7月20日に投開票された参議院議員選挙では、参政党が14議席を獲得した。『SNS選挙という罠』(平凡社新書)を書いた文筆家の物江潤さんは「参政党議員、支持者たちを孤立、先鋭化させてはいけない。
党の成熟化を促すため批判的提案を試みていくことが、社会にとってよりよい選択だと考える」という――。
■「参政党で極論・暴論を展開してきた人物」の当選
非常に強い追い風が、参政党に吹いていました。しかし、それと同じくらい激しい批判の嵐も吹き止みません。
実際、同党は批判されるだけの理由があります。象徴的なのは、「ワクチンは殺人兵器」といった極論・暴論を展開してきた松田学氏の存在です。松田氏に対し適切な処分をしないどころか、先の参院選で参政党から公認を得た同氏は当選を果たしたのです。
また、「ワクチンは殺人兵器」という発言について神谷宗幣代表は「あれは、ちょっと口が滑ってますよね、僕は言いすぎだと思います」と対談で語っていますが、その発言の軽さには懸念を禁じえません。

笑下村塾 2023年9月4日 【「反ワクチン」「排外主義」と噂の参政党とはどんな政党なのか?副代表で事務局長の神谷宗幣さんに聞いてみた
もっとも、こうした非科学的な主張や陰謀論めいた発言は、他党の政治家からも発せられており、参政党に限った話ではありません。しかし、その主張の頻度が明らかに高いため、参政党への批判が特に集中しています。
私は、参政党に対して明確に批判的・否定的な立場です。しかし、ここでは一方的な批判をするのではなくて、批判的提案をします。そしてそれは、参政党を危険視する人々と、神谷代表及び穏健な支持者たちにとって、互いに利益のある提案になると考えます。


■右派・左派の双方から強い批判
参政党は「参加型民主主義」を掲げ、党員が積極的に政策・公約づくりに関与できる仕組みを構築してきました。SNSの積極活用も相まって、速やかにくみ取った民意を公約・政策に落とし込めるという強みがあり、それは今回の大躍進につながったと推察されます。
しかし、民意を吸い上げる過程においては、暴論・極論が混ざりやすいのも事実。実際、今回の選挙戦においても候補者たちの発言は度々問題視され、同党の新日本憲法(構想案)をはじめとした政策・公約は、あまりにも稚拙だとして右派・左派の双方から強い批判が寄せられました。
このような状況に対し、私が提案したいのは次の三点です。
一つ目が、不適切な発言をした党員に対する処罰です。とりわけ松田氏に関しては、党として公の場で考えの修正を求める必要があります。そして撤回・修正を拒否する議員・党員に対しては、離党勧告などの対応をするべきです。
■過去と決別できるか
二つ目が、専門家によるチェック体制の構築です。幹部や党員が考えた公約・政策に対し、自然科学・公共政策・政治学といった多様な立場の専門家がチェックをすることで、極論・暴論の混入を防ぐことが目的です。
参政党から独立した政策検証会議などを設置し、党幹部・党員が作成した政策・公約に対し、評価やアドバイスといったサポートを受けるという構図です。
紙幅の都合上、具体的な説明は割愛しますが、「コンセンサス会議」という対話的手法を参考にするのも一案です。
この仕組みでは、専門家が結論を導くのではなく、参加者が主体的に合意形成を目指すという構造になっているため、「参加型民主主義」を掲げる参政党とも親和性が高いはずです。
三つ目が、過去との決別です。「我々は未熟であった」「デマや荒唐無稽な論を拡散してしまった」と神谷代表や党所属の政治家が表明するとともに、過去からの決別を明確に宣言することです。
その際、先述の政策検証会議のような独立組織が、過去の問題発言及び極論・暴論を選定したうえで公表する必要があります。そしてそれらに対し、各問題における現在の党の認識を外部に明示すればよいと考えます。
■避けるべき最悪のケース
今後、参政党への厳しい批判が展開されるのは容易に想像がつきます。だからこそ、批判を受ける前に参政党自らが上記三点に取り組むことができれば、批判によって受けるダメージをコントロールすることも可能でしょう。
一方、明確に過去との決別・清算を試みなければ、世間やマスメディアからの厳しい批判が続くのは必至です。その結果として「不当な攻撃を受けている」という被害者意識が形成され、そこから社会に対する「復讐心」「敵愾心」が生じるという危うい未来に続くことさえ考えられます。
こうした事態は、参政党を危険視する人々だけでなく、同党のソフトランディングを目指す神谷代表にとっても、最も避けなくてはならない最悪のケースであるはずです。
各メディアにおける神谷代表の発言を素直に受け取るならば、同氏が政党の成熟化を目指していることは明らかだからです。実際、かつて主張していた不正確・不適切な論やデータのなかには、現在では撤回・修正しているものも見受けられます。

一方、参政党を危険視する側にも、行動の変容が求められます。一部のメディア・言論人による批判のなかには、単純な事実誤認に基づく粗雑な論を確認できます。参政党からすれば、これらはいわれのない不当な批判であり、彼らが外部に対し心を閉ざす一因になっています。
■今後進行するシナリオ
繰り返しになりますが、私の立場は、参政党の現状には明確に否定的・批判的です。しかし、否定するのみで突き放すのではなく、参政党の成熟化を促すため批判的提案を試みていくことが、社会にとってベターな対応だと考えます。
参政党の支持者と同党を危険視する人々の双方にとって、こうしたソフトランディングの方向性は望ましいはずです。
今や参政党は国会において、一定の勢力を有した野党になりました。自民・公明が少数与党であることも鑑みれば、間接的にせよ政策決定のプロセスに関与できる機会があるでしょう。
そんななか、今後進行するシナリオとして三つのパターンが想定されます。
第一のシナリオは、政策決定に携われるチャンスが訪れるものの、ソフトランディングを頑なに拒否し、非現実的な主張を堅持したために、まるで政策に関われないというシナリオです。
蚊帳の外に置かれた彼らは被害意識を抱き、「自分たちは恐れられ攻撃を受けている」「巨大な権力から封じ込めにあっている」というストーリーが強化されかねません。先述した通り、このことで生じるリスクは大きく、これは明らかに悪いシナリオです。

■ストーリー参加型選挙との決別
参政党は、SNS上でストーリーを共有して戦う「ストーリー参加型選挙」を展開してきました。善と悪を峻別した明快なストーリーを提示することで、共通の敵を有する支持者間には連帯が生じ、勧善懲悪型の物語に魅入られた無党派層の票も取り込めるという強力な戦法です(たとえば、敵の一つはマスコミ)。
倫理的な問題があるものの、短期的には戦果が期待できる作戦でもあります。が、こうした物語は主張や世界観を極度に単純化させる傾向にあり、党の成熟化を阻んでしまいます。
外部に「敵」を作り、自らを「正義」の側に置くストーリーに依存する限り、組織は閉じていくばかりです。これでは建設的な批判すらも敵視され、やがて「聞く耳を持たない集団」になってしまいます。こうした状態が続けば、いかなる提案も届かず、孤立を深める可能性が高まってしまいます。
もし参政党が成熟を目指すならば、このストーリー参加型選挙との決別が避けられません。敵を設定しなくても、参加型民主主義は目指せるはずです。
■孤立、先鋭化の流れ
二つ目のシナリオは、政策立案に関わろうとするものの、現実の政策協議の場に加われないため徐々に態度を軟化するケースです。
たとえ野党であっても、政権与党との関係次第では政策決定に関与する余地はあります。が、現状の参政党では、まるで政策論議に携われない場合がほとんどでしょう。

こうしたなか、なんとか政策決定に食い込もうとすれば、「なし崩し的なソフトランディング」を選ぶ可能性が高まります。しかし、これでは過去のトンデモ発言や極端な主張と明確に決別することができず、それらを実質的に容認していると見なされても仕方がありません。
参政党のデジタル・タトゥーが色濃く残る以上、その濃さと同じくらいの強さで決別を宣言しなければ、いつまでたっても「参政党=陰謀論者の集まり」といったレッテルを払拭することはできません。もちろん、社会や他党からは信頼に足る政党とは見なされず、引き続き距離を置かれる状況が続きます。
その一方、刺激的な論や物語に魅かれて支持してきた支持者からすれば、かつての明快な主張がぼやけていくように感じられ、「変節した」「弱腰になった」との不満が募っていきます。外からも内からも信頼を失ってしまい、政党は自然に衰退していく可能性が高い。
また、こうした状況を打開するために、党が開き直ってしまう可能性もあります。「他の政党はすべて敵だ」といった物語で再び結集を呼びかければ、第一のシナリオ(孤立化・先鋭化)はすぐそこです。
■われわれがやるべきこととは
最後のシナリオは、党の未熟さを認め、過去の問題発言を明確に撤回・修正したうえで、他党との政策協議に向けて現実的な姿勢を取る「洗練化・成熟化」の道です。
様々な立場の有識者の知見を取り入れ、支持者との対話も継続しながら、成熟化と党勢拡大を両立する未来も期待できるはずです。
参政党のホームページには、政策の七つ目の柱として「日本らしいリーダーシップで“世界に大調和を生む外交づくり”」とあります。そのなかでconcept01として「日本が歴史的に営んできた『調和』『協調』『利他の精神』『循環型の思想』をもって、地球社会に多様な国々が自由に共存共栄する世界新秩序の形成を主導」とあります。
私を含め、多くの人々から共感を呼ぶ素晴らしいコンセプトだと思います。
もし、この言葉に嘘偽りがなければ、参政党はソフトランディングと成熟化を目指せるに違いありません。
そしてその意思を明示するのであれば、私のように批判的・否定的な立場にある人々も、その姿勢に対して誠実に、しかし厳しい目線で応えるべきではないでしょうか。
その反対に粗雑または嘲笑的な批判をしてしまえば、それらは全て逆効果であり、社会は更なる混沌に陥るだけです。

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物江 潤(ものえ・じゅん)

著述家

1985年福島県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、東北電力、松下政経塾を経て、政治・社会・教育などについて執筆活動を続けている。著書に『空気が支配する国』(新潮新書)『入試改革はなぜ狂って見えるか』(ちくま新書)『現代人を救うアンパンマンの哲学』(朝日新書)など。最新刊に『SNS選挙という罠』(平凡社新書)など。

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(著述家 物江 潤)
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