台湾初のティーカフェ専門店「ゴンチャ」が好調だ。タピオカブーム全盛の2019年の店舗数は57だったが200店近くに拡大しているという。
ライターの圓岡志麻さんが「ゴンチャ ジャパン」を取材した――。
■ブームは去っても売り上げ増
2010年代終わりのタピオカブームで一気に増えたタピオカ屋。ブームが去ると高級食パン店に、あるいは唐揚げ屋にと変わり、それらも今は消えている。
唯一と言える生き残りが貢茶(ゴンチャ)だ。しかもブーム全盛の2019年時点で57店舗だったが、現在(5月末時点)では195店舗まで拡大し、客数は倍増。チェーン全体の売り上げは前年比150%超、既存店ベースでも120%超と、大幅な成長を遂げている。ブームが終わり、コロナ禍の影響もありながら、なぜ売り上げを伸ばすことができているのか。2025年3月12日にオープンした原宿神宮前店を訪ね、その秘密に迫った。
店舗を一目見て印象的なのが外観、内観に採用した鮮やかな赤。これまでの店はアジアンな雰囲気を強調したデザインだったが、こちらはモダンで、原宿の街にふさわしいファッション性が感じられる。
店内は明るく、開放感があり、「クルー」と呼ばれる店舗スタッフの並ぶカウンターがすぐに目に入る。人の列もなく注文しやすそうだ。
平日朝という時間帯もあるが、有人レジ以外に店内設置のセルフオーダーレジ、LINE登録すると利用できるモバイルオーダーを併用し、スムーズな注文が可能になっているのだ。
■トッピングで無数の組み合わせ
今回は、選ぶ人が多いという限定ドリンクのうちから「ストロベリーアールグレイミルクティー」(Mサイズ570円)を選択。甘さはゼロ、氷なしにし、パール(黒いタピオカ)をトッピングしてもらった。
果肉入りのストロベリーソースにもちもちとしたパールがからみ、食感とほのかな甘みを楽しめる。パールは店内で仕込んでいるそうだ。
なお、メニューのドリンクカテゴリは7種類あり、それぞれ茶葉やフレーバーが選べる。例えば、ミルクティーのカテゴリには、日向夏和紅茶、烏龍、ブラックティー(紅茶)、阿里山ウーロン、ジャスミングリーンティーなど、9種類が並ぶ。
さらに4種類から選べるトッピングや、ミルクからアーモンドミルクへの変更、さらに甘さ調節などを加えると無数の組み合わせが考えられる。このようにお茶自体の種類が多い上に、トッピングなどで自由にカスタマイズできるのが、ゴンチャの特徴でもあり、女性を中心にファンを獲得してきた理由でもあるのだ。
今回、ゴンチャ ジャパン経営企画本部長の酒井洵氏にも取材し、商品のこだわりや、ブームを越えて続く人気の理由について聞いた。
■お茶のマーケットが拡大してきた
酒井氏によるとゴンチャは、コロナ禍でも出店を継続。年に約20店舗のペースで順調に出店してきた。
ブームが終わっても拡大し続けている理由については「コンビニなどのペットボトル入り飲料も含めて、お茶のマーケットが拡大してきたため」と分析している。
ゴンチャは2006年、台湾でスタートし、世界に2000店舗まで拡大してきた。日本へは2015年に上陸。その数年後にタピオカブームが到来したが、あくまでも「お茶のブランド」として訴求を続けてきた。
品質のよい茶葉にこだわり、烏龍、阿里山ウーロン、ブラックティーなど、それぞれの茶葉に適する抽出時間や温度で旨みを引き出す。
そのお茶をベースに、フルーツや果肉感のあるシロップ、ミルク、タピオカを加え、新しい感覚のドリンクとして販売。またフレッシュな状態で飲んでもらうため、一定時間以内に作られたものだけを提供しているのだという。
■メニュー数やオペレーションを見直した
タピオカブームの頃は出店のたび行列ができるほどの人気に。現在は店舗も増え、メニュー数やオペレーションを見直したことなどで、さほど並ばずに注文ができるようになった。とはいえ、週末は行列ができることもあるそうだ。
顧客層としては、タピオカブームの時は10~20代女性が9割以上。今は若者に加え、30代以上の女性、男性も増えてきた。

またリピーターが多いのが特徴で、LINEの友だち登録数が240万人以上、モバイルオーダー登録が130万人以上。モバイルオーダー登録者のうち1年以内に再来店するのが8割だが、その3割は月1回来店するヘビーユーザーだそうだ。
つまりブーム時代のファンもしっかり継続させつつ、新規客層もバランスよく獲得してきていると分析できる。タピオカ、つまりパールの注文率としては、ブーム当時がほぼ100%、現在は約7割というところ。
このようにゴンチャがお茶のブランドとして根付いてきたことも、日本のお茶市場拡大に一役買っているのでは、と酒井氏は自負する。
お茶のチェーンとしては、2017年にスタートし、39店舗を展開する「タリーズコーヒー &TEA」、2020年からスタートし現在19店舗となった「スターバックス ティー&カフェ」などの競合があるが、「一緒にティー文化を盛り上げる存在」と見ているそうだ。
■デジタルを活用したオペレーション
茶葉ごとの最適な抽出時間、温度の調整に加えて、組み合わせで無数に広がるメニューバリエーション。茶葉へのこだわりとカスタマイズという、ゴンチャ最大の特徴を支えるのが、スタッフによるオペレーションだ。相当複雑になりそうだが、どのように対応しているのだろうか。
「デジタルの力を活用し、茶葉に応じ、ボタンを押せば最適な抽出を行えるよう、仕組み化している」と酒井氏。
確かに、原宿神宮前店ではカウンターから商品を作っている様子を見渡せるのだが、スッキリと片付いていて、効率的に作業している印象を受けた。オペレーションがスタッフに負担をかけていないということだ。

というのもゴンチャの運営における優先順位は、①従業員、②客、③売り上げなのだそう。従業員が楽しく働けてこそ、客へのサービス品質が向上し、最終的に売り上げにつながるからだ。
また従業員満足度を上げる対策としては、オペレーションの仕組み化による生産性向上のほか、店長教育を重視している。さらにクルーが考案したドリンクアイデアが商品化されるイベント企画やサービスコンテストなど、モチベーションアップの取り組みも取り入れているそうだ。
■30人の募集に300人が応募
「クルーになるのはほとんどがゴンチャのファン。採用時は多いときだと30人の募集に300人が応募する。またスタッフが辞めなくなる。採用費用、トレーニングコストが低く済むため中期的に見てもメリットが高い」
なぜ、それほどまでにアルバイトが集まるのか。実際に働いているクルーにゴンチャで働く理由をヒアリングしたところ、
「ゴンチャで働いている人はキラキラして見える(陽キャが多い印象)」

「ゴンチャのドリンクが大好きで、クルードリンク制が魅力的」

「髪色自由なことがうれしい」

「学生が多いイメージがあり、仲間と働くのが楽しそう」

「ゴンチャのファンだから」
との回答があったそうだ。なお、クルードリンク制とは、出勤時に好きなドリンクを飲める制度のことだ。すべての店舗での商品の割引もある。
ちなみにゴンチャが採用するのは、「一緒に働く仲間の気持ちに寄り添える共感性の高いクルー」だそう。

学生の憧れのバイトといえばスタバ一強だったが、そこにゴンチャか食い込んでいるのかもしれない。
さらに言えば、ゴンチャは約200店舗のうち約2割が直営、約8割がFCだ。仕組み化されたオペレーションはFC運営においても有利だろう。そのほか、店舗トレーニングや定期的なチェック、レシートアンケートを行うなど、全体での商品・サービス品質の維持に注力しているという。
このように、ティー文化の充実を掲げて成長してきたゴンチャ。実は今、変化が起こってきている。ゴンチャのグローバル本社はアメリカの投資会社TAアソシエイツの傘下にあり、現在、イギリスを拠点としている。店舗網を広げているアジアのみならず、中東、フランス、ベルギーなど、さらに世界展開を目指しており、イメージ戦略においてもよりグローバル色を強める方針へと転換してきたという。
その一環としてゴンチャ ジャパンでもテスト店舗であるコンセプトストアの展開など、新たな動きが始まっているのだ。実は、今回訪ねた原宿神宮前展はその第1号店。2号店の大宮店が4月3日に、3号店の秋葉原が5月30日にオープンしている。
■フードの提供も始めたコンセプトストア
コンセプトストアでの狙いが「体験価値の訴求」だ。
ストア限定のドリンクだけでなく、フードやグッズも展開する。またコンセプトストアではテーブル席や、並んで座れば2名ででも利用できる「1.5人席」などを設置した。
なお、フードについてはちょっとしたスイーツを除き、日本では初めての試み。
利用機会の拡大が狙いだ。
「週末が混み合うことからもわかるように、利用機会が週末などに限定されていた。ランチ需要なども掘り起こしたい。コンセプトストア3店舗でテスト運用していく」(酒井氏)
■新しい「学割」も始まる
さらに店舗展開については、2028年に400店を目処に、カフェチェーンに匹敵するお茶のチェーンとして成長を目指す。
ターゲット拡大にも力を入れる。「若い層に楽しんでもらいたい」との方針から、2020年頃より学割サービスを開始。運用方法は都度、変えてきたが、学生証を提示すると学割の対象ドリンクが100円程度安くなるというものだった。
それが7月10日より、学生にこだわらず6~22歳が割引対象となる「ENJOY U22割」に拡大する。公的証明書か、My Gong cha会員の場合は会員証を提示すると適用となる。
実は学割については、公平性という意味でネガティブに捉えられる見方もあり、あまり大々的に宣伝していない時期もあった。しかし他のチェーンでは例のないユニークなサービスで、「若者応援」の企業姿勢もわかりやすい。家族のファンも増えそうだ。せっかく長く続けてきたので、大事にしたらよいのではないだろうか。
日本市場でのお茶文化の広がりとともに、ブランドを定着させてきたゴンチャ。コンセプトストアに象徴される新しい試みが、若者のみならず既存ファンの心を掴めるかが、今後の成長の鍵を握る。

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圓岡 志麻(まるおか・しま)

フリーライター

東京都立大学人文学部史学科卒業後、トラック・物流の専門誌の業界出版社勤務を経てフリーに。健康・ビジネス関連を両輪に幅広く執筆する中でも、飲食に関わる業界動向・企業戦略の分野で経験を蓄積。保護猫2匹と暮らすことから、保護猫活動にも関心を抱いている。

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(フリーライター 圓岡 志麻)
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