※本稿は、樺沢紫苑『勉強脳』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■私たちは感動してもすぐに忘れてしまう
人の話を聞いている最中、あるいは、本を読んでいる最中、素晴らしい「気づき」を得ることがあります。その瞬間、「えっ! こんなことがあったのか!」と驚くとともに感動すらわき上がります。しかし1時間もすれば、すっかり忘れてしまいます。いや、1時間ももたないでしょう。5分か10分で忘れてしまうのが、「気づき」の特徴です。
「気づき」を脳科学的にいえば、単なる神経細胞の発火です。「夢」と似たようなものです。「夢」も神経細胞の発火です。
朝、物凄く楽しい夢を見て幸せな気持ちで目が覚めます。「いやあ、楽しい夢だったなあ」。
■「気づき」は瞬時に記録する
神経細胞の発火というのは、頭の中で花火が上がるようなものです。人の心を動かす、美しい花火。しかし、その花火は一瞬で消えてしまいます。花火が上がった瞬間に、カメラのシャッターを切れば、その美しさを永続的に保管できます。
「気づき」についても全く同じことがいえます。
気づいた瞬間は、「凄い!」と思っても、数分でそれはおぼろげなものとなり、10分もすれば忘れてしまいます。もったいない話です。
そうならないよう、「気づいた!」と思った瞬間に、その気づきをすかさずメモするべきです。
花火が上がったときに、すかさずシャッターを切って、花火の写真をとるのと同じ要領でメモをとる。それが、「花火写真メモ術」です。
頭の中でひらめいたアイデアを外界に出力して、文字として書き留める。
メモするというのは、手を動かして文字を書くということですから、アウトプットの一種となります。
■30秒以内にメモできる方法とは
メモの話をすると「何にメモをすればいいのですか?」という質問が出ます。
「気づき」を得てから30秒以内にメモできるなら、何にメモをしてもいいと思います。
多くの人は、スマホを持っていると思いますので、スマホを使ってメモをするのもいいでしょう。手帳を持ち歩いている人は、手帳に手書きでメモするのもいいでしょう。
私の場合は、仕事中は常時、ノートパソコンを開いており、「付箋紙」という無料ソフトを使っています。デスクトップ上に常時「付箋紙」を貼りつけておく。仕事中に何か「気づき」や「ひらめき」を得た場合は、ワンクリックで作業中のウインドウを閉じると、デスクトップの付箋紙が表示され、書き込みが可能になります。
1秒で画面を閉じて、次の瞬間に既に「気づき」を書き込んでいる。15秒もあれば、「気づき」を書き留め、元の作業に戻ることができるので便利です。
「記憶に残す」という意味では、手書きのほうが有利ではありますが、カバンから手帳を出していると30秒はすぐにたってしまいます。
■ノートのとり方で全てが決まる
日々メモされる「気づき」の中で、特に重要なものを私はXやFacebookなどのSNSにリライトして投稿します。SNSに投稿すれば、事実上の永久保存ができます。
1週間のうちに同じ情報に3回以上接触すると記憶に残りやすくなる。「付箋紙」にメモをして、SNSに投稿し、SNSでのコメントに返信すれば、3回になります。
本来であれば一瞬で忘れ去られる「気づき」が、ちょっとしたメモ作業によって、脳の中で長期保存領域に移行されるのです。
勉強法といえば、「ノート」のとり方がかなり重要です。
講演、講義やセミナーを受講するときに、ノートをとる人は多いと思います。講師が話す内容をあまり詳細に書きすぎない、学びを欲張りすぎないほうがいいのですが、ノートはどの程度詳しくとればいいのか。
私のノート術のエッセンスをお伝えしたいと思います。
レジュメには書き込まない
セミナーに参加すると、配布された資料やレジュメにメモをとる人がいますが、これは意味がないのでやめるべきです。なぜならば、後で見返すことができないから。
レジュメにメモを書いてしまうと、後から復習するときに、レジュメを引っ張り出さないと見返すことができません。何カ月もして、あのときのセミナーの復習をしたいと思っても、きちんと整理していない限り、そのレジュメを取り出すのは至難の業です。
レジュメにメモをとると、何度も復習することが困難になります。
■タイピングよりも絶対に「手書き」がいい
「気づき」は1冊のノートにまとめる
私は、セミナーや講演を受講した際の記録、あるいは仕事の打ち合わせの記録、さらに本や映画の感想など、全てを1冊のノートに書いています。
ノートを開くたびに、前回、前々回の記録に目を通すようにしています。つまり、ノートに書いたことは、1週間で3回以上、確実に復習できるのです。
パソコンでノートをとっている人もいますが、「タイピング」と「手書き」とでは、「手書き」のほうが記憶に残りやすいのと、パソコン内のデジタルデータにしてしまうと復習しづらいので、私はもっぱら紙のノートに手書きで記録しています。
細かくノートをとらない
細かくノートをとる人は、「ノートをとる」ことに集中してしまい、講師の話を聞くことがおろそかになります。大人の勉強法では、「気づき」が重要なので、既に知っていることはノートに記録する必要はありません。
ノート術のポイントは、重要なポイント、新たに学んだこと、そして「気づき」を要領良く、簡明にまとめて書くことです。短ければ短いほど、復習もしやすく、記憶にも残りやすくなります。
■ぱっと開いて確認できるサイズに収める
見開き2ページに収める
私は、A4サイズのノートを使っていますが、そうすると2~3時間のセミナーの内容を、ちょうど、見開き2ページに収めることができます。
よく、手のひらサイズのノートを使っている人がいます。そうすると、1回のセミナー内容が、10ページにも及びます。一覧性が悪いと、復習効率も低下して、記憶に残りづらくなります。「セミナー全体を俯瞰(ふかん)できる」ということが、とても大切です。見開き2ページにまとめると、2~3時間のセミナーも10秒で復習できます。
「気づき」と「TO DOリスト」を3つずつ書く
セミナーのノートに何を書くのか。そのセミナーから得た「気づき」を3つ書きます。そして、その「気づき」に対応させるように、「TO DOリスト」(やるべきリスト)を3つ書きます。「起床後、2時間は脳のゴールデンタイムで、最も集中力の高い時間帯」という気づきを得たとしたら、それをどのように自分の生活に取り入れ、行動していけばいいのかというポイントが、「TO DOリスト」です。
具体的には「朝、1時間早起きして、カフェで勉強する」というのが、「TO DOリスト」になります。「気づき」をどのように行動に取り入れるのか、「アクションプラン」「行動目標」といってもいいでしょう。
■ノートとペンにこだわればメモも楽しい
ただ、「気づく」だけでは、脳内の知覚、認知が変化するだけで、外界に何も変化を及ぼさない。つまり、「気づき」だけでは「アウトプット」にならないのです。100個の「気づき」を得ても、現実は何も変わりません。「TO DOリスト」は、「気づき」を「行動」に、「思考の変化」を「現実の変化」へと変換するツールです。
自分のこだわりのノートとペンを使う
ノートをとる場合、非常に重要なのは、自分にとって一番使いやすい、ベストのノートを使うということです。そのためには、まず大きな文房具店に行って、実際にノートを手にとり、紙質などを確認して、「お気に入りのノート」を発見する必要があります。そして、実際に買って、使ってみる。何種類かのノートを試して、試行錯誤してみる。ベストのノートが見つかれば、後はそのノートを使い続けるのみです。
さらに、書き味の良い筆記用具とペアで使いたいものです。スラスラとノートを書くこと自体が「快感」となりますから、ノートをとるのが楽しくてしようがなくなります。
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樺沢 紫苑(かばさわ・しおん)
精神科医
作家。米・イリノイ大学への留学を経て樺沢心理学研究所を設立。YouTubeやメルマガで精神医学の情報を発信。著書に『学びを結果に変えるアウトプット大全』『精神科医が教える ストレスフリー超大全』『読書脳』ほか。
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(精神科医 樺沢 紫苑)