※本稿は後藤一仁『中古マンション これからの買い方・売り方 絶対に損したくない人のための最強バイブル』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
■都心で購入、郊外で購入、都心で賃貸の3パターンを検証
マンションは「大きな買い物」であると同時に「自分と家族の命を守るもの」であり、「資産」でもあります。そのため、マンション購入経験のない方が、そのときはベストな答えだと思っても結果的に判断が間違っていた場合、その代償は大きく、取り返しのつかないものとなる場合もあるのです。
今からお話をする3組の人たちも「住宅」をどうするかで「選択」を迫られた人たちです。住宅に対する住み心地や幸福度はそれぞれ満足していたのですが、「お金」の面からは、10年後にとても大きな違いが出ました。
■2002年完成の2LDKを4200万円で購入したAさんの場合
①「豊島区内のマンションを購入」を選んだAさん夫婦
都内に暮らすAさん夫婦は、JR新橋(汐留エリア)駅へ通う30代の夫と、東京駅へ通う30代の妻の夫婦でした。数カ月後に子どもが生まれるのを機に、今の手狭な1LDKの賃貸物件から、広い2LDKへ引っ越そうと賃貸マンションを探していたところ、いいなと思える物件は軒並み家賃が高かったのです。「そんなに高い家賃を払うなら、この機会に購入を」と思い、私のもとに10年前に相談に見えました。
Aさんは、夫婦ともに職場が山手線沿線であったため、その頃はオフィスから比較的近い東京東エリアに住んでいました。2011年の東日本大震災で自宅賃貸マンションも結構揺れて、川と川に挟まれている場所でもあったため、液状化や豪雨の際の浸水も心配になり、地盤のよいエリアに買いたいとのことでした。
2014年当時は、アベノミクス・日銀の金融緩和政策が始まっていてすでにマンション価格は上昇傾向にありました。
結局、山手線の他に丸ノ内線も使いたいという希望と利便性、そして予算の関係で豊島区内の山手線北部の駅から徒歩4分(丸ノ内線駅からは6分)の場所に2002年完成の2LDK(62平米)の中古マンションを4200万円で購入しました。
■10年間住んで7200万円で売却、単純計算で3000万円のプラスに
駅ビルと昔からの商店街があり、スーパーなども夜遅くまで営業していて商業施設は充実、都立病院や公園も近くにありとても便利な駅です。当時の駅前は、再開発の途中で価格上昇も期待できました。「丸ノ内線駅の隣駅には、国立大学付属小学校・中学校が3校あり、大学もお茶の水女子大学や筑波大学など複数あり、大きな公園も多く、山手線内側であるのに緑に恵まれている、だからここはきっと価格が落ちづらいに違いない」と、マンション購入に際しての考え方の軸がしっかりしていました。
4200万円で購入した物件が、10年後の2024年に、7200万円で売却できました。
Aさんがマンションを所有していた2014年から2024年にかけての10年間は、都心を中心としたマンション価格の上昇の波にうまく乗れたということもあります。「それにしてもまさか、普通に自宅(マンション)に住んでいただけで、こんなにもキャッシュを得られたなんて、まるで10年間タダで住めたうえに、お金までもらえたようなものですね!」とAさん本人も驚きと喜びを隠せない様子でした。
②「千葉郊外にある3SLDKのマンションの購入」を選んだBさん
Bさんたちは、丸ノ内に勤める夫と、パートで働く妻、当時小学生になる子どもの3人家族。子どもをのびのび育てたいので、緑が多く、広い家(できれば一戸建てで100平米以上、マンションなら最低でも80平米以上)が都内で欲しかったらしいのですが、都内ではどうしても予算の関係で自分たちの希望を叶える物件がなかなか見つかりません。
悩んだあげくに、妻の実家が千葉県だったこともあり、いっそのこと緑の多い千葉郊外のJR内房線の駅にしたらどうかという妻の意見に、東京駅と千葉駅の2カ所のオフィスに通う必要があって、週に何日かはテレワークの日もあるという夫が同意し2014年に、千葉郊外に2005年完成の3SLDK(87平米)の中古マンションを購入。
都内に比べれば、マンション価格があまり高くはなく、物価も安く、日々の生活が楽。
ところが、夫の仕事の都合で、どうしても引っ越さなければいけなくなり、マンションを売りに出そうと、近所の不動産会社に価格を聞いてみました。マンション価格は上がっていると聞いていたのに、査定額のあまりの低さにがく然としてしまい、本当にそんなものなのかを確認したいと、私のもとへ相談に見えました。
■3500万円の3SLDK、売却しようとすると約2600万円に…
Bさんが10年前に購入したマンションは、JR内房線の駅から徒歩9分のところにあり、最寄り駅から千葉駅まで内房線で20分強、千葉駅止まりではない電車に乗れば、最寄り駅から東京駅まで乗り換えなしで1時間強で行けます。3500万円で購入し、ご相談に見えた時点でまだローンが25年残っていました。購入時は諸費用分245万円を自己資金でまかない、3500万円は住宅ローンを利用(借入期間35年、変動・適用金利0.77%、ボーナス返済なし)、月々の返済は9万5092円とのことでした。
そこで、現在、売却想定額を査定すると、売れる金額は2600万円くらいでした。住宅ローンの残債はまだ2594万円以上あり売却想定価格ぎりぎり(諸費用を含めれば赤字)です。
また、「貸す場合はいくらで貸せるのか?」を査定してみたところ、月10万円くらいでした。毎月出ていく住宅ローンの支払い(9万5092円)と管理費など(計2万7000円)や固定資産税の月割り(6667円)が月計12万8759円なのに、入ってくる家賃が10万円では貸すと赤字になってしまいます。
それに、もし貸し出すとなると10年間住んでいるのでやはり汚れが気になり、クロスを取り替えたり、キズや設備の不具合を直したり、ハウスクリーニングもする必要があり、その分の費用が別途かかります。
■「不動産価格は下落する」と信じ、17万円超えの家賃を払い続けた場合
③「文京区の賃貸マンション」を選んだCさん
Cさん夫婦は、文京区の賃貸マンションに暮らす、お二人とも霞ヶ関に通う40代後半の落ち着いた雰囲気のご主人と奥様でした。
どこかで「家は買わないほうがいい」といった記事を読んだらしく、「今までずっと賃貸マンションにいました。ただ、夫婦とも50歳という年齢が見えてきて、このまま一生賃貸でいいのかがふと不安になり、相談に来ました」とのことでした。
10年前に賃貸の更新が来たときに、家賃も安くないしこのまま更新料を払うのはなんだかもったいなく思えて、いっそのこと購入しようかと思ったときがあったそうです。当時は価格が上昇基調だったので、「東京オリンピック開催後に価格が下落するのではないか」という記事を見て値下がりを期待したり、「これから日本はどんどん人口が減っていくのだから、そのうち不動産価格は下がるに違いない」といった意見にも影響され、購入に踏み切れないまましばらく賃貸で様子を見ているうちに、どんどん価格が上昇してしまい、買うタイミングを失って結局10年間、そのまま賃貸マンションで暮らしていました。
■購入か賃貸か、10年でここまで住宅費の差がついていた
この「住まいをどうするか」で迷った3組の人たちは、いったい住宅に関して現在、手元にいくらのお金が残ったのか(あるいは出て行ったのか)を、もう少し具体的に計算してみましょう。
Aさんは手元にいくら残ったのか?
62平米の中古2LDKマンションを価格4200万円で購入し、10年後、7200万円で売却できたAさん。結果的には、10年間家賃がかからず無料で住めたうえに、売却によって現金を手にしたことになります。
実際には、購入や売却にともなって手数料などの経費もかかり、10年間の管理費などや固定資産税などの支出もあったので、いくら手元に残ったのか、具体的に見てみることにします。
・購入時の諸費用 294万円
(物件価格の約7%。諸費用とは収入印紙代、登記関係費用、ローン関係費用、仲介手数料、各清算金などのこと)
・売却時の諸費用 250万円
(ローン関係費用などが大きく削られるので購入時の諸費用より安くなります)
・管理費・修繕積立金 約300万円
・固定資産税・都市計画税 約120万円
これらの費用の合計は964万円です。
■諸費用を引き、減税額を換算すると、トータルで2884万円プラス
・売却価格7200万円-かかった費用の計964万円=6236万円
・住宅ローン4200万円(借入期間35年、変動・適用金利0.77%、ボーナス払いなし)、10年後の残債は3551万9100円
よって、6236万円-3551万9100円=2684万900円
Aさんの10年間の収支を見ると、約2684万円が手元に残ったことになり、さらに、住宅ローン控除にて、10年間で200万円の税額控除を受けたので、その分を加えると2684万円+200万円です。Aさんはなんと2884万円もの現金が残ったかたちになります。
■87平米の中古3SLDKマンションを3500万円で購入した場合
Bさんはどうだったのか?
87平米の中古3SLDKマンションを価格3500万円で購入したBさん。まだ実際に売却はしていませんが、10年後、仮に価格2600万円で売却したとするとどのようになるのか計算してみましょう。
・購入時の諸費用 245万円(物件価格の約7%)
・売却時の想定諸費用 97万円
・管理費・修繕積立金 約324万円
・固定資産税・都市計画税 約80万円
これらの費用の合計は746万円です。
・売却想定価格2600万円-かかった費用の計746万円=1854万円
・住宅ローン3500万円(借入期間35年、変動・適用金利0.77%、ボーナス払いなし)、10年後の残債は2594万円
よって、1854万円-2594万円=▲740万円です。
Bさんの10年間の収支を見ると、740万円が出ていったことになります。
ただし、住宅ローン控除にて、10年間で200万円の控除を受けたので、その分を考慮すると▲740万円+200万円で、540万円が出ていった結果になります。
■売却額が購入額を下回っても、賃貸で家賃を払うよりは得
しかし、仮に賃貸で同じマンションに10年間住んでいたとすると、次のように計算できます。
・支払賃料計 1200万円(月10万円×12カ月の年間120万円×10年)
・支払更新料 40万円(2年ごとに新賃料の1カ月分を4回、賃料変動はなし)
・入居時の礼金 10万円(賃料の1カ月分)
・敷金 10万円(賃料の1カ月分)
・仲介手数料 10万8000円(賃料の1カ月分と消費税、10年前は消費税率8%)
・保証委託料 14万円(入居時に賃料の50%、2年目以降毎年1万円として)
・退去時 +5万円(敷金が50%返還されると仮定)
まとめて計算すると、1279万8000円です。
仮に同じマンションに賃貸で10年間住んでいたとすると、1279万8000円かかるので、Bさんは賃貸で借りていたよりは約739万円得だったことになります。
10年間で出て行ったお金が540万円であれば、月換算で4万5000円となり、賃貸で借りる場合の賃料相場(10万円)に比べ、半分以下で住めていたことになります。
■10年間、17万7000円の家賃を払い続けるとトータル2258万円
Cさん夫婦は、この10年間、購入せずに賃貸マンションに住んで価格が下がるのを待ちながら様子を見ていました。実際に支払った金額はいくらだったのでしょうか。
Cさんの借りている賃貸マンションは「分譲賃貸」で、区分所有マンションを借りていました。そのマンションの10年前の価格は5300万円で当時のそのエリアの賃料相場は物件価格の4%が一般的で、Cさんの賃料もおおむねそのくらいに設定されていました。
・賃料は月額17万7000円(5300万円×4%=年間212万円)
計2124万円(月17万7000円×12カ月(=年間212万4000円)×10年)
・支払更新料 70万8000円(2年ごとに新賃料の1カ月分。賃料変動はなしとのことなので、賃料17.7万円×4)
・入居時の礼金 17万7000円(賃料の1カ月分)
・敷金 17万7000円(賃料の1カ月分)
・仲介手数料 19万1160円(賃料の1カ月分と消費税、10年前は消費税率8%)
・保証委託料 17万8500円(入居時に賃料の50%、2年目以降1万円として)
・退去時に敷金 +8万8500円(50%返還されると仮定)まとめて計算すると、2258万316円です。
■不動産価格が上がっている時期は、購入した方がけっきょく得
Cさんは賃貸で借りていたので、当然ながら、賃料や更新料、保証料を払い続けていた分、約2258万円のお金が出ていきました。
なお、鍵の交換費用や火災保険料は、賃貸の場合でも購入の場合でも基本的にかかるので、ここでは比較対象の計算には入れていません。
ここで紹介した3組の住宅にかかる10年間のお金をまとめると、こんなにも差がついていたことがわかります。
【10年間の「お金」まとめ】
Aさん 2884万円の現金が手元に残った
Bさん 540万円が出ていった(ただし、賃貸で借りるよりは約739万円の得)
Cさん 2258万円が出ていった
Cさんは賃貸で借りていたので、当然ながら、賃料や更新料、保証料を払い続けていた分、約2258万円のお金が出ていきました。
なお、鍵の交換費用や火災保険料は、賃貸の場合でも購入の場合でも基本的にかかるので、ここでは比較対象の計算には入れていません。
ここで紹介した3組の住宅にかかる10年間のお金をまとめると、こんなにも差がついていたことがわかります。
----------
後藤 一仁(ごとう・かずひと)
不動産コンサルタント
1989年から36年以上、常に顧客と接する第一線での不動産実務全般に携わる。大手不動産会社のハウジングアドバイザー、東証一部上場企業連結不動産会社の取締役を経て、「誰もがわかりやすく安心して不動産取引ができる世の中」をつくるために株式会社フェスタコーポレーションを立ち上げ、代表取締役に就任。首都圏を中心に不動産の購入、売却、賃貸、賃貸経営サポートなどを行う。著書に『東京で家を買うなら』(自由国民社)、『マンションを買うなら60m2にしなさい』(ダイヤモンド社)がある。
----------
(不動産コンサルタント 後藤 一仁)