※本稿は、赤川幸子『「個性」と「才能」が伸びる シュタイナー式子育て』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■「片付けなさい!」と怒鳴っても改善しない
出かけようと思ってせっかく片付けたのに、気がつくとまたおもちゃを出して遊んでいる。そんなことはよくあるものです。
こんな時、何度「片付けなさい!」と怒鳴っても、状況は一向に改善しないはずです。
そういったことを防ぐために、「サイン」を決めておくことをおすすめします。ポイントは、そのサインが子どもにとってわかりやすいことです。
例えば、園ではおもちゃの棚には、一枚布がかけてあります。布がかかっている間は「おもちゃは今、寝ている時間だから出せない」というルールになっています。室内遊びが終わり、棚におもちゃを片付け後、そこに布がかかると、子どもたちは「おもちゃは寝てしまった」と思います。
そのため、わざわざその布を開けてまで、出そうとはしないのです。
ただの布なので、開けようと思えば自由に開けることはできるのですが、「布がかかっている=使えない」とわかっているのですね。
このように、目に見えるわかりやすいサインを決めておくだけで、同じことが繰り返されるのを防ぐことができます。
いつまでも片付かない、ということがないわけです。布をかけるというのは、「これでおしまい」というサイン。
このように見てわかりやすいサインがあると、子どもは納得しやすいものです。
■布で環境を整える
布は結構有効なので、テレビにかけてもいいでしょう。布がかかっている間は、テレビは動かないと思ってくれます。また、黒くて四角いテレビにきれいな布をかけることで、空間の印象も柔らかくなります。手を出してほしくないものの上に布をかけておいて、「大事なところだから、触らないでね」と伝えておけば、子どもは触らないものです。
家を見回して、どこにどんなサインを埋め込むことができるかを、考えてみるといいでしょう。毎日注意していることを、子どもが見てわかるサインに置き換えることはできないでしょうか。
子どもが理解しやすい環境を整えることができると、ずいぶんと言葉での注意が減っていくはずです。
扉にも意味を持たせています。
閉めておかなきゃいけない理由があるから閉まっている、ということを暗黙のうちに伝えています。
もちろん鍵がかかっているわけではないので、開けようと思えば開くのですが、そうはしません。開けたいときには、ちゃんと確認しに来ます。勝手に開けて、移動することはありません。
■ルーティンを唱え言葉にする
朝、園へ出かける前というのも、親にとっては大きなハードルです。
帽子被って! ジャンパー着て! 靴はいて! ほら早く早く……。
毎朝ぐったり、という方もいるでしょう。このような身支度のルーティンは、唱え言葉にしてしまうといいのです。唱え言葉は耳からのサインです。
園で親御さんにお伝えしているのが、
「帽子、ジャンパー、く~つ!」
という唱え言葉。
これは、身支度のためのものです。
節は適当でかまいませんし、準備するものや季節に合わせて「帽子、園服、く~つ!」でも、「カバン、ヘルメット、く~つ!」でも、出かける前に身に着けておかなければならないものを、リズミカルに唱えます。
そうすれば、毎日のように「出かけるから帽子被りなさい!」とか、「ジャンパーどこへ置いたの?」と、朝から文句を言う必要がなくなります。それにジャンパーを探すにしても、「帽子、ジャンパー、く~つ!」と唱えながら探したほうが、ずっといいはずです。
子どもにしても、この歌を歌いながら毎日玄関に向かっていれば、「ああ、これから外に行くんだ」ということがわかるようになってきます。そして、「帽子、ジャンパー、く~つ!」の順番で、身につけて外に出て行くようになります。
自動的に動くための唱え言葉を、リズミカルな言い回しで用意しておく。これは子どもに伝わりやすく、次へのアクションへ移りやすい方法です。
園で見ていても、子どもたちは皆、「帽子、ジャンパー、靴」の順番で支度を整えていきます。魔法にかけられているかのように、動いてくれます。伝われば、動いてくれるものだと、その姿を見てしみじみ思います。
■自然と子どもが片付けはじめる唱え歌
唱え言葉に節をつけて歌えば、それは唱え歌になります。お片付けもみんな歌いながら行います。
片付けのときの唱え歌
♪おもちゃがおうちに帰ります
散らかし屋の小人が
お片付けを始めたよ
シュッシュッシュッシュきれいに
シュッシュッシュッシュ元通り♪
「遊びひも」を巻いて片付けるときの唱え歌
♪でんでんむしのお家はおもしろいお家
ぐるぐるうずまき
ぐるぐるうずまき
ぐるぐるぐるぐるぐーるぐる……♪(やっている間繰り返す)
「遊び布」をたたむときの唱え歌
♪ゆらゆらゆらゆら天までとどけ
天までとどけ
角と角を合わせましょ
はんぶん 半分……♪
(ちょうどいい大きさになるまで繰り返す)
■手洗い、ごはん、トイレの唱え歌
手洗いのときの唱え歌
♪たーれるたーれるどこいく
あの町この町
ちりりん
くるるん
まわれよまわれ♪(ゆっくり歌うとちょうど15秒くらいになり、石けんで手を洗える)
いただきますの唱え言葉
♪五人の小人さん
小人さんがくっついた
(言葉の後に)「大地がこれらを育て、太陽が実らせました。太陽と大地の めぐみに感謝して、いただきます」
※言葉に合わせて親指から順に左右の指を合わせていきます。「小人さんがくっついた」で両手のひらが 合掌の形になります。
トイレのときの唱え歌
♪一羽のカラスがカーカー
二羽のにわとりコケコッコー
さんは、魚が泳ぎ出す
しは、しらがのおじいさん
ごで、ごほうびいただいて
ろくで、ろうそく火がぼうぼう
しちで、かわいいしちごさん
はちで、浜辺のしろうさぎ
くで、栗の実ひろいます
じゅうで、十五夜おつきさま
※もうちょっとトイレに座っていてほしいなど。「出ないー」といってすぐに便座から降りようとする子に、10数える間座っていてもらいます。数を数えたい場面に使えます。
唱え言葉や唱え歌は、子どもが行動に移るサインになります。
大人の意図を伝えるためのわかりやすく、楽しい方法です。
節を自由につけて歌ってみてください。
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赤川 幸子(あかがわ・ゆきこ)
こどもとくらし代表取締役
広尾シュタイナーこども園・高輪シュタイナーこども園園長。短期大学卒業後、国際線客室乗務員として7年間勤務。
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(こどもとくらし代表取締役 赤川 幸子)