※本稿は、岩永憲治『トランプ経済 グレート・クラッシュ後の世界』(集英社)の一部を抜粋、再編集したものです。
■持ち株を売りまくる著名投資家たち
リーマン・ショック後のNYダウ安値6500ドルから6倍以上という、どう考えても高すぎる米国株を、大多数の投資家が“安心?”して買っている時に、せっせとそれらを売っている人たちがいる。
それは誰だろうか?
それを調べると“勝ち組”が透けて見えてくる。
例えば、ウォーレン・バフェットは2024年の秋の時点で、自社のアセット100兆円のうち40兆円以上を現金に戻していた。
バフェット同様、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス、メタのマーク・ザッカーバーグ、JPモルガンCEOのジェイミー・ダイモンらの大富豪たちも、判を押したように自社株を売っていた。
他にも著名投資家たちの動向を調べると、その大半が2024年の秋の時点で、持ち株を売っていることが判明した。
■売るべきタイミングの“合図”とは
このことは極めて重要である。
なぜなら、彼らはその3年ほど前からそうしたIT・AI関連銘柄を仕込んで買っていたからだ。
個人投資家が目に見えて強気になっている時期を見計らって、マーケットでは決まって個人投資家を“釣る”ような動きが生じる。
今回は、日本ではNISA(少額投資非課税制度)の導入もあって投資家の裾野が広がった結果、米国のS&PをベースにしたETF(上場投資信託)や通称「オルカン」と呼ばれる投資信託(「オールカントリー型投資信託」)が数多く登場し、広く宣伝された。
しかし「これ一本で大丈夫」というような商品が話題になった時には、名だたる投資家が猛烈な売りに出るタイミングであり、いわばその“合図”のようなものなのである。
ある米国の投資信託の会長がいみじくも言っていた。
「個人投資家が飛びついた時には、もはやそのマーケットは終わりなのだ。いつもそうだ」
■資産を守るためにはどうすればいいのか
繰り返すが、個人投資家の大半は頭の中を切り替えなくてはいけない時に、切り替えられない。
なぜなら、彼らには、売るべきタイミングがわからないからだ。
だから損失をこうむることから逃げられない。
相場がクラッシュして、ピーク時から6割、7割落ちた時に、「ああ、2024年のあの時はバブルだったのだ」と初めてわかるのだ。
そこまで落ちなければわからない人が多いのも現実なのだ。
そのような悲劇に見舞われないよう、なんとか個人の金融資産をプロテクトするために、私は前著〔『金融暴落! グレートリセットに備えよ』(集英社)〕や日々のSNSを通じて、分散投資を繰り返し提案してきた。
「日本の個人投資家は少なくともゴールドにはポートフォリオの10~20%、短期米国債に10~20%、資源エネルギー公益株に10~20%に分散して投資すべきである。そして、とにかく残りの40~50%は現金にしておくべきである」
これは私の強い思いであるし、今もその主張は変わらない。
けれども、私の思いとは裏腹にそのような行動に出る人はことのほか少ないのではないか。
それでも、悲劇に見舞われ、途方に暮れる日本人投資家たちに立ち直ってもらえるよう、手立てを講じるのが私の使命だと感じている。
■“バブル崩壊”を予想した相場師が見ていたもの
主に株式市場の天井において現れる暴落のサイン「大勢」について考えよう。
為替市場では、値動きが早すぎるので、「大勢」チャートの出現を待っての取引では、よほどのプロフェッショナルでない限り到底間に合わない。そのため、この「大勢」のチャートは、株式市場での利用をメインと考えてもらえればと思う。
この「大勢」チャートの研究者として名高い伝説の相場師吉田虎禅は、まさに日本のバブル絶頂期にあたる1980年代後半に、皆が株式市場に強気だった時に、ただ一人“相場反転”を予想した人物である。
「大勢」の示現はバブル崩壊、株価暴落のサインとなるが、その具体的な前提条件・確認方法および使い方は次のとおりと理解している。
①バブル相場の起点から8年前後かけて指数が6倍近くのレベルに価格が到達していること、ただし今回は史上最大最後のバブルにふさわしく、リーマン・ショック崩壊の2009年から倍の年月となる16年が経過している。さらに、起点の底となるNYダウ平均株価が6500ドルから6倍強の4万5000ドルまで到達している。
②その頂点(臨界点・限界点)から3カ月間連続して下落を見せる月足が3カ月の陰線引けとなること。この天井から3カ月連続安の陰線で引けることが「大勢」のサインとなる(2024年12月のNYダウ平均株価は、4万5000ドルまで高騰した後に、3000ドル安となる4万2000ドルまで1カ月間かけて下落して引けた。月足が大陰線となった1カ月目である)。
③頂点から月足でみた最初の3カ月間の高値と安値の値幅が「大勢」チャートの基準となる。
④頂点からこの最初の3カ月間の値幅を単純に2倍にして下げたところを「長大勢」と言い、下値の一つの目途となる。
⑤頂点からさらに、最初の3カ月間の値幅を3倍にして下げたところを「超長大勢」と言い、ここまでを想定すると“ただ”とまではいかないが、頂点から最悪10分の1まで大暴落したあたりが最終的な下値の目途となる。
■“次の暴落”はいつくるのか
以降の「米国のNYダウの月足ローソク足チャート」(図表3、図表4)を見てほしい。
四角の太枠を比較して俯瞰すると1927年から1932年にかけてのNYダウの5年間の相場展開(図表3)と2022年から2027年にかけての5年間の相場展開(図表4)をビジュアル的に捉えることができる。
ここから2025年以降に大相場が相似形となって再現していくであろうとみている。
そして株式市場の暴落から金融恐慌を招き最終的に世界恐慌を引き起こした1929年の暗黒の木曜日から1932年の3年後の底入れまで、当時の高値であった381ドルから41ドルまでの大暴落が示現され、NYダウは約10分の1までとなった。
今回の下落相場でも同じような「金融暴落グレートリセット」が再現されるとみている。
■「3年間で約10分の1に暴落していく」
すなわち2年前に刊行した第一作目〔『金融暴落! グレートリセットに備えよ』(集英社)〕で示したとおり、2024年11月の大統領選を前後2カ月してNYダウは、4万ドル超えを目指した強気相場が展開した。
そして2024年末に4万5000ドルという米国史上最高値を示現したことでピーク・アウトし、その後、2025年から2027年にかけて3年間で、約10分の1となる4500ドルあたりまで大暴落していくとみている。
1929年当時と今とでは、グローバル経済の経済規模もダイナミズムも経済環境も違いすぎると思われるだろうが、相場展開においてのチャートが、人々の「欲望」の臨界点の連鎖であることは、今も昔も変わらないパターンだと思っている。
日経平均はNYダウの相場展開と一蓮托生となるだろう。
日経平均もNYダウが最高値を目指すのに合わせるように、2024年には、1989年のバブル時の最高値を超えて、7月には4万2200円を超える史上最高値をつけた。8月にひとたび下落はしたものの、12月にはNYダウの上昇とともに再び4万円を超えた(図表5)。
しかし結局はNYダウと同様に、2025年1月以降、2027年にかけての3年間で、「金融大暴落グレートリセット」に巻き込まれるだろうというシナリオを私は描いている。
■グレートリセット後の世界はどうなるのか
先にも述べたが、大恐慌時の米国経済は、リセッションから大不況に突入し、約9500行にも及ぶ銀行の破綻・倒産から金融恐慌を引き起こした。この原稿を書いている2025年の2月においては、幸いなことに“暴落”と言えるほどのクラッシュの兆しを示現するには至っていない。
ただ歴史を振り返ると、1929年から起きた世界恐慌の爪痕は、その後も長く残り続けた。一度クラッシュが起きてしまうとその回復には途方もない時間がかかるものである。
1929年から1933年にかけて世界を巻き込んだ大恐慌から米国経済が立ち直り、本格的に繁栄を取り戻し、NYダウ平均株価が当時の高値を超えるまでに回復するには、なんと25年もの長い歳月がかかった。これは誰一人、予想もできなかったことであった。
それと同じ規模の深刻な経済危機が米国に起こり、2025年から2030年まで米国株は暴落するだろうと私は予測している。
最終的には世界恐慌のような状況に追い込まれるかもしれない。
この間に、米国株全体がV字回復することは望めないだろうと私は思っている。
----------
岩永 憲治(いわなが・けんじ)
IWAグローバル経済研究所 代表、為替トレーダー
熊本出身。日本陸上自衛隊に所属後、精鋭部隊であるレンジャーの養成課程に選抜される。
----------
(IWAグローバル経済研究所 代表、為替トレーダー 岩永 憲治)