相手に話題を変えて話すときには何に気をつけるといいか。エグゼクティブ・コーチの林健太郎さんは「部下はこちらに話しかけるとき、『今、よろしいでしょうか』と聞いてくれる。
上司も、同じ心がけを持ち、何らかのアクションを起こすときは、必ず許可を取るといい。コーチングではこれを『はじまりの言葉』と呼ぶ」という――。
※本稿は、林健太郎『チームが「まとまるリーダー」と「バラバラのリーダー」の習慣』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■「うちのチーム、デキる部下は2割くらい」は絶対ダメ
チームがまとまるリーダーはすべてのメンバーに毎日声をかけ、

バラバラのリーダーは「自分の好きなメンバー」だけを動かす。
「うちのチーム、デキる部下は2割くらいだよ。あとはフツーかそれ以下だよ」

「気の合う部下とは仕事しやすいよね。でもそんな部下ばかりじゃないんだよなぁ」
というリーダーの嘆き節、これまで何度も聞いてきました。
部下の能力や、自分との相性についてあれこれ愚痴をこぼすリーダーには、2つの傾向が見てとれます。
1つは、「コミュニケーション格差」をつけていること。
「デキる部下」や「気の合う部下」とだけ多く話し、大事な仕事を任せる一方で、それ以外の部下には関心を払わず、与えた仕事をこなしてくれてさえいれば問題ないとばかりに、コミュニケーションを最小限にしようとします。
2つ目は、謎の「理想」を持っていること。
「もっといい人材が揃っていたら、いい仕事ができるのにな~!」
と、自分好みのメンバーが集まったドリームチームを夢見ているのです。

「わかるわかる、自分も欲しい」と思った皆さん、考えてみてください。
ドリームチームで大成功したとして、その成功に再現性はありますか?
成功要因は、「偶然いい人が集まったから」ですよね?
年度が替わってメンバーが変われば、どうなるでしょう。また成功できるでしょうか。
■8~9割の部下は「凪」である
というわけで、目指すべきは奇跡ではなく、再現性です。
能力がどうあれ、相性がどうあれ、同じ成果が出せる術を持ちましょう。
それは、まとまるリーダーの条件でもあります。
偶然のドリームチームで成功したリーダーより、毎回全員のポテンシャルを引き出せるリーダーのほうが、あきらかに優秀ですよね。
では、その術とは何か。先の記事で話した、「好感度を1上げよう」です。
第2回ではマインドについてのみ語りましたが、今回はその方法をお伝えします。
毎日、メンバー全員に、声をかけることです。
……簡単すぎて拍子抜けしましたか? 実はこれ、意外に奥が深いんです。

「デキる部下」や「上司と気の合う部下」は、もともと高い好感度を持ってくれています。同様にモチベーションも高く、自ら率先して考え、動いてくれるでしょう。
しかし、たいていの場合、そんな部下は全体の10~20%です。残り8~9割の部下は、「凪」です。自分で考えて動くモチベーションを欠く瞬間が多くあります。
「早く仕事終わんないかな」「なんか面白いことないかな」と思っている、つまり感情が「無風状態」と言ってもよいかもしれません。
■やる気のなさそうな部下に対して有効な「声かけ」
ならばそこに、風を送り込みましょう。自前のモチベーションがなければ、こちらから少しだけ扇いでみてもいいはずです。強風でなく、あくまで微風。「今日、なんか楽しい」「この仕事、ちょっと面白い」と感じる程度のプラス1を、毎日届けましょう。
それが声掛けです。「おはよう」「いい天気だね」というあいさつや、「元気?」「順調?」といった問いかけや、「お、いい感じ」などのフィードバックを、全員に投げかけましょう。

全然「いい感じ」でない、やる気のなさそうな部下に対してもいい声掛けがあります。無理に褒めたりポジティブなことを言おうとせず、ただ「承認」することです。
たとえば遅刻ギリギリで走り込んできたら「おお、間に合ったね」。1on1で会議室に入ってきたら「あ、来たね」。書類を提出してきたら「お、完成したね」。
フラットな事実を言っているだけですが、これは「あなたをきちんと見ていますよ」というメッセージになります。
毎日毎日、プラス1。全員、もれなくプラス1。
「今日この人に送ってない」と気づいたら、後回しにせずプラス1。
これで、再現性が作れます。奇跡の出会いよりプラス1、今日からはじめましょう!
どんなメンバー構成でも成果が出るように、

毎日、全員に小さな声掛けをしよう。
■部下の「今、よろしいでしょうか」の姿勢は上司にも必要
チームがまとまるリーダーは話すときに許可をとり、

バラバラのリーダーはいきなりダメ出しする。

我が家には、「話したいときは許可をとろう」というルールがあります。ですから8歳の娘も、毎回「父ちゃん、今、ちょっといい?」「ママ、いい?」と聞きます。
――が、実は先日、娘に叱られてしまいました。「私には『許可をとろう』って言うのに、父ちゃんは突然話しかけてくるよね」と。猛省いたしました……。
上司・部下間も同様です。部下はこちらに話しかけるとき、「今、よろしいでしょうか」と聞いてくれますね。上司も、同じ心がけを持ち、何らかのアクションを起こすときは、必ず許可を取りましょう。
コーチングではこれを「はじまりの言葉」と呼びます。
部下の話を聞く場合なら、「少し、聞かせてもらっていいかな」などと伝えるのです。
はじまりの言葉を入れずに突然傾聴モードに入ると、部下にとってはなかなかの恐怖体験となります。会話の最中で突然上司が返事をしなくなり、うなずくだけになるのですから。
まして、予告なしの「ダメ出し」となると、いよいよ恐怖です。たとえば……。
部下:ご相談していいですか? 今度のプレゼン資料、データの見せ方が難しくて。

上司:そうなんだ。必要なデータ自体はそろってるよね? あれだけ情報収集に時間かけたんだから、足りないものはないはず。もう時間ないしまずいよ。急いで!
こんな怖い上司になるより、次のように「はじまりの言葉」とともに傾聴しましょう。
部下:ご相談していいですか? 今度のプレゼン資料、データの見せ方が難しくて。

上司:そうなんだ。必要なデータ自体はそろってるんだよね?

部下:はい。でも……悩んでるんですよね。

上司:悩んでるんだ。
ちょっと、話を聞かせてもらっていい?

部下:はい。A資料が1番いいエビデンスなんですけど、グラフ化が大変で。B資料はシンプルで印象もキャッチーなんですが、根拠が少ないと、あとの質疑応答が厳しいかと。

上司:そっかぁ、どっちも一長一短なんだ。

部下:そうなんです……あっ、そうだ! メインのスライドにはBを使って、資料巻末の参考資料としてAを添付しておくのはどうでしょう?

上司:ああ、それいいね!

部下:ありがとうございます。話したら解決しました!
■傾聴を終えたらフィードバックに切り替える
「聞かせてもらっていい?」「はい」のやりとりがあると、一気にスムーズになりますね。なお、「はじまりの言葉」と同じく「おわりの言葉」も大事です。
このとき上司は内心、「情報収集に時間がかかりすぎたよね?」と思っていたとします。それを伝えるなら、傾聴モードを一旦終わらせ、フィードバックモードに切り替える許可取りが必要です。以下、続きを見てみましょう。
部下:ありがとうございます。話したら解決しました!

上司:よかった、よかった。あ、そうだ。私からもひとつ、いい?

部下:はい。

上司:今回、情報収集にけっこう時間がかかったよね。何か事情があったのかな。

部下:はい、時間配分を最初に決めなかったのが失敗でした。次は気を付けます!

上司:そうだったんだ。ひとつ学べたね(笑顔)。またいつでも相談してね。
このようにはじまりと終わりを締めれば万全です。そしてもう1つ、コツがあります。
「~していい?」「はい」のやりとりで、確実に「はい」と言ってもらうコツです。
それは、許可取りの手前で「YES」としか返事しようのない言葉を投げかけること。
「今日は会議が多いね」「そうですね」「次は14時開始だっけ?」「はい」
……の次に、「はじまるまでしばらくあるね。今、5分いい?」
と言えば、相手は流れで「はい」と答えてくれます。これを「YESセット」と言います。言いづらいことを言うときの許可取りにも便利。ぜひご活用ください。
「傾聴」「相談」「助言」など、モードが変わるときには

「~していい?」と許可を取ろう。

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林 健太郎(はやし・けんたろう)

否定しない専門家/コーチ

2 万人以上を指導したコーチ。リーダー育成家。ナンバーツーエグゼクティブ・コーチ。一般社団法人国際コーチ連盟日本支部(当時)創設者。1973年、東京都生まれ。バンダイ、NTTコミュニケーションズなどに勤務後、エグゼクティブ・コーチングの草分け的存在であるアンソニー・クルカス氏との出会いを契機に、プロコーチを目指して海外修行に出る。帰国後、2010年にコーチとして独立。これまでに大手企業などで2万人以上のリーダーに指導してきた。否定しないコミュニケーション術をまとめた『否定しない習慣』(フォレスト出版)が14万部を超えるベストセラーになる。このほか『できる上司は会話が9割』『優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか?』『できるリーダーになれる人は、どっち?』(いずれも三笠書房)、『いまを抜け出す「すごい問いかけ」』(青春出版社)など著書多数。

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(否定しない専門家/コーチ 林 健太郎)
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