子育てに不安を感じる時はどうすればいいか。家庭教育コンサルタントの岩田かおりさんは「多くの母親が、夫やパートナーとの関係に悩みを抱えている。
中には『家でまったく口をきかない』という人もいるが、この沼から抜け出すには向き合って話をするしかない」という――。(第2回/全2回)
※本稿は、岩田かおり『自分から学べる子になる 戦略的ほったらかし教育』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
■不安やあせりの原因は「沼」
「この子、電車ばかりに夢中になっているけれど大丈夫?」「言葉がちょっと遅くない……?」などと言われて、不安になることはないでしょうか。
先生に言われたから、ママ友はこう言っているから、ネットでこんなふうに書いているから……などと、外の情報にいちいち反応していては、いつまで経っても不安が消えません。
不安の渦中にいると、「こうせねばならない」という感情が強くなって子どもを管理するようになります。あるいは、子どもの言動を見ないふりをして、自分の心をざわつかせないようにしているケースもあります。
こういったコンディションでは、子どもを戦略的にほったらかすことはできません。
では、なぜ親は不安やあせりにのみこまれてしまうのでしょう?
それは、「沼」にはまっているからです。そして、沼にはまってしまうのは自分の中にある真の価値観を明確にできていないことが原因です。
■「子ども」「他人」「自分」が敵になる
「沼って何?」と戸惑った人も多いでしょう。
知らぬ間に自分がとらわれている恨みや思い込み、混乱のことを私は「沼」と表現しています。
沼にはまっていない人は軽やかに生きていて、子育てに深く悩むことがほとんどありません。
傷ついたり悩んだりすることはありますが、そこまで時間を要さずに抜け出すことができます。
私の今までの経験から断言できるのは、現代のお母さんは、恨みや思い込み、混乱の沼にはまっている人がほとんどです。
そして、7000人以上のお母さんたちに話を聞いてきた中で、沼には7つのタイプがあることがわかってきました。
7つの沼について、それぞれ詳しく説明していきます。
沼のうち、①~③は「自分VS子ども」、④、⑤は「自分VS他人」、⑥、⑦は「自分VS自分」の間に起こる問題になります。
■今ここ思考の子ども、逆算思考の親
【自分VS子ども】
沼①子どもの発達
「子どもの成長が遅いのではないか?」「同学年の他の子はもう○○ができているのに……」という子どもの発達について悩むことが多い特徴があります。
とくに、自分の親や義理の親に「この子、言葉が遅いわね」「ちょっと好みが変わっているんじゃないの?」などと言われたり、幼稚園や保育園、小学校の先生に「○○ちゃんは△△が苦手みたいですね」と指摘されたりして、気にしてしまう傾向が強いでしょう。他にも、医師やママ友から言われた言葉を引きずっているケースもあります。
自分にとって大きい存在の誰かに、子どもの成長について言われたことをずっと手放せずに悩み続けてしまうという沼です。
沼②子どもの受験と試験
早い人は幼稚園受験から始まります。今では受験というイベントを軸にして、子どものタイムスケジュールを組み立てる保護者は少なくありません。
幼稚園受験、小学校受験、中学受験の対策のために、子どもの「すべきこと」を親が決めることで親子関係がぎくしゃくするケースも多くあります。

受験ありきで生活を進めようとすると、親はどうしても「みんな我慢して勉強しているのよ」「今ここでがんばったら、いい中学校に入ってラクになるから」といった声がけや接し方になってしまいます。
しかし、子どもは今ここ思考です。この性質上、大人の逆算思考はピンとこないので、親子間で衝突や葛藤が生じやすくなり、多くの人がこの沼にはまってしまいます。
■子どもと先生との約束なのに…
沼③子どもの宿題と習いごと
最初は子どもの好きなことを応援する気持ちから習いごとを始めますが、だんだんと「こなすべき」という“べき論”が強くなっていきます。宿題も、これと同じ構造です。
そうなると、子どもよりも親に力が入って、「まだ練習していないの?」「宿題、全然やっていないじゃない!」と管理する傾向が強まります。
習いごとも宿題も、本来は子どもと先生との約束のはずです。先生と親との約束ではありません。
しかし、次第に親が先生と習いごとの練習や宿題をする約束をしている気持ちになって、それを「守らせなければいけない」と思い込んでいき、沼にはまってしまいます。
■「お母さんのせい」と思い始める
とくによくあるのが、ピアノなどの楽器演奏系の習いごとでの親子間の衝突。あるいは、そろばんなどの計算系の塾も同様です。どちらも家で練習しないとうまくならないので、いつの間にか親が自分ごと化してしまい、子どもに練習させようとします。

習いごとでも宿題でも、子どもが取り組むものではなく親のタスクになってしまうと、子どもは自責ではなく他責で捉えていきます。
つまり、「自分がやりたくて習っている」「自分が練習したいから練習する」という気持ちを失い、「お母さんが言ってくれないから、宿題忘れたじゃん!」などと親のせいにするようになるのです。
ちなみに、水泳など、その場に行けばOKの習いごとは、このような衝突が起こらないのでおすすめです。
■自分らしさに蓋をしてしまう母親たち
【自分VS他人】
沼④他者評価
他者からの評価が気になって自分の意見が言えなかったり、自分の感情に気づかないふりをしていたりする人が陥る沼です。
会社では、一般的に「自分がこうしたい」という希望よりも、組織として求められることが優先されます。自分の感じていることをそのまま表明したり、思いのままに行動したりすれば、評価が下がると感じる場面も多いでしょう。すると、その評価への恐れが、プライベートにおいても影響してきます。
たとえば、義理のお母さんやお父さん、自分の親に評価されることに怯えて、その目線が行動の指針になり、自分らしい毎日が送れなくなることがあります。
本当にやりたいことが見えなくなってしまうので、不安に襲われやすくなりますし、気づかないうちに恨みの感情や混乱が湧き起こり、沼にどんどんはまっていきます。
■夫婦の会話が業務連絡になっていないか
沼⑤パートナーとの関係
どの夫婦もパートナーと本音で話したいと思っているものです。しかし、大事なことを話すと摩擦や衝突が生まれることも多くあります。話を着地させるには、中間地点を探したり、どちらの意見を採用していくかをすり合わせていったりと面倒くさい作業になるでしょう。
ぐったり疲れたり傷ついたりすることもあるはずです。
そんなことは面倒だからと、「パートナーには話さないで自分で決めればいいか」「全部お任せしちゃおう」と思うようになり、対話をしなくなる夫婦もたくさんいます。
業務連絡は伝えられても、価値観や悩みを共有できずにいると、お互いに何を考えているのかわからない関係性になってしまうのです。
本気で夫婦が話し合えない状況は、タッグを組みたいけれど組めていない状態をつくり出します。対話して協力し合う関係性ができていないので、ここぞというときにお互いに力になることができません。
「協力したい」「相談したい」と思いながらもできていないので、いつの間にかパートナーを恨む感情に変わっていき、沼にはまっていくのです。ひどくなると、家庭が身も心も消耗する場となってしまうでしょう。
■「もし子どもがいなかったら」との闘い
【自分VS自分】
沼⑥自己実現
仕事をがんばりたいと考えているお母さんは、子育てをしながら働くことへの物足りなさや不満が心に渦巻いているケースが少なくありません。
自身が二人の子育てをしているとしたら、一人っ子を育てて管理職に昇進した人を見て心がざわついたり、独身で出世していく人と自分との境遇を比較してしまったり。隣の芝生は青く見えてしまいます。
日々、目前のことに追われて時間が過ぎていくので、自己実現している感覚がいつまでも得られず、不安やあせりにとらわれて、この沼にはまっていきます。
もし自分の目指すキャリアが描けていれば、今が満たされていなくても、「あと3年で子どもが○歳になるから、それまで自分はこんなふうに過ごしていこう」と、ある程度割り切ることができます。

自分の目指す姿が具体化していれば、今は子育てから得られるスキルやマインドを養う期間と位置づけて、他人を羨む執着を手放し、自己実現できていないと感じる沼から抜け出せるはずです。
■幼少期から心の中に存在していた「沼」
沼⑦自分の成育環境
子ども時代は今よりもずっと繊細なので、「親にこういったことをされて嫌だった」「こんなことを言われて傷ついた」など、家庭からの影響を大きく受けます。もちろん、大人になる過程でそれを手放したり、癒やしたり、忘れていったりする人もたくさんいます。その一方で、心の中に深く残り続けている人もいるのです。
この成育環境の沼にはまっていると、うまくいかないことに遭遇したときに「親にあんなことを言われて育ったからだ」「こんな家庭環境だったからだ」と親のせいにするようになってしまいます。
また、「男性はいつも好き勝手に振る舞って、女性は振り回されるもの」「学歴がある人は幸せで、ない人は不幸」というような二項対立の刷り込みも生育家庭の影響を受けていることが多くあります。男性でも女性をサポートしたいと思っている人はいますし、学歴がなくても幸せに生きている人はたくさんいます。当たり前ですが、世の中は二項対立で割り切れるものではありません。
私の講座では、悩みや問題点を書き出したり受講生同士で話していたりする中で、自分の思い込みやバイアスが成育歴に由来するものだと気づく人もいます。
小さい頃に母親から「お父さんはだらしなくて、家のこともしないし、ゴロゴロしていて邪魔よね」といったことを聞かされ続けていると、自分が家庭を持ったときに、自分も子どもに対して無意識に同じ話をしてしまうことが往々にしてあるのです。成育歴は母親や父親への恨みがもとになり、深い沼となっているケースが多く見られます。
■「タタリ神」になってしまったきっかけ
はまっている人がとても多いのが「沼⑤パートナーとの関係」です。
多くのお母さんと対話をしてきて、パートナーシップの悩みを抱えている人は7割ほどに及ぶのではないかと実感しています。
夫に対しての恨みが怨念のようになり、「私、『もののけ姫』でいう『タタリ神』になっているんです……」と言っていた人もいました。インパクトのある表現ですが、「わかる……」と思う人も多いかもしれませんね。
ここまで根深くなった恨みのきっかけとは、どんなものなのか? それは、掘り下げていくと、「産後」に行き着くことがほとんどです。
たとえば、産後の心身がつらい時期に「サンドイッチを買ってきて」と言ったのに、「面倒くさい」「家にあるものを食べなよ」と返されて取り合ってくれなかったことが恨みのきっかけになっていた人もいました。もし男性がこの本を読んでいたら、「え? そんなちょっとしたことで何十年も恨まれるの?」と震えあがるかもしれませんね。
でも、それほどまでに産後の女性の心身は疲弊しているのです。
■深い沼にはまってしまった夫婦の末路
妻が「私は、今、絶対にあのサンドイッチしか食べられない! 買ってきてくれないと指一本動かせないっ!」などと言っていれば、ぎょっとするとは思いますが、「そ、そんなに言うなら今から行ってくるね」と多くのパートナーは買いに走るはずです。
また、少し時間が経ってしまっても、「じつはあのときのこと、私の中で“産後サンドイッチ事件”として結構恨んでいるんだよね。今日ケーキ買ってきてくれたらチャラにしてあげてもいいよ」などと言えていれば、そこまで深い恨みとして残らないでしょう。
パートナーにきちんと伝えずにずっと思いを握りしめ、その結果恨みが大きくなったものが、『タタリ神』の正体です。
中には、「夫と一緒に暮らしているけれど、まったく口をききません」「スキンシップなんて無理です」と言う人もいました。「おはよう」や「おかえり」も言わないそうです。
朝ごはんなどは一緒に食べますが、事務連絡をしなければならないときは「○○ちゃん、お父さんに△△って言っておいて」と子どもを介して伝えるとのことです。
こういった家庭の状況では、親も子も心が落ち着きませんよね。
私は「離婚をするな」と言っているわけではありません。
もちろん、それも一つの選択です。離婚することが、沼から脱出する唯一の方法になることもあるでしょう。
しかし、もし今後もパートナーと暮らしていくのならば、向き合って話をすることは不可欠です。そうしなければ、この泥沼からはいつまでたっても抜けられません。

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岩田 かおり(いわた・かおり)

家庭教育コンサルタント

株式会社ママプロジェクトJapan代表取締役。幼児教室勤務、そろばん教室の運営を経て、「子どもを勉強好きに育てたい!」という想いから、独自の教育法を開発。「子どもを学び体質に育てる」と「親を幸せ体質にする」ことを目指し、親がガミガミ言わずに勉強好きで知的な子どもを育てる作戦『戦略的ほったらかし教育』を全国へ展開中。また、3児の母親で、『戦略的ほったらかし教育』を実践した子どもたちは、中学生で起業、経団連の奨学生としてインドへ高校留学、学費全額奨学金で海外大学進学、塾なしで慶應義塾大学合格など、3人とも自分で自分の道を切り開いてきた。著書に『「天才ノート」を始めよう!』(ダイヤモンド社)がある。

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(家庭教育コンサルタント 岩田 かおり)
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