ローソンが人口の少ない地方都市への出店を強化している。2年前には日本最北端の北海道稚内市に4店舗を同時オープンし、今年6月にさらに追加で3店舗をオープンさせた。
大手3社の中でなぜローソンだけが出店できるのか。消費経済アナリストの渡辺広明さんが現地を取材した――。(前編/全2回)
■稚内に7店舗出店したローソン
ローソンが過疎地域への出店を強化している。
その象徴とも言えるのが、言わずと知れた日本最北端の街、北海道稚内市だ。
2023年8~11月に4店舗オープンを果たすと、勢いそのままに、今年6月にはさらに3店舗を出店。現在7店舗が営業している。
稚内市の人口は、2025年7月現在で2万9852人。1975年の5万5464人をピークに、他の地方都市と同様、人口減少が続いている。夕方の市役所前の芝生には野生の鹿がゆっくり過ごしている光景が見られるほどだ。
今後も高齢化はさらに進み、2045年には2万人を割り込むのではとも言われている。
そんな稚内で、なぜローソンは出店攻勢をかけられるのか。現地を取材した。

■日本最北の街で「売り上げ絶好調」
首都圏では酷暑が訪れた6月16日。稚内の気温は18度と過ごしやすい。向かったのは稚内初出店となったローソンの1つである「稚内こまどり5丁目店」。住宅街の一角にあり、優に30台は停められるであろう広々とした駐車場には、平日の昼過ぎでありながら、常に5~6台が停まるほどの客入りだった。
店をフランチャイズで切り盛りするのは、浅見学オーナー(46)。旭川市(人口約31万人)に近い深川市と名寄市でローソンを営んでいたところ、本部から声が掛かり、一念発起して稚内市に引っ越した。現在は稚内市を含め10店舗を運営するMO(マネジメントオーナー)だ。
「おかげさまで、他の店舗よりも売り上げはいいんです」
店内は都市部のものより広く、通路も広々としており、地方に見られる買い物しやすい店舗だ。最北端の宗谷岬のお土産や地元稚内の特産品などを取り扱っている以外は、扱っている商品はほぼ同じだという。にもかかわらず、日本最北の地で売り上げ好調とはどういうことなのか。
■からあげクンが1日100個売れる
「店内のキッチンで作った『できたて商品』が他の店舗の2倍以上売れています」
店内レジ横には、ローソンが稚内に進出するきっかけとなったキッチン「まちかど厨房」が併設されており、1回で30合が炊ける超巨大な炊飯器や、親子丼を作るための什器、揚げ物のためのフライヤーなどがある。
厨房には売り場につながる小窓があり、ここから揚げたての唐揚げなどを陳列することができるようになっている。

「まちかど厨房の商品に加えて、特に売れているのがからあげクンです。1日に100個以上売れたこともあります。1人で5、6個をお買い上げになるお客様もいます。おそらく帰ってご家族でお召し上がりになるのでしょうが、これはほかではあまり見ないケースでした」
学校帰りに訪れた高校2年生の男女は、2種類の味のからあげクンを袋に入れていた。
「ローソンができてからは週4でローソンに通っています。甘党なので、デザートなんかもよく買いに来ます」
ほかにも、「Lチキ」もよく売れるという。
「稚内にはケンタッキーのようなフライドチキンを販売するお店があまりありません。その代替としてお買い求めいただいているのでは」と浅見さんは分析する。
■稚内進出を可能にした「まちかど厨房」
稚内のローソンには、こうした「自分たちで商品を作ることができる施設」は必須だ。
大手3社のコンビニが今まで稚内に展開できなかったのは、最北端に位置するため配送距離が長くなり、コストがかかることと、特に冬場の天候不良で安定した商品供給ができないと考えられていたからだった。
それを可能にしたのが、この店内にキッチンをビルトインしてしまう発想だ。
稚内に並ぶ商品は、240キロ離れた旭川市の物流拠点からトラックで毎日運ばれている。
冬季ともなると、大雪などの影響で物流が止まってしまうことも十分に考えられる。
それに対応するため、稚内のローソンでは、他のローソンと比べて在庫を保管するバックヤードを3割ほど広くした。いざという時は備蓄食材を使って商品を作り、災害時の「棚がスカスカ状態」を回避して営業を続けることを可能にした。
北海道のソウルコンビニであるセイコーマートも「ホットシェフ」という店内調理を展開している。セコマが道民にこよなく愛されるのは、天候不良などで物流が滞り弁当やおにぎり、サンドウィッチが納品されなかった場合でも、店内調理により顧客に中食を提供できることが大きいのだろう。
意外にも、進出してからの2年で、大規模な遅配は1度も発生していないという。そのため、今年6月にオープンした新店舗は通常の店舗と同じ大きさのバックヤードに戻し、トラックによる配送の回数も1日1回から他の道内のコンビニと同じ1日2回に増やしたという。
■1日200個売れる「ソフトクリーム」
売れ筋商品はほかにもある。
私たちが取材に訪れる前日の日曜日に、ローソンの北海道エリア約50店舗で展開しているソフトクリーム(税込み350円)が180個も売れたというから驚きだ。過去には200個売れた日もあったようで、確かに店内でお客さんを観察していると、ほとんどの人がタバコやペットボトル飲料とともにソフトクリームを買い求めていた。
観光客目線でいえば、北海道の食を楽しむならコンビニのソフトクリームよりも観光牧場のしぼりたて生乳を使ったものを食べたくなる。ところが、そこに住む住人にとってはそんなことは関係ないということなんだろう。

この日の稚内の最高気温は19.4度と20度に届かなかった。それでこれだけ売れるということは、夏場には一体何個売れるのか想像もつかない。コンビニではカップラーメンの売れ筋商品でも1日1個程度の販売数であることを考えると、いかに売れ行きが凄いかがわかる。
また、稚内では土地柄冷房を完備していない一般家庭も多い。今後はアイスなど涼める商品が他のエリアよりも売れていきそうだ。
コンビニは、今まで全国一律の品揃えで伸びてきたが、今回のソフトクリームのようなエリアや店舗に特化した品揃えで個店別に売上を上げていくという時代が到来しつつある。
ソフトクリームは生ものに近く衛生・食品安全管理が難しく、日々の洗浄・殺菌が必要で、手間も衛生管理の責任も重い商品のため、展開するにもオーナーの覚悟がいる商品であるのだが、こうした商品が売り上げの屋台骨を支えているのは興味深い。
■地元民、旅行客を助ける24時間ATM
地域住民にはもちろんのこと、年間50万人以上訪れる観光客に役立っているのは銀行ATMだ。
稚内にはまだまだ「現金文化」が残っている。筆者が稚内で訪れた地元の飲食店やスナックは現金決済のみの店が多く、クレジットカードやPayPayなどのQRコード決済が使えないところも多かった。都市圏の人間はキャッシュレスで生活をしていて現金を持ち合わせていない人が多いため、コンビニに銀行ATMがあることは重要だ。
都市部のコンビニはATMがあるのが当たり前だが、セコマはそうではない。
市内18店舗中、銀行ATMがあるのは7店舗のみで、夜中はコンビニそのものが閉まってしまうためいずれも24時間利用ができない。かつ利用できる金融機関が地元の信用金庫やゆうちょ銀行と限られているため、夜間・早朝に現金を手に入れるのは難儀だった。
■客単価は1000円以上、想定売り上げを5割上回る店も
稚内のローソンの日配(1日当たりの売上高)は全国屈指の水準で、想定の5割超をはじき出す売り上げのお店もある。客単価も、全国平均の799円を大きく上回る1000円超を記録している。
この売り上げを支えるのは、人口3万人の稚内市民だけではない。コンビニは商圏人口が3000人は必要とされるが、意外と多かったのが稚内市外からのお客だ。
インタビューでも、南に約70kmほど離れた天塩町(人口約2500人)からのお客2組に会った。車で約1時間ほどかかるが、仕事や稚内での用事のついでにローソンに立ち寄ったといい、稚内に来ると毎回立ち寄るようだ。
家族で訪れた30代の保育士の女性は「旭川に行かないとなかった無印(良品)の商品が買えるのがとてもうれしい。ローソンができたことで、ネット通販で支払いもできるようになってとても便利で助かっています」と話していた。
天塩町にはコンビニはセコマしかないため、ローソンの出店を期待しているようだ。
これまでローソンの新商品のテレビCMを見ても稚内では買えず、買うためには100キロ以上離れた名寄市のあるローソンまで車で1時間半かけて買いに行かなければならなかったという。

商品だけでなく、サービスの幅も広がったと話すお客もいた。情報端末「Loppi」(ロッピー)の登場で、これまでチケットの受け取りができないばかりに諦めなければいけなかったイベントにも参加できるようになったといい、稚内の住民には朗報だったようだ。
■大打撃を受けたセコマもあった
ローソンの進出をセイコーマートはどう思っているのか。
市内のある店舗の店長は「今は落ち着いたと聞いているが、開店当初はとてつもない影響があったと聞いた」という。
話を聞いた市民は「これまではセコマしかなかったので、セコマに行くしか選択の幅がなかった。ローソンができて、セコマとローソン両方を楽しめるようになったのは大きい。コンビニごとに味の違いもあると思うので」と選択肢が増えたことに喜びを感じていた。
大通りを挟んで真向いに進出した箇所もあり、進出当初の影響は計り知れないものがあっただろう。
一方で、お客はセコマとローソンを便利に使い分けているようだ。
ある女性は「全体的に商品の値段はセコマのほうが安い。スイーツはローソン、日用品など安くていいものはセコマに行きます」と話していた。
わずか2年で7店舗を増やしたローソン。道北エリアでは7月にさらに1店舗がオープンし、8月にも1店舗の出店が予定されている。
後編では、過疎地を含む地方出店の課題に触れる。
後編へ続く)

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渡辺 広明(わたなべ・ひろあき)

流通アナリスト・コンビニ評論家

1967年、静岡県生まれ。東洋大学法学部卒業。ローソンに22年間勤務し、店長やバイヤーを経験。現在は(株)やらまいかマーケティングの代表として商品営業開発・マーケティング業に携わりながら、流通分野の専門家として活動している。『ホンマでっか!? TV』(フジテレビ)レギュラーほか、ニュース番組・ワイドショー・新聞・週刊誌などのコメント、コンサルティング・講演などで幅広く活動中。

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(流通アナリスト・コンビニ評論家 渡辺 広明)
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