■親が“受験アカウント”をやっていた
2025年に東大に合格した人たちにアンケートやインタビューを実施しているのですが、その人たちから話を聞いていると、こんなことを口にしている人が多い印象があります。
自分「受験生時代、SNSはやっていましたか?」
東大生「いや、自分はやっていませんでした。でも、代わりに親がやっていましたね」
最初はこの言葉の意味がよくわかりませんでした。しかし調べていくうちに、この「親が受験のためにSNSアカウントを作る」というのが、令和の受験生の親御さんなら普通の行為になっていることがわかりました。
子供の代わりに、親が受験に関するSNSアカウントを作り、そこで情報を得たり、子供の成績や学習の進捗状況に関する情報を発信したりする……そういったことをする親御さんが増えてきているのです。特に2025年入学の東大合格者のうちの複数人が「自分の中学受験の時からずっと、親がSNSで受験に関して発信している」「高校受験の際にアカウントを作って、そこからずっと自分の成績や勉強の進捗度合いについて公表している」と述べていました。
一見すると、メリットがわからないこの「受験のためのSNS運用」という行為ですが、実は今後の受験においてはむしろ当たり前のように必要な行為になるかもしれないのです。
■入試の変化が激しすぎる
自分は最近、この行為を題材にした漫画「令和の受験親の『フツウ』」を制作しました。その制作の際に、Xでフォロワーが2万人いる教育投資ジャーナリストの「戦記」さんに取材を行っています。
彼は1人娘の中学受験の様子をブログで2016年から発信するようになり、現在も娘さんの学習状況についても含めてさまざまな情報発信を行っているインフルエンサーです。令和の受験親にとって普通になってきている「受験のためのSNS運用」について、その実態を解説したいと思います。
まずそもそも、なぜ受験生の子供を持つ親御さんがSNSで情報を収集するようになっているのか? それは、昨今の入試の激しすぎる変化が関係しています。
最近は、受験の形態が大きく変化しています。中学受験では人気や偏差値・志願者数の増減は変化が激しく、1年単位で変わってしまうのがいまや普通になっています。高校受験でも無償化の影響を受けて、人気の学校とそうでない学校の差が大きく開いてしまっています。
中でも大学入試は一番大きな変化が起こっています。一般入試以外の入試形態が増えて、単純なペーパーテスト以外にも課外活動の実績や外部の検定試験などの実績が求められるため、昔よりも大学が求める学生像やその大学の情報を知る必要が出てきています。
■Xには“知りたい情報”が書かれている
このような状況の中で、受験を考えている家庭では受験に関する情報をしっかりと仕入れないといけなくなっています。「○○中学・××高校は今年の倍率が下がりそうだ」「総合型選抜で行くならこういう大学がいい」「こういう生徒は○○大学の△△方式がいい」というようなことを仕入れておかないと、大きなハンデになってしまうわけです。
しかし、これらの情報を得ようにも、学校や塾などでもなかなか具体的な実態の部分までは把握できていないことが多く、受験システムが細分化されすぎていて「一般入試ならわかるんだけど、年内入試だと教えたことがなくてわからない」という先生も少なくないのが実情です。
そんな中で一番頼りになる情報ソースとなるのが、実際に受験を経験した人のSNSから情報を得ることです。例えば、Google検索では「○○大学△△学部 総合型選抜」と検索しても、なかなか細かい情報やどんな人が合格しているのかなどはわかりません。でも「X」であれば、「自分の子供が○○大学△△学部 の総合型選抜で合格しました!」ということが書かれています。
■“経験者”に質問もできる
そしてその人の投稿を遡っていけば、親がどんな指導をしていたのか、受験のためにどんな対策をしていたのか、塾はどんなところに入っていたのか、細かく具体的な情報も含めてわかります。また、もし自分の子供の受験で迷ったとしても、質問をすることもできます。
例えば、以下のような内容をSNSで投稿したとしましょう。
「○○大学△△学部を目指している我が子の話なんですけど、最近課外活動に力を入れすぎたのか学校の成績が下がってしまって。このままでいいのか、それとも学校の勉強を優先するべきなのかわからないんです。みなさんの意見をもらえればと思います」。
すると、「自分の子供もその学部を受験したけど、やっぱり学校の成績は評価されたみたいだよ」といったような情報を得ることができます。
実際東大生に話を聞いても、親が「○○学園から東大を目指している子供に関してなんですが、この前の模試だとC判定で、親としては『C判定なら浪人してでもいいから東大を目指していいんじゃない?』と言ったんですが、それでよかったんですかね? 若干子供は不安そうだったのですが」というようなことをSNSで聞いていた、という人もいました。
■勉強の進捗を管理する“エクセルパパ”
その上で、昨今の受験において、親御さんが直接、本人や塾の先生や学校の先生の代わりに、学習の進捗を管理するという行為を行なっていることも少なくありません。それらの情報をネットで発信し、「この学習指導の方法で大丈夫ですか?」というようなことを他の人に聞いているわけですね。
今回取材を行った「戦記」さんも、自分の子供の勉強の情報について、発信を行なっています。戦記さんの家庭では、勉強の進捗に関しては親御さんが管理しているそうで、その一部をご自身のXで投稿されています。
しかしこれらの行為について、批判的な意見があることも事実です。そもそも、子供の成績開示は子供のプライバシー侵害なのではないか? 親が勉強を管理するのはどうなのか?
また、親はそこまで勉強に介入してはならないのではないか? 自分の子供が自走できるように伴走するだけに留めるべきなのではないか? などなど。
そのため、戦記さんのXでの投稿に対して、批判的な意見が届くことも多く、他の人から見て所謂「炎上」と呼ばれるような状況になることも少なくありません。
■令和の受験は「親も当事者」
しかしそれでも、戦記さん自身は変わらず続けていくとのことで、理由を次のように述べていました。
「リスクや批判もあることは自覚しているが、自分が情報を提供する側になり、インフルエンサー活動をしているからこそ得られる最新の特別な受験に関する情報も多い。そしてそれらの情報は、子供の将来に必ず寄与するものである。情報は発信する者に集まる。親は子供の学歴というオムレツの調理人。焦げたオムレツを語るより、料理中のオムレツを語る方が意味がある」
確かに、有名になればなるほど得られる情報もあるでしょうし、質問した時に返ってくる割合も高くなることでしょう。
ここまで見てきたように、令和の受験は「親も当事者」として強く関与する時代になっています。かつては塾や学校、あるいは本人の努力が中心だった受験戦略でしたが、今や“親の情報収集力”が大きな影響を与えるようになっています。
その情報収集の中核がSNSであり、そこには一次情報、体験談、リアルタイムな受験動向が蓄積されているのです。
もちろん、SNSの使い方には慎重さも求められます。過剰な干渉や、子供のプライバシーの軽視、承認欲求の暴走など、親の介入が過度になるリスクもあります。実際に、「なぜ親がここまで前面に出るのか?」という批判的な声があがるのも当然でしょう。しかし、だからこそ大事なのは、“SNSをどう使うか”という視点です。
■「賢い伴走者」になるべき
受験は、情報戦でもあります。もしこれからお子さんが受験生になるという親御さんは、SNSを使うことを検討してみてもいいかもしれません。受験に関する「生の役立つ情報」が手に入るというメリットは存分に生かすべきでしょう。
ただ、当たり前のことではありますが、SNSにはさまざまな危険も伴います。仮に情報をすべて開示してしまえば、お子さんの思いを踏みにじるだけでなく、最悪の場合、身に危険が及ぶこともあります。その部分はしっかりと理解する必要があります。
他人の成功事例を参考にしつつ、本当に必要な情報を見極める。
現在は、親がSNSで受験に関する情報を学び、同じ境遇の“仲間”とつながることは、もはや当たり前の時代になっているのかもしれません。しかしながら、のめり込み過ぎて根拠のない噂に惑わされてしまう可能性もあります。それがお子さんにストレスを与え、過剰なプレッシャーとなったり、不安を増大させたりして、受験勉強どころではない状況に追い込んでは本末転倒です。
情報過多の時代だからこそ、伴走者となる親御さん側も正しい距離感と判断力を持って、SNSの上手な活用法を考えていく必要があるのではないでしょうか。
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西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
現役東大生 カルペ・ディエム代表
1996年生まれ。偏差値35から東大を目指すものの、2年連続で不合格に。二浪中に開発した独自の勉強術を駆使して東大合格を果たす。2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立。全国の高校で高校生に思考法・勉強法を教え、教師に指導法のコンサルティングを行っている。
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東大カルペ・ディエム
東大生集団
2020年6月、西岡壱誠が代表として株式会社カルペ・ディエムを設立。西岡を中心に、貧困家庭で週3日バイトしながら合格した東大生や地方公立高校で東大模試1位になった東大生など、多くの「逆転合格」をした現役東大生が集い、日々教育業界の革新のために活動している。漫画『ドラゴン桜2』(講談社)の編集、TBSドラマ日曜劇場『ドラゴン桜』の監修などを務めるほか、東大生300人以上を調査し、多くの画期的な勉強法を創出した。そのほか「リアルドラゴン桜プロジェクト」と題した教育プログラムを中心に、全国20校以上でワークショップや講演会を実施。年間1000人以上の学生に勉強法を教えている。
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(現役東大生 カルペ・ディエム代表 西岡 壱誠、東大生集団 東大カルペ・ディエム)