職場の雰囲気を良くするにはどうすればいいか。弁護士の西脇健人さんは「職場に『困った人』がいると、周りの人に好ましくない影響を与え、会社に損失をもたらす可能性がある。
このような問題社員を放置してはいけない」という――。
※本稿は、西脇健人『「円満退職請負人」が教える! 全員が幸せになる「トラブルなし」で問題社員に1ヶ月で辞めてもらう方法』(翔泳社)の一部を再編集したものです。
■「殺すぞ!」と怒鳴り散らすベテラン職人
ここでは、「問題社員」について理解を深めていただくために、実際に当事務所で取り扱った企業側の退職代行サービス「Resgent(リスジェント)」の事例について、いくつかのパターンを見ていきたいと思います。
この事例で「うちのケースも問題社員なんだ」という判断材料にしていただければ幸いです。
事例1 世代交代に伴い問題社員化するパターン
業種: 製造業
問題社員: もともと、かなり高度な技術を持つベテラン職人。丁寧な教え方が評価され、若手からの信頼も厚く慕われていた。
問題行動: ある時から、若手に「これやっておけ」「代わりに行ってきてくれ」と言って、仕事を押し付け、自分は仕事をサボることが増えた。そのことについて意見を言うと、「殺すぞ!」など猛烈な勢いで社内で怒鳴り散らし、暴れ出すといったパワハラ行為を繰り返していた。
また、「俺は会社のために良かれと思って指導しとるんだ」「若手のためを思って厳しく指導してるんだ」と自分の言動を正当化する。
ほぼ引退している社長の言うことは聞くが、現在実権を持つ社長の息子、副社長の言うことは何にも聞かないため、コントロール不能な状態であった。
■嫉妬やプライドにより「モンスター化」
このパターンのように、若手社長が家族経営の二代目という場合、世代交代に伴い、ベテランが問題社員化するパターンは多いのです。
問題社員は、副社長である息子さんよりも長く会社に勤続しています。
そのことから、自分の努力や貢献を無視されていると感じる、または、新体制の方針に同意できないなどの理由から、不満が生じてしまうことも少なくありません。
また、自分よりも経験が浅い若者が急速に権力を握ると、嫉妬や凝り固まったプライドによって問題行動に繋がってしまうこともあります。
このケースは結果として、長く働いてもらったことに感謝しつつ、円満退職していただくこととなりました。
■20代の新人女性がハラスメントの被害に
事例2 「お局様」が主導権を握るパターン
業種: クリニック
問題社員: クリニックの立ち上げの時から30年以上勤務していた、50代後半の女性スタッフ。入社後10年間ぐらいは相当な戦力であった。勤務歴が長いため、院長や他の従業員とも関係性が確立されており、何人か取り巻きがいた。
問題行動: 20代の新人女性スタッフに、自覚なくハラスメントを繰り返していた。彼女が有休を取得する際に、問題社員は「あまり休まれると困る」「休んでもいいけど帰省はするな(コロナ期間中であったため)」などと発言。
恋人と2人で引っ越してきたばかりの彼女に、「この地域は車社会だから」「子どもができたら車がないと不便よ」と免許の取得を執拗にせまる。彼女は、身内が交通事故で亡くなっているため、免許取得はしない旨を勇気を出して話すも、この話題は繰り返された。
彼女が体調不良で休暇を取ると、「妊娠したのか?」と聞き非常に不快な思いをさせた。この他にも、彼女が結婚や妊娠の話題などを避けようとしても、「いつ結婚するんだ?」「子どもをつくらないと」という話を日常的にしてきていた。

■「おせっかいなおばちゃん」の暴走
次第に、業務上の注意をする時に、彼女を怒鳴るようになった。さらに彼女は、自分の靴箱に他人の靴を入れられたり、仕事の割り振りで嫌がらせをされたりするうちに、働くことが怖くなってしまい、休職に至る。
その後、なんとか職場復帰するも、「復帰のあいさつがない」と問題社員から怒られ、全員が閲覧できる業務連絡ノートに「私が悪かったです」との趣旨の謝罪の言葉を書くよう強制された。
事態を知った院長が「いろいろあるけど全員で仲良くやっていきましょう」というメッセージをクリニックのグループLINEに投下したところ、彼女は「このクリニックはもう何もしてくれないのだ」と失望。再びの休職の後、退職へ。
このような「いじめ」とも取れる言動を繰り返し、他の社員を休職・退職にまで追い込んでしまう人も、本人に自覚がないパターンが多いのです。
本人と話をしてみると、「どうしようもない悪人」というわけではなく、言い方は悪いかもしれませんが、「極端におせっかいなおばちゃんが、歯止めが利かなかった」というような側面もあります。
■悪気がないからこそ、余計に厄介
実際に当の問題社員は、若手の女性とのコミュニケーションのつもりで「子どもができたら……」などの話題を振っていたようです。
「結婚して、子どもができたら車が必要でしょ」「まだ子どもいないの?」このような話をしても、まわりの同僚も似たような女性ばかり。
みんな同じようなことを思っているので、それが一般的にはハラスメントだという感覚がなく、「今日はお昼に何食べたの?」と同じレベルの質問のつもりで、当たり前のように話をしているのです。
悪気なく話しているのに「どうしてこの子は私たちを敵視するのだろう」と、拒絶されているような気持ちになり、次第に攻撃へと走ってしまったのでしょう。
このケースは、本人にハラスメントの自覚がない、かつ、勤務期間が長かっただけに退職交渉は難航。

しかし、問題社員もクリニックを想う気持ちがあり、自分がいることによってクリニックが潰れてしまうようなことになるのであれば……と、最後は身を引く決断をしてくれました。
■問題社員のパソコンを確認してみると…
これまでの事例のように、直接他の従業員に対して問題行動を起こす問題社員もいますが、単独で横領、窃盗などを繰り返すタイプの問題社員もいます。
どんな事例があったのか見ていきましょう。
・横領事例(職務で預かった財産を不正に流用すること)
業務のことで上司と揉めてしまった総務職の問題社員。これをきっかけに会社を休むようになった。
「このまま辞めてしまうのではないか」と思った上司が問題社員のパソコンを確認。すると、総務の業務としてネットで事務所の備品を購入しつつ、自宅にも何か送っている形跡が見られた。
調べを進めると、洗剤、ティッシュペーパー、タオル、飲み物からお菓子など、私物の購入が日を追うごとにどんどん増えており、最終的には会社支給ETCの使用や営業車のガソリン代を支払う際に使用するカードまで私的利用していたことが発覚。長年の勤務・貢献を考慮し、話し合いの結果、自主退職となった。
■トイレットペーパーを盗んだ社員の“持論”
・窃盗事例(会社の所有物を私的利用したり、不正に持ち出したりすること)
製造業の企業で、社内のトイレットペーパーの盗難が相次いだ。
そんな中、目撃情報があり、どうやら50代の一般社員が持ち出しているのではないかと特定。その従業員に事情を聴いたところ、生活苦ではなく「会社の物=自由に使っていい」という身勝手な思考で行っていたと判明。

犯罪であること、告訴はしないことを条件に辞めてほしい旨を伝え、退職に至った。
・占有事例(職務で預かった会社の財産を管理する立場を利用すること)
魚肉海産物加工工場の従業員が、工場内の設備を無断で使用。
その理由はその従業員が「副業」をしており、その副業での利益を得るために、会社の設備を使い、牛肉の加工品を業務時間中に作っていた。
食品加工における不適切な取り扱いや、許可外営業が公に知られた場合、衛生面の観点からも消費者の信頼が大きく損なわれるリスクがある。
会社の存続にも関わるため、これ以上働いてもらうわけにはいかないと伝えると、本人も事の重大さを認識しており、円満に退職に至った。
■「仕事ができない人」を雇い続けるリスク
・「能力の欠如」の事例(職務を遂行する上での能力の不足)
自動車部品工場に勤務する20代のある従業員。
納品する商品の数を数えることが難しく、100個必要なところ、何回も確認して数えるように指導しても90個ぐらいしかない状態で納品してしまうなどのミスを繰り返し、客先からもクレームが多発していた。
実はこの従業員は知り合いのお子さんだったため、社長は雇い続けたいという気持ちを持ちながらも、このままでは取引先にも迷惑をかけ、最終的には取引先を失ってしまうかもしれないというジレンマを抱えていた。
この社員も、社長のことを想う気持ちがあり、話し合いの末に「迷惑をかけてしまうから」と退職していった。
・「出退勤の改ざん」の事例(勤務時間を不正に操作・偽装する行為)
営業職の従業員。仕事柄、外回りが多いもしくは客先常駐するような業務の場合、直行直帰が認められていた。
しかし、この従業員は「直行直帰します」と言って、社用車を使い、お客様のところにも行かず、そのまま遊びに行ってしまうなどのケースが発覚。

調べると、仕事自体は1時間で終わったのに、その後会社にも戻らず、家に帰ってしまう場合もあった。
証拠を示して話し合いを行ったところ、交通費等を返金の上、退職金不支給にて退職に至った。
■放置している会社が責任を問われることも
ここまで説明してきたような問題社員の「問題行動」にはさまざまなパターンがありましたが、ある程度タイプ別に分類することができます。
みなさんの会社の問題社員に該当するかどうか、確認してみてください。
①刑法犯(金銭絡み)タイプ
職場内外で横領・窃盗等、金銭絡みの犯罪行為を犯しているケース。
金銭絡みの犯罪行為については、裁判所も労働者に対して厳しい評価を加える傾向がある(金銭等財物を奪う行為は、労使における最低限の信頼関係を破壊する行為だと捉えている)。
よって、解雇も視野に入れつつ、リスクヘッジのために退職勧奨を行うか否かを判断することになる。
②刑法犯(金銭以外・職場内)タイプ
傷害・暴行等の犯罪行為を職場内で犯しているケース。
解雇の有効性については当該犯罪行為の動機・経緯等に左右されるので、加害者・被害者・目撃者からしっかり事情を聴く必要がある。
このケースは、それなりにくむべき動機・経緯等が存在していて解雇が難しい場合でも、職場の雰囲気が劇的に悪化して退職する者が出たり、会社が損害賠償請求(安全配慮義務違反)を受けるリスクもある。
特に、会社が事実を把握した後、対応に迷っているあるいは有耶無耶な対応しかしないうちに、再度同一被害者に対する被害を発生させてしまった場合には、「会社が適切な対応を取らなかったために被害が拡大した」と厳しく評価されるおそれがある。よって、全力で退職勧奨を行い、うまくいかない場合は腹を括って解雇するケースもある。

■「職場外」の犯罪は解雇理由になりにくい
③刑法犯(金銭以外・職場外)タイプ
職場外で犯罪行為を犯しているケース。
経営・職場環境に重大な悪影響を及ぼしていない限り、解雇は難しい。辞めてほしい場合は、退職勧奨を行うべき事案。
④能力不足タイプ
どれだけ指導しても、職務内容を変更しても、配転しても、一向に仕事ができず、改善の見込みもないケース。
解雇は難しいが、人件費垂れ流しになってしまうので、とりわけ中小企業ではダメージが大きい。
また、放置するとその労働者が、仕事ができないことが原因でうつ病等になり、労災対応に加え安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を受けるリスクすら存在する。退職勧奨を行うべき事案。
■被害者へのヒアリングは細心の注意を
⑤ハラスメントタイプ
セクハラ・パワハラ・マタハラ等。
就業環境を害するおそれが高く、被害者がうつ病等の精神疾患を発症するリスクが高い類型である。クリニック等、責任者と隔離された空間で多数の人間が執務する職場ではヒエラルキーが発生することにより生じるケースが多い。
放置すると、離職者が激増したり、会社が損害賠償請求(安全配慮義務違反)を受けるリスクがどんどん高まるので、早期に適切な調査(ヒアリング等)を行う必要がある。
ただし、ヒアリング方法によっては、被害者に二次被害を与えたと評価され、会社に損害賠償責任が生じる可能性があるので注意。
なお、パワハラ事案の場合、加害者に悪気がないケースが多く、退職勧奨に難航する可能性が高い。自分を正当化して、裁判で争ってきたりするなど解雇した場合のリスクも高い。
⑥暴走番頭タイプ
勤務年数が長く、能力も高く、求心力もあったはずの人物が、会社方針の転換等に異を唱え、経営者の言うことを聞かなくなるケース。
経営者の世代交代のタイミングや、会社が経営不振に陥ったタイミングに顕在化することが多い。ハラスメントタイプと共通する点もあるが、経営者の言うことを聞かない点が特徴。これも、クリニック等、責任者と隔離された空間で多数の人間が執務する職場で発生することが多い。
放置すると、離職者が激増したり、会社の経営状況が悪化するリスクがどんどん高まるので、早期に調査(ヒアリング等)・退職勧奨を行う必要がある。
ただし、暴走番頭が「会社のための言動であり、非難される覚えはない」などと言って強気に出るケースが多く、退職勧奨に難航する可能性が高い。ハラスメントタイプと同様に解雇した場合のリスクも高い。
■「軽微なミスだから大目に見る」が裏目に
⑦勤務不良タイプ
遅刻・忘れ物が多い等、一つひとつの非違行為は軽微であるものの、長期間継続されることにより他の労働者のモチベーションを低下させ、悪影響が多いタイプ。
裁判所としては、このようなケースこそ、「軽微な懲戒処分から始めて改善を促すべきだった」と判断し、解雇はなかなか認めない。しかもこのようなケースでは、懲戒処分等をしないまま長期間経過してしまっていることが多い。
他の従業員が「この人が辞めないなら私が辞める」と言い出したり、そもそも1年前の遅刻について今更懲戒処分することができるのか、「1年も経って今更処分されたのは、今辞めさせたいからであって、不当な動機・目的による懲戒処分で無効だ」等言われるリスクもある。
以上の観点から、退職勧奨によって合意退職を目指すべき事案。

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西脇 健人(にしわき・けんと)

弁護士/弁護士法人せいわ法律事務所

日本初、企業側の退職代行サービス「Resgent(リスジェント)」を提供。Resgentとは「restructuring(再編)」と「agent(代理人)」を組み合わせた造語で、経営者・人事担当者の代わりに、弁護士が直接従業員と業務改善および退職交渉等を行うサービスで、これにより、経営者・人事担当者の方々の精神的負担を軽減し、他の業務に注力してもらうことにより企業の総合的な業務改善を目指している。過去100件以上の実績で著者はいつしか「円満退職請負人」と呼ばれるようになった。

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(弁護士/弁護士法人せいわ法律事務所 西脇 健人)
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