マンション価格の高騰が続いているため、割安感のある築年数の長い中古マンションを買って、リノベーションする人、リノベーション済みのマンションを買う人が増えている。住宅ジャーナリストの山下和之さんは「リノベーション済みの物件を買うのがいいのか、自分でリノベーションするのがいいのか迷う人も多いが、住宅ローンまで含めて比較したほうがいい」という――。
■リフォームとリノベーション、どこが違うのか
中古マンションを買う場合、ほとんどの人はきれいにリフォームするか、大規模なリノベーションを行ってから入居する。では、リフォームとリノベーションにはどんな違いがあるのだろうか。リノベーションの意味を十分に理解していない人もいるので、その点を明確にしておこう。
まず、リフォームとリノベーションでは工事の規模に違いがある。リフォームは壁紙の張替え、キッチンやバスなどの設備の取換えなどの部分的な工事で、リノベーションは間取りの変更、水道管や排水管の変更など大規模な工事を指す。より大きな規模としては内装や壁、床などを取払い、スケルトンにしてから工事するフルイノベーションもある。
当然、予算にも大きな違いがある。単なる壁紙の交換などであれば、1週間、2週間で済み、予算も数十万円から、100万円、200万円程度に収まるのが一般的だ。それに対して本格的なリノベーションでは、1カ月以上がふつうで、数カ月かかることも珍しくない。予算も数百万円から、1000万円以上かかることがある。
■「リノベ済み」「自分でリノベ」はどっちがトクか
基本的な考え方も違っている。リフォームは日本語にすれば改善、改良という意味で、建物をできるだけ新築時に近い状態に戻す作業になる。
リノベーションは修復、刷新であり、既存の建築物を改修して、価値を高めることを目指す。家族の増加、ライフスタイルの変化などに応じて、より暮らしやすい住まいにしようとする作業といっていいだろう。
したがって、リノベーションには高額の予算がかかり、時間もかかるが、その分世界に一つの、自分たちの家族構成、ライフスタイルに合った住まいにすることができる。お仕着せのパターンが多い新築マンションに比べても、唯一無二の住まいになる。
そのリノベーションマンションを手に入れる方法としては、あらかじめ不動産会社やハウスメーカー、工務店などがリノベーションしたマンションを購入する方法と、中古マンションを居抜きで取得して、自分でリノベーションする方法がある。両者にはどんな違いがあるのだろうか。
■自分でリノベするなら複数社に見積り依頼
まず、物件数の違いがある。自分でリノベーションするのであれば、いつでもどこでも探すことができ、選択肢が広い。対して、リノベーション済みのマンションはそうはいかない。
リノベーション済みマンションだと、限られた物件のなかから、自分たちの好みや希望に合ったマンションを見つけるのは簡単ではない。特に住みたいエリアが決まっている場合には、都合よく自分たちにフィットするリノベーションマンションを見つけるのは簡単ではないだろう。
さらに、期間の問題がある。
予算については、自分でリノベするのは、何をどこまでやるのかによって全く違ってくるので、事前に複数の会社に見積りを依頼して、工事内容と価格を比較検討しながら決めるのがいいだろう。何社にも依頼するのは手間ひまがかかるが、一括して複数社に見積りを依頼できるサイトもあるのでそれを利用するのが便利だ。
たとえば、リクルートでは大手から中堅まで約900社のリフォーム会社のなかから、希望に合った会社を選べるようになっている。また、住友不動産の「新築そっくりさん」のような定額サービスであれば、価格的には安心感がある。
■購入資金と合わせて低い金利で住宅ローンを組める
自分でリノベーションするとき、かつては購入費用とリフォームやリノベーションにかかる費用を別々に手配する必要があった。その際にはリフォームローンの金利が高く、利用できる返済期間が短いという問題があり、返済負担が重くなるため、リフォームは手持ち資金から出す人が多かった。そのため、リフォームに多額のお金をかけることができず、本格的なリノベーションを行う人は少なかった。
購入に係るローンが3000万円、リフォームのローンが500万円の場合、購入ローンは35年返済を金利1.0%で利用できても、リフォームローンは10年返済で金利が4.0%などになってしまう。結果、返済額の合計は13万5307円に達し、割安感のある中古マンションを買うメリットが小さくなってしまう。
4000万円の借入額、金利1.0%、35年返済の毎月返済額は11万2914円、5000万円だと14万1142円だから、エリアによっては新築マンションを買えるかもしれない。
でもリフォームにかかる費用と購入費用と一体的に借りることができれば、3500万円、35年、金利1.0%、35年返済の返済額は9万8799円で済み、中古を買ってリフォーム、リノベーションする意味が大きい。
最近はほとんどの銀行でリフォーム一体型と呼ばれる住宅ローンが実施されているので、自分でリノベーションする時の資金繰りも考えやすくなっている。
■リノベなら当初5年は固定金利型が0.5%~1.0%引き下げられる
金利1.0%で利用できるローンは、変動金利型など、金利上昇リスクの大きいローンがほとんどなので、現在のような金利上昇が懸念される環境では、リスクのない固定金利型のローンを利用したいものだ。
ただ固定金利型ローンはリスクがない半面、金利が高くなっている。変動金利型が1.0%以下で利用できるのに対して、固定金利型は2.0%前後の銀行が多い。
そこで注目したいのが、住宅金融支援機構が民間機関と提携して実施している住宅ローンのフラット35。固定金利型でリスクがない上、リノベーション物件には金利の引下げが行われているのだ。
2025年5月の金利は35年返済だと1.82%だが、一定条件を満たすリノベーション済みの物件を買う場合、あるいは、中古マンションを買って、一定の条件を満たすリノベーションを行う場合、当初5年間の金利が1.0%。または0.5%引下げられる。1.82%から1.0%引下げられれば0.82%となって、変動金利型並みの金利で利用できるようになる。
5年後には1.82%と本来の金利に戻るが、あらかじめ分かっているので、計画を立てやすいのではないだろうか。
■「フラット35リノベ」の条件はそう難しくない
「フラット35リノベ」を利用できる物件の条件は図表1にある通りだ。
あれこれさまざまな条件が挙げられていて、難しいように感じるかもしれないが、そんなことはない。
リノベーション済みマンションを買うのがいいのか。中古マンションを買って自分でリノベーションするのがいいのか、一概に決め付けることはできないが、まずは希望に合うリノベーションマンションを探してみて、見つからない場合には、「フラット35リノベ」を使ってリノベーションしてはどうだろうか。
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山下 和之(やました・かずゆき)
住宅ジャーナリスト
1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に新聞・雑誌・単行本の取材、執筆、講演、セミナー講師など幅広く活動。著書に『2017-2018年度版 住宅ローン相談ハンドブック』『よくわかる不動産業界』など。
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(住宅ジャーナリスト 山下 和之)
■リフォームとリノベーション、どこが違うのか
中古マンションを買う場合、ほとんどの人はきれいにリフォームするか、大規模なリノベーションを行ってから入居する。では、リフォームとリノベーションにはどんな違いがあるのだろうか。リノベーションの意味を十分に理解していない人もいるので、その点を明確にしておこう。
まず、リフォームとリノベーションでは工事の規模に違いがある。リフォームは壁紙の張替え、キッチンやバスなどの設備の取換えなどの部分的な工事で、リノベーションは間取りの変更、水道管や排水管の変更など大規模な工事を指す。より大きな規模としては内装や壁、床などを取払い、スケルトンにしてから工事するフルイノベーションもある。
当然、予算にも大きな違いがある。単なる壁紙の交換などであれば、1週間、2週間で済み、予算も数十万円から、100万円、200万円程度に収まるのが一般的だ。それに対して本格的なリノベーションでは、1カ月以上がふつうで、数カ月かかることも珍しくない。予算も数百万円から、1000万円以上かかることがある。
■「リノベ済み」「自分でリノベ」はどっちがトクか
基本的な考え方も違っている。リフォームは日本語にすれば改善、改良という意味で、建物をできるだけ新築時に近い状態に戻す作業になる。
リノベーションは修復、刷新であり、既存の建築物を改修して、価値を高めることを目指す。家族の増加、ライフスタイルの変化などに応じて、より暮らしやすい住まいにしようとする作業といっていいだろう。
したがって、リノベーションには高額の予算がかかり、時間もかかるが、その分世界に一つの、自分たちの家族構成、ライフスタイルに合った住まいにすることができる。お仕着せのパターンが多い新築マンションに比べても、唯一無二の住まいになる。
そのリノベーションマンションを手に入れる方法としては、あらかじめ不動産会社やハウスメーカー、工務店などがリノベーションしたマンションを購入する方法と、中古マンションを居抜きで取得して、自分でリノベーションする方法がある。両者にはどんな違いがあるのだろうか。
■自分でリノベするなら複数社に見積り依頼
まず、物件数の違いがある。自分でリノベーションするのであれば、いつでもどこでも探すことができ、選択肢が広い。対して、リノベーション済みのマンションはそうはいかない。
リノベーション済みマンションだと、限られた物件のなかから、自分たちの好みや希望に合ったマンションを見つけるのは簡単ではない。特に住みたいエリアが決まっている場合には、都合よく自分たちにフィットするリノベーションマンションを見つけるのは簡単ではないだろう。
さらに、期間の問題がある。
リノベーション済みならすぐにも入居できるが、自分でリノベーションするとなると、設計の打ち合わせから着工、施工を経て竣工に至るまでには数カ月以上かかるのがふつうだ。
予算については、自分でリノベするのは、何をどこまでやるのかによって全く違ってくるので、事前に複数の会社に見積りを依頼して、工事内容と価格を比較検討しながら決めるのがいいだろう。何社にも依頼するのは手間ひまがかかるが、一括して複数社に見積りを依頼できるサイトもあるのでそれを利用するのが便利だ。
たとえば、リクルートでは大手から中堅まで約900社のリフォーム会社のなかから、希望に合った会社を選べるようになっている。また、住友不動産の「新築そっくりさん」のような定額サービスであれば、価格的には安心感がある。
■購入資金と合わせて低い金利で住宅ローンを組める
自分でリノベーションするとき、かつては購入費用とリフォームやリノベーションにかかる費用を別々に手配する必要があった。その際にはリフォームローンの金利が高く、利用できる返済期間が短いという問題があり、返済負担が重くなるため、リフォームは手持ち資金から出す人が多かった。そのため、リフォームに多額のお金をかけることができず、本格的なリノベーションを行う人は少なかった。
購入に係るローンが3000万円、リフォームのローンが500万円の場合、購入ローンは35年返済を金利1.0%で利用できても、リフォームローンは10年返済で金利が4.0%などになってしまう。結果、返済額の合計は13万5307円に達し、割安感のある中古マンションを買うメリットが小さくなってしまう。
4000万円の借入額、金利1.0%、35年返済の毎月返済額は11万2914円、5000万円だと14万1142円だから、エリアによっては新築マンションを買えるかもしれない。
でもリフォームにかかる費用と購入費用と一体的に借りることができれば、3500万円、35年、金利1.0%、35年返済の返済額は9万8799円で済み、中古を買ってリフォーム、リノベーションする意味が大きい。
最近はほとんどの銀行でリフォーム一体型と呼ばれる住宅ローンが実施されているので、自分でリノベーションする時の資金繰りも考えやすくなっている。
■リノベなら当初5年は固定金利型が0.5%~1.0%引き下げられる
金利1.0%で利用できるローンは、変動金利型など、金利上昇リスクの大きいローンがほとんどなので、現在のような金利上昇が懸念される環境では、リスクのない固定金利型のローンを利用したいものだ。
ただ固定金利型ローンはリスクがない半面、金利が高くなっている。変動金利型が1.0%以下で利用できるのに対して、固定金利型は2.0%前後の銀行が多い。
そこで注目したいのが、住宅金融支援機構が民間機関と提携して実施している住宅ローンのフラット35。固定金利型でリスクがない上、リノベーション物件には金利の引下げが行われているのだ。
2025年5月の金利は35年返済だと1.82%だが、一定条件を満たすリノベーション済みの物件を買う場合、あるいは、中古マンションを買って、一定の条件を満たすリノベーションを行う場合、当初5年間の金利が1.0%。または0.5%引下げられる。1.82%から1.0%引下げられれば0.82%となって、変動金利型並みの金利で利用できるようになる。
5年後には1.82%と本来の金利に戻るが、あらかじめ分かっているので、計画を立てやすいのではないだろうか。
■「フラット35リノベ」の条件はそう難しくない
「フラット35リノベ」を利用できる物件の条件は図表1にある通りだ。
あれこれさまざまな条件が挙げられていて、難しいように感じるかもしれないが、そんなことはない。
当初5年間の金利が1.0%引き下げられる金利Aプランだと、(1)~(7)までのいずれか一つを満たせばOK。大手や中堅のハウスメーカーであれば標準仕様で耐震等級2以上をクリアし、長期優良住宅が可能になっているので、フラット35リノベを利用できるようになる。
リノベーション済みマンションを買うのがいいのか。中古マンションを買って自分でリノベーションするのがいいのか、一概に決め付けることはできないが、まずは希望に合うリノベーションマンションを探してみて、見つからない場合には、「フラット35リノベ」を使ってリノベーションしてはどうだろうか。
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山下 和之(やました・かずゆき)
住宅ジャーナリスト
1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に新聞・雑誌・単行本の取材、執筆、講演、セミナー講師など幅広く活動。著書に『2017-2018年度版 住宅ローン相談ハンドブック』『よくわかる不動産業界』など。
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(住宅ジャーナリスト 山下 和之)
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