※本稿は、三上ナナエ『一生使える「敬語&ビジネスマナー」』(大和出版)の一部を再編集したものです。
■「なんか怒ってる?」と勘違いされないために
なぜ人間には、表情があるのでしょう。
それは、自分の思いや感情を伝えるためだと考えます。
表情1つで気持ちを伝えることができる一方で、意図せずに相手に誤解を与えるメッセージを送っている可能性もあります。
「なんか怒ってる?」「疲れてる?」「理解できてない?」「いいと思ってない?」
そんなつもりはないのに、相手にそう言われた経験はありませんか?
これは、相手と「行き違い」が発生している状況です。
これが頻繁に起こると、「何を考えているかわからないから、なるべく関わらないようにしよう」と距離を置かれてしまうことも……。
笑っているつもりが、無表情に見えてしまう。もし、そんな悩みがあるならば、相手に笑顔だと伝えるよい方法があります。
フランスの神経内科医デュシェンヌは、「頬の高さが変わり、目が細まる表情を、人は『笑顔だ』と認知する」と定義しました。つまり、頬をいつもより上にあげ、それによって目が細まると、誰から見ても「笑顔」に見えるということです。
頬の高さを変えるには、上の歯が「8本」見えるように、口を開けるといいでしょう。
口を閉じて笑顔を作るときも、同じイメージです。
■頬を片方ずつ上げて、目に近づける動作を合計30回
実際に鏡の前で笑顔を作ってみると、「顔が引きつって、わざとらしい表情に見える」と感じる人もいるでしょう。
でも、実は引きつっているのを一番気にしているのは、自分自身かもしれません。気にし出すと、ますます表情がこわばり、自分がいったいどんな表情でいるのかもわからなくなってしまいます。
では、どうしたらいいのでしょうか。
表情がこわばるメカニズムは、「顔が引きつっているような気がする」→「相手の目が気になる」→「もっと表情がこわばる」このような感じです。
ですから、まずは「多少引きつってもいい、機嫌が悪く見えなければいい」と思うことが大事です。
そして、相手の目を見るとますます緊張してこわばるので、目ではなく、眉あたりを見て、「リラックス」と心の中で自分に声をかけましょう。
また、日々のストレッチ(頬上げ体操)でも引きつることを解消できますよ。頬を片方ずつ上げて、目に近づける動作を、右、左、右、左と合計30回行います。
3週間くらい続けると、引きつりが徐々に解消されていくので、気になる方はぜひ試してみてください。
■マスクをしているときの口の動きを意識するべき
マスクを着用することに違和感がない昨今ですが、初対面で目しか見えない状態は相手を不安にさせます。最初の挨拶だけでも、マスクを外すといいでしょう。
もし、風邪気味で相手にうつしたくないという配慮ならば、
「恐れ入ります。少し風邪気味でして、念のためマスクをさせてください」など、ひと言自分から理由を話すといいでしょう。
マスクをしていると、自分の表情に意識が向かないため、特に目に生気を感じられなくなります。マスクで見えなくても、口を軽く閉じ、口角を横に引くことで集中した感じのよい目元に見えます。
目しか見えない状態だからこそ、ちゃんと表情を意識したいものです。
■笑顔を封印する場面もある
知り合いがこんな話をしていました。
ある限定品をどうしても手に入れたくて、店舗に訪れたときのこと。
店員さんにまだ在庫があるか尋ねると、「完売ですね」と笑顔で返されたそうです。
その店員さんにイラッとした、と言っていました。
笑顔は基本のマナーですが、ではなぜ、その笑顔はイラッとさせてしまったのか。
それは、自分の残念な気持ちと真反対の表情だったからでしょう。
表情は相手の気持ちとリンクさせることで、相手に寄り添う気持ちが伝わります。
この場合は、「要望に添えず申し訳ない気持ち」を表情で伝える必要があったと感じます。
状況を察して笑顔を封印することも、マナーの1つだと覚えておきましょう。
POINT
表情で気持ちは伝わる。
だからこそ「表情管理」を怠らないで
■座り方には、気のゆるみが出やすい
座ったときの脚は、その人の本音が出やすいと言われます。
CAのときにお客様を観察していると、確かにイライラしている人は脚が落ち着かないと感じたことがあります。貧乏ゆすりをしたり、頻繁に脚を組み替えたり、床をタンタンと足踏みしたり……。特に飛行機が定刻より遅れそうになると、そういう動作をするお客様が増えていく印象です。
当時は機内にある公共交通機関の時刻表をお持ちしたり、少しお話をするだけでも、気が紛れるのか、落ち着くお客様もいらっしゃいました。
すると、ぱたりと脚の動作がおさまるので、不思議なものだなと感じていました。
気持ちのゆるみとともに、脚がゆるんでしまうことはよくあります。
脚が開いているとだらしなく見えたり、つい癖で脚を組んでしまい軽い印象を与えたり、男性であれば、広げすぎると横柄な態度に見えることも。
机の下だから大丈夫と思っていても、ちょっと動いたときに相手からは意外と見えているものです。意識しないと脚はすぐに崩れることを、頭に入れておきましょう。
■背もたれに寄りかからない
その分、脚を整えれば、それだけでワンランク上の印象を与えられます。
座るときのポイントは、椅子に深く腰かけながらも、背もたれに寄りかからないことです。
深く座ると、背もたれに背中がつき安定しやすい分、脚がゆるくなって、膝が開いたり、かかとが上がってしまいます。
そのため、背もたれと背中は「拳1つ分」空けることを意識します。
なお、スカートの場合は、かかとと膝をつけて座ることを心がけましょう。
■あくびやくしゃみは「見せない配慮」がマナー
脚以外にも、無意識な所作で、悪い印象を与えていることがあります。
ビジネスでは、「つい癖で」では済まないことがありますので、対策も含め読んでみてください。
1 隠さずにあくびをする
生理現象ではありますが、隠さず大きな口を開けるのは御法度です。
集中してなさそう、やる気がなさそう、話を聞いてなさそう、と思われます。
あくびをする前にハンカチや手で隠したり、状況によっては下を向いて、相手に見せない配慮をしましょう。
2 くしゃみを押さえない
唾が飛んだり、衛生の観点からも嫌がられます。ティッシュやハンカチなどで口と鼻を覆い、人がいない方向に顔を向けましょう。
また、くしゃみとともに出る大きな声にも気をつけたいものです。
ハンカチで覆えば音を小さくできますので、ビジネスの場であることをわきまえて、「なるべく静かに」を心がけましょう。
3 キーボードで大きな音を立てる
些細な音が気になってしまう方は、一定数いるようです。
キーボードを叩く音は意外にも響きます。音が大きいと、イライラしていてストレスがあるように見えてしまうこともあります。
対策としては、必要以上に指をキーボードから離してタイピングすると、大きな音が鳴りやすいため、なるべく優しく押して周りへ配慮しましょう。
キーボード自体の問題であれば、静音効果のあるキーボードカバーを用いると、ある程度音が押さえられるのでおすすめです。
■ペン回しは「手遊び」なのでNG
4 キャビネットやドアの開け閉めの音が大きい
何気ない動作だからこそ、気をつけないとその人の素が出てしまうものです。
音を立てる人は、雑なイメージを与えます。
細かいことかもしれませんが、それが差となって表れます。
5 ペン回しをしている
会議や面談で、ペン回しをしている人を見かけます。
手持ち無沙汰であっても手遊びは禁物。たとえ集中している場合でも、周りには集中していないように見えます。癖でやめられない人は、メモを取ったら一度ペンを置く習慣をつけるといいでしょう。
6 指差をする
本来、指差は、立場が上の人が指示を出す行為です。
挑発行為として受け取る人もいますので、注意が必要です。人はもちろん、方向や物、書類の説明であっても指差はしません。
指し示す際の、正しい方法をお伝えします。
①5本の指を全て揃える
(先端まで神経が行き届いていると繊細さを感じます)
②手のひらは相手に向ける
(手の甲は裏、手のひらが表という考え方があります。手のひら、表を見せることで心を開いている印象を与えます)
③指し示す方向に目線を向ける
(指し示す動作とともに、目線もその方向に動かすことで、わかりやすさがプラスされます。指を示したあとは、目線を相手に戻します)
小さなことでも細部を整えることで、見栄えは断然によくなります。
ぜひ、1つひとつの所作を見直してみてください。
POINT
所作を整えないと雑に見えてしまう。
ちょっとの気配りで印象アップを目指そう
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三上 ナナエ(みかみ・ななえ)
元CA・人材教育講師
新卒でOA機器販売会社に入社し、販売戦略の仕事に携わる。その後、ANAに客室乗務員として入社。チーフパーサー、グループリーダー、OJTインストラクター、客室部門方針策定メンバーを経験。ANA退社後は、研修講師として活動。著書に『仕事も人間関係もうまくいく「気遣い」のキホン』『マンガでわかる!仕事も人間関係もうまくいく「気遣い」のキホン』『気遣いできる人は知っている! 会話のキホン』(以上すばる舎)、『ビジネストラブル脱出フレーズ80』(学研プラス)、『仕事の成果って、「報・連・相」で決まるんです。』(大和出版)などがある。
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(元CA・人材教育講師 三上 ナナエ)