長寿で元気な人は何が違うか。医師の和田秀樹さんは「男性ホルモンが多い人は凶暴だとか、『男のスケベホルモン』というのは大誤解だ。
※本稿は、和田秀樹『熟年からの性』(アートデイズ)の一部を再編集したものです。
■40代でむかえる男性ホルモンの曲がり角
男性ホルモンのはたらきについては、この20年くらいで研究がずいぶん進んで、いろいろなことがわかってきました。
例えば、男性ホルモンは性欲だけでなく、意欲をうながすホルモンであることがわかったのも、そのひとつです。
男性はだいたい40代くらいから男性ホルモンが目立って減りはじめます。
そうなるとだんだん意欲も減ってきます。
「もうこれくらいでいいや」「出世なんかしなくていいや」とか、「ガツガツなんてもう嫌だ」などと思いはじめる。
それも悪いことではないのですが、意欲がなくなると、「どうせ年なんだから老けてもしかたがない」とか「うまく歩けなくなった」みたいなことになりかねないので、さすがにこれはマズイです。
年をとって男性ホルモンが減ってきた男性がよく言うのは、「新入社員でかわいい女の子が入ってきても、最近は全然興味がもてないんだ」とか「キャバクラとかに行って、女の子をくどくのが面倒くさくなった」といった性的意欲の減退が感じられる言葉です。
実際、定年退職後、キャバクラにはいっさい行かなくなるとか、女性にまったく関心がなくなる人が少なくありません。
家族の平和のためにはそれもいいかもしれませんが、男としてちょっと淋しいのではないでしょうか。
心配なのは、男性ホルモンが少なくなっていけばいくだけヨボヨボになってくことです。
そうならないためにも高齢になるにつれて男性ホルモンを増やしたほうがいいのですが、日本の医療の政策そのものが、男性ホルモン不足のことには関心がないのです。
例えば、先ほども言ったように、「年をとったら肉を食べるな」とか、「コレステロール値を下げろ」などといって、男性ホルモンを増やすどころか、人をヨボヨボにさせるようなことばかり言っているのです。
男性ホルモンの重要性を知らないからかもしれませんが、意識の高い欧米との認識の差を感じさせられます。
■知的好奇心と性的好奇心の相関関係
ヨボヨボにならないためにはもう一つ、前頭葉を鍛えるとよいでしょう。
前頭葉を鍛えるには、普段、前頭葉を使わないような生活から少しずらしてみることです。
「いつも」のことから、あえて外れてみる。意外なことや想定外なことをしてみると、前頭葉が次第に活性化されていくのではないかと思います。
前頭葉というのはクリエイティヴな能力を司る器官です。
「前頭葉が意欲を司る」といっても過言ではないくらい大切な器官で、意外性への対応能力、応答可能性のような大きな役割を果たしています。
ですから、前頭葉のはたらきが悪くなると、前例を踏襲する思考パターンになりがちで、新しい冒険もしなくなります。クリエイティヴなことを思いつかないのです。
要するに、好奇心をなくしてしまうのです。
好奇心というのはとても大切で、よく学者がエロチックかどうかといわれますが、学者がエロチックなのは当たり前だと私は思っています。
なぜなら、知的好奇心と性的好奇心が全然別ものだとは思えないからです。
知的好奇心が高い人ほど性的好奇心も高いので、そういう意味で前頭葉の老化予防にもいいし、男性ホルモンの減少を食い止めるのにも効果があるのです。
■「生活を楽しむ」ことが前頭葉へのいい刺激に
もうひとつ、前頭葉を鍛えるには、夢中で何かを好きになることも効果的です。
例えば“推し”をつくるのも悪くありませんが、リアルな恋愛のほうが脳への刺激ははるかに大きいのです。
なぜなら、恋愛は相手の気を引くために、外見を気にしたり、話題を考えたりと、前頭葉を使うからです。
それに、予想外のことが起こるので、新しい出来事と遭遇することになります。
これこそ前頭葉へのいい刺激になるのです。
まずは男性も女性もおしゃれをして出かけましょう。
おしゃれをするだけで気持ちが晴れやかになります。
それだけでなく、自信や喜びとなり、積極的に外へ出てみたい気持ちになります。
その結果、周囲の人と交流する機会も増えてきます。
すると自然と人を引き付けるようになり、恋愛のチャンスにも恵まれるのではないでしょうか。
要は「生活を楽しむ」ということです。
日本の高齢者が「こういうことをやってはいけない」みたいな呪縛にしばられているかぎり、本当の意味で生活を楽しむことができないのではないでしょうか。
ただ、残念なことに、この前頭葉は脳の中でも加齢とともに真っ先に萎縮が進む場所なのです。
■柔軟性が失われ始めたら前頭葉の萎縮サイン
早い人のばあいは40代から萎縮が目立ちはじめます。
すると、感情のコントロールや意欲や創造性が低下していきます。
それだけでなく、新しい情報や考え方に対する柔軟性が失われていき、想定外なことを避ける傾向にあります。
例えば、行きつけの店しか行かなくなるとか、同じ著者の本しか読まなくなるとか、服装ひとつとっても自分は茶系統の服が似合うと思ったら、そういう色の服しか着なくなってしまうとか、人間関係にしても同じ人としか会わずに新しい出会いを求めなくなるとか、人と話していても意見が違ったら嫌だという気持ちになってしまうとか、新しいことにチャレンジするのを避けるようになってしまいます。
すると、新しい意見や異なる意見を取り入れるキャパシティがなくなるのです。
逆に、前頭葉が発達している人は意見が違う人と上手に付き合ったり、あるいは上手に言い合いができたりするわけです。
■言いたいことははっきりと言い、やりたいことをやる
日本人のばあい、若いのに前頭葉を使っていない人が多いと思うのです。
対立や衝突を嫌って年上の人のいいなりになったり、あるいはテレビやネットの情報をう呑みにしたりと、どうも日本人は昔に比べて、議論や喧嘩をしなくなってきたような気もします。
それと、今は世の中全体で物をはっきりと言わなくなっている風潮があります。
余計なことを言ったら嫌われてしまうのではないかと怖れるからでしょうか。
そんなことで新しいことにチャレンジするのを躊躇するならば、それは前頭葉にいちばん悪いし、男性ホルモンにとっても悪いと思います。
言いたいことをはっきり言う。
やりたいことをやる。
新しいことにチャレンジしてみる。
それをしないと前頭葉はダメになってしまいます。
特に女性は、化粧をすることで不安や抑うつ、疲労といったストレスが軽減することがさまざまな研究でもわかりはじめています。
ストレスが軽減し、心の健康を維持・向上することができれば、健康長寿や認知症予防への効果も期待できるでしょう。
見た目もさることながら、話の内容がおもしろいとか、伊達に年をとってないなと思わせることができるかどうかで、年をとってからの魅力というのも違ってきます。
話の内容の面白さについては、脳の中の前頭葉のはたらきが大きく関与していると言われています。
■日本人に若年性アルツハイマー型認知症が多い理由
前頭葉は意欲や感情、創造性を司る脳の部位ですから、前頭葉の機能が低下してくると、当然、意欲が落ちてきます。
その結果、足腰も使わなければ頭も使わなくなり、身体は衰えてヨボヨボになり、認知症にもなりやすくなるのです。
少し専門的な話になりますが、前頭葉は脳の中のアセチルコリンという記憶力とか判断力に関係している神経伝達物質に影響しますから、アセチルコリンが減ってくると記憶力も判断力も落ちていきます。
実際、アルツハイマー型認知症の患者さんの中には、このアセチルコリンの減少がしばしば見られます。
じつは、この脳内のアセチルコリンは男性ホルモンのテストステロンと相関性が高く、テストステロンが減るとアセチルコリンも減少することがわかっています。
40代、50代の若年性アルツハイマー型認知症の人が、なんと1000人に1人もいると言われていますが、そのくらいの年齢で物忘れがはじまったと感じるのであれば、いちど男性ホルモンの検査をしたほうがいいと思います。
若年性アルツハイマー型認知症と思われる人が多いことからも、私はわりと日本人全般、男性ホルモンが少ないのではないかと思っています。
■「男性ホルモンが多い人のほうが人にやさしい」という研究結果
男性ホルモンに関してはかなり誤解があって、男のスケベホルモンだとか、男性ホルモンが多い人は凶暴だとか、そういう間違った考えがたくさんあります。
じつは、男性ホルモンが多い人のほうが人にやさしいという研究結果があるのです。
これは「ネイチャー」だったか「ランセット」だったか、有名な科学雑誌に出ていた論文ですが、女性に男性ホルモン入りゼリーか何かを投与すると、ボランティアをしたい人の割合が増えるとか、寄付の額が増えるといった研究もあるのです。
こういうことを見ても男性ホルモンの多い人のほうが少ない人よりも、たぶん弱者にやさしいのだと思います。
ですから、年をとってからもお妾さんがいたり、芸者さんと遊ぶのが大好きだったりと、女の人との関係が多い人は、端から見ると意外と愛想がよかったり、楽しいおじいさんだったりするところがあります。
選挙でちょっとエッチな感じだけど弱者にやさしい人を選ぶか、それともクソ真面目だけど弱者にきびしい人を選ぶか、選択をしなければならないときは、やはり前者を選んだほうがやさしい政治をしてくれるのではないでしょうか。
■老いたら自分の欲求に従って自由に生きるべき
日本は、長寿の人は多いけれども、長寿でかつ健康な人、元気な人となると意外に少ないのです。特に男性はそうです。
女性は閉経後に男性ホルモンが自然と増えますから、むしろ意欲的になります。だから長寿の人でも、女性のほうが元気なばあいが多いと思います。
我慢や過度なストレスを感じるような環境は、脳にとっては好ましくなく、老化を促すことにつながります。
前頭葉を使ううえでもっとも効果的なのが「したいことをする」ことです。
つまり、我慢しないで自分の欲求に素直に従うことです。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)
じつは、男性ホルモンが多い人のほうが人にやさしいという研究結果がある」という――。
※本稿は、和田秀樹『熟年からの性』(アートデイズ)の一部を再編集したものです。
■40代でむかえる男性ホルモンの曲がり角
男性ホルモンのはたらきについては、この20年くらいで研究がずいぶん進んで、いろいろなことがわかってきました。
例えば、男性ホルモンは性欲だけでなく、意欲をうながすホルモンであることがわかったのも、そのひとつです。
男性はだいたい40代くらいから男性ホルモンが目立って減りはじめます。
そうなるとだんだん意欲も減ってきます。
「もうこれくらいでいいや」「出世なんかしなくていいや」とか、「ガツガツなんてもう嫌だ」などと思いはじめる。
それも悪いことではないのですが、意欲がなくなると、「どうせ年なんだから老けてもしかたがない」とか「うまく歩けなくなった」みたいなことになりかねないので、さすがにこれはマズイです。
年をとって男性ホルモンが減ってきた男性がよく言うのは、「新入社員でかわいい女の子が入ってきても、最近は全然興味がもてないんだ」とか「キャバクラとかに行って、女の子をくどくのが面倒くさくなった」といった性的意欲の減退が感じられる言葉です。
実際、定年退職後、キャバクラにはいっさい行かなくなるとか、女性にまったく関心がなくなる人が少なくありません。
家族の平和のためにはそれもいいかもしれませんが、男としてちょっと淋しいのではないでしょうか。
心配なのは、男性ホルモンが少なくなっていけばいくだけヨボヨボになってくことです。
そうならないためにも高齢になるにつれて男性ホルモンを増やしたほうがいいのですが、日本の医療の政策そのものが、男性ホルモン不足のことには関心がないのです。
例えば、先ほども言ったように、「年をとったら肉を食べるな」とか、「コレステロール値を下げろ」などといって、男性ホルモンを増やすどころか、人をヨボヨボにさせるようなことばかり言っているのです。
男性ホルモンの重要性を知らないからかもしれませんが、意識の高い欧米との認識の差を感じさせられます。
■知的好奇心と性的好奇心の相関関係
ヨボヨボにならないためにはもう一つ、前頭葉を鍛えるとよいでしょう。
前頭葉を鍛えるには、普段、前頭葉を使わないような生活から少しずらしてみることです。
「いつも」のことから、あえて外れてみる。意外なことや想定外なことをしてみると、前頭葉が次第に活性化されていくのではないかと思います。
前頭葉というのはクリエイティヴな能力を司る器官です。
「前頭葉が意欲を司る」といっても過言ではないくらい大切な器官で、意外性への対応能力、応答可能性のような大きな役割を果たしています。
ですから、前頭葉のはたらきが悪くなると、前例を踏襲する思考パターンになりがちで、新しい冒険もしなくなります。クリエイティヴなことを思いつかないのです。
要するに、好奇心をなくしてしまうのです。
好奇心というのはとても大切で、よく学者がエロチックかどうかといわれますが、学者がエロチックなのは当たり前だと私は思っています。
なぜなら、知的好奇心と性的好奇心が全然別ものだとは思えないからです。
知的好奇心が高い人ほど性的好奇心も高いので、そういう意味で前頭葉の老化予防にもいいし、男性ホルモンの減少を食い止めるのにも効果があるのです。
■「生活を楽しむ」ことが前頭葉へのいい刺激に
もうひとつ、前頭葉を鍛えるには、夢中で何かを好きになることも効果的です。
例えば“推し”をつくるのも悪くありませんが、リアルな恋愛のほうが脳への刺激ははるかに大きいのです。
なぜなら、恋愛は相手の気を引くために、外見を気にしたり、話題を考えたりと、前頭葉を使うからです。
それに、予想外のことが起こるので、新しい出来事と遭遇することになります。
これこそ前頭葉へのいい刺激になるのです。
まずは男性も女性もおしゃれをして出かけましょう。
おしゃれをするだけで気持ちが晴れやかになります。
それだけでなく、自信や喜びとなり、積極的に外へ出てみたい気持ちになります。
その結果、周囲の人と交流する機会も増えてきます。
すると自然と人を引き付けるようになり、恋愛のチャンスにも恵まれるのではないでしょうか。
要は「生活を楽しむ」ということです。
日本の高齢者が「こういうことをやってはいけない」みたいな呪縛にしばられているかぎり、本当の意味で生活を楽しむことができないのではないでしょうか。
ただ、残念なことに、この前頭葉は脳の中でも加齢とともに真っ先に萎縮が進む場所なのです。
■柔軟性が失われ始めたら前頭葉の萎縮サイン
早い人のばあいは40代から萎縮が目立ちはじめます。
すると、感情のコントロールや意欲や創造性が低下していきます。
それだけでなく、新しい情報や考え方に対する柔軟性が失われていき、想定外なことを避ける傾向にあります。
例えば、行きつけの店しか行かなくなるとか、同じ著者の本しか読まなくなるとか、服装ひとつとっても自分は茶系統の服が似合うと思ったら、そういう色の服しか着なくなってしまうとか、人間関係にしても同じ人としか会わずに新しい出会いを求めなくなるとか、人と話していても意見が違ったら嫌だという気持ちになってしまうとか、新しいことにチャレンジするのを避けるようになってしまいます。
すると、新しい意見や異なる意見を取り入れるキャパシティがなくなるのです。
逆に、前頭葉が発達している人は意見が違う人と上手に付き合ったり、あるいは上手に言い合いができたりするわけです。
■言いたいことははっきりと言い、やりたいことをやる
日本人のばあい、若いのに前頭葉を使っていない人が多いと思うのです。
対立や衝突を嫌って年上の人のいいなりになったり、あるいはテレビやネットの情報をう呑みにしたりと、どうも日本人は昔に比べて、議論や喧嘩をしなくなってきたような気もします。
それと、今は世の中全体で物をはっきりと言わなくなっている風潮があります。
余計なことを言ったら嫌われてしまうのではないかと怖れるからでしょうか。
そんなことで新しいことにチャレンジするのを躊躇するならば、それは前頭葉にいちばん悪いし、男性ホルモンにとっても悪いと思います。
言いたいことをはっきり言う。
やりたいことをやる。
新しいことにチャレンジしてみる。
それをしないと前頭葉はダメになってしまいます。
特に女性は、化粧をすることで不安や抑うつ、疲労といったストレスが軽減することがさまざまな研究でもわかりはじめています。
ストレスが軽減し、心の健康を維持・向上することができれば、健康長寿や認知症予防への効果も期待できるでしょう。
見た目もさることながら、話の内容がおもしろいとか、伊達に年をとってないなと思わせることができるかどうかで、年をとってからの魅力というのも違ってきます。
話の内容の面白さについては、脳の中の前頭葉のはたらきが大きく関与していると言われています。
■日本人に若年性アルツハイマー型認知症が多い理由
前頭葉は意欲や感情、創造性を司る脳の部位ですから、前頭葉の機能が低下してくると、当然、意欲が落ちてきます。
その結果、足腰も使わなければ頭も使わなくなり、身体は衰えてヨボヨボになり、認知症にもなりやすくなるのです。
少し専門的な話になりますが、前頭葉は脳の中のアセチルコリンという記憶力とか判断力に関係している神経伝達物質に影響しますから、アセチルコリンが減ってくると記憶力も判断力も落ちていきます。
実際、アルツハイマー型認知症の患者さんの中には、このアセチルコリンの減少がしばしば見られます。
じつは、この脳内のアセチルコリンは男性ホルモンのテストステロンと相関性が高く、テストステロンが減るとアセチルコリンも減少することがわかっています。
40代、50代の若年性アルツハイマー型認知症の人が、なんと1000人に1人もいると言われていますが、そのくらいの年齢で物忘れがはじまったと感じるのであれば、いちど男性ホルモンの検査をしたほうがいいと思います。
若年性アルツハイマー型認知症と思われる人が多いことからも、私はわりと日本人全般、男性ホルモンが少ないのではないかと思っています。
■「男性ホルモンが多い人のほうが人にやさしい」という研究結果
男性ホルモンに関してはかなり誤解があって、男のスケベホルモンだとか、男性ホルモンが多い人は凶暴だとか、そういう間違った考えがたくさんあります。
じつは、男性ホルモンが多い人のほうが人にやさしいという研究結果があるのです。
これは「ネイチャー」だったか「ランセット」だったか、有名な科学雑誌に出ていた論文ですが、女性に男性ホルモン入りゼリーか何かを投与すると、ボランティアをしたい人の割合が増えるとか、寄付の額が増えるといった研究もあるのです。
こういうことを見ても男性ホルモンの多い人のほうが少ない人よりも、たぶん弱者にやさしいのだと思います。
ですから、年をとってからもお妾さんがいたり、芸者さんと遊ぶのが大好きだったりと、女の人との関係が多い人は、端から見ると意外と愛想がよかったり、楽しいおじいさんだったりするところがあります。
選挙でちょっとエッチな感じだけど弱者にやさしい人を選ぶか、それともクソ真面目だけど弱者にきびしい人を選ぶか、選択をしなければならないときは、やはり前者を選んだほうがやさしい政治をしてくれるのではないでしょうか。
■老いたら自分の欲求に従って自由に生きるべき
日本は、長寿の人は多いけれども、長寿でかつ健康な人、元気な人となると意外に少ないのです。特に男性はそうです。
女性は閉経後に男性ホルモンが自然と増えますから、むしろ意欲的になります。だから長寿の人でも、女性のほうが元気なばあいが多いと思います。
我慢や過度なストレスを感じるような環境は、脳にとっては好ましくなく、老化を促すことにつながります。
前頭葉を使ううえでもっとも効果的なのが「したいことをする」ことです。
つまり、我慢しないで自分の欲求に素直に従うことです。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)
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