■行間を読み解く力を養う
国語特化の個別指導「ヨミサマ。」代表・神田直樹さんが、読解力アップに有効とする意外なものが「漫画」だ。
登場人物の複雑な心情が言葉で説明されず、行間をうまく読み解かないとストーリーを楽しめないような作品が特に良いという。
短距離走で「勝つ」ことへの考え方が主人公とライバルで百八十度異なる「ひゃくえむ。」や、スパイ、殺し屋、超能力者など、お互いの正体を隠しながら疑似家族として暮らす家族の、ごまかし合いのやりとりが面白い「SPY×FAMILY」などはおすすめの作品だ。
長文のセリフを読み込む必要がある作品も読解力アップにはいい。
「人気の少年漫画、『HUNTER×HUNTER』や『DEATH NOTE』は設定が複雑で、状況やルールを理解するのに、論理的思考力が鍛えられます」(神田さん・以下同)
漫画のなかでも、神田さんが「読解力や語彙(ごい)力を上げるのに最高」と考えるのが4コマ漫画。セリフと絵のみ、かつ四つのシーンだけで完結する短い物語を読み解くには、登場人物の心情を想像したり、自分の過去の体験とひもづけたりして漫画の展開を理解することが必要となるからだ。
「例えば、有名な4コマ漫画で私のおすすめでもある『コボちゃん』で、こんな回がありました。主人公のコボちゃんは、何でも拾ってポケットに入れてしまうので家族にしかられます。それが3コマ目で拾ったもののなかから、みんなが探していたものが次々と見つかったことで、4コマ目では、『どんどん拾いなさい』と家族にウエストポーチまで持たされています。コボちゃんの行動は何も変わっていないのに、自分の落としたものが見つかったことで、態度がガラッと変わる現金な大人たちの姿を面白いと思うには、セリフと絵から状況を適切に理解する『行間を読む力』が必要なのです」
途中にわからない単語があっても挫折せず読み続けやすいのも4コマの利点だ。読書だと3~4割も知らない単語が出てくると、流れが理解できず楽しめなくなってくる。
「4コマはスキップして次の話に進めばいいので、ちょっと背伸びした作品にも手を伸ばしやすい。結果、知らない単語に多く触れられるので、語彙力を上げるのにも適しているんです」
「コボちゃん」よりも少し難度の上がる、サラリーマンが主人公のブラックユーモア4コマ「かりあげクン」、OLたちの日常を描いた4コマ「OL進化論」も、神田さんは、小学生のときに好んで読んでいたという。
「大人の暮らしを覗いている気になれて、子供心に興味がわきました(笑)」
■楽しみながら伝える力が身につくゲーム
さらに、ボードゲームも楽しみながら読解力を鍛えるのにおすすめだと神田さんは語る。

神田さんが紹介してくれた「ito(イト)」「DiXit(ディクシット)」「コードネーム」の共通点は、ヒントを出すことで連想したり、助け合ったりするパーティーゲームであること。家族や友達と楽しみながら、自然と語彙力や的確に伝える力を伸ばすことができる。
「これらのゲームのキモは、終わったあとの感想戦にあります。正解がわかったあとに『だからそういうヒントをえたのか』などと楽しく振り返りながら、ほかの人の考えや自分の考えとの齟齬(そご)も確認することで、より読解力のトレーニングになるでしょう」
■選択で結果が変わる「ノベルゲーム」もおすすめ
今回紹介したボードゲームだけでなく、テレビゲームでも、自分の選択によって結末が変化する「ノベルゲーム」は、遊びながら読解力を育むのに役立つという。
「『逆転裁判』(12歳以上対象)などです。これらのノベルゲームは文脈を読み取って、正しい選択肢を選ぶことが要求されます。ゲームなら、本が苦手な子でも夢中になって読んで理解しようとするはず。子供には向き不向きがありますから、読書が苦手であれば、紹介したような漫画やゲームを試してみてください。実際、小さい頃は、本はほとんど読まず、漫画ばかり読み込んでいた僕ですが、おかげで読解力を鍛えることができ、東大入学、マッキンゼーに就職というこれまでの経歴にもつながったと思っています」
教える人

ヨミサマ。代表 神田直樹さん

東大卒業後、戦略コンサルティングファームのマッキンゼーへ就職し独立。国語に精通した東大生プロ集団が、オンライン個別指導を行う「ヨミサマ。」を運営する。
※本稿は、『プレジデントFamily2025春号』の一部を再編集したものです。


(プレジデントFamily編集部)
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