同僚や取引先に好かれる人は、何が違うのか。『いつも好印象な人がしている言葉の選び方』(あさ出版)を書いた松はるなさんは「一緒に仕事をしていて気持ちのいい人は、言葉の選び方が違う。
相手の懐に入る伝え方ができるからだ。仕事を円滑に進めるために、ぜひ参考にしてほしいフレーズがある」という――。(第3回)
■言葉の選び方で仕事がスムーズになる
仕事の場面でこそ「選ぶ言葉」が重要であると感じる人も多いのではないでしょうか? あの人と働くと「楽しい」「成果を出せる」「目標達成が叶う」など、言葉の選択次第で仕事が円滑に進んだり、職場環境が良くなったり、業績が上がったりと、最も言葉による変化を実感しやすいのが仕事の場面だと言えます。
仕事をお願いするとき、相手が気持ち良く仕事できる言葉を選べると相手のモチベーションを上げることができますし、曖昧な表現を避けて相手にわかりやすい表現で伝えられれば、仕事をスムーズに進めることができます。また、注意するときも、前向きな言葉で伝えられたら、その場が良い雰囲気に変わっていくものです。
例えば、命令口調で「これを必要な枚数分、コピーして資料作成してくれる?」と曖昧な内容で頼む人と、丁寧な口調で「仕事が正確なAさんだからお願いしたいんだけど、このデータを年代別にまとめて見やすいグラフを作成してもらえる? できたら100部コピーして、クリップで止めておいてもらえると助かります」と、相手を尊重した上で具体的な数字とともにお願いできる人。
前者は頼まれた相手が「命令されている」と感じる上に「必要な分の枚数」を「これくらいですか?」と再確認する手間が発生してしまいます。後者は頼まれた相手が認められていることを実感でき、「役に立ちたいな」とプラス思考に前向きに思えます。また、指示がわかりやすく、すぐにスムーズに仕事に取りかかれます。
■催促するのではなく「行動を促す」
あなたが一緒に仕事をしたいと思うのは、どちらの人でしょうか? きっと、後者の人だと思います。ほんの少しの心がけで、より良い言葉選びは可能です。仕事の場面でこそ、言葉を適切に使って、言葉の力を最大限に活かしていきましょう。

【×】 早く始めましょう

【○】 AとB、どちらから先にやりますか?
会議で本題になかなか入らないとき、「早く始めましょう」と伝えたり、仕事が遅いなと感じたときに「スピードアップしましょうか」と催促したり。そんなとき、ストレートに伝えてしまうと、間接的に責めているような印象にもなりかねませんよね。
そうなると、相手の仕事への士気が下がる、落ち込むなどマイナスな影響を与えてしまうことにもなりかねません。
「早くしてほしい」と催促せずに、相手が自発的に動きたくなるようにするためには、相手に選択肢を与えて行動を促す言葉で伝えましょう。
■無意識に責任感を持ってもらえる
タスクが2つ以上ある場合、「Aさんへの連絡と、ミーティング用の資料作成、どちらから先にやりますか?」と伝えると、「そうだ、まずはAさんに連絡を済ませてしまおう!」と相手にタスクのリマインドをすることもできます。
なおかつ「早く」と言われるとどうしてもやらされている感が出てしまいますが、どちらかを選べるよう選択肢を提示すれば、相手に「自分で選んだ行動」として無意識に責任感を持ってもらうこともできます。やらされている感覚があると、どうしても気持ちが乗らないものです。ですが選択肢の中から自ら選んだものは、気持ちが乗って「良い結果にするぞ」と楽しめます。
私の友人が小学生の息子さんに「早く宿題しなさい!」と言っても反抗してやらない(やらされている感覚で全然進まない)と嘆いていたのですが、言い方を変えて「宿題と片付け、どっちを先にやる?」と提案するようにしたら「う~ん、片付け!」と進んでやってくれるようになったと話してくれました。
大人も無理にやらされると気乗りしないのは同じです。仕事の場面では「早く始めましょう」よりも「Aの議題とBの議題、今日はどちらからやりましょうか?」と選択肢を提案して、気持ち良くスタートできるようにしていきましょう。
【Point】「どちらから先にやりますか?」でスピードを上げ、やる気を引き出す。

■時間を曖昧に伝えるのはNG
【×】 少しお時間いいですか?

【○】 10分ほどお話できますか?
仕事上で、相手に対して「少しお時間いいですか?」と話しかけることはよくありますよね。社内の人に対しても、お客様に対しても、「今、お時間よろしいですか?」「少し話せますか?」と、かかる時間を曖昧に伝えるケースは少なくありません。この曖昧さが、相手にマイナスの印象を与えることもあります。
時間とは残された命の量です。自分はもちろん、相手の時間も命だと捉えると「とても貴重なもの」をいただく感覚になるはずです、明確に「10分程度」「30分程度」と、時間を伝えるようにしましょう。
特に仕事の場では、分刻みでスケジュールが組まれているものです。忙しい相手でも、先に「10分程度」と伝えることで「10分くらいなら」と時間をつくってくれる可能性も高くなります。忙しい相手にこそ配慮できると、好印象かつ一緒に仕事をしたい相手として受け入れられやすくなります。
■言葉の順序や伝え方も工夫できるようになる
10分の時間で相談や確認などさせてもらったあとは、「貴重なお時間をありがとうございました」とお礼を言えるかどうかも、ビジネスパーソンとして大切にすべき姿勢です。
お互いに時間をつくる必要がある場合は「何分くらいならお時間ありますか?」「何時までお時間いただけますか?」と、相手の都合を伺う言葉に言いかえるのも良いでしょう。そこで「10分程度」と言われたら、できるだけ10分より手短に話すように工夫しましょう。
自分と相手の時間を大切にする姿勢があれば、「何から話すとわかりやすいかな」「端的に伝えるにはどうしたらいいかな」「結論から話そう」と、言葉の順序や伝え方にも工夫をしていけるようになるので、よりスムーズに業務が効率化していくというメリットもあります。

【Point】時間は「曖昧」ではなく「明確」に伝える。配慮を大切に。
■「追ってご連絡」はストレスを与えてしまう
【×】 追ってご連絡します

【×】 ○日の○時までにご連絡します
ビジネス上のやりとりで「追って連絡します」「別途連絡します」と伝えることはよくあります。ですが、これを伝えられた相手の中には、「いつ連絡が来るのかわからない」とストレスを感じてしまう人もいます。
こう言われると、「急かすようで申し訳ありませんが、大体何時ごろになりますでしょうか?」と追加で質問をする手間が生じる上に、聞くほうも「急がせるようで悪いな」と感じてしまうものです。
とても小さなことですが、こういった積み重ねで信頼が崩れたり、一緒に仕事しにくい相手だなと感じさせたり、マイナスな印象を与えたりしかねません。また、「追って連絡します」だと相手によっては2日程度と判断されたり、1週間くらいかなと認識されたり、ズレが生まれてしまいます。
■「先回りの気配り」も厚い信頼につながる
「追って連絡する」は「期日」を決めなくていいので便利な言葉ですが、「明日の17時までに」などのように、日時までお知らせできると、周りと差がつきます。
もし第三者からの連絡次第で期日が変わるなど、期日がハッキリとわからないときは「2~3日程度で」「1週間程度で」とイメージを伝えてすり合わせしておくようにしましょう。
もう1つ、心がけると良いことがあります。外資系企業でトップコンサルタントとして活躍されていたある経営者の方は、「仕事では“心の期日”が大切」とおっしゃっていました。
心の期日とは、口には出さないけれど、相手が「もっと早く納品してほしいな」「もっと早く返事がほしいな」と感じていることを察知して、約束では1週間後でも、実際には4日で提出するような先回りの気配りです。
こうした細かい配慮の違いが、厚い信頼を得て仕事で活躍できる人の特徴なのだと思います。
【Point】期限を設けると相手への配慮になり、期限を守れば自分への信頼になる。
■催促するときは「力添えする言葉」を添える
【×】 あの件、どうなっていますか?

【○】 そういえば、あの件、どうでしょうか? 何か困っていることはありませんか?
相手にお願いしたものが期日までに送られてこない。返事をお願いしたのに返ってこない。そんなときにどんな言葉を使うかで、そのあとの関係性や状況がガラッと変わる可能性があります。例えば率直に「お願いした調査、どうなっていますか?」と聞いてしまうことも問題ではないでしょう。しかし、「早くしてほしい」「まだできないの?」「いつまで待たせるんだ」と相手を責めているようにも聞こえかねません。
そんなときは、会話のきっかけのような感じで「そういえば、お願いした調査、状況はどうでしょうか? 困っていることはありませんか?」と聞けると、自然な流れで今の進捗を聞けて、いつ頃できるのかをヒアリングすることができます。
「状況はどうでしょうか?」と確認だけでも良いですが、さらに「何かご不明点はありませんか?」「お手伝いできることはありませんか?」と相手に力添えするような言葉も思いやりが伝わるものです。
会話も弾んで、結果的に仕事も円滑に進むでしょう。期日を過ぎての催促は、伝えるほうも気が引けて嫌だなと感じるものです。しかし、「会話のきっかけとなる質問」にすれば、催促ではなく、相手との前向きなコミュニケーションに変えることができます。

【Point】催促は「会話のきっかけになる質問」をして、ギクシャクしないように確認をする。

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松 はるな(まつ・はるな)

言語化コンサルタント

東京都出身。株式会社ワールドにて外資系アパレルブランドの広報・PR・販売を担当。その後、株式会社角川SSコミュニケーションズにて雑誌編集のアシスタント業務に携わりながら、各企業より依頼を受けてコラムやメルマガの執筆・SNS運用・インタビューなどを行う。フリーになった現在は、ジャンルを問わず多くの企業でライティングや言語化・SNSコンサルティング、コミュニケーションを豊かにするための言語化サポートも行っている。

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(言語化コンサルタント 松 はるな)
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