結婚相手を探している女性は、相手のどんなところに魅力を感じているのか。主宰する結婚相談所でカウンセラーを務めている大屋優子さんは「3カ月で成婚した相談者の30代女性は、2日間で10人の男性とお見合いをし、2人の男性のどちらと結婚するか悩んでいた。
彼女の結婚の決め手は、顔や年収とは関係のないところにあった」という――。
■「この土日で出会った人と結婚します」
結婚相談所は、「結婚」という明確な目的を持った男女が、婚活をする場所。
そこには「3カ月ルール」というものが存在する。これは出会ったお見合いの日から、プロポーズまで期間が3カ月以内と決められているのである。
仕事の都合などで、なかなかデートができないなどの事情がある場合には、男女双方のカウンセラーの合意のもと、最長半年間まで交際期間を延長できるし、ごくまれにもっと長い交際期間ののち、成婚退会していくカップルもいるとはいえ、基本は「3カ月ルール」を意識しながら、婚活をする。
女性、33歳、専門学校卒、美容師。スラリとした美人で、「聡明」という言葉がぴったりくるような素敵な女性だ。彼女が結婚相談所での婚活を選んだ理由は、「仕事と子育てを両立させて、幸せな家庭を築く」というものだった。
美容師という仕事を天職だと感じていた彼女は「死ぬまでこの仕事を続けていたい」と考えていたが、年齢を重ねるにつれて「結婚して子供を育てたい」という思いが強くなっていったという。仕事と育児を応援してくれる男性と結婚したい、そう考えて結婚相談所での婚活を決めたのだそうだ。
さて、美容師だと言うこともあって、仕事はシフト制。土日祝日に、休みが取れないわけではないが、大勢のお客さんを抱えているため、土日祝日に休みが取れたとしても月に1日程度だという。

彼女が婚活を始めた翌月のシフトでは、案の定、土日休みは月初めの1回のみだった。彼女には、婚活中の男性の多くは土日休みで、このたった1回しかない土日にいかに効率よくお見合いを組めるかが、どれほど大事かを話した。
ものわかりがよい彼女は、状況を察知し、
「この1回の土日にかけます。そしてその中で出会った方と結婚します」
そう宣言したのである。
■2日間で10人の男性とお見合いする
彼女がシステムに登録するや否や、150件以上の申し込みが殺到した。
登録したての会員は注目が集まりやすく、「入会バブル」のような状態になり、お見合いの申し込みも多い。彼女へのお見合いのお申し込みは、3歳年下から15歳以上年上、年収300万円から2000万円超までの男性がずらりと並んだ。
彼女は、お相手男性の学歴や年収にこだわりはない。申し込みを受けた男性のなかから、お目にかかる10人を選んでいく。婚活は「選ばれなければ選べない」のだが、お見合いをお申し込みいただいているということは、まず彼女は選ばれているのだ。
彼女の土日の休日は、今から3週間後。少し時間に余裕はある。
この2日間に、「10時、12時、14時、16時、18時」という2時間おきのお見合いをパズルのように組まなくてはならないのだ。至難の業かと思ったこのお見合いスケジュールが、なんとぴたりとはまっていった。彼女の普段の行いがよほど良いのであろう。
初日の土曜日、5人とお見合いした彼女から電話が入る。
「終わりました! 疲れました! でも大丈夫です。明日も頑張ります」
お見合いした男性の印象を少し話しながら、翌日に備えて早く寝るようにアドバイスして、翌日を迎える。
2日目の日曜日、5人のお見合いを終えた彼女からの電話が鳴った。声は昨日とは打って変わって、ぐったりしていたが、彼女は全力投球で10人とのお見合いをした達成感も感じているようであった。
■「鼻かみティッシュ」で仮交際を終了させる
結果として、ルックスも性格も良い彼女には、10人のうち9人から仮交際希望をいただいた。一人お断りが来たのは、専業主婦を希望されている男性で、美容師をずっと続けたいと思っている彼女とは、結婚観が合わないからであった。
日曜日にお見合いした男性から迷いに迷って、一人交際希望をだし、仮交際は合計3人。土日休みのない彼女には、時間のやりくりは大変だが、この3人の中から結婚する相手を決めるという彼女の強い意志は、お見合い後も変わっていない。

さあ、これからが婚活の本番である。お見合いしただけで、結婚はできない。
お付き合いして、相性が合うか、価値観を共有できるか、子どもが授かれば同じ方向を向いて子育てできるか、両方の家族との釣り合いは取れているか、共働きしていくのだから二人で家事をし、二人で協力し合いながら暮らせる相手か……。これを「3カ月ルール」に則り、交際の中で見極めていく。
3人のうち、一人の男性は、初回デートで交際終了した。
交際終了の理由は、デートで蕎麦屋に食事に行った際に、相手が鼻をかんで、そのティッシュを、テーブルの上に置いたからである。鼻をかむのは悪いことではないが、それを食事中のテーブルの上に平気で置く、衛生観念のなさは、結婚相手に難しい。
残る仮交際は二人。彼女はこの二人の男性の間で、揺れ動く気持ちと戦うこととなる。
■高収入の公務員に恋をしたが…
まずは、国家公務員のAさん。年齢は6歳上、年収800万円、初婚、高身長、イケメン。見た目は俳優の阿部寛のようなルックスに、高学歴。
なぜ、彼がその歳まで独身なのか、見た目からは不思議で仕方がない。
この彼に、彼女は恋をした。
かなりのイケメン。でも、30代後半になるこの年齢まで恋愛経験はないのだという。なぜだろうか? その理由は交際の中でわかることとなる。
もう一人の上場企業勤務のBさん。年齢は4歳上。年収650万、初婚、癒やし系の可愛い系男子、中肉中背、国立大理系院卒。変な癖もなく、強引でもなく、穏やかで優しい、平和を絵に描いたような男性である。結婚相手には、過不足なく、申し分のない人柄と仕事を持っている。
彼と結婚すれば、二人で共働きしながら、穏やかで、幸せな暮らしが目に浮かぶ。彼が彼女に惹かれるのには、時間がかからず、2回目のデートで真剣交際を先方からは打診される。
彼女も彼には、徐々に好感を持っていった。
Aさんは、お見合いの席から、シャイなのか、彼女に自分から言葉を投げかけることはなく、目も合わせてくれなかった。ずっと下や、彼女の胸元を見ることはあっても、彼女がにこりと笑顔を向けても、笑顔は返ってこなかった。
■苦労するのは分かっていたけど好きだった
会話も、言葉を発するのがやっと、という感じで、つっかえながら話す。だが、抜群のルックスと、鍛え抜かれた筋肉質な身体つきは、彼女の好みのタイプだった。
LINEは苦手だそうで、なかなか日々のLINEのやり取りは難しかった。仮交際後も、デートで会うと、シャイなのか、なかなか目を合わせてくれない。お酒が大好きで、お酒には果てしなく強い。彼女も乱れることなく、飲めるタイプなので、二人の居酒屋デートは、とても楽しかった。
だが、彼は、人と話すのがあまり得意ではないのか、お店でオーダーするなど人と話すことは、大の苦手。彼女が、デート先の店では、料理を頼む。おしゃべりが好きな彼女の話を、ずっと黙って聞いてくれ、彼女から質問があれば、ポツリと答える。

見た目は阿部寛、中身は高倉健のような男性である。
コミュ障という言葉より、もっと強い、コミュニケーションを取ることが苦手な方であることが会うたびにわかってきた。人と関わることが、極端に彼には苦痛で、決まったことはきちんとこなせても、イレギュラーな出来事には反応できない。
だから、彼は今まで恋愛をしたことがなかったのだ。だが、彼女はそんな彼のことも、すべて受け入れて、彼を好きになっていく。
彼と結婚したら、例えば隣近所とのお付き合いも、子育てで周りと関わるときも、すべて彼女が主導で進めなくてはならないであろう。彼女の結婚後の負担は、かなりの量であろうと想像できるが、それをマイナスしても、彼が好きだった。
■心を動かした「500円のチケット」
彼女とは、毎日のようにAさんとBさん、どちらと前に進んでいくかを話した。好きな気持ちでは、Aさん。結婚相手の条件ではBさんと、彼女は自分でもわかっている。
だから揺れ動き、迷うのだ。
Bさんは、シフト勤務でなかなかデート時間を取れない彼女に合わせて、時間をやりくりしてくれる。
彼女が食べたいもの、行ってみたい場所に合わせて、寄り添ってくれる。大学院を卒業してから、ずっと同じ会社で実績を積み、会社からも期待され、順調に出世していくであろうことは、容易に想像できる。忙しい彼女の体調を気遣い、毎日心が温かくなるようなLINEをくれる。デートでは、二人で楽しめることにはお金を惜しむことなく、気持ちよく彼女をエスコートしてくれる。
彼と結婚したら、きっと幸せになれる。彼女はそう感じていた。ただ、頭の中ではわかっていても、好きだという気持ちの強さは、Aさんが勝っていた。
同時進行中のBさんとのお付き合いも変わらず順調で、もんじゃ焼きを食べに月島に出かけたり、水族館でのデートを楽しんだりした。水族館では、入場券とは別に一回500円かかる楽しそうなアトラクションがあった。すると、Bさんは「これ、二人で乗ったら楽しいよね。乗ろう!」と彼女を誘い、アトラクション用のチケットを手渡した。
おそらく、彼女がLINEのやり取りのなかで、「遊園地に行くんだったら、派手に遊びたい」と言ってたのを覚えていたのだろう。もちろん今回のデートは遊園地ではないが、たとえ水族館だったとしてもできるだけ彼女の希望を叶えたい、というBさんの想いがあったようだ。
Bさんの想いが伝わったのか、彼女は胸がキュンと音を立てたように感じたという。たった500円ではあるが、二人で楽しみを共有したいという気持ちを寄せてくれる彼とならきっと日々の暮らしや、子育ての中で、感動を分かち合えるような気がした。
■大切なのは「なぜ結婚したいのか」という動機
彼女は迷った。Aさんと結婚し、親戚付き合いも、近所付き合いも、子どもが授かれば保護者会の付き合いも、面倒ななにもかもを自分が引き受けていくか。
Bさんと、平凡だけど、楽しく穏やかな結婚生活を選ぶか。
彼女が結婚相談所で婚活を始めた理由は「仕事と子育てを両立させて、幸せな家庭を築く」ということだった。たしかにAさんは恋人としては理想の人だったが、コミュニケーションが得意ではなく、本心が見えにくいところに不安を感じていた。Aさんのことは好きだが、結婚後の生活に大きな負担がかかることは想像に難くなかった。
一方、Bさんは、彼女のシフトに合わせて予定を調整し、等身大の姿勢で寄り添ってくれていた。デートを楽しいものにしようと一生懸命になってくれる彼の姿を目の当たりにしたことで、彼女が目指す「幸せな家庭」のイメージは固まっていったようだ。
彼女は最終的に、見た目や雰囲気では圧倒的に好みだったAさんではなく、優しく、自分のことを大事にしてくれる、森のくまさんのようなBさんとの未来を決断し、真剣交際に入った。
彼女は最初にお見合いした10人の中から決める、という気持ちから一切揺らいでいない。何しろ「結婚するという覚悟の量」が圧倒的だからである。
こうして、彼女は入会からわずか3カ月で、Bさんからプロポーズされて、成婚退会した。お子さんにも恵まれ、彼女が希望していた通りの温かい家庭を築いている。

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大屋 優子(おおや・ゆうこ)

結婚カウンセラー

1964年生まれ、株式会社ロックビレッジ取締役。ウエディングに特化した広告代理店を30年以上経営のかたわら、婚活サロンを主宰。世話好き結婚カウンセラーとして奔走。著書に『余計なお世話いたします 半年以内に結婚できる20のルール』(集英社)がある。

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(結婚カウンセラー 大屋 優子)
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