こう語るのは、コアネット教育総合研究所の福本雅俊さんだ。
では、本当の探究型学習を実践している学校を選ぶポイントは何か。「一つは、教育活動全体を貫くコンセプトが探究型学習を意識した設定になっていること。もう一つは教職員の資質です。正解のない学びだからこそ、教員にも探究し続ける資質が求められます」(福本さん)
一方、声の教育社の後藤和浩さんは、別の視点を提示する。「探究型学習はいきなりできるものではありません。高校生になって質の高い探究を行うには、中学時代からのトレーニングが必要です。その意味で中高一貫校というのは有利。また、受験勉強の負担が少ない大学附属校は、高校3年まで探究が続けられ、より高い成果が期待できます」
福本、後藤両氏に挙げていただいた「お薦めの探究型学習校」を見ていこう。
■三田国際科学学園【東京都・世田谷区/共学】
インスタントコーヒーをドリップしたら?
英語教育や国際交流に力を入れてきた同校は、今年の4月から「三田国際科学学園中学校・高等学校」に名称を変更する。もともと、サイエンス教育にも力を入れてきており、博士号を持つ教師が4人もいる、と福本さんは言う。本格的な実験に必要な3Dプリンターや冷却遠心分離機、安全キャビネットなどハード面の充実はもちろん、ソフト面での柱となるのが「初めに問いありき」を重視した授業だ。
福本さんが訪ねたときには、「インスタントコーヒーをドリップしたらレギュラーコーヒーになるのか」という問いから授業が始まったという。
こうした「問い」に対し、生徒はまずタブレット端末を使って情報を集め自分の考え=仮説を構築。次にグループでディスカッションを行い、グループごとの結論を導き出し、それをクラス全体に向けてプレゼンする。プレゼン資料はデータとしてクラウドサーバーで管理し、教師はそれに対してフィードバックを行う。
「こうした一連のサイクルで学ぶと、新しい“なぜ?”が生まれます。これを繰り返すことで、生徒の探究力を高めていく。事実、こうした学習法を導入して以来、生徒の学力は確実に向上しているそうです。また、『どのような問いが効果的か』などを考えていくなかで、教師のスキルもブラッシュアップされていきます。同校の教師は、問題の解を教える教育者ではなく、子供が考えるのをサポートする伴走者と位置づけられています。まず、『君はどう考える?』からスタートするので、見学していても本当にワクワクします」(福本さん)
もう一つの柱は、教科横断型の授業だ。社会科で「蒸気機関の発明」という歴史を学び、理科で「どう動くのかそのメカニズムを実験する」という授業や、社会科と美術、英語を掛け合わせて「浮世絵を作って、留学先のホストファミリーに紹介する」という授業も過去にあったという。
「私も学びたくなる授業がもりだくさんです」(福本さん)
■山脇学園【東京都・港区/女子高】
赤坂の地でサンショウウオを研究
後藤さんが学校訪問をしたときには、イモリやサンショウウオなどを研究する「有尾類研究所」の生徒たちが、それぞれ“推し”のイモリを紹介してくれたという。
同校には緑豊かな屋外実験場もあり、サンショウウオを飼育するためのビオトープも造成されている。水温を一定に保つため、井戸も掘る計画があるとか。「近所にはTBSのビルもある都心の一等地なのですが、赤坂にあるとは思えない自然環境を持つ学校です」(後藤さん)「社会に貢献する女性科学技術人材の育成」という明確な理念を持つ同校。文部科学省が科学技術人材育成のために推進する「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」の指定校でもある。「経済学、経営学、心理学などの文系分野でも、データサイエンスなどの視点が求められる時代に対応するために“総合知”を育成しようというのが、同校の基本方針です」(福本さん)
中学校での「サイエンティスト」の授業では、基本的な実験操作の習得とデータ処理、考察力・表現力など、今後の探究活動に必要な考え方やスキルを身につける。
高校ではサイエンスクラスが用意されており、科学英語、データサイエンスなど独自の学習を行うと同時に、より高度な研究活動に打ち込み、その成果を国内外のコンテストなどで発表する。
「施設の充実ぶりも他校の追随を許しません。各種実験室はもちろん、1人1台完備の顕微鏡室、プレゼンテーション用の教室などからなる『サイエンスアイランド』では本格的な実験・研究活動ができますし、イギリスの街並みを模した『イングリッシュアイランド』では校内留学とでもいうべき英語学習が行えます」(後藤さん)
■湘南学園【神奈川県・藤沢市/共学】
宿泊学習で持続可能な地域づくりを実感
湘南学園は35年前から、総合学習、探究型学習に特化してきた、いわばこのジャンルの老舗的存在だ。「この学校がおもしろいのは『藤沢が自分たちのキャンパスだ!』という意識を持っていること。生徒たちは地域の農家や商店、新江ノ島水族館や湘南海岸などに出かけていって、自分なりの社会的課題を見つけています」(福本さん)
カリキュラムの柱となるのが“湘南学園ESD”という理念だ。「持続可能な開発のための教育」という意味で、6年間をかけてさまざまな活動を行っている。2年前からは、農山村を訪ねて暮らしを学ぶ「ESDツアー」もスタート。
湘南の海岸に流れ着く海洋プラスチックごみの収集活動をしたことから課題を見つけ、地元の企業とタイアップして、プラごみのリサイクルやプラスチックフリーの素材開発などを探究する生徒たちもいる。
「生徒主体という考え方が強い校風で、学園祭や体育祭、研修旅行などの学校行事も基本的には生徒たちが運営しています。こうした行事に命をかける生徒が多いのも特徴です」(福本さん)
湘南を舞台に、自由な探究ライフを満喫し、青春を謳歌(おうか)できる学校といえる。「学校説明会では校長先生が、学校の話よりもまずはSDGsを熱く語るのです。まるで環境保護セミナーに来た気分で、おもしろい」(後藤さん)
教える人
福本雅俊さん
コアネット教育総合研究所 横浜研究室室長。教育現場のコンサルタントとして数新設校、学校改革。多くの学校を訪問。のカリキュラムづくりも請け負う。
後藤和浩さん
声の教育社社長。私立公立中学・高校500校の過去問を発行。YouTube「声教チャンネル」の取材を含め年間100校を訪問。
※本稿は、『プレジデントFamily2025春号』の一部を再編集したものです。
(プレジデントFamily編集部 文=田中 義厚)