※本稿は、北宏志『教え方の一流、二流、三流』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■マネジメントで部署での人間関係以外に見ておくべきもの
部下の人間関係
三流は、特に知らず、
二流は、部署内の関係性を知っており、
一流は、何を知っている?
当然ながら、会社はあなたと部下だけで成り立つものではありません。
会社において、1つの単位となるのは部署という枠組みです。
同じ目標に向かい、近い業務をする部署において、良好な人間関係を築くことは大変重要です。
上司として、部下を指導・教育する際、部署のなかで、部下がどのような存在なのかを認識しておくことも大切なことなのです。
比較的見えやすい部署での人間関係だけでなく、さらに一歩進んで、注意して見ておきたいものがあります。
それが、部下の同期や同世代との関係性です。
おそらく多くの方に経験があると思いますが、同期や同世代の同僚は、会社で働く人にとって、とても大きな存在になります。
楽しいことを共有し、つらいことを励まし合い……こういった人間関係は社会人として成長していくうえで、欠かせないものでしょう。
逆に、同期や同世代間の人間関係の悪化や変化は、仕事へのモチベーションや、成果にも大きな影響を与えます。
ネガティブな例を出せば、同期や同世代が転職を考える時期になると、「自分もそろそろかな……」と、仕事へのモチベーションを低下させてしまうということも考えられます。
■職場での孤立は早期退職につながってしまう
上司という立場では、同期や同世代の人間関係にはいい面、悪い面の両方があることを認識してください。
そのうえで、部下が今どのような関係性のなかにいるのか、どんな環境なのか、変化はないかという点にも気を配ってみてください。
もちろん、本人から直接聞く話だけでなく、周りの様子を見て知る情報もあります。
上司という立場の人が適切な人間関係を築けているのであれば、このような情報は無理をして集めずとも、自然と耳に入ってくるものでしょう。
もしも同期との関係があまり良好ではないように見受けられた場合は、部署やチーム内での人間関係づくりがよりスムーズになるよう、積極的に声をかけ、様子を見守りましょう。
職場において孤立してしまうことは、早期退職のリスクにもつながります。
これら、本人からの情報と周りからの情報をバランスよく把握しておくことで、今このタイミングの部下がどのような状況にあるのかを知ることができるのです。
Mastery of Teaching
一流は、同期・同世代の関係性を知っている
周りからも情報を仕入れる
■「苦手なことを克服する」ことだけが仕事の成長か
個性の生かし方
三流は、考えを押し付け、
二流は、苦手なことを克服させ、
一流は、どうする?
人にはそれぞれ、個性がありますよね。
運動が好きな人もいれば、苦手な人もいます。直感で行動するのが得意な人もいれば、しっかりと下準備をして物事を進める人もいます。
仕事においても、このような個性は大きく影響するものです。
例えば、同じ営業でも、データや理論を使って相手を説得するタイプと、“なんとなく相手から好かれる”タイプがいるでしょう。
「営業だからこうすべきだ」という固定観念で部下を指導してしまうと、せっかくの個性が発揮されません。
だからと言って、苦手なことを避けて通るばかりでは、仕事になりませんよね。
苦手なことを克服することで、部下は大きく成長することができます。
しかし一方で、苦手なことではなくなったにしろ、あまり得意ではないことをずっと続けていて、人は楽しいと感じるでしょうか。
やらされているのではなく、自分がやりたいからやる。
部下にそう思ってもらうには、部下の「得意」を生かせる環境を用意することが必要です。
■相手のタイプ別「力を最大限に発揮させる方法」
例えば営業職の場合、次のように考えることができます。
・アイデアを次々生み出す、スピード感のあるタイプ
顧客とのやり取りのなかで、新たなアイデアを生み出しスピード感をもって実現していくメンバーには、最初からある程度の判断権や裁量権を渡してみましょう。
・安定した売上をつくる、コツコツタイプ
コツコツと関係性を積み上げ、時間はかかるものの安定した売上をつくれるメンバーには、短期的な目標ではなく、中長期的スパンで成果を評価するかたちが合っています。
同じ営業職だからと言って、まったく同じ接し方や目標設定をしては、彼らが本来持つ力を最大限発揮させることはできません。
個性に合ったやり方で働ける環境をつくれば、彼らはより主体的に動き、大きな成果を上げてくれるのです。
上司がすべきこととは、部下が得意なことをいかに発揮させられるかを考えること。
「この分野のスペシャリストはあなただね」
「こういう時は、あなたに任せるのが一番」
第三者からこんな風に感じてもらえる存在に部下がなってくれることは、人を教え、育てることの醍醐味なのです。
Mastery of Teaching
一流は、得意を生かせる環境を用意する
一人ひとりに合った環境を考える
■「あなたに興味を持っています」と伝える魔法の言葉
職場で見えない一面
三流は、自分のことばかり伝え、
二流は、部下の趣味を知っていて、
一流は、何を知っている?
先ほども少し触れたように、最近は、若い世代のなかで、仕事とプライベートをはっきり分けて考える人が増えていると言われています。
業務時間外の宴会に参加しない人も多く、人によっては、プライベートな質問をされたくないという場合もあります。
いい関係を築くために、もっと部下と会話をしたいと考える上司は多いでしょう。
しかし、「嫌がられるかもしれない」「聞かれたくないかもしれない」と遠慮し、自分のことばかりを話してしまう人をよく見かけます。
これは会話ではなく、自分語りです。
コミュニケーションにおいて大切なのは、“あなたに興味を持っていますよ”という意思を示すことです。
その第一歩は相手のことをたずねるところから始まります。
「あなたの趣味はなんですか」「あなたが今、熱中していることはなんですか」と、自分のことを聞かれたら、あなたもうれしく感じるのではないでしょうか。
まず、相手の好きなこと、興味関心があることを聞くことで、いい関係性を築けるようになっていきます。
ここでもう一歩、踏み込んだ関係性を築くための魔法の言葉をご紹介しましょう。
それは「休日は何をしているの」という質問。
この質問の回答や、その後のやり取りからは、その人の人となりを知ることができます。
■どんな答えでも相手を否定しない
「サッカーをしています」であれば、学生時代からやっているのかとか、好きな選手についてなど、相手の興味のある分野についてより詳しく話を聞くことができるでしょう。
「映画鑑賞」であれば、最近見た映画や、これまでで一番印象に残っている作品を聞いてみるのもいいでしょう。
ここからより深く相手を知るためには、「どんなところがいいの?」とか「最近のおすすめはなに?」と、会話のキャッチボールを意識した問いかけを行うことがポイントです。
ここで1つ、気を付けるべきことは、相手の回答を決して否定しないこと。
「寝てます」と言われて、「そんな過ごし方もったいない……」と答えてしまったり、「推し活です」という回答に対し、「お金の無駄じゃない」と言ってしまったり、とにかく否定をしないようにしましょう。
このような反応をしてしまうと、部下は「せっかく話したのに……」とがっかりしてしまうでしょう。
もしも部下があなたからの質問に回答をしたくなさそうであれば、無理強いする必要はありません。体調や仕事の状況などについて短いキャッチボールをコツコツと続けることで、少しずつ関係性を深めていけるよう努めましょう。
Mastery of Teaching
一流は、「休みの日の過ごし方」を知っている
相手に興味を示すことから始める
■会社目線ではなく、部下目線から考える
部下の将来像
三流は、部下の欠点しか知らず、
二流は、部下の目標を知っており、
一流は、何を知っている?
上司に課せられている最大の任務は、部下を成長させること。
部下が将来、自社でどのようなポジションに就くことが求められているのか。
「計算が苦手だから、営業や経理には向かないな」「ガサツな面があるから、正確性を求められる仕事ではない方がいいだろう」といったネガティブな面から想像して、部下の将来像を決めるのはもってのほかです。
会社である以上、誰もがある程度の与えられた目標を持っています。
上司は部下の目標を把握するだけでなく、それがうまくいっているのか、引っかかっている点がないかといった進捗を確認することが求められています。
でも、ここまでの内容はすべて、会社目線です。
会社目線ではなく、部下目線から考えるとどうなるでしょうか。
仮に、あなたが出版社の営業職である場合を想定しましょう。
新入社員2人があなたの直属の部下になりました。あなたなら、彼らをどう育てますか。
一般的には営業職として活躍できるよう育てるのが正解でしょう。売上目標が達成できるよう、ノウハウを教え、進捗を管理します。
■部下のキャリアビジョンを知り、適切な指導を行う
では、2人のうち、1人は営業職としてキャリアを積んでいきたい人材で、もう1人は編集職を目指していた場合、それでも、同じ育て方をするでしょうか。
後者には、営業職を経験することで、書店・読者のニーズを把握でき、やがて編集職に就いた際、役立てることができるとか、流通経路を学ぶことで、業界全体の構図を知ることができて将来に生かすことができるといった、編集職のキャリアに役立つ点を強調した指導をしたほうがいいでしょう。
同じ業務をするにしても、その先に見ているものが異なれば、指導・教育の方法が変わるのは当然です。
もしも今、あなたが部下の将来像、キャリアビジョンを知らずに指導・教育をしているのであれば、一刻も早く、彼らと話をして、彼らの考えや思いを聞いてあげてください。
そして、そのうえで、彼らをどう指導・教育していくのかを考えてみてください。
仮に、キャリアビジョンのなかに“転職”がある場合、無理にそれを止める必要はないと私は考えています。
むしろ転職したいと考える理由を知ることで、自社で学べること、できることをより明確に定義し、伝えることができるのではないでしょうか。それが、ひいては転職を思い留まる理由になるかもしれません。
Mastery of Teaching
一流は、部下のキャリアビジョンを知っている
会社目線ではなく、部下目線で考える
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北 宏志(きた・こうじ)
人材育成コンサルタント
ポールスターコミュニケーションズ 代表取締役。大学卒業後、立命館大学に関係する中高一貫校で社会科教諭として勤務。その後、「ララちゃんランドセル」を製造・販売する(株)羅羅屋に転職。中国での駐在中は経営幹部として部下80名を束ね、中国国内の売上を3年間で9.7倍に拡大させ黒字化させる。
日本とアジアの架け橋となり、教育をより良くしていきたいという思いから、日本に帰国後、人材育成コンサルタントとして独立。新入・若手社員の研修を中心に全国35都道府県で1,000回以上の登壇実績を持ち、これまでの受講生は25,000名を超える。
著書に、『新しい教え方の教科書 Z 世代の部下を持ったら読む本』(ぱる出版)、『ビビリの人生が変わる逆転の仕事術』(三才ブックス)がある。
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(人材育成コンサルタント 北 宏志)