インターネットで育児情報を収集する際に注意すべきことは何か。小児科医の森戸やすみさんは「インターネット上の情報は玉石混交。
専門家監修の情報でも鵜呑みにしないほうがいいものもある。お子さんのために情報の真偽を見分けるコツを身につけてほしい」という――。
■インターネットは便利だけど
先日、「今、ラジオを聞く人が増えていて、過去最多になっている」という話を聞きました。現代では、ほとんどの人がスマホやイヤホンを持っていて、気軽にラジオを聞くことができるようになったからだそうです。
スマホやインターネットの普及により、私たちはいつでもどこでもラジオやテレビ、ニュースサイトなどのメディアに触れることはもちろん、GoogleやYahoo!などで検索したり、SNSやメール、LINEなどで誰かと繋がったり、YouTubeなどで動画を見たりすることができるようになりました。スマホ普及前よりも、情報収集やコミュニケーションが容易になったわけです。
一方、同時に誰もが気軽に発信できるようになったので、世の中を飛び交う情報の量は飛躍的に増え、中にはおかしなものがたくさんあります。一体どの情報が正しいのか、確かめるのが大変です。私自身も、まったく知らない分野の調べ物をするときはとても心もとない気持ちになります。インターネットで検索上位に出てきた情報、SNSで誰かが流した情報が正しいとは限らないからです。
もちろん、子育て情報にも、デタラメなものが多いので注意が必要です。子どもがいる家庭は、仕事だけでなく、家事や子育てなどのやるべきことも多いので、調べ物に多大な時間を費やすのも難しいもの。
どうしたら効率的に正確な情報にたどりつけるでしょうか。
■おかしな情報が溢れている理由
その前に、そもそもインターネット上に誤った情報や悪意のある情報が多いのはなぜでしょうか。総務省は「上手にネットと付き合おう!安心・安全なインターネット利用ガイド 」という有用なサイトを作っています。その中の「令和6年能登半島地震に関するインターネット上の偽・ご情報にご注意下さい」という特集ページがヒントになります。
このページに書かれた「ネット上の真偽の不確かな投稿の例」を見ると、二次元コードを添付して寄付金・募金を集めたり、不要な工事をすすめてお金を取ったりなどという経済的動機のほかに、不確かな情報でも「知らせてあげないと!」という善意から拡散してしまうことがあるとわかります。
また、無関係の画像を付けて注目を集めたり、存在しない救助・援助を呼びかけて騒がせたりすることで、承認欲求を満たすこともあるようです。YouTubeやInstagram、Xなどの場合、投稿が見られるだけで収益になる仕組みがあるので、たとえ批判されて炎上したとしても、閲覧回数さえ上がれば、注目を集めるだけでなくお金も稼げるのです。
■誤情報は事実の6倍の早さで広まる
同じ総務省のサイトによると、85%の人はニセ・誤情報に気づかず、17%の人が拡散をするため、真実・事実の情報に比べて6倍のスピードで広まるそうです。
そのほかにもインターネット上の正しくない情報がどうしてできてしまうのか、そしてそれがどうやって繰り返し目の前に現れてくるのか、それによってどのようなことが起こるのかがイラスト入りでわかりやすく書いてあるので、このサイトを読むことをお勧めします。
それでも、子育て情報は、ひときわ正誤の判断が難しいのが特徴です。なぜなら子育てには正解がないから、子どもを思うあまり迷ってしまいがちだからです。育児に正解がないのは、時代や地域によって正しいとされることが変わるからでしょう。
明らかにお金を取る方向に誘導されたり、特定の商品やサービスが勧められていたりしたらあやしいと感じるでしょうが、そういったことがなく、「むしろ良さそうだけれどどうなんだろう」と思ったら、次の4点に注意してみてください。
■①取材・監修・根拠なしの記事は除外
子育てサイトのなかには、いい加減な情報を載せているところも多々あります。例えば、「母乳にはお母さんの食べたものがダイレクトに出るから、和食の粗食にするべき」などという記事があります。よく読んでみると、専門家に取材もしておらず、監修も依頼していなくて、根拠を示してもいない主観だけの記事だったりします。
こうした記事の多くは、ネット上の情報や画像をまとめただけのものがほとんどです。それでも、記事内容が、「子育て体験記」や「お出かけスポット」などのことなら、権利侵害をしていなければ、まだいいかもしれません。でも、健康に関わる記事は、もっと慎重に書かれるべきです。うっかり「予防接種は受けず、感染症になった子から早めにうつしてもらおう」というような記事が出た結果、どこかの子が合併症に苦しんだり、後遺症が残ったりしたら誰が責任を持つのでしょうか。
ですから、ネットの情報や画像を拾ってきてまとめただけの記事を信用してはいけません。記事を書いた人の署名があって、所属や経歴がきちんとあることは大前提。ライターさん自身が専門家であるか、または専門家に取材や監修の依頼をしていれば一考の価値ありです。が、それでも安心できません。
ハーブティーの会社と共同開発をする助産師が、COI(利益相反)の開示をすることなく母乳に関する記事でハーブティーを勧めているなどの例があるためです。
■②取材先や監修者が誰なのかをチェック
次に、記事の取材先や監修者がどんな人なのかをチェックしましょう。その専門家は、その分野で多くの同業者から支持されているでしょうか。根拠を提示しているでしょうか。専門家の資格はあっても、根拠もなくただ極端なことを言っている人たちもいます。
たとえば、出生後すぐの赤ちゃんにビタミンKを与えることは、とても重要です。ビタミンKは、胎内でお母さんからもらいにくく、母乳中にも少なく、赤ちゃん本人が作ることも難しいからです。乳児期早期にビタミンK欠乏症になると、8割以上の子が「頭蓋内出血」を起こします。こういったことは基礎研究・臨床研究でわかっていて、ビタミンK製剤の効果が高いという国際的なコンセンサスもあるのです(※1)。
しかし、ときどき一部の医師や自称専門家が言っていることをもとに「新生児へのビタミンK投与」を否定する投稿やWEB記事が出てしまいます。もちろん、多くの医療関係者や一般の方たちから批判が殺到し、最終的には削除されるのですが、そのあいだに信じる親御さんがいたら大変なことになります。
このようにデマの内容によっては人の命にも関わります。
他の専門家が言う以上の科学的な根拠を示せないような突飛な意見には従わないようにしましょう。
※1 新生児と乳児のビタミンK欠乏性出血症発症予防に関する提言
■③「両論併記」していないかをチェック
以前、1冊の育児雑誌に2つの対立する説が載っていたので電話をしてみたという人たちの話を聞いたことがあります。編集部からは「いろいろな意見があるから後はご自身で判断してほしい」という説明を受けたそうです。
でも、両論併記すればいいというものではありません。「一般的な根拠のある説」と「極端な根拠のない説」を同等の正しさがあるように載せて、いろいろな意見があると言い逃れするのはおかしなことです。
他にも「お産をするところは病院、助産院、自宅があります」と書いた本がありました。今も分娩する場所を検索しようとするとAIが「大学病院と一般病院、診療所、助産院の4つに分類されます」と教えてくれます。日本では20床以上ある病院での分娩が52~53%、19床以下の診療所が46%、助産所が0.5%以下、自宅などでは合計で1%未満です。さまざまな場所があっても、割合を示さないとフェアではないでしょう。
「いろいろな意見がある」といいますが、その内容は玉石混交です。「石」の情報に価値があるでしょうか。それどころか間違っている情報だと、特に育児や健康については害になることがあるので注意が必要です。

■④公的機関がどう伝えているかをチェック
子育てで疑問を感じたら、「こども家庭庁」「厚生労働省」「国立健康危機管理研究機構」、各種学会などの公的機関がどう言っているかをチェックしましょう。
例えば、離乳食の開始時期に迷ったときは、こども家庭庁の「授乳・離乳の支援ガイド」がおすすめです。いつからどういった離乳食を始めたらいいのか書いてあります。また、子どもの身長や体重などの発育に悩んだら、日本小児内分泌学会のサイトを見ましょう。子どもの成長発達についての正確な情報があり、「身長を伸ばす」と宣伝されているサプリメントについても見解を述べています。そのほか、日本小児科学会日本小児神経学会のサイトも参考になります。
感染症に関しては、国立健康危機管理研究機構の「感染症発生動向調査週報」がお勧めです。日本でもっとも早期に最新の感染症の情報が見られます。また、NHKの「感染症データと医療・健康情報」も、グラフやイラストが多く、それに関係したニュースもまとまっているのでわかりやすいですね。こういった公的機関、それに近いところが出す情報は、多くの人が関わり、また多くの目にさらされるため、根拠のある確かな情報が掲載されていて安心です。
それでも疑問や不安が解消できない場合は、かかりつけの小児科医、子育て支援センターなどの専門家に相談しましょう。玉石混交の石が多いネット上で惑わされず、かわいいお子さんを守るために、ぜひ情報を選ぶ技術を身につけてください。


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森戸 やすみ(もりと・やすみ)

小児科専門医

1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

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(小児科専門医 森戸 やすみ)
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