※本稿は、松居温子『9割捨てて成果と自由を手に入れる ドイツ人の時間の使い方』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■日本人よりも少ない労働時間で高額な報酬
私なりに、日本人が「時間が足りない」と感じる理由を考えてみました。
『データブック国際労働比較2024』の統計によると、日本人1人あたりの平均年間総実労働時間は1598時間だそうです。それに対してドイツ人は1349時間。
249時間もの差があります。
1日8時間労働で計算すると年間31日以上、日本人はドイツ人より働いています。数字だけ見ると、シンプルに日本人は働きすぎだといえます。
労働時間が年間ひと月も多いのですから、ドイツ人より「時間がない」と感じるのは当然でしょう。
また、これだけ短い時間で日本と同じ生産力を持っているため、ドイツの国民1人あたりの生産性は日本の約1.4倍にもなります。
1人あたりの生産性が高い分、賃金も高くなります。日本の製造業における時間あたりの賃金(購買力平価換算)を100とした場合、ドイツの指標値は185.0。
ドイツ人は、日本人よりも少ない労働時間で、だいぶ高額な報酬をもらっているということです。この時間あたりの賃金の格差も、ドイツ人に比べて日本人がいつも時間が足りないと感じている理由の1つかもしれません。なぜなら、稼ぐためにより働こうと思ってしまい、さらに自分の時間が少なくなるからです。
■日本人は「他人のために使う時間」が多い
また、日本人を見ていて感じるのは、他人のために使っている時間がとても多いということです。終業後や休日の時間の使い方を振り返ってみてください。会社の上司や同僚、そして家族や親戚など、自分の所属している組織やコミュニティの人たちのために時間を使うことが多いのではないでしょうか。
同僚や家族のために時間を使うことが、他人の役に立っている、周りに貢献している、さらには褒められる行為であると捉えがちなのです。
日本人の場合、自由な時間の主役は、自分の周りにいます。
終業後や休日も、上司に付き添って飲み会や接待に行かなければならない。子どもがいれば、習い事の送り迎えやPTA活動もあるでしょう。ママ友やご近所付き合い、冠婚葬祭などの親戚の集まり……。
日本人にとっての休日は、自分がやりたいことに費やす時間というよりも、誰かのために使う時間。そのため仕事以外の時間でも「やらなきゃいけないこと」が増えていってしまうのです。
もちろん、自分が人の役に立っているという実感が、幸せにつながることもあると思います。しかし、誰もが時には「自分だけの自由な時間が欲しい!」と感じるのではないでしょうか。
■パワフルに遊んでいるドイツ人
逆に、ドイツ人の場合は、役に立ちたいとか、貢献したいといった意欲はほとんどありません。もちろん、休日に同僚や家族と共に過ごすこともありますが、「自分が楽しいから、幸せだから」そうしているだけです。冠婚葬祭にも、心が伴います。家族や友達の幸せを祝うことに心が伴うため、義理という概念はあまりありません。
気分が乗らないときは、無理をして誰かと一緒に過ごそうとはしません。育児の場合も、子どものために時間を割くというより、自分が子どもと過ごす時間を大切にしているから、一緒に過ごそうとします。忖度のために時間を使うこともありません。
自分がやりたいことが第一! 自分が主役! と、はっきりしているのです。
そして、意外かもしれませんが、ドイツ人はとても遊び好きです。夜中までイベントやパーティーに参加したり、スポーツを思いっきり楽しんだりと、とてもパワフルに遊んでいます。
「誰かのため」ではなく、自分のために思いっきり時間を使っているからこそ、「幸せ」を感じやすいのだと思います。
■「協調性」を重視する日本人
このように「自由な時間」の過ごし方は、日本とドイツでは、かなりの違いがあります。
もちろん個人差はあるでしょう。けれど傾向として、日本人は周囲との良好な関係が、個人の幸福に直結しやすい性質のように思います。
感覚的にいうと、日本人は意識の矢印が、「内向き」=他人から自分に向いていて、周囲からの評価を気にして行動します。一方でドイツ人は、意識の矢印は、「外向き」=自分から外に向いていて、自分の気持ちを軸に行動するのです。
内向きか、外向きか。
そのベクトルの違いに、日本とドイツの相違の本質が、集約されていると思います。
日本人の内向きのベクトルを証明する言葉の1つに、協調性があります。
学校でも会社でも、「周りのことを考えて行動しなさい」「自分のことだけ考えてはいけない」「人に迷惑をかけないように」と、教育されます。自分がどうするか? という場面では、まず自分ではなく、周囲の人たちや組織の利益を指標にするのが、道徳的にも正しいとされています。「協調性がある」ことが評価の対象として設定されているのは、日本ならではの文化でしょう。
■自由な時間を「誰かのための時間」に変えてしまっている
そのような文化のなかで暮らしているわけですから、内向き思考の国民性になるのも納得です。他人から与えられた役割をまっとうすることで幸せを感じるように、社会が整えられているのです。
それもあってか、日本人は「他人からどう見られているか」をとても気にしています。他人の顔色をうかがうことも少なくありません。自分の意見や好みが周囲と違っていたら、我慢してしまうこともあります。
そういった環境のなかで暮らしていくうちに、多くの日本人は、自分のために使えるはずだった「自由な時間」を、無意識のうちに「誰かのための時間」に変えてしまっています。
言ってしまえば、「他人軸」で時間を使っているのです。
■70歳のおじいちゃんが無我夢中で遊ぶ
ドイツ人の場合、心のベクトルは内側から外側に向いています。
自分がやりたいことや好きなことに時間を使います。
たとえば、ドイツの遊園地に行くと、70歳くらいのおじいちゃんがゴーカートに乗って、無我夢中で遊んでいる様子が見られます。ハンドルを握っているおじいちゃんの姿を、外から孫がじっと見ているのです。
日本ではまずあり得ない光景だと思います。
ですが、「大人が子どもを差し置いて遊んではいけない」「子どもがやりたいことを優先しなければいけない」といったルールなど、誰が決めたのでしょうか。
大人も、自分のやりたいことに思いっきり時間を使っていいのです。孫は思いっきり楽しんでいるおじいちゃんの姿を見て、何歳になっても無我夢中に楽しめる大人になりたいと思えます。
ドイツ人は、他人のために時間を浪費するのではなく、自分が納得する時間の使い方を選択しています。
日本人と比べるのであれば、「自分軸」で時間を使っているといえます。
幸福を実現するための意識が、日本人と逆なのです。
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松居 温子(まつい・あつこ)
ダヴィンチインターナショナル 代表取締役
ドイツ歴40年。父親の転勤に伴い8歳から13歳(小3から中2)までの6年間をドイツの現地校GrundschuleとGymnasiumに通い生活。
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(ダヴィンチインターナショナル 代表取締役 松居 温子)