関東地方にはいろいろな水族館がある。自らを“水族館の限界ヲタク”と語る海洋生物学者の泉貴人さんは「子どもの頃から通い詰め、今でも日本で一番好きな水族館が東京にある」という――。

※本稿は、泉貴人『水族館のひみつ 海洋生物学者が教える水族館のきらめき』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
■国内・海外種あわせて50種類以上のサメ類を飼育
アクアワールド茨城県大洗水族館「目の覚めるようなシャークパラダイス」
茨城県の大洗にある水族館。日本の水族館でも最大級の規模を誇り、淡水から海水まで非常に多彩な水族館だが、何よりもサメの展示において突き抜けている。
サメってのは非常に不思議な生き物で、それ自体が生きた化石とも呼べる古代からの海の覇者。ここでは、国内・海外種あわせてなんと50種以上のサメ類が飼育されており、いかにもサメらしい凶悪な面をしたシロワニやメジロザメ系から、ユニークな顔のシュモクザメ、海底に棲むネコザメやドチザメ、さらには超絶レアな深海種のイモリザメ。見た目も大きさも多彩すぎて、思わず「サメってこんなに種類いたんか!」となること請け合いだ。
そしてサメの陰に隠れがちだが、クラゲの展示もなかなかすごくて、大量のミズクラゲのたゆたう20トンの水槽「くらげ365」もあれば、この水族館が研究に関わった「オトヒメクラゲ」という小さな種類のクラゲがいたこともある。さらに、茨城県のブランドフィッシュ、あの鍋で有名なアンコウもいるし、人気のマンボウの水槽も日本で一番大きかったり。
そんな水族展示だけでもすごいのに、サメをはじめとした標本や骨格などの展示(*)もあり、化け物みたいに巨大なウシマンボウの剝製も展示してあるなど、博物館施設としても価値が高い水族館である。総じて一日じゃ全く時間が足りない、そんな施設だ。
*ここで示す「標本」「骨格」「剝製」などに興味が出た方は、本書の第5章まで読み進めてください。生きた生物だけでない、水族館の魅力を味わえるぞ。

アクセス:鹿島臨海鉄道大洗鹿島線の大洗駅からバスに乗り、「アクアワールド・大洗」で下車、徒歩すぐ。

所在地:茨城県東茨城郡大洗町磯浜町8252-3

TEL:029-267-5151
■魅力はシャチだけではない、海獣類の種類は日本有数
鴨川シーワールド「イッツ・ショータイム」
シャチのダイナミックなパフォーマンスであまりにも有名なこの水族館だが、その魅力は決してシャチだけにとどまらない。パフォーマンスだけでもシャチ、アシカ、屋外イルカ、そして屋内のシロイルカ(ベルーガ)と4種あり、シーワールドだけあってどれもクオリティが高い。……まあ私、本家シーワールドに行ったことはないんだけどね。
そして、飼育する海獣類の種類は日本有数で、特に鰭脚(ききゃく)類(アシカ・アザラシの仲間)は数多の種がいる。しかも、屋外、屋内と迷路のような展示コーナーがあり、海獣類の見学だけで時間が足りなくなる。
そしてこの水族館がすごいのは、これだけ海獣類の展示が充実しているのに、魚や無脊椎動物の展示までも相当力を入れていること。川の上流から下流にかけて、海の浅場、深海に至るまで一連の展示になっている「エコアクアローム」、さらにサンゴ礁の入り江や大洋を再現した大水槽を誇る「トロピカルアイランド」。そして、ウミガメの浜やクラゲのコーナーまである。そもそも鴨シーは、建物一つにまとまっている他の水族館と異なり、非常に広い敷地の中にいくつもの建物が遍在するような構造なので、バラエティに富んだ展示が見られるのは当然なのだ。
余談だがここ、千葉県を首都圏だと思い込んでいる者に、房総半島のでかさを突きつける恐怖の水族館でもある(笑)。しかし、時間をかけてでも絶対に行く価値があるぞ。

アクセス:JR東日本外房線の安房鴨川駅から専用のシャトルバスに乗り、下車後徒歩すぐ。

所在地:千葉県鴨川市東町1464-18

TEL:04-7093-4803
■日本で唯一「七つの海」全部の展示がある
葛西臨海水族園「東京の海・世界の海」
泉がガキの頃から通い詰め、今でも日本で一番好きな水族館。それこそがこの葛西臨海水族園だ。
ここの魅力は、すさまじいグローカルの二面性にあると思っている。まず、この水族館、日本で唯一“七つの海”全部の展示があるのだ。先述のアクアマリンふくしまにもまして、全世界にスタッフを派遣し、大西洋やインド洋はもちろん、北極海や南極海の生物まで集める徹底っぷり。そうかと思うと、東京の海専門のエリアもあり、東京湾から島嶼(とうしょ)部まで地域密着の展示も満載だ……というか、そもそも、東京都は小笠原諸島も含むから、実は北海道や沖縄県以上に広域なんだけどね。
■巨大ドーナツ型水槽のクロマグロはすごい
そして何よりも、「大洋の航海者」エリアにある、巨大ドーナツ型水槽のクロマグロ! 豊洲の東京都中央卸売市場の主役といえば、やはり本マグロと呼ばれるクロマグロであり、東京の魚としてもなじみが深い。しかしこのマグロ、泳ぎ続けなければ呼吸が止まるし、水質変化にも刺激にも弱い繊細な魚でもある。2200トンのドーナツ型水槽の中を群れで泳ぐクロマグロは、丸々かつピッカピカで大迫力だ。さらに、ハンマーヘッドシャークと呼ばれるアカシュモクザメ。ダイバーがこぞって見に行くような人気のサメも、この水族館では威風堂々とお目見えだ。
さらに、ペンギンだけでなく、レアなエトピリカやウミガラスもいる。
……なんだか漫然とした紹介になってしまったが、この水族館は“コレ!”といった主役がいるというより、どんなものでも主役級に映るすさまじく通好みの水族館なのだ。熱狂的マニアである泉が惚れ込んだのもお分かりいただけるだろう。
ちなみに、2028年に新水族館がリニューアルオープンを迎える。ここに書いた展示も(多分)変化があるだろうから、パワーアップを楽しみにしていよう。
アクセス:JR東日本京葉線の葛西臨海公園駅から徒歩5、6分ほど。駅は各駅停車しかとまらないので、そこだけ注意。

所在地:東京都江戸川区臨海町6-2-3

TEL:03-3869-5152
■ビルの中にあるとは思えない展示が山ほどある
すみだ水族館「スカイツリーよりもスタイリッシュ」
「東京スカイツリー®」とともにそのふもとで開業した。本書で紹介する中では比較的新顔の水族館。
面積はそこまで大きくないものの、ビルの中にあるとは思えない展示が山ほどあり、なおかつ全体的にスタイリッシュというかシャレオツというか。
例えば、癒やし生物の代表であるミズクラゲの展示からして、「ビッグシャーレ」という名前がついており、差し渡し7メートルの平たい水槽に約500匹ものクラゲが妖しく漂っている。巨大なシャーレというよりは勾玉(まがたま)のように見える(正確には楕円形らしい)。
そして、他のクラゲの展示されるクライゼル水槽(本書の第3章参照)も、普通の円形ではなく、U字状のものを使っているという点で個性的。
■東京は江戸時代から金魚の養殖が盛んだった
さらに、アクアリウムの極致ともいえるようなワイド型の水草水槽あり、おそらく日本で一番チンアナゴの密度の高いラグーン水槽あり。そして葛西臨海水族園同様、小笠原諸島の生物にもこだわっており、固有種のユウゼン(魚)や、小笠原を象徴するサメであるシロワニもいる。
ほかにも一通りの取り揃えがある中で、地味に筆者が気に入っているのは、金魚の展示。東京は江戸時代から金魚の養殖が盛んで、文化的にも根付いているから、これも東京にちなんだ展示だ。金魚とフナの交雑種であるテツギョ(鉄魚)なんてのもいて、生物学と文化を同時に垣間見ることができる。
総じて、葛西とはまた別の方向性で東京に身を浸すことができる水族館である!
アクセス:東京メトロ半蔵門線の押上〈スカイツリー前〉駅、または東武スカイツリーラインのとうきょうスカイツリー駅から徒歩すぐ。東京ソラマチ内にあり。

所在地:東京都墨田区押上1-1-2 東京スカイツリータウン・ソラマチ5F・6F

TEL:03-5619-1821

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泉 貴人(いずみ・たかと)

海洋生物学者

1991年、千葉県船橋市生まれ。福山大学生命工学部・海洋生物科学科講師、海洋系統分類学研究室主宰。東京大学理学部生物学科在籍時に、新種であるテンプライソギンチャクを命名したことをきっかけに分類学の道を志す。2020年に同大大学院理学系研究科博士課程を修了。
日本学術振興会・特別研究員(琉球大学)を経て、2022年より現職。イソギンチャクの新種発見数、日本人歴代トップ(24種)。東京大学落語研究会で磨いた話術を活かして、YouTubeチャンネル「水族館マスター・クラゲさんラボ」にて精力的にアウトリーチ活動を行う。X(旧Twitter)では「Dr.クラゲさん」(@DrKuragesan)として発信。

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(海洋生物学者 泉 貴人)
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