■“自分好みの焙煎度”を知る
コーヒーの味わいを言葉で表現する時、よく使われるのは、「甘み」「酸味」「苦み」「ボディ感」「香り」の5つです。それぞれバランスによって、様々なコーヒーの味を大まかに分けることができます。
しかし、実際にコーヒーを飲んでいきなり全ての味を感じることは難しいと思いますので、まずは大きく、「苦みか酸味か」「スッキリ軽めの味わいかコクの深い味わいか」という2つの軸で飲み比べ、コーヒーの味を分解していきましょう。
その時に役立つのがコーヒーの「飲み比べ」です。深煎り、中深煎り、中煎り、浅煎りそれぞれのコーヒーを飲んで、味の違いを感じてみましょう。そうすることで、「自分は苦みの強い深煎りコーヒーが好きだな」とか、「コクの深い中深煎りが好きだな」とか、「酸味と甘みを感じる浅煎りが好きだな」ということが分かってきます。
大まかに自分の好みの焙煎度が分かってきたら、次に産地の違いを意識してコーヒーを飲んでみましょう。例えばひと口に深煎りと言っても、ケニアの深煎りとインドネシアの深煎りでは全く違った印象を持つでしょう。ケニアからは苦みとほのかな甘み、インドネシアからは苦みとフルーツのような甘みを感じられます。
■品種や香味の違いを知ると、どんどんハマる
また、浅煎りの中でも、ブラジルの浅煎りとエチオピアの浅煎りでは、印象が全く違ってきます。
コクのあるコーヒーが好きな方は、中深煎りを飲み比べるといいでしょう。例えばコクを感じつつ甘みがあるグアテマラと、コクはありつつスッキリ感のあるコロンビア等々。口の中で感じるバランスの良さをどこに求めるかを探していきましょう。
自分の好みの味わいが分かってくると、今度は他にも色々なコーヒーを試してみたくなると思います。特に、コーヒーの品種ごと、精選処理方法ごとの香味の違いを知っていくと、コーヒーにどんどんハマっていきます。
味の違いを知るにはまず、ウォッシュド・プロセスとナチュラル・プロセスを飲み比べてみるのが良いでしょう。「ウォッシュド」では輪郭のハッキリした明るい酸味を感じ、「ナチュラル」ではフルーティで甘みの強い印象があります。
ハニー・プロセスは「ウォッシュド」と比べると、酸味が柔らかくボディ感が強めに感じられます。「ウォッシュド」と「ナチュラル」の中間あたりになると思っていただくといいでしょう。スマトラ式も、ウォッシュドと飲み比べると違いが分かりやすくなります。スマトラ式には、ウォッシュドのコーヒーにはない、渋みや苦みのような印象を受けると思います。
■「酸っぱい」の解像度を上げる
「酸味のあるコーヒーが苦手だ」という方がいますが、それは飲み慣れていないことが一番の理由に挙げられます。ある程度飲み比べを進めると、はじめは「酸っぱい!」と感じていたコーヒーも徐々に良質な果実の酸味のように感じられ「このコーヒーはレモンのような酸味」「こっちはストロベリーのような酸味」というように解像度が上がっていきます。
スペシャルティコーヒー(編集部注:コーヒーの3つの品質基準のうち、最高ランクのもの)では、果実のような酸味を評価するための表現がたくさん使われます。その中でどういった酸味が好きかを具体的にしていくことで、コーヒーの味わいをより楽しむことができます。
また、「コーヒーの苦みが嫌いだ」という方でも飲み比べを重ねることで、「苦い!」と感じていたコーヒーも、炭のようなザラッとした苦みからダークチョコのような甘みを伴った苦みまで幅があることが分かります。スモーキーなウイスキーのようなピートの心地良い苦みのコーヒーもあります。そうして、自分に合う心地良い苦みがどういったものかを見つけていくことができます。
■香味の評価にも挑戦してほしい
つまり、味覚は少しずつ磨き上げることができるのです。人間の味覚はとても複雑で、今までどんなコーヒーを飲み、どのような食事をしてきたかといったことで感じ方が大きく変わります。たくさんのコーヒーを飲み比べて、自分の舌に慣れさせることから試してみましょう。きっと新たなコーヒーの面白さに気づくことができます。
コーヒーの好みや味の違いが分かってきたら、今度はコーヒー業界の現場でも行われるコーヒーの香味評価である「カッピング」に挑戦してみましょう。
カッピングとは、コーヒーの香味を細かく分析していき、客観的に品質を評価するためのものです。カッピングの評価方法にはいくつか種類がありますが、本書では、世界で広く使われている「SCA方式」をもとにご説明します。これは、アメリカスペシャルティ協会(SCAA)が定めた評価方法で、2004年頃からアメリカで導入され始めました。現在は、スペシャルティコーヒー協会(SCA)のもとで運用されています。
カッピング評価の対象となる香味のカテゴリーは、「フレグランス/アロマ」「フレーバー」「酸味」「アフターテイスト」「ボディ感」「バランス」「クリーンカップ」「均一性」「甘み」の9つです。これらのカテゴリーについて、それぞれの「質感と強弱」を評価して点数をつけていきます。
■「カッピング」のやり方
2024年からはカッピングの評価基準が少し変化していますが、現在のところ現場ではこれらのカテゴリーをもとにコーヒーを評価しています。各カテゴリーの詳細は図表2をご確認ください。
これらのカテゴリーに加えて、「総合評価」という項目があり、9つの香味カテゴリーを総合的にみた点数をつけます。各項目につき10点満点として点数をつけていきます。SCA方式では、カッピングの合計点数が80点以上のコーヒーのことを、スペシャルティコーヒーと呼ぶと定められています。
カッピング評価はルールが細かく、コーヒー豆の重量、焙煎度合い、使用する水の質、挽いた粉の粒度、お湯を注ぎコーヒーを混ぜるまでの時間、コーヒーの混ぜ方(ブレイク)などが細かく定められています。全てをルール通りに行おうと思うと準備段階で挫折してしまいそうになるので、ここでは簡易的なカッピングの方法をご紹介します。図表3にまとめていますので試してみてください。
■「酸味」と「甘み」だけに絞ってみる
カッピングは比較することが重要なので、最初は違いが分かりやすい2種類のコーヒーを飲み比べることから始めるのが良いでしょう。おすすめは、ブラジルのナチュラル・プロセスとエチオピアのウォッシュド・プロセスの組み合わせです。いずれもスーパーなどで手に入りやすいコーヒーなので試してみてください。
最初から全ての項目をみようとするのではなく、まずは、酸味と甘みだけに絞って味をみていきます。
ブラジルのほうは酸味が少ないので甘みを感じやすく、エチオピアのほうはフルーツ系の酸味をハッキリと感じられるでしょう。嗅覚が鋭い方は、穀物やナッツのような香りをブラジルに感じ、エチオピアではフローラルでレモングラスのような香りを感じられます。
同じ種類のコーヒーでカッピングを3回ぐらい繰り返すと、なんとなく酸味や甘みの特徴が具体的に分かってきます。最終的には、香りや後味、クリーンカップについても感じ取れるようになります。
カッピングは一人で行うよりも、慣れた人に色々聞きながら行ったほうが上達しやすいので、カフェが主催している「カッピング会」や「パブリックカッピング」と呼ばれるイベントに参加するといいでしょう。
■カフェでこっそりできる楽しみ方
このカッピング方法を応用すると、カフェなどで飲むコーヒーをより細かく味わうことができます。私がたまにやっている、コーヒーの楽しみ方をご紹介します。
私がコーヒーを注文する時は、いつも「おすすめはありますか?」と聞いています。すると、たいていお店の人は「酸味があるものと、コクがあるもの、どちらがお好きですか?」と尋ねてくれるので、こちらは「酸味があるものをお願いします」など好みを伝えます。
一口目は、ごくりと飲んだ後に息を鼻から出します。呼吸を何度か繰り返すと、コーヒーの香り成分が鼻腔のあたりに昇ってくるので香りを感じやすくなります。お花屋さんに行った時のような香り、完熟フルーツをかじった時のようなジューシーな香り、ワインやウイスキーのような特徴ある芳醇な香りなどなど。どういった香りがするかを頭の中で具体化していきます。
その香りを感じながら、まず甘みを探していきましょう。飲んですぐ感じる甘みなのか、飲んだ後に感じるほのかな甘みなのか、といったところです。
■味覚の解像度をあげると、好みが見つかる
次は酸味を探します。
そして、最後に甘み・酸味・香りの余韻がどのように口や鼻に広がるかを感じるようにしています。心地良い余韻の残るコーヒーもあれば、キレが良くスッと綺麗に口の中から消えるコーヒーもあります。
このようにして、コーヒーを段階に分けてゆっくり飲むことで味覚の解像度を上げていくと、自分の好みのコーヒーを見つけられるようになります。
この方法で飲む時は、コーヒーを飲むという行為を純粋に楽しむために、そのコーヒーの良い部分だけを探すようにしています。甘みに厚みがあるなとか、南国フルーツみたいとか、ブランデーのような香りがするといった感じです。
カフェの店員からすると、目の前でコーヒーをカッピングのように評価されるのはあまり良い気持ちではありません。コーヒーは評価するものではなく、楽しむものであることを忘れないようにしましょう。
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山本 博文 (やまもと・ひろふみ)
坂ノ途中海ノ向こうコーヒー事業部事業開発責任者
2013年から2年間、フィリピンのベンゲット州立大学に留学し、アグロフォレストリー研究所(Institute of Highland Farming Systems and Agroforestry)でコーヒー栽培について研究。現地NGO「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)」と協力し、農家への栽培指導や植林活動を行う。帰国後はコーヒー生産技術の専門家として東ティモールやミャンマーでコーヒー生産向上事業に従事した後、2020年より現職。アジアを含む世界各国のコーヒー産地と日本市場をつなぐ活動を行っている。
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(坂ノ途中海ノ向こうコーヒー事業部事業開発責任者 山本 博文 )