■神社の鳥居で懸垂する外国人
このところ外国人によるろくでもない事故が目立つ。5月18日に三重県の新名神高速道路の下り線を乗用車で逆走し、2台に衝突したうえ、自動車4台がからむ事故を引き起こしたのは、ペルー国籍の会社員(34)だった。5月14日、埼玉県三郷市で小学生10人ほどの列に突っ込みながら現場から逃走したのは、中国籍の男(42)で、同乗者(25)も中国人だった。
彼らは日本在住で、観光客ではなかったようだが、多くの日本人にとって、急増する外国人観光客に対していだいている漠たる不安が、現実にものになったような感覚があったのではないだろうか。
私自身、取材で日本各地の城郭や神社仏閣などを訪れる日常なので、あふれんばかりの外国人には頻繁に遭遇している。同時に、マナーが悪い外国人の比率が増えてきたと如実に感じている。
静かに鑑賞すべき場所なのに大声で喋り、携帯電話でもやはり大声で通話する。建造物のほか植栽などにべたべたと触りまくる。立ち入り禁止などお構いなしで、やわらかい苔を踏みつけてしまったりする。城の石垣にはよじ登る。神社の鳥居で懸垂するという話も耳にする。
歴史的な街区に座り込んでいる外国人もよく見かける。それが民家の門前だったりもするので、住人はさぞかし不快なのではないかと思う。
■質がどんどん低下している
先日、福井市内にある越前松平家ゆかりの歴史的な庭園で、立石に外国人の子供が登っているのを見かけた。親が注意するかと思えば、キャッキャと歓声を上げる子供を放置しているばかりか、親も騒ぎながら立石に乗る娘を記念写真に収め、その子が石から下りると今度は別の子を登らせ、また写真を撮っていた。
日本の伝統や文化について、予習をしてきた形跡はない。しかし、予習などしていなくても、「人のふり見てわがふり直せ」という意識があって、独りよがりの行動を避けるだけでも、マナー違反の行動はせずに済むだろう。しかし、どうやらそういう意識もないようだ。
とにかく、ここにきて「郷に入れば郷に従え」という当たり前のことを守らない外国人の比率が、急増していると思われる。新幹線などの車内で、ほかの人が予約している場所に大きなスーツケースを堂々と置く、という話をよく聞くが、そこがどういう場所なのか確認もせず、独りよがりに判断しているということだ。もっとも、水洗トイレになんでも流して壊してしまうのは、「郷に入れば」という以前の話だろう。
そこで浮上するのは、訪日外国人の質が、どんどん低下しているのではないか、という疑問である。
■訪日外客数が過去最高を記録したワケ
日本政府観光局(JNTO)の発表によると、今年4月の訪日外客数は390万8900人(推計値)に達し、前年同月比で28.5%も増加した。
また、4月までの累計は1444万6200万人で、昨年が1160万1486人だったから、300万人近くも増えたことになる。年間ではじめて4000万人を超えるのは、ほぼ確実だろう。
この4月にはヨーロッパ諸国からの増加が目立ち、イギリスが43.6%増の6万9500人、ドイツが58.8%増の5万7200人、イタリアにいたっては83.5%増の4万5600人だった。ほかにはメキシコも85.5%増の2万1800人となり、むろんこれらの国からの訪日客数は、月間での過去最高だった。
4月に姫路城を訪れた際、やたらとイタリア語が聴こえて怪訝に思ったものだが、イタリア人がこれほど増えていたのである。
だが、現在、訪日外国人がこれほどの勢いで増えているのは、日本という国の魅力が増したからではない。私たちはそのことを忘れてはならない。極度の円安が続いているので、外国人にとって、日本はいま非常に割安なのだ。もちろん、日本が好きで訪れている人もいるだろうが、外国人観光客が急増している理由は、ひとえに日本旅行の割安感が増していることにある。
■円安の根本原因
政府は「訪日外客数」を2030年までに6000万人にし、彼らによる消費額を15兆円にまで増やす、という目標を掲げている。少なくとも人数は、実現不可能な数字ではなくなってきたと感じられる。
だが、問題は、この目標が日本の魅力を増す努力を重ねた結果ではなく、たんに円安が持続することによって達成されそうなことである。
いまの円安は第二次安倍晋三内閣が掲げたアベノミクスに由来する。それに寄与するために、2013年に日本銀行の黒田東彦総裁がゼロ金利政策を打ち出すと、1ドル80円程度だった円は急落した。しかも、コロナ禍が終わると欧米諸国は金利を引き上げたのに対し、日本はゼロ金利政策を続けたので、欧米との金利差が拡大し、円安に拍車がかかった。
その結果、日本国内はひどい物価高に見舞われている。日本は食料自給率が38%(カロリーベース)と、G7諸国のなかでも極端に低く、エネルギー自給率は12%にすぎない。円安になれば物価が上がらざるをえない国なのである。円が安くて、外国人にとって日本が「旅行天国」なのは、私たちの物価高と表と裏の関係にある。
■日本文化への敬意に欠けるのは当然
かつて1990年代ごろまで、物価が安かった東南アジア諸国などに旅行しては、品位を欠く豪遊をする日本人が多かった。現地の人にとっては高額のホテルに泊まり、高級レストランで食事をし、大量の買い物をしては、「安い」「安い」と連発した。経済大国の驕りから相手国への敬意などいだかず、なんでもカネで解決しようとする傾向があった。
ところが、いまでは日本が、かつての日本人にとっての東南アジア諸国のような位置にある。安く旅行できるというだけの理由で日本を選ぶ外国人は、当然ながら、日本および日本人、日本文化への敬意に欠ける傾向にある。要するに、日本が安すぎるあまり、外国人観光客の質が低下しているのである。
では、どうすればいいのか。外国人が日本を訪れるためのハードルを、あえていまより高くする必要があるだろう。
昨年6月、兵庫県姫路市の清元秀泰市長は「姫路城の入城料は外国人には30ドル(4400円程度)払ってもらう」と発言し、話題になった。公平性を欠くという批判もあり、現行では一律1000円なのを、来年3月から姫路市民以外は2500円にする、ということで落ち着いたが、外国人だけ高くしてもよかったと思う。
■訪日のハードルを高くするしかない
姫路城にかぎらず文化財や史跡は、維持に多額の費用がかかり、もちろん税金も投入されている。私たち日本人はそれを負担しているわけだが、外国人は負担していない。だから外国人から多く徴収することには合理性がある。維持費がかかる文化財や史跡を訪れる以上は、応分の負担をしてもらうのは当然だろう。
宿泊税を導入している自治体もあるが、これを広めるのもひとつの方法だ。東京都、大阪府、京都府、福岡県、金沢市、長崎市などはすでに導入していて、大分県なども導入を検討している。京都市は来年から上限額を1泊1万円に引き上げる。ただし、日本人と外国人の区別はない。
外国人だけ高くする、あるいは外国人だけを対象としたあらたな課税を考える必要もあるのではないか。石破茂総理が国会で「検討したい」と述べた、訪日外国人の出国税の引き上げも、ひとつの方法だろう。
いずれにせよ、日本旅行のハードルを高くして、割安というだけで日本を訪れる「質の低い」外国人観光客を振るい落とす。現在のオーバーツーリズム問題を解決するには、つまるところ、それしか方法はないだろう。結果として外国人観光客が減ったら、日本の良さを伝え、その良さをさらに磨き上げる努力をして、日本のファンをつくればいい。
いまのままでは、いずれ円高に振れたとき、外国人からそっぽを向かれるだけである。為替動向に左右されず外国人観光客を呼び込み、なおかつマナーの低下を阻止するためには、訪日のハードルをあえて高くするしかない。
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香原 斗志(かはら・とし)
歴史評論家、音楽評論家
神奈川県出身。
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(歴史評論家、音楽評論家 香原 斗志)