結婚相談所には、年齢を問わずさまざまな男女が訪れる。婚活で成功する人、失敗する人の差は何なのか。
主宰する結婚相談所でカウンセラーを務めている大屋優子さんは「私のもとに訪れた59歳男性は、極度に“コストパフォーマンス”を重視する人だった。回転寿司でお相手女性が選んだ『皿の色』に文句を言ったときのことは忘れられない」という――。
※なお、本稿は個人が特定されないよう、相談者のエピソードには変更や修正を加えている。
■59歳、年収1400万円の男性が訪れた
人生100年時代。結婚してパートナーを見つけたいのは結婚適齢期の人たちばかりではない。60代でも、70代でも、幸せを求めて結婚相談所で婚活するかたは、年々増えている。
「60代でも結婚相談所には登録できるのでしょうか?」という問い合わせは少なくない。結婚相談所は、結婚したいと思えばいくつになっても登録はできる。だが、60歳を過ぎるということは、一般の会社員なら定年退職を迎え、再雇用のタイミングでもある。現役時代の収入よりはぐんと減っているかたが圧倒的で、これからの老後に向けて、計画的に貯蓄や年金で安心した暮らしをと考えているかたが多い。
ずっと独身だった方の中には「今からレベルを下げることはちょっと……」と相手の収入が低いことに拒否感を示す方もいる。だが、「高所得」という条件にこだわってしまうと、お相手はそう簡単には見つからない。

ある日、私の相談所に一流企業に勤務する59歳の男性が訪れた。過去に離婚歴があり、その時点での年収は1400万円だった。
■1人で過ごす老後は切ないと思った
彼は、学生時代からお付き合いしていたという女性と20代で結婚。子供を1人授かった。元妻は、いわゆるバリキャリ女性で、育児や家庭を大事にするタイプではなく、何事も優先は仕事。子供の教育を人生の優先事項にしたい彼とは、意見の対立がたびたび起こり、離婚に至る。
その後、子供は彼が引き取り、立派に育て上げた。子供は男の子で、いくら彼の実家の両親がそばにいたとはいえ、男手で育てるのは並大抵の努力ではない。彼は、勤勉で子煩悩。一生懸命育てた息子は優秀な大学を卒業し、就職した。
還暦目前。そこでふと我に返ったときに、このまま1人で過ごす老後は切ないと思ったそうだ。
息子はいずれ家庭を持ち、独立して暮らしていくことになるであろう。そうなったときに、仕事もリタイアすれば、生きていく目的が自分にあるのだろうか。今は健康だが、病気もするかもしれない。子供に迷惑をかけるかもしれない。
そうならないためにも、再婚相手を見つけよう。そして、パートナーと旅行をしたり、お互いを思いやりながら、充実した老後を過ごしたい。そう思い、結婚相談所という場所での婚活を始めることにしたそうだ。
■59歳で始めれば“高年収”を打ち出せる
だが、どうやら別の狙いがあるようだった。深く聞いてみると、59歳で始める、ということにこだわっているようだった。その理由は、年収にあった。60歳になればいったん会社は定年退職となり、希望すれば65歳までは非正規雇用となる。高額な退職金をもらえるものの、60歳以降の年収はガクンと下がる。

結婚相談所の婚活では、年収の記載が証明付きでマストである。だから、安定した収入のある定年前の今のうちに活動を開始し、ある程度高額な年収を記載したかったということだそうである。
確かに「賢いスタート時期」ではあるが、自分を大きく見せるための小細工的な発想とも言える。実際に定年退職をすれば一気に年収が減る。交際後にトラブルになるリスクもあるだろう。
結婚相談所の年収は、源泉徴収票または、最新の確定申告書で証明する。その金額がプロフィールに掲載されるため、所得記載がマストの男性にとっては、年収は何よりの婚活における武器になる。だが、ガクンと年収が減ってしまえば、いざ結婚するときに“嘘をついている”と言われる可能性もある。結婚生活は長い。女性にとっては大きな関心事だ。
■「一番コスパがいい相談所」選び方はわかるが…
そんな彼ではあったが、男手一つ、奨学金にも頼らず子供を有名私立大学まで入れて育て上げたばかりか、預貯金もかなりの金額を蓄えているとあって、お金にはとてもシビアだった。
婚活に際しても、数社の結婚相談所の費用を比較検討したらしい。
相談所を利用すれば、入会金や毎月の会費、結婚となれば退会費用もかかる。毎月の月会費が安くとも、お見合いの申込数に制限がかかれば結婚どころか交際にもならない。私の結婚相談所は、最大300件のお申し込みができる。
要するにできるだけ安く、たくさんのお見合いを申し込める「一番コスパがいい場所はどこか」という視点で探し出したようだった。確かに賢い生き方だとは思うのだが……話の節々になんでもお金を基準に考えるきらいがあり、なにか引っかかるところがあった。
結婚カウンセラーの立場からすると、費用や申し込み件数だけでなく、カウンセラーとの相性は大事である。私たちは一生のパートナーを探すという責務を担うわけだから、時にはキツイ指摘もする。だが、こうしたアドバイス抜きでは、なかなかご縁まで行きつかないのも事実だ。
彼は入会を決めるまで何回もこちらに足を運んだので、コスパだけでなく、私との相性も考慮してくれたのだろうと思い直し、婚活支援を始めることにした。
■“ケチさ”が出てしまっていた
そんなことで活動を始めたが、私の引っかかりはやはり間違っておらず、すべてにおいてコスパを重視する人だった。コスパを重視するのは悪いことではない。だが、「節約上手」と言えるものではなく、どちらかというと「ケチ」と表現するのが適切だった。

この2つはまったく違うと思う。「節約」は結婚生活においてとても大切なことであるから、これができる人は将来への貯えも考えており、安心した老後生活が過ごせる可能性はある。
だが、「ケチ」となれば、話はまったく違う。相手に“お金に細かすぎる”とか“ケチ臭い”という印象を抱かれてしまった男性は、選ばれない傾向にある。彼もまた、ともすれば「ケチ」と思われかねないレベルであった。
まずは、お見合い場所についてである。一般的に結婚相談所でのお見合いは、高級ホテルのラウンジで行われることが多い。そのお茶代は「男性側が2人分負担する」というのがルールとされている。高級ホテルのコーヒー代は平均して一杯1500円程度。男性はお見合いのたびに、3000円程度を負担することとなる。「女性側は、サッとかっこよくお茶代を支払ってお開きにする男性の姿を必ず見ているから、もたもたせずに払うように」と男性会員には常日頃からアドバイスしている。
■“定番”のホテルラウンジを嫌がった
彼は、年収も高いし、ホテルのコーヒー代など、未来のパートナーが見つかるなら気にもならないのかと思っていた。
そんなところに「お見合いはホテルでないとダメなんですか?」という質問が来たので、何かあったのかと聞くと、ホテルのコーヒー代が高いから、普通の喫茶店でお見合いしたいと言い出した。
最近はホテルだけでなく、比較的高級な喫茶店でお見合いが行われることも多い。とはいえ、ホテルのラウンジのほうが、席と席の間がゆったり取られていて、お見合いのようなある程度込み入った話をする場所としてふさわしいと思われる。各結婚カウンセラーは、できる限り広々とした場所のホテルラウンジの利用をすすめている。
一方で、お金を出すのは男性会員だし、喫茶店利用がダメという決まりもない。だが、彼が希望しているのは、コーヒー一杯が500円程度の喫茶店。
還暦近い男性のお相手ともなれば、女性は50歳を超えたかたが多く、それなりに人生経験もある女性たち。それに、再婚同士の場合も多いから、お見合いの場で過去の結婚の話も出ないとも限らない。
隣同士が密接した喫茶店でのお見合いでは、隣の人が聞き耳を立てているのではないかと不安を感じながら進む可能性もある。
■たった400円の差に「配慮が足りない女性」
「お見合いは、人生のパートナーになるかもしれない方との出会いの場ですから、ある程度ふさわしい場所と、会話ができるところにしましょうね。帝国ホテルのラウンジのような場所がいいですよ」
と彼を説得した。だが、彼はきっぱりNGを宣言した。
「帝国ホテルだけは絶対に嫌です。あそこはコーヒーを2人で飲んだら、5000円以上かかります」
彼のコスパ重視ぶりは、デートでも発揮される。もちろん安くはないので気持ちも理解できるが、彼は還暦近く、年収1000万円超えでもある。「デートでは、女性にお財布を開けさせないでくださいね」と、女性にご馳走するように念を押しておいた。
これには、彼は「わかりました」と答えたが、デートの食事先のお店選択には驚かされた。お誕生日などの大事な日に訪れるようなとびきりおしゃれな店でなくてもよいのだが、何かとお金にうるさかった。
ある時は、とんかつ店にランチデートに出かけ、彼が頼んだロースかつ定食が1800円で、相手が頼んだのがヒレカツ定食2200円だったことに、「配慮が足りない女性かもしれません」と感想を言う。
■「結婚できなければ無駄な出費になる」
またあるディナーデートでは、相手女性の好物がお寿司だとプロフィールにあったので、彼は回転寿司店を選んだ。回転寿司をデート場所に選ぶことが、必ずしも悪いとは言わないが、お相手女性が選んだ「皿の色」について、「○○さんは高い皿ばかり頼むんですよね」と私に報告してきたから、少し戸惑った。
彼曰く、回転寿司で頼むべきは一番安いお皿だという持論があるのだという。一番安い皿の味こそに、その回転寿司店の価値があるのだと熱く語った。価値観は人それぞれなのでそういう見方もあるとは思うが、結婚するかもしれない相手とのまだ数回目のデートで、積極的にその通りにしたい女性は少ないように思う。
所得もさほど高くないならわからなくもないが、彼は年収も年齢も高いのだから、何もそこまでコスパを追い求めなくとも、もう少し良い店を選んだほうがいいように思い、アドバイスしてみた。ところが、である。
「○○さんにはお見合いのお茶代で3300円かかり、初デートの食事代とお茶代で5000円以上使いました。次回は映画に行く約束をしていますから、デート代が1万円近くになる可能性があるんです。結婚できればよいですが、できなかった時には、無駄な出費ということになります」と、のたまうので、私は二の句が継げなくなった。
挙句には、「彼女からお礼にとパンをいただきました。これは高く見積もっても1000円程度ですから、彼女はこれしか負担していないことになりますし」とも付け加えられた。
■ケチな印象を与えるのは損
誰だって、無駄な出費はしたくない。だが、恋愛結婚なら数年かかると言われる道のりを、結婚相談所で数カ月で進もうとしているのだ。ある程度、お金がかかるのは避けられない。
ここで頑張っている他の男性たちは、お見合いのお茶代やデート代をまだ結婚できるかどうかわからない女性たちに支払っているのだ。であれば、「ケチ」と女性に思われるのは損だ。「ケチ」な印象を与えたら、交際終了リスクと背中合わせだからだ。
だが、彼はできるだけ安い場所でのお見合いを希望し、デート費用もできるだけ安く。何もかも「できるだけ安く済ませたい」というケチさをむしろ全面に出していたのである。
こんなことを50代女性3人との間に繰り広げ、交際と交際終了を繰り返した。この男性の婚活の道のりは、果てしなく続きそうだと思われたところに、転機が訪れた。49歳、マスコミ系職種の初婚で、周囲から才色兼備と評されていた女性とのお見合いが決まった。彼は有頂天になった。
■好みの女性を前に猛アピール
お相手女性からは、京王プラザホテルでのお見合いを指定された。京王プラザホテルのラウンジは、お見合いの聖地ともいわれる。週末ともなれば、あちらこちらのテーブルがお見合いカップルで埋まる。ホテルの女性化粧室は、ヘアアイロン片手の女性たちが、鏡の前でずらりと化粧直しに余念がない。週末の京王プラザホテルとはそんな場所である。
彼は喜び勇んでお見合いに出向き、仮交際となった。ここからの彼の変身ぶりは、こちらが驚くほどだった。
「女性ウケするおしゃれなレストランを教えてください」

「彼女にプレゼントを渡したいのですが、何が良いですか?」
『できるだけ安く』が第一であった男性が、予算にとらわれず、女性に喜んでもらえることを考え始めた。ロマンチックなレストランでの食事を設定したり、こじゃれたプレゼントを贈ったりしたのである。
彼の努力は実を結び、数回のデート後には、結婚前提の「真剣交際」ステージに進むこととなった。つまり2人は、複数交際が許される状況から、お互いに交際を1人に絞り込み、結婚前提でお付き合いをする段階へと進んだということである。2人は、慎重に相手を見極めて、結婚するかしないかの決断が両者に強く迫られた。
■“彼女の希望”を無視し始めた
真剣交際となれば、ただ楽しいデートをするだけでなく、現実的な話を詰めていかなくてはならない。一例をあげれば、結婚後に住む場所を話し合ったり、結婚式をするならどんな形をとるかを決めたりしていく。それ以外にも、親の介護が発生したときにどうするのか、遺産の相続はどうなのかなども避けられない話題である。女性が希望する婚約指輪やプロポーズのシチュエーションなども、女性側カウンセラーから伝えられる。
順調に滑り出したかのように見えたが、彼からの交際報告を聞いていると、危ういなと感じる場面が多々出てきた。
彼女は、職場に近い都内の交通至便な場所を新居に希望していた。ところが彼は、家賃が「20万円以上はありえない」という理由で、埼玉もしくは千葉はどうかと提案した。彼女の現在の住まいは山手線の内側で、自宅から職場まで約30分。今より通勤に時間がかかる場所には前向きになれなかった。
そして記念写真。彼は再婚だが、彼女は初婚。写真だけでも記念に残したいと希望した彼女に対し、結婚衣装込みの前撮りで約50万円は高すぎると彼は渋った。一生記念に残る写真を美しく残したいという彼女の思いはまったくの無視である。
■結婚が見えた瞬間に“素”に戻ってしまった
また、彼女はマスコミ関係の仕事ということもあり、まとまった休みがほとんどとれない。新婚旅行は絶対に長期間の海外旅行に行きたいと思っていた。ところが、男性はお金がかかりすぎるという理由で海外旅行を拒み続け、代わりに2泊3日の熱海旅行を提案したとのこと。聞いた時には、もうつける薬がないと思った。お手上げ状態である。
予算を顧みず、生まれ変わったはずの男性はどこに消えてしまったのか。結婚が見えてきたとたんに、元来のケチな彼の素が垣間見られるようになってきたのである。
彼女にとって、通勤に1時間以上かかる暮らしは考えられない。一生に一度の花嫁衣裳の写真を自由に撮ることができないのもあり得ない。長年夢に見ていた海外ハネムーンをはなから拒絶されたら、絶望に変わるのは言うまでもない。
これはまずい、このままでは交際終了宣言が出てしまう、と思って軌道修正をかけたが、男性もここまできて「結婚は現実だから」と、コスパがいい選択を信念かのように語り、一歩も譲らなかった。
■一番嫌った「無駄な出費」を支払う羽目に
当たり前だが、数日後には先方カウンセラーから「価値観の違いを感じ、交際終了したい」という連絡が入ってしまった。生まれ変わったかのように見えたが、男性の中身は何も変わっていなかった。予算をはるかに超える高級レストランの食事も、プレゼントしたシャネルのハンドクリームも、すべて水の泡と消えたのである。
男性はその後「コスパが悪い」というようなことを告げ、突然顔を出さなくなった。だが、婚活においてコスパを重視するという発想自体が、根本的な何かを取り違えているようにも感じる。パートナーとの交際にコスパを追い求めたところで、真の幸せな結婚生活にたどり着くことができるのだろうか。いまなおモヤモヤする婚活支援であった。

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大屋 優子(おおや・ゆうこ)

結婚カウンセラー

1964年生まれ、株式会社ロックビレッジ取締役。ウエディングに特化した広告代理店を30年以上経営のかたわら、婚活サロンを主宰。世話好き結婚カウンセラーとして奔走。著書に『余計なお世話いたします 半年以内に結婚できる20のルール』(集英社)がある。

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(結婚カウンセラー 大屋 優子)
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