食費を抑える効果的な方法は何か。6人の子どもを育てるファイナンシャルプランナーの橋本絵美さんは「小さな冷蔵庫に替えることで食生活の効率化を図れる」という。
生活史研究家の阿古真理さんが取材した――。
■食品ロスを少なくする究極の方法
物価高が続く今日この頃。家計を「節約したい」、「節約に励んでいる」という人は多いのではないだろうか?
「冷蔵庫を小さくすれば節約ができます」、と話すのがファイナンシャルプランナーの橋本絵美さん。冷蔵庫の電気代はサイズを小さくしたからといって、減るとは限らないのだが、実は「食品ロス小さくなるメリットが大きい」と語る。
実は橋本さん自身、10年前に小さい冷蔵庫に買い替え快適な生活を送る。しかも、8人家族で使う冷蔵庫は256リットルの2ドアタイプ1台。一般的には、3~4人家族で5ドアなどの400~500リットル程度のものを使う。橋本さんはいったいどうやって、小さい冷蔵庫で生活を回しているのか聞いてみた。
家族構成は、会社経営者の橋本さん、会社員の夫、高校1年生の息子、中学3年生の娘、中学1年生の娘、小学校4年生の娘、小学校2年生の娘、保育園年長組の息子の8人。昼食が必要なのは、自宅で食べる橋本さんと、学校へ弁当を持っていく中学1年生の娘。
結婚した際は510リットルのファミリーサイズの冷蔵庫を買ったが、4人目が生まれた10年前、幼い子たちには手が届かない扉ポケットに入ったお茶などを、頼まれるたびに出すことに疲れ、小さい冷蔵庫に買い替えた。
■一人分の食費は月平均1万2000円
買い物は3日に1度のペースが基本。
「昼・夜の3回分、肉と魚介類を合わせて5パックほど買い、傷みが早い魚介類とミンチはその日のうちに使います。献立を決めて買い物するわけではなく、冷蔵庫を開けたときに、肉が傷みかけているなど食材の様子を確認しておいたうえで、スーパーの売り場を見て判断します」と話す橋本さん。
1カ月にかかる食費は今年2~6月の5カ月分を均すと、約9万6000円。総務省が発表した4人家族の2024年の食費が月約9万6000円なので、1人分が半額ということになる。ただし橋本さんの実家からコメが届くので、コメ代を入れるともう少し高くなりそうだ。
例えば4月25日金曜日の買い物リストは以下の通り。魚介類はバナメイエビ、銀鮭切り身、牛肉カルビ、若鶏もも角切り、豚肉切り落とし、焼きつくね、ツナ缶。他のタンパク源は牛乳、ヨーグルト、6Pチーズ、生クリーム、ひきわり納豆、豆腐、油揚げ。野菜が春キャベツ、ジャガイモ、モヤシ、小松菜、万能ネギ、ショウガ、ナス、ホウレンソウ、ピーマン、ブロッコリー、ニラ、レタス、カボチャ、シイタケ、キュウリ。イチゴ、バナナ、コンニャクもある。加工食品がチルドおでん、冷凍フライドポテト、冷凍エビ春巻き、お好み焼き粉。調味料や嗜好品は省いた。

買い物の頻度を3日に1度とする理由について、「1週間分買っていたら、『今日は疲れたから外食しよう』と思っても、『これが腐っちゃうから』とあきらめなければならなくなります。逆に毎日だと、時間を使い過ぎます」と説明する。
■小さな冷蔵庫で生活を回す4つのポイント
3日分は管理しやすい量でもある。「それ以上多く買うと、スーパーのカートに載せられる籠2個分に納まらなくなりますし、自転車の籠にも入りません。新鮮なうちに食材を使い切るのも難しくなります」と橋本さん。「買い物に行く時間がないご家庭の場合、スマホでどこからでも注文でき、冷蔵品、冷凍品などと袋を分けて配送してくれる便利なネットスーパーもおすすめです。履歴から注文することもできますし、合計金額もすぐ確認できるので、家計管理の面からも便利です」と橋本さんは話す。
橋本さんが小さい冷蔵庫で回せるポイントは、4つある。1つ目は、冷凍食品や総菜にあまり頼らないこと。コロナ禍、急に家族全員分を毎食作らざるを得なくなった家庭などで、食品ストック用のセカンド冷凍庫を購入する人が増えた。共働きやシングルの増加で、加工食品や総菜に頼る人も増えている。
しかし、橋本さんは「電子レンジで解凍や調理をしようにも、8人分は時間がかかり過ぎる。
子どもの弁当も、ご飯・味噌汁・おかずをそれぞれ違うスープジャーに入れるので、冷凍食品の出番がありません」と話す。スープジャーを活用するのは、子どもたちから「温かいお弁当がいい」とリクエストされたことがきっかけだ。
2つ目は、調味料を定番しか使わないこと。冷蔵庫の扉ポケットを何種類ものドレッシングや外国料理の調味料が占領する、という事態に陥らずに済む。
3つ目は、飲み物を魔法瓶に入れた冷水だけにしたこと。「前は麦茶を作って魔法瓶に入れていたんですが、1回使うだけで内部がぬめるので、洗うのが大変でした」と言う。しかしそれで、育ち盛りの子どもたちが我慢できるのか。
■冷蔵庫を選ぶ納得の視点とは
その疑問は、4つ目のポイントから解ける。橋本さん宅では毎週日曜日をアイスの日と決め、子どもたちは1年中、毎週食べている。「ジュースが飲みたい」とリクエストされれば、アイスの替わりにジュースを買う。そのためドリンク類が冷蔵庫を占領することはないのだ。
しかもよく聞くと、家族の欲求を満たすため、ふだんあまり買わない食材や食品を買うときもあるようだ。
息抜きの機会があることも、おそらく円満な家庭を守るうえで重要と思われる。
冷蔵庫には、上段に卵など「私しか使わないモノ」を、2段目に野菜類、3段目にすぐ使うモノを入れている。チルドルームには肉類やビール、扉ポケットには上段が青果と味噌、2段目がドレッシングやマヨネーズなどの小さめの調味料、3段目に牛乳や大きめの調味料などを入れる。
冷凍庫はコンテナに分けて入れた大量の氷、アイス類、あるときは冷凍食品。「冷蔵庫の棚は、備えつけに囚われないことが大事です。3段分あっても必要なければ2段にすればいい。卵は必ずしもポケットに入れなくてもよいです」と橋本さんは説く。
橋本さんが冷蔵庫選びで大事にしているのは、開けたときに中が見渡せること。中身が見えれば、食品ロスも出にくくなる。また、「モノの住所をある程度決めておけば、買い物に行く前に扉を開ければすぐ在庫がわかる。スーパーで、在宅中の家族に電話して『冷蔵庫のあそこを見て』と頼むときも、見落としが少なくなります」と話す。
■買い過ぎ・作り過ぎの“メタボ生活”解消へ
冷蔵庫の買い替えが難しい人でも実践できるのが、食品ロスを防ぐことだ。
「食品を捨てるのは、お金を捨てるのと一緒。100円を捨てる人はあまりいないと思いますが、100円分の野菜を捨てる人はたくさんいます」と橋本さん。
お金のプロとして、次のようにも指摘する。「現代の生活は、いろいろなモノがメタボになっています。もしかすると、料理の種類や量を作り過ぎているのかもしれません。家族が多いから冷蔵庫も大きくする、まとめ買いが割安だから1週間分、と先入観に囚われず、自分が管理できるサイズにすればよいと思います」。冷蔵庫が小さければ、「入らないからこのぐらいで止めよう」、と買い過ぎずに済むかもしれない。
話を聞くうち、橋本さんの冷蔵庫を小さくする節約術は、食費の節約にもなり、健康的な食生活を守ることにもつながっていることがわかってきた。余計な情報やモノをそぎ落とし、できるだけ快適でラクな生活スタイルを見つけ出すことも、有効な節約術。その方法の一つが、小さめの冷蔵庫を使うことなのだ。

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阿古 真理(あこ・まり)

生活史研究家

1968年生まれ。兵庫県出身。
くらし文化研究所主宰。食のトレンドと生活史、ジェンダー、写真などのジャンルで執筆。著書に『母と娘はなぜ対立するのか』『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『「和食」って何?』(以上、筑摩書房)、『小林カツ代と栗原はるみ』『料理は女の義務ですか』(以上、新潮社)、『パクチーとアジア飯』(中央公論新社)、『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』(NHK出版)、『平成・令和食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)などがある。

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(生活史研究家 阿古 真理)
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