※本稿は、飯田薫子『70歳からの本当の健康を手に入れる すごい栄養学』(宝島社)の一部を再編集したものです。
■体力不足は歳のせいではなく栄養不足の可能性も
年齢とともに食欲が落ちることは少なくありません。食が細くなると「低栄養(=栄養失調)」になりやすくなります。低栄養では、エネルギーやたんぱく質などが不十分で、健康な体を維持することができなくなってしまいます。低栄養はシニア世代に増えています。
低栄養になると体力が落ちて活動量が少なくなり、食欲が減退。さらに栄養がとれないという負のスパイラルに。体力や筋力の低下を「年のせい」と決めつけずに、しっかり食べ、定期的に検査を受けるなど健康管理が必要です。
一日3回の栄養バランスのとれた食事は健康の基本ですが、胃腸機能の低下などで一度に食べられない場合は、3回にこだわらず食事の回数を増やすのも一案です。
インスタント食品やお惣菜ばかりでなく、買ってきてそのまま食べられる魚の缶詰やヨーグルト、チーズ、豆腐、かまぼこ、バナナなど、エネルギーと栄養素を補える食材を上手に活用しましょう。
足りないエネルギーや栄養素を間食で補うのもよいでしょう。間食は一日の摂取エネルギーの10%程度、100~200kcalを目安にします。
間食におすすめなのがピーナッツ、アーモンド、くるみなどのナッツ類。たんぱく質、不飽和脂肪酸、食物繊維、ビタミン、ミネラル、フィトケミカルを含んだスーパーフード。ナッツ類を食べる人は生活習慣病による死亡率が低いという研究結果もある“魔法の食材”です。
■生野菜は細かくすると栄養素の吸収効率アップ
ビタミン、ミネラル、食物繊維、フィトケミカルなど栄養が豊富な野菜は、健康維持のために欠かせない食材です。野菜は調理法によってとれる栄養素の量が変わります。
みずみずしいフレッシュな野菜をそのまま食べるのも格別ですが、栄養学的には生で食べるほうがいいとは限らず、ゆでたり油で炒めたりすることによって、より栄養素を引き出せる野菜もあります。
それぞれのメリット・デメリットを知って効率よく栄養素を摂取しましょう。
生の野菜はシャキシャキとした歯ごたえがよく、噛むことで消化器官や満腹中枢が刺激され、満腹感を得やすいというメリットがあります。
また、野菜に含まれるビタミンB群、ビタミンCなどのビタミンは水溶性であり、長時間の水洗いやゆでるなどの加熱によって流出してしまうので、生で食べるほうが栄養素を効率よくとることができるというメリットもあります。
しかし人間は野菜の細胞膜を構成しているセルロースを分解する酵素を持っていません。そのため、生野菜から有効な栄養素のすべてを吸収することはできないのです。
生野菜から栄養素を効率よく吸収するには、細かく刻む、ミキサーでスムージーにするなど、細胞壁を壊す工夫をするとよいでしょう。
一方生の野菜のデメリットは、一度に食べられる量が少ない、消化・吸収に時間がかかる、加熱したものより食中毒のリスクが高いなどの点です。
■健康面から見ても非常に優秀な調理法の種類
温野菜のメリットは加熱調理することでかさが減り、一度にたくさん食べられること。
また熱による殺菌効果があり、火を通すことでやわらかく食べやすくなり消化・吸収がよくなります。おなかの調子がよくないときは温野菜がおすすめです。
一方デメリットは、ビタミンやミネラルの種類によっては長時間の加熱で壊れたり、ゆでるとお湯の中に流出してしまうことです。
そこで加熱調理の中でおすすめなのが、水を沸騰させてでた水蒸気の熱で加熱する「蒸す」という調理法。シンプルに食材のおいしさを引き出せることに加え、健康面から見ても非常に優秀な調理法といえます。
栄養素の分解や流出が少なく、蒸気で水分を補いながら火を通すので、しっとりやわらかく仕上がります。季節の野菜をせいろで蒸し上げて好みのたれでいただけば、野菜本来の味を楽しめます。
また蒸すという調理法は、糖やアミノ酸が高温で加熱される際にできる有害物質を生成しにくいのもメリットです。
このような有害物質は焼いたり揚げたりといった加熱調理で発生します。長くとり続けているとその強い毒性が体内に蓄積され、体の老化や病気の原因となることが考えられます。
ただ、蒸し料理は少々手間がかかるので、かわりに水を使わず短時間で仕上がる電子レンジ調理などもおすすめです。
このように、生野菜、温野菜にはそれぞれメリット・デメリットがあるので、さまざまな調理法を取り入れてバランスよく食べましょう。
■先人の知恵の宝庫「発酵食品」
腸内環境を整える食品の代表といえば、発酵食品です。
発酵食品は、原料となる食品に麹菌や乳酸菌、酵母などの微生物「菌」を加えて発酵させたものです。発酵の過程で味わいが増しておいしくなり、食品としての効能もアップします。
日本人が昔から食べていた、味噌、しょうゆ、酢、みりん、酒、納豆、漬け物、だしをとるのに欠かせないかつお節(枯節(かれぶし))などは発酵食品です。温暖で湿度の高い気候風土を生かした日本特有の食文化を築いてきたのです。
食品の「発酵」とは、食品の成分が微生物の働きで人の体によい性質のものに変わること。一方で、有害なものになればそれは「腐敗」です。
発酵食品には
・分解された成分がうま味や香り、体によい成分として働く
・食品に含まれる栄養素が増える
・毒物が分解され毒性が弱まる
などさまざまなメリットがあります。
たとえば、納豆は大豆に納豆菌が繁殖したもの。大豆が発酵されることで、糖質・たんぱく質・脂質の代謝を助けるビタミンB2が約2~4倍に増加します。
■「朝食抜き」はダイエット効果なし
朝食抜き、糖質制限、油抜き……ダイエットしようとするとき、多くの人は“減らすこと”ばかりに気を配りがち。
しかし、ダイエットのために特定の食品や栄養素を「減らすダイエット」をすると、新型栄養失調などで体調を崩してしまうこともあります。
また最近の研究では、筋肉を減らし、骨を弱らせてしまうようなまちがったダイエットは寝たきりリスクを高め、健康寿命も短くしてしまうことが明らかになってきました。
朝食を抜くと、食べる量が減るので、その分やせられるような気がしますが、かえって肥満やメタボリック症候群、糖尿病などのリスクが上がることが研究でわかっています。朝食を抜いて食べない時間が長くなると、昼食後の血糖値が上がりやすくなるためです。
また同じ一日3食でも、朝ごはんを抜いてかわりに夜食を食べてしまうと、夜はエネルギーが消費されにくいため脂肪が蓄積されやすくなります。
また、朝食は体内時計をリセットする作用があります。朝ごはんをとった時間を目安に体内時計をリセットして体が代謝を開始し、体温を上げて一日のリズムをつくり出します。
朝食を抜くと、体温を高い状態に持続する時間が短くなり、エネルギー消費量が減少してしまいます。つまり、朝食を抜いてもダイエット効果は期待できないのです。
■腸内環境が悪化し、内臓脂肪の蓄積を招く
食事を抜くと腸が動かなくなり、生命活動を維持する自律神経のバランスが乱れて腸の消化・吸収力や排便する力が低下します。その結果、腸内環境が悪化し、内臓脂肪の蓄積を招いてしまいます。
食事抜きのダイエットで一時的に体重は落ちますが、これは内臓脂肪をはじめとする脂肪が落ちるだけではありません。体に必要な水分が減り、筋肉、骨などもいっしょにやせてしまっているのです。
さらに、ダイエットをやめると体脂肪は元に戻っても、減った筋肉や骨はなかなか元には戻らないので、結果として体脂肪率が増えてしまいます。
また近年の研究では朝食に限らず、食事を抜く人は抜かない人に比べて死亡リスクが高いということも報告されています。腸内環境を改善するためにも、自律神経の活性を取り戻すためにも一日3食とるのがベストです。
■過度な糖質制限は寝たきりリスクを高める可能性も
糖質制限とは、食事で摂取する糖質を減らして減量や血糖値の低下を目指す食事療法です。糖質制限をすると、自然と主食の量が減り摂取エネルギー量を抑えられるため、体重減少を早く感じられます。
肥満を解消すれば、生活習慣病のリスクの軽減にもつながります。また糖質以外は比較的自由に食べられるので、空腹を感じにくいというメリットもあります。
半面、継続が難しいという欠点があります。極端な糖質制限は倦怠感やイライラ、集中力の低下の原因にもなります。
さらに問題なのは肥満でない人が糖質制限をするケース。
糖質制限は寿命を縮めるとの研究報告もあり、適切に行うことが必要です。
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飯田 薫子(いいだ・かおるこ)
医師
お茶の水女子大学大学院教授。博士(医学)。代謝内分泌学、病態栄養学を専門とする。長寿科学振興財団リサーチレジデント、筑波大学大学院講師などを経て、2017年より現職。生活習慣病の予防や治療について、食や栄養の観点から研究を行っている。監修書に『一生役立つ きちんとわかる栄養学』(西東社)、『サクッとわかる ビジネス教養 栄養学』(新星出版社)などがある。
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(医師 飯田 薫子)