※本稿は、和田秀樹『どうせあの世にゃ持ってけないんだから 後悔せずに死にたいならお金を使い切れ!』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■お金は使ってナンボ。使わないのは「犯罪」だ
突然ですが、世の中で一番お金のかかる趣味は何かご存じですか?
それは、ギャンブルでもなく、旅行でもなく、美術品のコレクションでもありません。
正解は「貯金」です。この趣味を持ったら、そのことにしかお金を使わない。
あり金のほとんどをそれに注ぎ込むわけですから、どんなに大金持ちであったとしても、1万円のワインを飲むことすらもったいないと思うようになります。
だから貯金が趣味の人は、どれほどお金があったとしても幸せになれません。
なぜなら、常にお金が減るのを恐れ、「もっともっと」とお金を欲しがって、貯金通帳の数字が増えることだけが楽しみで生きているわけですから。
お金がないからケチなのはかわいそうだなと思いますが、お金があるのにケチな人間というのは疎まれて、結局、人が離れていきます。卑しいやつだとか、御里が知れるよねなどと、そしられるだけです。
お金というのは、「何かを買いたい」、あるいは「何かをやりたい」という目的があって、それを実現するために稼ぐもので、手に入れたら使わなくてはいけないものです。
金は天下の回りものというのは、まさに真理だと思います。金は回っていないと、世の中が生きていることにならないし、お金も何のためにあるの? ということにしかならない。
とりわけ資本主義の世の中で社会が発展していくためには、稼いだ金を使ってもらわないと世の中が回っていきません。金を持っている人たちが金を使わないのなら、国が財産を管理して、みんなに分け与えましょうという社会主義のほうが、まだ私はマシだと思う。
■金を稼ぐのは悪くなく、金を使わない金持ちが悪い
そもそも資本主義というのは、政府が国民を信頼して私有財産を認めているから成り立つものです。つまり、私有財産を認める代わりに国民のみなさんが自由にお金を使ってちゃんとこの国の経済を回してください、と。本来、お金を持っている人はそういう義務が生じているのに、それを果たしていないのが、いまの日本なのです。
だから私は「相続税100パーセント」にすべきだとずっと言っているし、企業の内部留保にもがっちり税金をかけたほうがいいと思っています。
財務省が発表した法人企業統計によると、2023年度の日本企業の内部留保は前年と比べて8.3パーセント増えて、600兆9857億円と過去最高を更新しました。2011年度からの12年で実に2倍以上に増えています。
いま内部留保に2割の税金をかけるだけで100兆円以上になりますから、国家予算をまかなうこともできます。金持ちがケチでお金を使わないなら、やっぱり強制的に取るしかないと思います。
別にフランス革命みたいに、貴族や金持ちをギロチンにかけたほうがいいとは思いません。いまの日本は資本主義なんだから、金を稼ぐのは全然悪いことではない。金持ちが悪いのではなくて、金を使わない金持ちが悪いのです。金を持っているくせに従業員の給料を上げないようなケチな経営者は、本当に罪深いと私は思っています。
なぜなら、それは資本主義を潰す行為だからです。大袈裟でなく、金を貯めるということは実は犯罪行為、資本主義に対する敵対行為だと思います。将来のために貯めたいという気持ちはわかりますが、やっぱり限度額があると思います。
■「お金を自分のもの」だと思うのは大間違い
もう一つ忘れてはいけないのは、いま自分に金があるというのは運がいいということです。
私にしても最初は教育産業で稼ぎ、最近はどちらかと言うと、高齢者向けの本を書いたり講演したりして、金を稼いでいます。似たような本は20年くらい前から書いていたのに、急に売れ出したりするわけだから、やっぱり金儲けは運次第だと思います。
『80歳の壁』を出すまでは、医者に言われるままに食事制限なんかしないで、肉は食べたほうがいいとか好き勝手に生きていたほうがいいとか書いても、誰も見向きもしてくれなかった。お医者様は偉いと思い込んでいる人がたくさんいましたから。
でも、コロナ騒ぎで自粛生活を強いられた高齢者たちが、家に閉じこもっていると足腰が弱ったりボケたりしてきて、医者の言いなりになっているとロクなことがないなと気づく人がようやく増えてきた。それで運良く、私の本がベストセラーになったのだと思います。
逆に、教育産業は不滅だからこれで一生食っていけると思った時期があったのですが、学歴の価値がなくなってきたことや、私立の中高一貫校に通っていい塾に入れないと東大や医学部に入れないという変な「信仰」が流行り出したから、私が監修する通信教育の生徒数がどんどん減っている。実績を上げれば生徒が増える、というセオリーも通じなくなっているわけです。
世の中は移ろうものです。私たち世代は会社勤めが当たり前でしたが、若い世代は途中から上手く金融ベンチャーに転職したり起業したりして大金持ちになっている人がいます。
その一方で、起業したものの失敗して、いま困窮している人もたくさんいると思います。
成功した人たちは、自分は頭がいいからだと思っているかもしれないけれど、私はやっぱり運だとしか思えない。
■いま金を持っているのは、幸運に恵まれたから
私だって灘中学という学校に受からなければ、普通の大学を出て会社員になっていたでしょう。
そうなった場合、私の性格的に会社という組織に適用できないだろうから、いずれ起業する……というストーリーまでは読めるのですが、その後成功するかどうかはわかりません。
当たっていたらいま頃は金持ちだし、こけていたら悲惨な貧乏生活をしているかもしれません。
「運がいい」とか「ツイてる」とか言うとバカにする人たちもいるけれど、世の中には完全に運次第のものがある。たとえば金持ちの親の元に生まれたら、どんなバカ息子、バカ娘でも金持ちになれるじゃないですか。
自己責任社会というのは、金があるのは自分の力、金がないのはその人が努力していないからという考え方でしょう?
でも、高学歴を得るにしても、高い地位を得るにしても、たまたま頭が良かったからとか、上司に好かれたからとか、商売が成功したからとか、株の値段が上がったからとか、かなりの部分が運だから、それに対して感謝の念は持たないといけない、と私はいつも思っています。
要するに、誰にしろ、いま金を持っているというのは、幸運に恵まれたからなんです。神様が授けてくれた運によって得た金なのに、自分のものなんだと思うのは大きな間違いだと私は思っています。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。
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(精神科医 和田 秀樹)