※本稿は、北宏志『教え方の一流、二流、三流』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■部下のために最初に考えるべきことは「教え方」ではない
教える前に
三流は、部下と話すのは無駄と考え、
二流は、とりあえず教え方を学び、
一流は、どうする?
会社で働いていると、部下を持つことは避けられません。
「人を育てるのは苦手」だと思っている人でも、ある日突然上司になる可能性があります。
部下を持った時、「そもそも人を育てるなんて……」という姿勢で、「考えの違う部下と話すのは無駄」「勝手に育つだろう」「こちらの言うことだけ聞いてもらえれば」などと考えていては、当然ながら人は育ちません。
上司になる経験は、ステップアップです。せっかくのチャンスを生かすために、まずは教え方を学ぶという発想も大切です。
多くの人は教え方を学ぶ機会がありませんでした。正しい教え方を知らなければ、自己流の誤った指導・教育で部下の可能性をつぶしてしまうリスクもあります。
しかし、最初に考えるべきことは、実は「教え方」ではないのです。
上司も部下も1人の人間です。
これまで育ってきた環境や経歴、好きなこと、考え方……すべてが異なる人同士が一緒に働くためにはまず、関係づくりが必要になります。
例えば、友達になりたいと思う相手に対し、“友達のつくり方”を学んでから話しかけようとする人は、あまりいないのではないでしょうか。
■「人と人として」の適切な関係を築くことが大事
会話を重ね、少しずつ相手を理解し、自分を知ってもらい、心地よい関係づくりができた時、「友達だ」と言える間柄になりますよね。
それは、上司と部下というかたちで知り合った者同士であっても、同じです。
教え方というスキルを身に付ける前に、まずは積極的にコミュニケーションをとり、相手の話を聞き、考え方を理解する。
相手の好きなものや苦手なことを知り、頭のなかにあるキャリア設計を共有してもらう。こういったプロセスを経て、「信頼できる上司」であり、「安心して任せられる部下」になることができるのです。
最近の若者像として、オンとオフをはっきりしたい、プライベートのことを話したがらないなど、上司とのコミュニケーションを好まないかのようなイメージが語られています。しかし、必ずしもそうではありません。
そもそも、適切な関係を築くことは世代に関係なく、大事にしたいポイントです。
しっかりとコミュニケーションをとり、人間関係を築いたうえで、今時の部下の特性や、自社の方針を踏まえ、教え方というスキルを発揮し、自分で考え、動ける社会人を育成していく。
それこそが上司に求められていることなのです。
Mastery of Teaching
一流は、まず関係づくりを大切にする
「教え方」を知る前に「関係づくり」を始める
■部下の実績を根拠に「信用」を築く
部下に対して
三流は、疑い、
二流は、信頼し、
一流は、どうする?
部下を持つことになった時、「この子は大丈夫だろうか」「ちゃんとしているのだろうか」と疑いを持って接すれば、その時点でいい関係を築くことが難しくなります。
誰だって、相手に信じてもらえていないと分かれば、自ずと壁をつくってしまうでしょう。
では、部下を信頼すれば、良好な関係性を築けるかというと、それも少し違います。
信頼とは、未来や相手の人間性を信じることだと言われています。もちろん、部下の将来性や人間性を「信じるな」とは言いません。
しかし、まだ一緒に業務に取り組んでいない部下に対し、「きっと大丈夫だろう」「うまくやってくれるだろう」という未来の在り方を信頼するのはあまりにも楽観的であり、部下を指導・教育する立場としてはふさわしくないでしょう。
そこでより重要になるのが、信頼ではなく、信用。
つまり、部下の過去の実績を根拠に、相手を信じることなのです。
「きっと君なら、うまくできると思うから、任せるよ」が信頼。
対する信用は、「前にこの業務に取り組んだ時、しっかりと完成させられていたね。だから、今度のこの業務も、その経験を応用できれば、うまくできると思うよ」となります。
■人間関係の基本は信用から始まる
部下の視点からも考えてみましょう。
「きっと大丈夫だと思うから、任せるよ」と言われて「任せてもらったから頑張ろう」と捉える部下も、もちろんいるでしょう。
一方で、「いやいや、まだやったこともないことに対して、きっと大丈夫というのは無責任では……」と捉えたり、「あまりにも丸投げでは……」と感じたりしてしまう部下もいるかもしれません。
それに比べ、信用ができている上司は、きちんと実績を認めています。
部下からすると、自分のことをきちんと知っていてくれる、さらに評価してくれているという状態です。
また、今の若い世代は「承認欲求」が強いと言われています。
上司が部下を信用している状態は、この承認欲求が満たされている状態と言い換えてもいいでしょう。
私は研修などで担当する若者たちに、「上司や先輩から信用を得て、それから信頼を得るように頑張ろう」と伝えています。
たとえ上司と部下という関係性であっても、人間関係の基本は信用から始まると考えてみましょう。
Mastery of Teaching
一流は、過去から相手を「信用する」
部下の実績を積極的に認める
■今の時代、進捗を細かく確認する指導はNG
マネジメント
三流は、思い通りに動かそうとし、
二流は、細かく確認し、
一流は、どうする?
部下にどのように接したらいいか。
これは多くの上司が迷いながら、正解を求めているものでしょう。
時に、部下を自分の“手下”だと勘違いし、思い通りに動かすためにガチガチに締め上げた指導をする方がいらっしゃいますが、これはNG。
進捗状況を頻繁に細かく確認する、というマネジメントをしている方もいるでしょう。
これは、業務の抜け漏れをなくすという点では、妥当な方法かもしれません。
しかし、このようなマネジメントをする理由が、“うまくいっているか心配だから”という上司都合の場合、部下は信用されていないことに不満を感じる可能性があります。
一流が行うマネジメントは、いつもは放任し、緊急時には的確な指示を出すというスタイルです。
業務が滞りなく進捗している時は、部下のやり方で進めて問題ありません。
もちろん、期限を守るとか、決められたやり方で進めるといったルールは守る必要がありますが、あえて上司側が細かく、ルールが守れているかを確認する必要はないでしょう。
このような姿勢をとることで、部下を信用しているというメッセージを伝えることができます。
■部下が答えを求めている時に「一緒に見つけ出す」
業務を進める際は、起こってほしくないことではあるものの、トラブルが発生したり、ミスが発覚したりといった緊急事態が起こることがあります。
そんな時こそ、上司の出番です。
現状を速やかに把握し、どう対処すべきか、どこに落としどころを見つけるかなどを判断し、適切な指示を出しましょう。
ここで“部下任せ”にしてしまっては、上司と部下の関係を築くことはできません。
また、緊急時だけでなく、部下が壁にぶつかっている時や、アドバイスを必要としている時も、積極的にコミュニケーションをとり、指示を出すようにしましょう。
注意すべきは、緊急時とは違い、このような場合には部下と一緒に“答え”を探すスタイルをとるべきだということ。
すぐに正解を示すのではなく、一緒に見つけ出すマネジメントの姿勢が重要です。
Mastery of Teaching
一流は、いつもは放任、緊急時に指示を出す
細かく確認をしないことが部下へのメッセージになる
■少し気が利く上司はマニュアルに+αを教えることが出来る
どう教えるか
三流は、マニュアル通りに教え、
二流は、マニュアルに補足を加え、
一流は、どうする?
部下に仕事を教える場合、あなたはどう教えてきましたか。
あるいは、どう教えられてきたでしょうか。
おそらく、自分が教えられたやり方を踏襲する人が多いでしょう。
では、教えられてきたプロセスを振り返ってみて、不満に思ったことはなかったでしょうか。
一般的に、業務にはある程度の手本、つまりマニュアルが存在しています。
マニュアルとは、あくまで最低限のノウハウが書かれたものです。
書いてある通りにやってみても、その通りにはできなかったり、追加で質問の必要があったり、不備があり差し戻されてきたりという経験を持つ人もいるでしょう。
少し気が利く上司であれば、マニュアル+αのことを教えてくれます。
自身の経験を踏まえたやり方を教え込むことで、部下が不要な面倒を避けられるよう、レールを敷いてあげるのです。
敷かれたレールの上は安全で、失敗もないかもしれません。
しかしそれでは、自発的な姿勢は生まれず、成長にはつながりません。
大切なのは、部下のやり方を見て、それを尊重し見守ることです。
マニュアルを見ながら進めたい人、まずは自分の考えでやってみたい人、困った時にはすぐ助けてほしい人、困難を自分の手でコツコツと乗り切るのが得意な人……。
■口出しする前に、部下のやり方を尊重する
人はそれぞれ自分なりの考えややり方を持っています。
あなたのやり方に部下を染めるのではなく、部下がどんな考えで、どんなやり方をするのかを見守る姿勢を大切にしましょう。
ここでのポイントは“尊重”です。
人はつい、特に上司という立場にいると、何か言いたくなってしまいます。
「こっちのやり方の方が速いんじゃない?」とか「そこはそうじゃなくて、こうするべきだ」などと口を出したくなる気持ちをぐっと抑え、まずは相手のやり方を尊重しましょう。
見守ることは、放置することとは異なります。
しっかりと見守っていることを示し、時に部下が悩んでいるようであれば、「どうすればいいか、一緒に考えよう」と歩み寄る姿勢を見せてください。
Mastery of Teaching
一流は、相手のやり方を尊重し見守る
自分流に部下を染める必要はない
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北 宏志(きた・こうじ)
人材育成コンサルタント
ポールスターコミュニケーションズ 代表取締役。大学卒業後、立命館大学に関係する中高一貫校で社会科教諭として勤務。その後、「ララちゃんランドセル」を製造・販売する(株)羅羅屋に転職。中国での駐在中は経営幹部として部下80名を束ね、中国国内の売上を3年間で9.7倍に拡大させ黒字化させる。
日本とアジアの架け橋となり、教育をより良くしていきたいという思いから、日本に帰国後、人材育成コンサルタントとして独立。新入・若手社員の研修を中心に全国35都道府県で1,000回以上の登壇実績を持ち、これまでの受講生は25,000名を超える。
著書に、『新しい教え方の教科書 Z 世代の部下を持ったら読む本』(ぱる出版)、『ビビリの人生が変わる逆転の仕事術』(三才ブックス)がある。
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(人材育成コンサルタント 北 宏志)