ると相手に申し訳ない」と、“いい人”の仮面をかぶって、自分がやる必要のない仕事や役割を安易に引き受けてしまうケース。
②時間を理由にしたタスク
「急ぎの案件」「締切が決まっている仕事」といった時間を理由に、緊急ではあるけれど重要ではないことばかりをこなしているケース。
③こだわりを理由にしたタスク
「重要ではない資料に時間をかけている」「セミナーに行くだけで満足している」など、時間対効果を無視して変なこだわりや自己満足で現実を見ていないケース。
このように「やってる感」とは、「行動している自分に安心してしまう心理状態」のことです。
もちろん「やっていること自体」は悪ではありません。それなりに成長することはあるかもしれません。でも「忙しさ=成果」と信じてしまうのは危険です。
「やってる感」で満足していると、「本当はハンバーグが食べたかったのに、サラダを食べすぎてお腹いっぱい」「人気テーマパークに着く前に、はしゃいでドライブしてたら疲れちゃった」みたいなことが起きてしまい、本当に手に入れたいものが手に入らなくなってしまうのです。
■いますぐ「付箋」と「ペン」を用意する
それでは、本当にやる必要のある努力を見極めるためには、どうすればいいか。
まずは「未来を問いかける」ことが大切です。
自分自身に「どうだったら最高?」と問いかけて、
短期(1日~1カ月)/中期(3カ月~1年)/長期(3~10年)
の期間で、自分のやりたいことやタスクを「付箋」などの移動できるものに書き出しておきます。もし難しければ、思い浮かびやすいことから書き出せばOKです。

次にやることは、ノートに大きな円を3つ描き、Will(ウィル)/Can(キャン)/Must(マスト)と書きます。この図に、さきほど付箋に書き出しておいた「自分のやりたいことやタスク」を配置してみます。配置するときは、次の3つの観点から仕分けしてみてください。
【Will(やりたい)】 自分がモチベーション高く取り組めること。
【Can(できる)】 自分の経験や能力であればやれること。
【Must(やらなきゃ)】 仕事や家庭などで、どうしてもやる必要があること。

そして最後に次の図のとおり、図中の領域を次のように判断していきます。
(a)は、積極的にやったほうが良い領域
(b)は、自分の能力をさらに磨くか、できる人に協力をお願いする領域
(c)は、本当に自分がやる必要があるのか再検討が必要な領域

■「Must(マスト)」をじっくり見つめて余白をつくる
まずは「Must」に関わっていることを再検討し、「余白をつくる」のがポイントです。「Must」は、その名のとおり「やらなきゃいけないこと」だと認識するのが自然でしょう。しかし本当に、「そのタスクを、自分がやる必要があるのか?」を見極める価値はあります。
たとえば、新人の営業担当が「アポイントを取る」のは仕事上必須(Must)で、そこを「やりたくないからやめる」わけにはいきません。むしろ「できる(Can)」を増やすための努力が必要になります。

一方で、「システムリニューアルの会議に出席しているけれど、じつは現状のシステムもよくわかってないし、いまはクライアント対応に集中すべきだ」という場合には、「そもそも、自分が参加する意義があるのか?」を再検討する価値があるでしょう。
上司としても、「会議に出ているだけで成果につながっていないなら、業務に集中したほうが良い」と判断するかもしれません。
どうしても外せない仕事は「Can」を伸ばす努力に切り替え、一方で「じつはやらなくてもいいMust」や「他人に委ねられるMust」は大胆に手放す。そうやってタスクを整理し、本当に集中したい仕事にエネルギーを投下していくことこそが、不毛な時間を減らすポイントです。
■「Can(キャン)」はAIで代用か先送りする
かつて、わたしが求人広告の新人営業時代、ひとつ年次が上の真面目な先輩が「毎朝6時から布団のうえで電話営業をしている」と聞いて、びっくりしたことがあります。
朝早すぎて電話が通じないことが多いらしく、正直、「やってる感」はあるものの成果につながらない不毛な時間のようでした。これは、できる(Can)からやっていただけで、即刻「やめる」が正解だったでしょう。
できる(Can)ことは素晴らしいことです。しかし、そこに明確な目的や目標がないまま突き進んでしまうと不毛な時間に陥りやすくなります。
もし目標や目的を確認しても「わたしの努力、不毛かもしれない……」と感じるなら、「やめる(断る)」「人に頼む」ことを検討してみてください。もしかしたら、生成AIに任せられることがあるかもしれません。
それでも残ったものは、思い切って「戦略的に先送りする」ことをおすすめします。

「先送り=悪」ではありません。
「戦略的に」いま取り組むべきではないことを先送りするのは、不毛な努力を生まないためには必要なことです。
スタンフォード大学の研究では、ウェブブラウザやSNSなどのメディア上でタスクを同時並行で行う「ヘビーメディアマルチタスカー」ほど認知コントロールに支障をきたし、作業効率が著しく下がると報告されています。これは、やることを詰め込みすぎてしまうと、パフォーマンスが落ちることを示しています。
いま持っているものを握りしめたままだと、新しいものはつかめません。
不毛な努力も同じ。いま抱えている膨大なタスクや細々とした用事をこなしている限り、新しい努力をする余白は生まれません。
■「Will(ウィル)」にはすべてを懸けて取り組む
ここまできたら、最後は「Will(やりたい)」に集中しましょう。
いったん立ち止まって「本当はどうしたい?」「どうだったら最高?」と自分に問いかけることで、不毛な努力や献身を見つけ出し、心のズレを矯正します。
研究開発部門でリーダーを務めるマツナガさんは、はじめは自分に問いかけても、Willが浮かばずもどかしく思っていたそうです。でも諦めず問いかけるうち、
「オリンピック選手のメンタルコーチになりたい」
という思いを発見しました。
完全に異業種へのチャレンジとなります。

「かつて自分が諦めてしまったスポーツの世界に、もう一度関わりたい」「どうせなら最高の舞台に携わりたい」というWillに気づいたのです。そこでMustやCanを整理し、ゼロから行動をスタート。結果として2028ロサンゼルス・オリンピックを目指す複数の選手をサポートするまでに至りました。
このように、自分の心の声に耳を傾け、情熱を注ぎたい「Will(やりたい)」に全力投球すると、思いがけない新しいチャンスが開けたり、大きな結果を得られたりするものです。心が本当に求めているWillに焦点をあてることで、あなたの努力はより鮮やかに花開き、不毛な努力が生まれる隙がなくなります。

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佐藤 悠希(さとう・ゆうき)

株式会社アナザーヒストリー代表取締役、株式会社エンカレッジ・イノベーション代表取締役

1977年生まれ。広告営業として、株式会社リクルートに入社。効率化を考え抜いた独自の営業スタイルで、早くも1年目から2年連続でMVP獲得。しかしマネージャー職になると、その激しい手腕が逆効果となりチーム業績は低迷し、離職者が続く。育児の大変さも伴い、家族との関係も崩壊寸前に。
そんな人生のどん底でアドラー心理学とコーチングに出会い、自分のチームで「メンバーに問いかけ、勇気づける」を実践したところ、状況が一変。半年後には過去最高の売上と利益を達成。同時に、子育てをはじめ家族との関係も激変したことから「この思考法とメソッドを、もっと多くの人に伝えたい」と2014年に独立。以降、アドラー心理学をベースにした組織開発、人材育成でのべ3万人以上を研修でコーチング。クライアントはメガバンク、電気・電力会社、大手食品企業といった東証プライム上場企業から、成長中の中小企業、行政まで多岐にわたる。従業員全員の意識が変わるだけでなく、チーム業績もアップさせ、「30年間で最高の研修」と称賛されることも。

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(株式会社アナザーヒストリー代表取締役、株式会社エンカレッジ・イノベーション代表取締役 佐藤 悠希)
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