肝臓と体に負担をかけないお酒の飲み方は何か。医師の保坂隆さんは「お酒から肝臓と体を守り、栄養バランスを保つためには酒の肴、なかでもたんぱく質がおすすめだ。
また満腹のときに飲むと酔わないと思われがちだが、食べ物と一緒に腹に残ったアルコールが少しずつ吸収されるため、いい気持ちになったころには飲みすぎているから要注意だ」という――。
※本稿は、保坂隆『精神科医が教える 心と体をゆっくり休ませる方法』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■ストレスに強くなる食生活
ストレス解消と日ごろの食生活や栄養のとり方は無関係ではありません。
偏った食生活はストレスを解消するどころか、ため込むことになりかねません。とくに外食の多い人や偏食気味の人は、だんだんに栄養のバランスが悪くなり、栄養失調や栄養過多にもなりかねません。
「毎日サプリメントを飲んでいるから」と自信のある人もいるでしょうが、サプリメントに含まれていない微量栄養素や、食物からとったほうが効率的なミネラルもたくさんあるので、とにかく食事の内容をチェックしてみましょう。
ストレス解消に効く代表的な栄養成分は次のようなものです。「最近、食事がいい加減になっている」と思ったら、ぜひ積極的にとってみてください。
●ビタミンB群……精神を安定させ、集中力を高めます。不足するとストレスに対する抵抗力が落ちるので注意。ビタミンB1を含む食品は、穀類の胚芽、豚肉、レバー、豆類など。B2の多い食品は卵、大豆、乳製品、葉菜類など。
B6が多いのは、カツオ、マグロなどの魚類、レバー、肉など。B12の多い食品は魚介類やレバーなど。
●ビタミンC……抗ストレス作用を持つ副腎皮質ホルモンの合成を促進して、強い抗酸化作用があります。ビタミンC群の多い食品は、キャベツやブロッコリー、ピーマンなどの緑黄色野菜、レモンやイチゴなどの果物、緑茶など。
ストレスや喫煙は、体内のビタミンC消費量を上げるので要注意です。
●カルシウム……精神を安定させ集中力を高めます。カルシウムを多く含む食品は牛乳、チーズ、小魚、桜エビなど。糖分をとりすぎるとカルシウム不足になりやすいので気をつけましょう。
●亜鉛……新陳代謝をよくし、免疫力を高めます。不足すると意欲が低下します。亜鉛の多い食品は牡蠣、納豆、煮干し、ソバ、ゴマなど。
亜鉛の不足は味覚障害の原因になります。

サプリメントは、あくまで「お助けアイテム」と考えよう
■お酒は「肴を食べつつ、チビチビ」飲む
お酒は、チビリチビリと飲むのがおすすめです。
肝臓のアルコール処理能力は、体重10キロあたり1時間1グラムぐらいです。ですから、「駆けつけ3杯」「遅れて3杯」などは、肝臓のことを考えたら最悪の飲み方といえるでしょう。
ところで、お酒についてはあれこれ種類に気を配るのに、何を食べるかとなると、意外にいい加減な人が多いものです。
しっかり食べながら飲む――これが一番理想的といえます。
昔から「大酒飲みは肝硬変になる」といわれていました。原因は、たんぱく質、ビタミン、ミネラルなどの不足を招く粗食にあるとする考え方が有力です。
酒好きな人は、とかく食べ物をとらない傾向にありますが、これではいけません。酒の肴は、お酒をおいしく飲むために必要なだけでなく、肝臓と体を守り、栄養バランスを保つために必要だということを忘れないでください。
酒の肴としておすすめなのは、たんぱく質です。
体の中で「一大化学工場」ともいわれている肝臓をスムーズに動かすためには、“工場で製品をつくり出すための原料”をたっぷりとることが大切。その原料がアミノ酸をたくさん含んだたんぱく質というわけです。

たんぱく質を多く含む肴として、湯豆腐・冷奴などが挙げられます。大豆製品は優秀な植物性たんぱく質なのです。
■「食べてから飲むと酔わない」は大間違い
また、レバーにはビタミンB12が多く含まれています。赤血球の成長を助け、あらゆる病気を防ぐ抗毒素の製造に必要な葉酸も含んでいます。
それから、焼き鳥です。安上がりなたんぱく源の筆頭で、鶏肉ではなく、豚肉でもOKです。鶏のナンコツはミネラルの補給にも役立ちます。
また、飲んでから食べるのか、飲みながら食べるのかを真剣に考える人は少ないようです。お酒の飲み方には好みもあるし、胃袋の状態によっても違ってきます。
「食べてから飲むと酔わないので、食事をして宴会に出ることが多い」というビジネスパーソンもいます。
満腹のときに飲むと、アルコールの吸収が遅くなって酔いが回りにくいので、アルコールの血中濃度も低くなると、なんとなく思っていませんか。
でも、食べ物と一緒に腹に残ったアルコールが少しずつ吸収されるので、血液中のアルコールの濃度が長時間持続されます。
つまり、相当な量を飲んでも酔わないので大丈夫と思いがちですが、実際は、いい気持ちになったころには飲みすぎているのです。
だから、「昨夜は飲む前にたっぷり食べたから気持ちよく酔えたのに、朝起きたら頭がガンガンするよ。おかしいな、二日酔いするわけないのになあ」といったぼやきにつながるのでしょう。
吸収が遅れても、飲んだアルコールはすべて吸収されるという原則を忘れてはいけません。だから、食後の酒なども避けるべきなのです。
酒の肴は、ナッツやポテトチップスよりも、たんぱく質を
■落ち込んだ脳に、「海草と大豆」を
「最近、仕事がうまく運ばない」

「何をやっても裏目に出る」
そんな気分になるとつらいものです。ちょっとした失敗や判断ミスでも、それが続くと、どんどん自信をなくし、クヨクヨと落ち込んでしまうものです。
そして、クヨクヨしているから、いつものように素早く判断ができずに仕事が滞る。なんとか遅れを取り戻そうとあせってミスをする……。まさに負の連鎖です。
失敗を繰り返したり、判断ミスが起きるのは、脳が活発に活動していないのが原因なのです。朝、寝ぼけた頭で着替えると、シャツを表裏逆に着てしまったり、ボタンを掛け違えることがありますが、それと同じです。

ですから、仕事がうまくいかず気持ちがクヨクヨしているときは、まず脳をシャキッと目覚めさせるといいでしょう。
脳を活性化させる栄養素に、グルタミン酸があります。グルタミン酸は海草に多く含まれているので、自信をなくしているときには、海草を積極的に取り入れましょう。味噌汁の具をワカメにしたり、酒のつまみを海草サラダにするだけでも効果があります。
また、食事で海草をとりにくい人は、コンビニなどで売られている、「おやつこんぶ」もおすすめです。グルタミン酸は大豆食品にも多く含まれているので、豆腐料理などを積極的に食べることでも効果があります。
落ち込みがひどくなると「何も食べたくない」「食べる気が起こらない」といった状態になりがちですが、食事をとらないとヤル気が抑えられます。
落ち込んだときほど、おいしいものを食べてください。そうすればヤル気が刺激され、クヨクヨしていた気持ちがシャキッとなるのです。
ワカメと豆腐の味噌汁は、脳に効く最強メニュー

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保坂 隆(ほさか・たかし)

精神科医

1952年山梨県生まれ。保坂サイコオンコロジー・クリニック院長、聖路加国際病院診療教育アドバイザー。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学精神神経科入局。
1990年より2年間、米国カリフォルニア大学へ留学。東海大学医学部教授(精神医学)、聖路加国際病院リエゾンセンター長・精神腫瘍科部長、聖路加国際大学臨床教授を経て、2017年より現職。また実際に仏門に入るなど仏教に造詣が深い。著書に『精神科医が教える50歳からの人生を楽しむ老後術』『精神科医が教える50歳からのお金がなくても平気な老後術』(大和書房)、『精神科医が教えるちょこっとずぼら老後のすすめ』(海竜社)など多数。

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(精神科医 保坂 隆)
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