※本稿は、パトリック・キング著、浦谷計子訳『本を読むように人を読む 心理解読大全』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■糸杉1本は「どうか立ち寄らないでください」
フランスのプロヴァンス地方には、家の玄関前に植える糸杉の本数で、その家庭が客人を迎え入れることにどれくらい積極的かを示す風習がある。糸杉が3本なら、「疲れた旅人に温かい食事とベッドを無償で提供します」という意味。2本なら「喜んで食事と水をお出しします」、1本なら「どうか立ち寄らないでください」という意味だ。
この種のコミュニケーション方法はフランスに限ったものではない。『Journal of Environmental Psychology(環境心理学ジャーナル)』の1989年の調査によれば、クリスマスに家の外側を飾り立てるアメリカ人は、フレンドリーさや団結力を隣人たちに伝えたいという願いをもち、社交性が高い。
今度あなたが誰かの家を尋ねたら、服装、ボディランゲージ、言葉づかいと同じように、住まいそのものも観察してみるといい。結局、家はそこに住む人間の延長なのだから。
「オープン」で歓迎ムードが伝わってくる家か。掃除や片付けが行き届いているか。それともちょっと雑然としているか。社交性の手がかりも探してみよう。
飾りっ気がなくてやけに清潔な家は、神経症傾向について何かを語っている可能性がある。高価な装飾品をあちこちに置き、有名人といっしょに撮った自分の写真を金縁の額に入れて飾っているような人は、富と名声に価値を置いているのだろう。
家は、その人が最もくつろぎ、安心し、自分らしくいられる場所だ。とくにバスルームやベッドルームのように私的な部屋は、自分のニーズや価値観にふさわしい空間につくり上げるものだ。
■家は住人の強い願望を表現する場所
その家には、特定の場所に何かが大量に置かれていないだろうか。たくさんの家族写真が飾られていたり、本が山積みになっていたりすれば、その家の住人が何を大切にしているか分かるはずだ。
一方、何かが存在しないことも、その人の個性をおおいに物語っている。必要最小限の家具しか置いていない、個人的な所有物をほとんど飾っていない、何もない空間が多い、という場合、単なるミニマリストとも解釈できるが、問題を示している可能性もある。その問題とは、心の健康の悪化だったり、人付き合いに対する関心の欠如だったり、一般的には、自尊心の低さだったりする。
家は住人の強い願望を表現する場所でもある。
もちろん、短期の賃貸暮らしは手がかりに乏しいかもしれない。家族がいる暮らしは、個人のパーソナリティより一家全体のカルチャーが表れやすい。それでも、ひたすら観察すべし!
■家はその人の政治的志向も表す
サム・ゴズリングは、著書『スヌープ! あの人の心ののぞき方』(篠森ゆりこ訳、講談社)の中で、ベッドルームの装飾品を見れば、その人の政治的な志向まで推測できると述べている。
アメリカの保守派は、旗やスポーツグッズなど組織的で伝統的なアイテムを飾る傾向がある。彼らの部屋は、リベラル寄りの人たちの部屋より明るくてすっきりしている。それに対して、リベラル派のベッドルームは、本、CD、画材、文具、文化的な記念品が多く置かれ、また、カラフルに飾られる傾向がある。
一般的に、空間がすっきりしていて過度に整頓されている場合、堅実性の高さを表し、住人は保守派である可能性が高い。一方、リベラル派の空間は開放的で創造性に富み、住人はルーティンや秩序に束縛されるのを嫌う傾向がある。
当然、地域差も考慮に入れなければならない。整っている状態とは何か、すばらしい装飾とは何か、モダンとは何かは、地域によってまったく異なっていてもおかしくない。
■睡眠時間やネットでの振る舞いからタイプを読みとる
最近は、インターネットの情報を鵜呑(の)みにしないほうがいいことが常識になっている。ソーシャルメディアのプロフィール写真がほんとうの姿とほとんど関係ないかもしれないことも、みんなが知っている。
とはいえ、ソーシャルメディアやインターネットでの振る舞いを見れば、人物像を多少は推測できるのではないか? 答えはイエスだ!
まず、ネット上で誰かのパーソナリティを探るのに、最初からソーシャルメディアに頼る必要はない。電子メールがある。言葉づかいや全体的な言語表現だけでなく、送信時刻にも目を向けよう。深夜に一度か二度メールを送ってくるだけなら、とくに意味はないが、しょっちゅう真夜中過ぎに送ってくるのは、夜型人間だからかもしれない。
■夜10時前に寝る人は「野心的で社交的」
それが何を意味するかというと、じつは、人のクロノタイプ(体内時計のリズムのパターン)はパーソナリティと関係するのだ。睡眠専門医のマイケル・ブレウス博士の研究によれば、朝起きるのが早く、夜10時前に寝る人は、外向性が高く、野心的で社交的だという。
一方、夜更かしをする人は、「ダークトライアド(邪悪な三要素)」と呼ばれる性格特性――ナルシシズム(自己中心性)、マキャベリズム(欺瞞性)、サイコパシー(反社会的傾向)――をもつ割合がわずかに高くなる。
だからといって、土曜の深夜にあなたにショートメールを送ってくる人がサイコパスというわけではない。
かたや、睡眠スケジュールがめちゃくちゃな人は、また別のクロノタイプだと言われている。眠りが浅く、ストレスがたまりやすく、他のタイプよりも心配性で勤勉な傾向がある。
■ソーシャルメディアは信用できる?
ソーシャルメディアの話に戻ろう。FacebookやInstagramのユーザーが何十億人もいることを考えれば、人間の行動の一面としてソーシャルメディアは無視できない。ソーシャルメディアでシェアされるものを信用していいのか、その人の真の姿が分かるのかと疑問に思う人は、ミーシャ・ベック博士らが行った、学生と彼らのソーシャルメディア行動に関する2010年の研究に興味を覚えるだろう。
この研究では、236人の学生を対象に「ビッグファイブ(性格特性の5因子モデル)」を評価するパーソナリティ検査と、理想のパーソナリティ(つまり、こんなふうになりたいという人物像)を調べるもうひとつのテストを実施した。
この研究でパズルの最後のピースを埋めたのは、学生のことをまったく知らない人たちに彼らのソーシャルメディアのプロフィールを見せ、パーソナリティを評価してもらうことだった。すると驚くような結果が出た。
学生たちはソーシャルメディアのプロフィール欄で、理想化した自分ではなく、ありのままの自分を見せる傾向が強かったのだ。彼らの多くは、ソーシャルメディアで正直かつ率直に自分自身を語っていたことになる。
ただし、この調査結果の解釈には注意を要する。
■プロフィール写真から人の性格を読み取る
では、ソーシャルメディアで人の性格は判断できるのだろうか? 答えはおおむねイエスだ。ただし、人を分析するために使う他の情報源と同じように、ソーシャルメディアもデータのごく一部(シンスライス)にすぎない。個別の事象よりもパターンが重要なことを念頭に置いておこう。
ときに言葉はわたしたちの判断を簡単に曇らせてしまう。なぜなら、ネット上には強いポジティブ感情や強いネガティブ感情を表現する言葉が並ぶからだ。
だが、投稿された写真、とくにプロフィール写真は、その人がビッグファイブの性格特性尺度のどこに位置するかを正確に言い当てるヒントになりうる。
経験への開放性が高い人や神経症傾向の強い人は、通常、自分だけの写真を載せる。しかも、ポジティブではなくニュートラルな表情の写真だ。
堅実性、協調性、外向性が高い人たちは、笑顔やポジティブな感情を表す写真を載せる傾向がある。
また、協調性と外向性の2つのグループは、一般的に、他のグループよりもカラフルな写真や感情表現の豊かな写真を投稿する。
さらに、その人が何を「理想」とするかは、その人の現状について多くを語っているということも覚えておこう。家じゅうを旅先で買った珍しい品々であふれさせ、あちこちの壁に地図を貼っているような人は、旅慣れた人間であることに価値を置いている。
それと同じように、ソーシャルメディアに旅行写真をたくさん投稿する人は、「わたしを旅慣れた人間だと思ってください」とより意図的に発信しているのだ。
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パトリック・キング(パトリック・キング)
会話コーチ
カリフォルニア州サンフランシスコを拠点とするソーシャル・インタラクション・スペシャリスト兼会話コーチ。著書累計は100万部を超え、ソーシャル・スキル、社会心理学、人間行動学に関して世界有数の権威である。GQ Magazine、TEDx、Forbes、NBC News、Huffington Post、Business Insiderなどで著作が取り上げられている。2020年に刊行された『本を読むように人を読む 心理解読大全』(KADOKAWA)は、自費出版ながら29カ国で翻訳が進んでいる。
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(会話コーチ パトリック・キング)