「足のつり」はなぜ起こるのか。産業医の池井佑丞さんは「足のつりの一般的な原因は脱水やミネラル不足により電解質のバランスが崩れることとされているが、背後により深刻な病気が隠れている場合もある」という――。

■日本人が座っている時間は世界最長
シドニー大学による世界20カ国を対象とした調査では、日本人の成人が平日に座っている時間は1日420分、つまり約7時間にものぼり、世界最長であることが明らかになりました。これは最も短かったポルトガル(約150分)の約2.8倍に相当します(Bauman et al., 2011)。さらに深刻なのは、このデータは新型コロナウイルス流行以前のものであるため、テレワークが普及した現在では、座位時間はさらに延びている可能性があることです。
デスクワークなどで同じ姿勢を続けていると、ふくらはぎの筋ポンプ機能が低下し、静脈血が心臓に戻りにくくなります。その結果、下肢に血液が停滞し、筋肉への酸素供給が妨げられたり、代謝産物が蓄積されたりすることでさまざまな血流障害を引き起こします(Paterson et al., 2020)。
■「足がつる」は病気のサインの場合もある
その血流障害のサインの一つとして挙げられるのが“足のつり”です。フランスで行われた研究では、座りがちな生活を送る人は、そうでない人と比べて夜間の足のつりを発症する確率が約10倍高かったと報告されており、長時間の座位姿勢が単なる筋力低下だけでなく、血流や神経機能にも影響を及ぼしている可能性が示されました(Delacour et al., 2020)。
今回は、医学的な視点から「足のつり」の原因を知るとともに、オフィスワーカーが今日から取り入れられる予防策について解説していきます。
「足のつり(こむら返り)」とは、医学的には「筋痙攣」と呼ばれ、筋肉が異常に収縮することで突然生じる、強い痛みを伴う症状です。最も一般的な原因は、脱水やミネラル不足によって電解質のバランスが乱れることとされていますが、実はその背後には、より深刻な病気が隠れている場合もあります。繰り返し起こる「足のつり」は、病気の早期サインかもしれないのです。
■デスクワーカーが気をつけたい3つの疾患
足のつりを引き起こす病気は多岐にわたりますが、ここでは、特にデスクワーカーが注意すべき3つの疾患をご紹介します。

1.下肢静脈瘤
下肢静脈瘤は、静脈弁の機能不全によって血液が逆流し、足の静脈内に血液が滞留することで発症する病気です(Shekhawat. 2017)。
長時間の座位姿勢は静脈弁への負担を増やし、症状を悪化させる要因になるとされており、アメリカで行われた研究では、1日平均8時間以上座っている人は、4時間以下の人と比べて、下肢静脈瘤の発症率が有意に高かったことが報告されています(Łastowiecka-Moras. 2020 ; Brand et al., 1988)。
下肢静脈瘤の典型的な症状には、足のむくみ、重だるさ、痛み、湿疹、そして「足のつり」があります。実際に、下肢静脈瘤患者のうち83.3%が足のつりを経験していたというデータもあります(Hirai et al., 2003)。
ここで注意したいのは、血管がボコボコと浮き出るような外見上の変化がない場合でも、「かくれ静脈瘤」が起きている場合があることです。
多くの方が「下肢静脈瘤=血管の浮き出し」と思いがちですが、外見上に異常がなくても、むくみ、だるさ、足のつりなどが続く場合は、下肢静脈瘤の可能性があります。
この病気は中高年を中心に多くの方がかかる身近な疾患ですが、放置すると皮膚潰瘍を合併したり、深部静脈血栓症のリスクを高める要因にもなるため、早期の対応が重要です(Lee et al., 2015 ; Müller-Bühl et al., 2012)。
2.末梢動脈疾患(PAD)
末梢動脈疾患(PAD)とは、足の動脈が動脈硬化によって狭くなったり詰まったりすることで足先への血流が妨げられる病気です。最近の研究でも、長時間の座位姿勢がその発症リスクを高めることが報告されています(Said et al., 2023)。
動脈の内壁にコレステロールなどが蓄積して血管が硬く狭くなると、筋肉に必要な酸素や栄養が届かなくなり、しびれや痛み、間欠性跛行(かんけつせいはこう)(歩行中にしびれや痛みが現れ、しばらく休むと回復する)が現れます。さらに進行すると潰瘍ができたり、重症化して壊死に至ることもあります(National Institutes of Health. 2024)。
また、PADを放置すると、命にかかわる重篤な心血管疾患に進行する可能性もあります。
たとえば、間歇性跛行を有する人のうち、約20%が5年以内に心筋梗塞や脳梗塞を発症し、10年後の死亡率は約63%に達するという報告もあります(Weitz et al., 1996 ; Sartipy et al., 2018)。
PADは、初期症状として「夜間の足のつり」が現れることもあり、頻繁に足がつる場合は、この病気の初期段階である可能性も考えられます(Lam et al., 2022)。
■エコノミークラス症候群は飛行機以外でも起きる
3.エコノミークラス症候群(肺塞栓症)
下肢の深部静脈に血栓(血のかたまり)が形成される病気を深部静脈血栓症(DVT)といいます。ふくらはぎの痛みや腫れ、熱感や発赤といった症状の他に、「足がつったような不快感」として現れることもあります(Chopard et al., 2020 ; Kruger et al., 2019)。
この血栓が血流に乗って肺に達すると、肺塞栓症(通称「エコノミークラス症候群」)を引き起こし、放置すれば命に関わる危険性もあります。
この病気は、飛行機内に限らず、オフィスの長時間のデスクワーク中にも発症する可能性があることが報告されています(West et all., 2008)。
胸の痛みや息苦しさが出現した場合には、エコノミークラス症候群の可能性も考えられるため、ただちに医療機関を受診することが必要です。
「足がよくつる」といった症状は、こうした深刻な血流障害に起因する病気の初期サインである可能性があります。日常の中で小さな兆候に気づき、早めに対策を講じることが、将来の重大な健康リスクを防ぐ第一歩となります。
■対策は「座る時間の中断」と「血流改善」
ここまで、長時間の座位姿勢による血流障害の一つのサインとして、“足のつり”について述べてきました。それだけでなく、座り過ぎという生活スタイルは、ふくらはぎの筋ポンプ機能を低下させるだけでなく、糖代謝の悪化、肥満の進行、慢性腰痛や肩こり、さらにはメンタル不調など、全身にわたるさまざまな疾患を引き起こすことも明らかになっています(Daneshmandi et al., 2017 ; Huang et al., 2020)。
こうした状態は「座り過ぎシンドローム」とも呼ばれ、同じ生活背景のなかで複数の不調が重なることが特徴です。
足の症状だけにとどまらず、座位中心の生活がもたらす全身への影響にも、目を向ける必要があるといえます。
血流障害による足のつりを予防するためには、座位時間の中断と下肢の血流改善が重要です。以下の対策を日常生活に取り入れることがおすすめです。
1.30分ルールの実践
・30分に1回は立ち上がり、1~2分間の歩行や足踏みを行います。これにより、ふくらはぎの筋肉ポンプが働き、静脈血の還流が促進されます。
2.かかと上げ・足首背屈
・階段など段差のある場所で、手すりにつかまりながら、段差の淵に立ち、かかとの上げ下げを10回程度行います。段差がない場合は、デスクの横に立って行うだけでもOKです(※詳しいやり方はスポーツ庁の資料をご参照ください)。
・足のつま先を上げたり下げたりする運動を20回程度行います。座ったままでできるこの動作は、特にふくらはぎの筋肉を効果的に収縮させます。
■1日1.5~2リットルの水分摂取を
3.水分摂取の最適化
1日1.5~2リットルの水分摂取を心がけます。利尿作用の強いカフェインの過剰摂取は避け、常温の水やノンカフェインの飲料を選ぶようにしましょう。
4.弾性ストッキング
医療用の弾性ストッキングは、下肢の血液の停滞を防ぎ、血流を改善するのに効果的です。
特に長時間の座位が避けられない日は着用することを推奨します。
5.かくれ静脈瘤外来
血流の異常を専門的に評価する「かくれ静脈瘤外来」では、超音波検査で早期の静脈機能障害を発見できます。血管外科や心臓血管外科のある病院で受診が可能ですが、「静脈瘤外来」で検索すると、より専門的な治療を行う医療機関が見つけやすくなります。症状が続く場合は、一度専門医の診察を受けることをおすすめします。
■「足以外」の病気が原因のケースもある
今回は、「足がつる」という症状の背後に、血流障害によって引き起こされる病気が潜んでいることを中心に述べてきました。ですが、“足のつり”は、“足以外”の病気が原因となっていることもあります。実際、糖尿病、甲状腺機能低下症、腎不全など、一見、足とはあまり関係のなさそうな多くの疾患とも関連があることが報告されています(Matsumoto et al., 2009 ; Hu et al., 2022 ; Miller. et al., 2005)。
頻繁に足がつる(週に数回以上が目安)場合に加えて、ご家族に糖尿病や甲状腺疾患などの持病をお持ちの方がいる、血液検査で異常を指摘されたことがある、といった場合には、一度、内科またはかかりつけ医を受診することをおすすめします。
ミネラル補給だけでは改善しない足のつりは、あなたの身体からの重要なメッセージかもしれません。症状を軽視せず、適切な対策と医療機関での相談を通じて、健康なビジネスライフを維持していただきたいと思います。
足の健康は、全身の健康、そして仕事のパフォーマンスにも直結します。今日から始める小さな変化が、将来の大きな健康リスクを回避する鍵となるのです。

※参考文献

・厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド」2023

・スポーツ庁「手軽にできる! ながらでできる⁉ Myスポーツメニュー」2021

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)

産業医

プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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