※本稿は、保坂隆『精神科医が教える 心と体をゆっくり休ませる方法』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■午後の眠気を吹き飛ばす、簡単な方法
昼食後の睡魔は、誰でも経験したことがあるでしょう。抵抗できないほど強烈で、ついウトウトしそうになります。本来昼寝は休息効果があっておすすめなのですが、仕事が立て込んで、ゆっくり昼寝している余裕のないときは、眠気に退散してもらうしかありません。
そこで、おすすめの眠気撃退法を紹介しましょう。
①息を止める
1分ほど我慢して息を止め、それから息を吸うと、一気に酸素が供給されて、頭がさえた感じがします。
②耳たぶを引っ張る
耳たぶをぴんと引っ張ってからパチンと離すと、目が覚めたように感じます。強く引っ張りすぎないように注意。
③足や首などを冷やす
水で濡らしたハンカチなどで首の後ろを冷やしたり、足を冷たい金属につけたりして冷やします。足の裏が温かいとよく眠れるのを逆手にとって、足裏を冷やして眠気を吹き飛ばします。
足を水につけるのがベストですが、靴を脱いで床に足をつけるだけでも効果があります。
④イスの高さを変える
いつもより5センチほどイスを高くしてみるだけで、目の前の風景や物に対する距離感が変わります。「いつもと違う」という違和感で、意識がシャキッとすると同時に眠気も吹き飛んでしまうわけです。
周囲の人に気づかれずに眠気を撃退できます。
⑤ツボを刺激する
手の中指の爪の付け根の内側に、眠気覚ましのツボといわれる「中衝」があります。爪の先で痛くない程度に刺激してみましょう。
夜の睡眠の質もあわせて高めよう
■誰かにイラっとしたら、駆け込むべき場所はここ
仕事をしていると、先輩から嫌味をいわれたり、後輩のつまらない一言に傷ついたりします。
そんなときも落ち込んだり、感情を波立たせずに、冷静でいられるのが大人です。しかし、頭の中で「冷静にならなくてはいけない」と思っても、落ち込んだり、ドアを蹴飛ばしたくなるようなこともあるでしょう。
そんなときは、トイレに駆け込みましょう。就業時間中は断りもなしに外出できませんし、会議室や廊下、給湯室では誰かと遭遇してしまう場合があります。その点、トイレは安心。個室は中から鍵を閉められますし、誰にも断りなく自由に行ける場所だからです。
「人を怒りたくなったら、トイレに行ってから怒れ」という言葉があります。これには、どんなにカッとしていても、トイレで2~3分を過ごせば、高ぶっていた気持ちは静まり、やたらにどなりつけることがない、という意味が込められています。
トイレは空気がひんやりと冷たいので、頭を冷やすのにもちょうどいい場所です。また、洗面台で顔を洗って深呼吸すれば、一時的に高ぶった気持ちも落ち着いてくるはずです。
余裕があれば、鏡に向かって笑顔をつくってみましょう。形だけでも笑顔がつくれれば、爆発寸前だった感情もクールダウンした証拠です。そして「もう大丈夫!」と鏡に向かってつぶやけば、リセット完了。職場に戻っても、決して取り乱す心配はありません。
女性は、メイクを直すのも効果的。落ちかかったメイクのままでは、気持ちが落ち込んでしまいますが、きれいにお化粧直しをすれば、背筋がしゃんとして「大丈夫だ」と元気になれるものです。
トイレを「気持ちを落ち着ける場所」にする
■目の緊張をゆるめて、脳疲労を改善
パソコンのディスプレイに長時間向かっていると、目の疲れや視力の低下だけではなく、イライラや不安感にも見舞われることがあります。
なぜかといえば、目の疲れは脳の疲れに直結するため、働きが悪くなって感情のコントロールが利かなくなるというわけです。
この症状は「ビジュアル・ディスプレイ・ターミナル症候群」と呼ばれていますがすでに多くの人が悩まされていることですから、要注意です。
これは、眼球を動かす筋肉の疲労から始まります。眼球というのは、パソコンやテレビの画面をじっと見ているつもりでも、いつも細かく動いています。この動きが眼球周辺の筋肉を激しく疲労させるのです。
そこで、パソコンを利用していたり、テレビを見ているときは、少なくとも1時間に1回はパソコンやテレビから視線をはずして目を休ませましょう。
近くの窓から外が見えるなら、遠くの山や雲をぼんやりと眺めてみてください。こうしていると目の疲労がとれるだけではなく、感情も穏やかになります。
これでも目の疲れがとれない気がしたら、景色を見ながら眼球だけを上下、左右、斜めに動かす「眼球体操」をしてみましょう。ポイントは、眼球を動かす筋肉に力が入らないように注意すること。
最初はその方法に慣れないでしょうから、眼球だけを動かすようなイメージを持ってください。これを何度か繰り返していると、眼球周辺の筋肉の緊張と疲労を解消できます。
■パソコン画面はチラチラ動き目にはかなりの負担
また、まぶたの指圧も目の疲れをとるのに有効です。
パソコンの画面は静止しているように見えますが、実際はチラチラと動いていて、目にはかなりの負担です。
放っておけば、心のストレスになり、それが体の不調につながってしまいます。それを防ぐためにも、パソコンに向かう時間が多い人は、次の方法をぜひ試してみてください。
①両手を十分にすり合わせ、手を温める。
②ひじをデスクについて、手の付け根にあごをのせる。
③この状態で人指し指、中指、薬指の3本をそろえてまぶたをおおうようにし、そのまま指の腹で、まぶた全体を軽く押す。気持ちがいいと感じられるまで強く押し、10秒ぐらい押さえたら離し、押して離して……を3回ぐらい繰り返す。
④目頭と目尻にやや強めに力を入れる。まぶたを押しながら、眼球を大きく動かすとさらに効果がある。
⑤眼球の疲れがかなりほぐれてきたことが実感できるようになったら、もう一度、手をすり合わせて目をおおい、眼球が目の奥深くに沈んでいく様子をイメージしながら、目を、ゆっくり休ませる。
⑥最後に手をこめかみに移動し、中指の腹でこめかみを軽く押しながら、小さく円を描いてマッサージする。
もうひとつ、目の疲れをとるユニークな方法があります。それは「立体視」の画像や本を見ることです。よく新聞や雑誌で見ることがありますが、立体視とは、一見すると無意味な画像の中から、立体的な像を浮かび上がらせるものです。
コツがつかめるようになるまで難しいのですが、立体視をすると眼球のまわりの筋肉の緊張がとけるだけではなく、脳の活性化も期待できます。あれこれ工夫してチャレンジしてみてください。
1時間に1回は、パソコンやスマホから目を離そう
■疲れたと思ったら、1分間のマッサージ
仕事をしていて、集中力が途切れてきたな、ちょっと疲れたなと感じたときに、職場でも簡単にできる「疲れとり」の方法があります。それが「癒やしの1分間マッサージ」です。
いくつかあるので部位に分けて紹介します。
①頭
はじめに、疲れた頭をもみほぐしましょう。両手を野球ボールを包んだような形にして、そのまま頭に指をあてます。このまま、軽い力でまんべんなく頭全体を押していきます。
美容院などでサービスにやってくれる頭皮マッサージですが、頭皮の血行を促進して健康な髪を育ててくれますし、頭蓋骨の下にもその刺激が伝わって、脳を大いに活性化させてくれます。1分から2分のマッサージで、脳がすっきりします。
また、頭のてっぺんの「百会」というツボへの指圧も、頭の疲れをとるには最適です。百会を中指の腹で強めに1分ほど指圧します。そして1分休み、また指圧するというようにして数回やれば、軽い頭痛などは解消するでしょう。
②手
気持ちがイライラして能率が落ちているときは、手の親指にある「少商」というツボを指圧してみましょう。
少商は、親指の爪の付け根で、人指し指とは反対側の位置です。ここを反対側の手の親指の腹と人指し指ではさむようにして、そのまま10秒ほど指圧します。これを何回か繰り返せば、イライラがスーッとなくなるでしょう。
③足
最後は足の裏です。足の裏は、「第二の心臓」と呼ばれるくらい大切なツボが密集しています。
中でも、昔から老化防止や疲労回復、集中力のアップに効くといわれているのが、足のほぼ中央、土踏まずの真ん中あたりにある「湧泉」です。
ここを手の親指などで指圧するか、足ツボマッサージグッズなどで刺激すると、脳の疲れがとれるのを実感できます。靴を脱ぐ必要があるので、職場では場所を選びましょう。
一般的に、こりをほぐすマッサージを受けると、ストレスを感じているときに増えるコルチゾルというホルモンの一種が激減するようです。あちこちに気軽に立ち寄れるマッサージサロンも増えていますから、プロにマッサージしてもらい、ストレスを解消するといいでしょう。
また、電動式のマッサージ器具も手軽に使えると思います。こうしたものなら、電話をしながらとか、テレビを見ながらなど、気が向いたときにちょっとした時間でマッサージができます。
こまめなセルフケアで、イライラや疲れを撃退
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保坂 隆(ほさか・たかし)
精神科医
1952年山梨県生まれ。保坂サイコオンコロジー・クリニック院長、聖路加国際病院診療教育アドバイザー。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米国カリフォルニア大学へ留学。東海大学医学部教授(精神医学)、聖路加国際病院リエゾンセンター長・精神腫瘍科部長、聖路加国際大学臨床教授を経て、2017年より現職。また実際に仏門に入るなど仏教に造詣が深い。著書に『精神科医が教える50歳からの人生を楽しむ老後術』『精神科医が教える50歳からのお金がなくても平気な老後術』(大和書房)、『精神科医が教えるちょこっとずぼら老後のすすめ』(海竜社)など多数。
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(精神科医 保坂 隆)