老後を明るく健康に過ごすためにはどうすればいいいか。理学療法士の上村理絵さんは「老化の個人差は見た目ではなく、自己肯定感が高いかどうかで決まる。
『精神的な老化』と『肉体的な老化』はつながっており、ある研究によると『自分は若い』と思っている人ほど健康リスクが下がるという。適度に自信を持つことが重要だ」という――。(第1回)
※本稿は、上村理絵『こうして、人は老いていく 衰えていく体との上手なつきあい方』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■「老けない人」はなにが違うのか
同じ年齢だとしても、年齢を聞いたときに「この人若いな」と感じる人もいれば、「えっ意外と老けている……」と心のなかで思わずつぶやいてしまう人もいます。
この「老化の個人差」は、年をとってからのほうが、開いていくように感じています。皆さんも、友人や知人に久々にあったときに、先ほどのような感情を抱くようになったのは、年齢を重ねてからのほうが多いのではないでしょうか。では「老化の個人差」を生み出しているものは、なんでしょうか。
見た目の問題?
確かにそれはあるかも知れませんが、たとえば加齢で髪の毛が薄くなってきた人は、外見的には、老けて見えるかも知れません。
しかし、そうであっても、同窓会などでむしろ髪が薄くなってきたことをネタにして笑いをとって、積極的にコミュニケーションを取っている方は、見た瞬間は「老けている」と思うかも知れませんが、接していくうちに、「この人若いな」と感じるのではないでしょうか。
逆に、元気がなく「最近、つまらない」「楽しいことがない」と後ろ向きのことばかり口にしている人は、老けて感じるのではないでしょうか。
「老化の個人差」を生み出しているもの。それは「自分の存在を認め、自分は自分のままでいいと思えているか」どうかです。

心理学的な用語でいうと、「自己肯定感が高い」かどうかです。
自分の存在を認め、自分は自分のままでいいと思えているからこそ、見た目が多少老けていたとしても、明るく、元気に、前向きに若々しく振る舞えることができます。
■100歳の高齢者の“若々しい口癖”
私たちのデイサービス内でいつもおしゃべりの中心になっているのが、花村さん(仮名)という100歳のおばあちゃんです。さすがに年齢が年齢ですから、体のさまざまな機能は、ほかの利用者さんと比べても、やや衰えている感は否めません。
ただ、それでも、「変なおばあちゃんだと思って、仲良くしてくださいね」「もう、皆さんよりは老い先短いんだから、精一杯生きなきゃね」などと、自分ができないことや年齢を「自虐ネタ」にして、いつも笑いをとっています。
そのため「あんな風に年をとれたらいいわよね」「私より若いわ」などと20歳以上離れたご利用者からも、憧れのような存在になっています。
「どうせ年をとった自分なんて、他人には迷惑」などと、恐縮して殻に閉じこもることなく、周囲の人たちと積極的に交流を図る姿には、私たちスタッフから見ても、とても若々しいパワーを感じています。
■「自己肯定感」と老化の深い関係
年を重ねてくると、自己肯定感が低くなる危険性が増してきます。それは、「精神的な老化」が進んでくるからです。
「精神的な老化」が進むと次のような症状になって表れます。
・好奇心が減ってきて、新しいことに挑戦しなくなった

・昔より、失敗を引きずってくよくよすることが増えてきた

・決まり切ったものしか食べなくなってきた

・外出することが減った

・人づきあいが極端に減ったり、他人への興味がなくなったりしてきた

・イライラすることが増えた

・アイデアが浮かびにくくなった

・どうせ自分にはできないと思って、あきらめることが増えた

・感動することが減った

・何をするにも面倒くさいと感じて、やる気が起きない
心当たりがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。3つ以上当てはまったら、「精神的な老化」が進んでいる可能性があります。
そして、「精神的な老化」が進むと自信が喪失されます。さらに、自己肯定感は、自信があるからこそ生まれます。
自分に対して、ダメだと思っている人間が、「自分の存在を認め、自分は自分のままでいい」とは思えません。
■「精神的老化」を進める3つの変化
「精神的な老化」は60代になってから、急速に進んでいきます。それは、脳の老化も影響しているとは思いますが、次の3つの変化が大きく影響していると考えられます。
1つは、「肉体的な老化」です。
体が思うように動かなくなったり、病気などで体が急激に衰えたり、もの覚えが悪くなったり、忘れっぽくなったりと、それまでできていたことができなくなることが増えていき、「自分はすっかり老いてしまった。もうダメだ」「なんで、こんなことになったのだろう」という絶望感にさいなまれるようになります。
もう1つが「ライフスタイルの変化」です。60代を過ぎると、ライフスタイルが大きく変化することが多いのも、原因の1つです。結婚などで子どもが離れていくこともあれば、仕事が定年を迎えて、社会との接点が少なくなります。
そうなると、社会に自分の役割がなくなったかのように感じ、「自分なんて、もう社会に必要のない人間だ」と喪失感を覚え始めます。

そして、最後に周りの「環境の変化」です。
大事な人が亡くなったり、同年代の知り合いが大病を患ったりすることも増えるでしょう。どうしても、そのような暗いイベントと向き合わざるを得なくなります。
そのような周りの環境の変化から、「ずいぶんと年をとってしまった」「次は自分かも」といった不安感を抱くようになります。
このような絶望感、喪失感、不安感といったことが、意欲や気力といった精神的な若さの源を奪っていき、最終的には、自分に対して自信が一切持てなくなってしまう「精神的な老化」が進んでしまった状態になってしまうのです。
■「老化は気から」やってくる
この「精神的な老化」が進み自信がなくなることで厄介なのが、「肉体的な老化」へとつながっていくからです。
自分が感じる主観的な年齢のことを、社会学、心理学などの用語で「主観年齢」といいます。実は、自分は若いと信じている、主観年齢が若い人の方が、心身が衰えにくく、長生きできる傾向があることが、世界各国での複数の調査・研究によって明らかになっています。
たとえば、フランス・モンペリエ大学のヤニック・ステファン博士の研究チームは、合計1万7000人以上の中年・高齢者を追跡調査した3件の長期研究データを検証しました。
その結果、多くの人が実年齢よりも主観年齢の方が若いと感じる一方で、実年齢よりも主観年齢の方が上だと感じる人たちは総じて健康リスクが高く、認知症にもなりやすいということが示されたのです。
■自信がある人ほどリハビリが成功する
また、「肉体的な老化」の改善も自信を持っている人のほうが早いです。
私たちの施設に通っていらっしゃる、鈴木さんは、40代で起業し、独立。
その後、80歳前後まで、会長職などを務めておられました。体に対しての意識も相当に高く、若いころからスポーツジムに継続的に通っていらっしゃったような方です。
脳卒中を患ったのですが、自分は絶対によくなると、精力的にリハビリに打ち込まれています。そんな彼は、自分が93歳にもかかわらず、70代、80代の方の様子を見ながら、「あのおじいちゃん、大丈夫かなあ」、「あのおばあちゃん、かわいそうだなあ」などと口にされます。
つまり、鈴木さんはご自分の主観年齢を70代、80代の方たちよりも若いと感じておられるのでしょう。
実際、脳卒中が原因のまひからの改善を目指し、前向きにリハビリに取り組む鈴木さんの姿は、93歳という実年齢を感じさせないものです。
■根拠のない自信は老化を早めるだけ
ただ、闇雲に、自分は若いと自信を持つことは危険です。一般的に人間の筋力は20歳をピークに下降線を描くといわれていますが、以下の図のように、60歳前後で筋力がガクンと急降下する時期があるのです。人は必ず年をとり、そのなかで何かを失うのは避けられないことです。
どんな強靭な肉体をもつアスリートや、高額な医療サービスを受けられるお金持ちでも、それは変わりません。
始皇帝をはじめ、ニュートン、ナポレオンなど、数多くの偉人たちが不老長寿を追い求めてきたという逸話は、古今東西、数多く残されています。
しかし、科学、医療がこれほどまでに発達した現代になっても、不老長寿の夢はかなえられていません。
少なくとも今、この書籍を読んでいる皆さんが生きている間に、不老長寿が実現することはないと思います。
いつまでも若々しくいたいという思いはとても大切ですが、昔と同じ肉体でいることは、残念ながらかなわない。
つまり、誰もが若いときよりも、肉体が衰え、無理がきかなくなるのです。転倒したり、思ったよりも歩けなかったりして老いを感じる瞬間は、必ず誰にでもやってきます。
そのときに、根拠のない自信を持っていると、ちょっとしたことでも「自分は若いと思っていたのに」と感じて落ち込み、ブラックホールに吸い込まれるかのごとく、一気に自信がなくなる可能性があるからです。
また、子どもの運動会で久しぶりに走ってケガをする人のごとく、無茶をしすぎて、ケガをしやすいということがあります。
■まずは現状の老化度をチェックするべき
突然ですが皆さん、図表2を見てください!
これは、今の体が自分の年齢よりも元気なのか、それとも衰えているのか、およその目安がわかるテストです。決して無理はしないでくださいね。30秒がつらければ、途中でやめていただいても構いません。
いかがでしょうか。図表3・4で、年齢とできた回数が当てはまるところを探して、今の自分の状態を確認してみましょう。
いかがだったでしょうか。

「意外とまだ俺も大丈夫だな」と胸をなでおろした方もいらっしゃれば、「全然できなかった、俺も年をとった」と暗い気持ちになった方もいらっしゃることでしょう。
結果がよくなかったからといって、決して悲観しないでください。
「このままでは危ないですよ!」と、脅かすために試していただいたのではありません。今の自分の体がどのような状態か知ることが第一歩です。
自分の肉体の現状を理解して、その上で「まだまだ大丈夫」と自信を持ちましょう。「肉体的な老化」はトレーニングで、若い頃と同じというのはムリかも知れませんが、年齢の基準ぐらいには、改善できるのです。

----------

上村 理絵(かみむら・りえ)

理学療法士

リタポンテ株式会社取締役。1974年生まれ。中京女子大学(現・至学館大学)卒業後、関西女子医療技術専門学校理学療法学科(現・関西福祉科学大学)を経て、理学療法士として活動。「理学療法士によるリハビリテーション」「日本で初めて介護保険分野で受けられるサービス」を世に誕生させた誠和医科学(現・ポシブル医科学株式会社)の創業を支援。同社退任後、リタポンテ株式会社の立ち上げに参画。著書に『こうして、人は老いていく 衰えていく体との上手なつきあい方』(アスコム)がある。

----------

(理学療法士 上村 理絵)
編集部おすすめ