書店にはビジネス書が大量にあふれているが、良書をどのように選べばいいのか。コンサルタントの山口周さんは「話題のビジネス書を読むくらいなら、古典と言われる本をもう一度読み直すべき。
※本稿は、山口周『読書を仕事につなげる技術 知識が成果に変わる「読み方&選び方」の極意』(角川文庫)の一部を再編集したものです。
■そもそもどの本から読むべきなのか
経営学などの勉強には興味はあるけど、ビジネススクールに通う時間はない。かといって独学しようと本屋を訪れれば、膨大な数の書籍を目の前にして、どの科目のどの本から勉強すればいいのかわからず途方に暮れてしまう。このような人は多いのではないでしょうか?
その気持ちは本当によくわかります。ちょうど20年ほど前の筆者自身が、まさに同じ状況だったからです。
筆者は2002年の5月、32歳のときに、大学卒業以来働いていた広告業界から身を転じて、外資系コンサルティングの世界で働き始めました。新しい世界で新しい仕事をやることにワクワクしていた一方で、大きな不安の種を抱えていたことをよく覚えています。というのも、これから経営コンサルタントとして仕事をしようというのに、経営学に関する体系的な知識をほとんど持っていなかったからです。
■経営学の定番書を3年間で読破したが…
転職する前は「やっていけるのか」という不安がぬぐえず、なかなか決断ができずにいました。そんなある日、ファームの日本代表だった方から食事にお誘いいただき、お酒が入ったこともあって、直接聞いてみたことがあります。
「お聞きしたいのですが、僕はMBAを持っておらず、経営学のリテラシーがほとんどありません。
日本代表の答えに一度はとても安堵したのを覚えていますが、逆に言えば、現時点では経営学のリテラシーは問わないけれども中に入った以上は身につけてくださいね、という意味でもあります。
ということで、私はとてもシンプルな対策をとることにしました。つまり、ビジネススクールで用いられる教科書を中心に、経営学に関連する定番の書籍を2年間かけてすべて読了してやろうと考え、それを実行したのです。今から考えれば、このアプローチは率直に言ってとても「スジの悪い」やり方だったと言わざるを得ないのですが、当時はその他の方法が思いつかなかったのです。
■「9割の効果を生む1割の書籍」を紹介
冒頭に記した通り、経営学に関してはさまざまなジャンルで膨大な数の書籍が出版されていますが、どこからどう手をつけるかという手引きがない以上、不安を解消するためには定番になっている本をひとつずつつぶしていくしかなかったわけです。
このような経緯からブルドーザーのような乱読を始めることになり、最終的に1年余計にかかって3年間で、経営学関連だけで200冊弱の本を読了しました。
今になってつくづく思うのは「読む量がこの1~2割だったとしても、9割の効果は得られただろうな」ということです。問題は、「どの1割」が9割の効果を生む本なのかを、読む前に知ることができなかったということです。
『読書を仕事につなげる技術 知識が成果に変わる「読み方&選び方」の極意』(角川文庫)では、今の筆者の知的生産の基礎となった「9割の効果を生む1割の書籍」を厳選してご紹介し、さらにどのような順序で読んでいくかというプロセスについての目安も提示できればと思っています。
読者の皆さんには、筆者が体験したようなムダな苦労、ムダな読書はしていただきたくないので、試行錯誤の末にたどり着いた「厳選71冊」を、包み隠さず、すべて公開します。
■「これだけ」を、徹底的に読め
筆者はこの「読むべき本」の全体像を「ビジネス書マンダラ」という枠組みで説明していきたいと思っています。どんな業界・職種であっても、ホワイトカラーとして知的生産に従事している以上、絶対に読んでおいてほしい必読書を中心に配置し、外側に行くに従って各分野での専門性が高まり、その分野で求められるハードコアな書籍を紹介するという枠組みになっています。
逆に言えば、専門家としてその分野を追究していくということでない限りは、マンダラの中心からせいぜい2階層目までの読書で基礎教養としては十分で、あとはそのときの仕事上の要請に従って読んでいけばいいということです。
そんな程度の知識で大丈夫なのかって?
大丈夫です。筆者はコンサルティング業界に携わってすでに20年以上になりますが、改めて、これらの基本書籍だけで十分に知的付加価値を創出することができることを痛感しています。その代わり、これらの基本書籍については徹底的に、完璧に読みこなすことが求められます。凡百の書籍を浅く乱読するよりも、こういった「読めば読むほどに絞れる」本を、しっかりと精読することが求められるのです。
次ページにビジネス書マンダラの全体像を掲載しています。
■600ページ以上もある古典をなぜ読むのか
今回、このマンダラを作成するにあたっては、改めて知人のコンサルタント80余名から「これは読んでおいてよかった」と思われる本を推薦していただきました。そうしてつくられた400冊超のリストから、基本的に10名以上が共通して推薦している書籍を抜き出し、最後に個人的な独断と偏見に基づいてリストに数冊加えてできたのがこのマンダラです。
このマンダラを見ると、いわゆる「古典」と言われるものがほとんどだということに気づかれたと思います。筆者は過去の経験から、経営学を独学するのであれば必ず古典・原典に当たることが重要だと考えています。
しかし、これが結構ヘビーなんですよね。例えばM・E・ポーターの『競争優位の戦略』は600ページ以上ある大部の本で、読み切るにはかなりの時間が必要です。一方で、書店のビジネス書コーナーに行ってみれば、同書に関する解説書はたくさん出版されており、長い時間をかけなくてもエッセンスを学ぶことは可能に思われるかもしれません。
ここに経営学独習の落とし穴があります。
■学ぶのは「エッセンス」ではなく、「思考のプロセス」
断言しますが、こういった簡易版の解説書をいくら読んでも経営のリテラシーは高まりません。理由は非常に単純で、古典・原典で著者が展開している思考のプロセスを追体験することで「経営の考え方」「ビジネスを考えるツボ」を皮膚感覚で学び取っていくことにこそ意味があるからです。簡易版の解説書というのは、この思考のプロセスを端折ってフレームワークやキーワードだけを解説しているわけで、そんな知識をいくら覚えても知的体力は向上しません。
逆に言えば、経営学を学ぶにあたっては次々に出されるビジネス書の新刊を読む必要はない、ということです。もちろん、いま現在やっている仕事における実務上の要請から必要であればその限りではありません。
めったやたらに新刊のビジネス書、話題のビジネス書を読んでいる人がいますが、そんなことをするくらいなら、古典と言われる本をもう一度読み直すべきです。
一度の読書を通じて読者が得られるものはそれほど多くはありません。特に、名著・古典と言われている本であればあるほど、さまざまな角度からの学びがあるものです。
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山口 周(やまぐち・しゅう)
独立研究者・著述家/パブリックスピーカー
1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て現在は独立研究者・著述家・パブリックスピーカーとして活動。神奈川県葉山町在住。著書に『ニュータイプの時代』など多数。
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(独立研究者・著述家/パブリックスピーカー 山口 周)
80人以上のコンサルタントが推薦する『9割の効果を生む1割の書籍』を紹介したい」という――。
※本稿は、山口周『読書を仕事につなげる技術 知識が成果に変わる「読み方&選び方」の極意』(角川文庫)の一部を再編集したものです。
■そもそもどの本から読むべきなのか
経営学などの勉強には興味はあるけど、ビジネススクールに通う時間はない。かといって独学しようと本屋を訪れれば、膨大な数の書籍を目の前にして、どの科目のどの本から勉強すればいいのかわからず途方に暮れてしまう。このような人は多いのではないでしょうか?
その気持ちは本当によくわかります。ちょうど20年ほど前の筆者自身が、まさに同じ状況だったからです。
筆者は2002年の5月、32歳のときに、大学卒業以来働いていた広告業界から身を転じて、外資系コンサルティングの世界で働き始めました。新しい世界で新しい仕事をやることにワクワクしていた一方で、大きな不安の種を抱えていたことをよく覚えています。というのも、これから経営コンサルタントとして仕事をしようというのに、経営学に関する体系的な知識をほとんど持っていなかったからです。
■経営学の定番書を3年間で読破したが…
転職する前は「やっていけるのか」という不安がぬぐえず、なかなか決断ができずにいました。そんなある日、ファームの日本代表だった方から食事にお誘いいただき、お酒が入ったこともあって、直接聞いてみたことがあります。
「お聞きしたいのですが、僕はMBAを持っておらず、経営学のリテラシーがほとんどありません。
それが御社で仕事をする上でハンデになるのではないかという点が非常に心配です」「まったく問題ありません。当社が採用で重視するのはジェネリックな資質だけです。経営学は、プロジェクトをこなしながら独学で勉強してくれれば、それで十分です」
日本代表の答えに一度はとても安堵したのを覚えていますが、逆に言えば、現時点では経営学のリテラシーは問わないけれども中に入った以上は身につけてくださいね、という意味でもあります。
ということで、私はとてもシンプルな対策をとることにしました。つまり、ビジネススクールで用いられる教科書を中心に、経営学に関連する定番の書籍を2年間かけてすべて読了してやろうと考え、それを実行したのです。今から考えれば、このアプローチは率直に言ってとても「スジの悪い」やり方だったと言わざるを得ないのですが、当時はその他の方法が思いつかなかったのです。
■「9割の効果を生む1割の書籍」を紹介
冒頭に記した通り、経営学に関してはさまざまなジャンルで膨大な数の書籍が出版されていますが、どこからどう手をつけるかという手引きがない以上、不安を解消するためには定番になっている本をひとつずつつぶしていくしかなかったわけです。
このような経緯からブルドーザーのような乱読を始めることになり、最終的に1年余計にかかって3年間で、経営学関連だけで200冊弱の本を読了しました。
今になってつくづく思うのは「読む量がこの1~2割だったとしても、9割の効果は得られただろうな」ということです。問題は、「どの1割」が9割の効果を生む本なのかを、読む前に知ることができなかったということです。
『読書を仕事につなげる技術 知識が成果に変わる「読み方&選び方」の極意』(角川文庫)では、今の筆者の知的生産の基礎となった「9割の効果を生む1割の書籍」を厳選してご紹介し、さらにどのような順序で読んでいくかというプロセスについての目安も提示できればと思っています。
読者の皆さんには、筆者が体験したようなムダな苦労、ムダな読書はしていただきたくないので、試行錯誤の末にたどり着いた「厳選71冊」を、包み隠さず、すべて公開します。
■「これだけ」を、徹底的に読め
筆者はこの「読むべき本」の全体像を「ビジネス書マンダラ」という枠組みで説明していきたいと思っています。どんな業界・職種であっても、ホワイトカラーとして知的生産に従事している以上、絶対に読んでおいてほしい必読書を中心に配置し、外側に行くに従って各分野での専門性が高まり、その分野で求められるハードコアな書籍を紹介するという枠組みになっています。
逆に言えば、専門家としてその分野を追究していくということでない限りは、マンダラの中心からせいぜい2階層目までの読書で基礎教養としては十分で、あとはそのときの仕事上の要請に従って読んでいけばいいということです。
そんな程度の知識で大丈夫なのかって?
大丈夫です。筆者はコンサルティング業界に携わってすでに20年以上になりますが、改めて、これらの基本書籍だけで十分に知的付加価値を創出することができることを痛感しています。その代わり、これらの基本書籍については徹底的に、完璧に読みこなすことが求められます。凡百の書籍を浅く乱読するよりも、こういった「読めば読むほどに絞れる」本を、しっかりと精読することが求められるのです。
次ページにビジネス書マンダラの全体像を掲載しています。
■600ページ以上もある古典をなぜ読むのか
今回、このマンダラを作成するにあたっては、改めて知人のコンサルタント80余名から「これは読んでおいてよかった」と思われる本を推薦していただきました。そうしてつくられた400冊超のリストから、基本的に10名以上が共通して推薦している書籍を抜き出し、最後に個人的な独断と偏見に基づいてリストに数冊加えてできたのがこのマンダラです。
このマンダラを見ると、いわゆる「古典」と言われるものがほとんどだということに気づかれたと思います。筆者は過去の経験から、経営学を独学するのであれば必ず古典・原典に当たることが重要だと考えています。
しかし、これが結構ヘビーなんですよね。例えばM・E・ポーターの『競争優位の戦略』は600ページ以上ある大部の本で、読み切るにはかなりの時間が必要です。一方で、書店のビジネス書コーナーに行ってみれば、同書に関する解説書はたくさん出版されており、長い時間をかけなくてもエッセンスを学ぶことは可能に思われるかもしれません。
ここに経営学独習の落とし穴があります。
■学ぶのは「エッセンス」ではなく、「思考のプロセス」
断言しますが、こういった簡易版の解説書をいくら読んでも経営のリテラシーは高まりません。理由は非常に単純で、古典・原典で著者が展開している思考のプロセスを追体験することで「経営の考え方」「ビジネスを考えるツボ」を皮膚感覚で学び取っていくことにこそ意味があるからです。簡易版の解説書というのは、この思考のプロセスを端折ってフレームワークやキーワードだけを解説しているわけで、そんな知識をいくら覚えても知的体力は向上しません。
逆に言えば、経営学を学ぶにあたっては次々に出されるビジネス書の新刊を読む必要はない、ということです。もちろん、いま現在やっている仕事における実務上の要請から必要であればその限りではありません。
めったやたらに新刊のビジネス書、話題のビジネス書を読んでいる人がいますが、そんなことをするくらいなら、古典と言われる本をもう一度読み直すべきです。
一度の読書を通じて読者が得られるものはそれほど多くはありません。特に、名著・古典と言われている本であればあるほど、さまざまな角度からの学びがあるものです。
こういった本は何度読んでも学びがあるので、ここに挙げたリストを参照しつつ、「これは!」と思う本が見つかったなら、ことあるごとにそれを読み直すことをお勧めします。
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山口 周(やまぐち・しゅう)
独立研究者・著述家/パブリックスピーカー
1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て現在は独立研究者・著述家・パブリックスピーカーとして活動。神奈川県葉山町在住。著書に『ニュータイプの時代』など多数。
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(独立研究者・著述家/パブリックスピーカー 山口 周)
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