老後は毎月いくらあればいいのか。ファイナンシャルプランナーの高山一恵さんは「毎月12万円程度の生活費でうまくやりくりしている人もいれば、アルバイトを楽しんでいる人もいる。
ただ一つ、重要なポイントがある」という――。
※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんの元に寄せられた相談内容を基に、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。
■国民年金は「6万円未満」になる人が多い
「ぶっちゃけ、いくらあれば安心した老後が送れるの?」というのは、誰もが気になるところではないでしょうか。かつて「老後2000万円問題」もありましたが、皆さんのもやもやした不安について、まさに今、老後生活を送っている先輩の事例から学んでいきたいと思います。
まず、「年金はどれくらいもらえるの?」から確認していきましょう。日本の公的年金は、20歳以上60歳未満の全員が加入する「国民年金」と、会社員や公務員の人が加入できる「厚生年金」の2種類があります。日本の公的年金が「二階建て」と表現されるのは、「一階」のベースとなる国民年金の上に厚生年金が上乗せされるかたちゆえ、です。ちなみに、「三階」にあたるのが、任意で加入するiDeCoや企業年金などになります。
国民年金だけの場合、20歳から60歳までの40年間すべて保険料を納めていると、2025年度は満額で約月6万9000円が受け取れます。ただし、納付忘れなどがあると受給額が減ってしまうため、国民年金の実際の平均受給額は約5万8000円(2023年度)と、6万円未満の人が多いのが現状です。

■公的年金だけで生活費を賄うのは難しい
一方、厚生年金の受給額は給与や勤務年数によって大きく異なること、また男女差も大きいので一概には言えないのですが、男性平均で約16万7000円、女性平均で約10万7000円となっています(注:2023年度、国民年金も含んだ金額)。
ここからわかるのは、国民年金と厚生年金の受給額の差と、そもそも、公的年金だけでは生活費を賄うことは難しい、という現実でしょう。そこで、私のお客さまの中で楽しい老後を送っている3名のケースをご紹介したいと思います。
70代の三輪晶子さん(仮名)は組合職員として長年働き、60歳で退職。現在、国民年金と厚生年金合わせて12万円を受給しています。三輪さんはずっとひとり暮らしで、30歳の時に買ったコンパクトなマンションのローンを退職直前に完済。住居費としては、毎月3万円の修繕積立金を払っています。
■安い食材で作り置き、公共施設をフル活用
12万円だけでは心もとないことと、趣味が手芸ということもあり、ハンドメイドの小物をメルカリなどに出品。それが毎月2万円程度のお小遣いになり、年金と合わせて毎月14~15万円の収入でやりくりをしています。
修繕積立金を引いた11~12万円で暮らせる……? と思われるかもしれませんが、三輪さんを見ていると、十分可能なんだな、と思わされました。
もともと料理好きということもあり、季節の安い食材を使って作り置きをしたり、スーパーのプライベートブランドを利用するなどして工夫をし、食費は3~4万円にセーブ。加えて、「若い時には考えられなかったけど、齢をとると食が細くなるから、自然と食費は減りますよ(笑)」とのことでした。
時々、近所のお友だちと1000円ランチも楽しんでいて、我慢している感はありません。
また、スポーツ施設は公共施設をフル活用することで、お得に健康維持もできているそう。読書はもっぱら図書館を利用し、文化面でも充実した日々を送っています。
■ファストフードや回転寿司チェーンでアルバイト
同じく、70代の本間洋子さん(仮名)は小さな出版社で重役を務めた後に退社し、現在はファストフード店でアルバイトをしています。しかも、週5で! 動機はお小遣い稼ぎでしたが、いざ働き出すと、現役世代との交流が楽しくて、「やみつき」になってしまったとか。「今の人たちは子育ても仕事もあって皆すごく疲れているから、私が元気をあげたいと思うようになった」と話されていました。
また、回転寿司チェーン店でアルバイトをしている60代の横川れいさん(仮名)は、退職するまでは大手企業で働いていたバリキャリ女性。「人のためになれるのが楽しい」と、月10万円ほどバイト代で稼ぐようになり、厚生年金と合わせると月25万円ほどの収入になっています。
もともとキャリアウーマンで、今でも現役で働いている本間さんと横川さんに共通するのは、シフトチェンジの鮮やかさです。そして、お客さまを見ていると、引退後も楽しく働けている方の多くが、女性なんですよね。
■共通点は「持ち家があること」
なぜだろうと自分なりに観察してみたのですが、役職についた高齢男性ほど、退職後に若者と混じってアルバイトを始めることに抵抗を持つ方が多いようなんです。友人から、「マンションの管理人としてやってきたリタイア後のおじいちゃんが、清掃スタッフを顎で使っていて不快」なんて話も聞いたことがありますが、もしかするとその方も、“過去の栄光”を引きずっているのかもしれません……。

老後を生き生きと過ごせるかどうかは、プライドより、自分自身がハッピーで、かつ、それが人のためになっている実感が持てるかどうかではないでしょうか。
ちょっと話がそれましたが、さらに3人に共通しているのが、皆さん、持ち家があることです。先程示したように、賃貸で暮らし続けるには、公的年金だけではかなり厳しい現実があります。マイホームを持つ予定がない場合、まず、老後の住居費用を確保しておくことが何より大切でしょう。
■現役世代はiDeCoで備えるのがおすすめ
現役世代向けとして、老後資産の形成に有効なのは、なんといってもiDeCoです。掛け金の全額が所得控除になるため、住民税や所得税を抑えることができ、運用益は非課税ですので、老後まで余裕のある方は今からでも検討してください。
そして、年金の受給がまもなくという方におすすめしたのは、60歳以降も働く選択肢です。長く働けばその分、老後資金の目減りを先延ばしにできますし、70歳まで加入できる厚生年金を続ければその分、年金の受給額もアップします。
また、年金受給のタイミングを繰り下げるのも手です。基本的な年金の受給開始時期は65歳ですが、66~75歳までは自分の好きなタイミングまで繰り下げ可能で、1カ月受給を遅らせるごとに0.7%ずつ受け取れる年金額が増えます。たとえば、65歳で月15万円の年金を受け取れる方が70歳まで受給を遅らせた場合、月21万円超になります。さらに、増えた年金額は一生変わらないので、その効果が生涯続くのです。

■68歳くらいの受給がいいという試算
ただ、年金額が増えればその分、社会保険料や所得税にも影響する場合があります。また、繰り下げ受給しても遺族年金は増額されないなど、いくつか注意点もあるので、自分や家族の状況などと照らし合わせて、ベストな方法をチョイスしてほしいと思います。
日本人の平均寿命と照らし合わせて損益分岐点をみると、68歳くらいで年金を受給すると、税や社会保険料の負担ともらえる年金額とのバランスが良く、損をしづらい、という試算もあります。
現役世代はしっかり今からお金を育てつつ、来る老後に向けていろんなシミュレーションをしてみてください。

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高山 一恵(たかやま・かずえ)

Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士

慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年前後のお金の強化書』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。

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(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 高山 一恵 構成=小泉なつみ)
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