J2最終第38節が10日午後2時に10試合開催される。
J3降格が3チーム決定したいま、2位の自動昇格圏争いとJ1昇格プレーオフ(PO)圏内争いが行われる中、モンテディオ山形対ジェフユナイテッド千葉の一戦は注目が集まっている。
5位山形はクラブレコードとなる破竹の8連勝で後半戦を駆け抜けてPO圏内に滑り込んだ。6位千葉も前節ホームV・ファーレン長崎戦に1-2で惜敗するまでリーグ戦5連勝しており、16季ぶりのJ1復帰に向けて闘志を燃やしている。
J1昇格PO圏内争いを目指す両雄の激突する試合は、互いのプライドをぶつけ合う激戦となるだろう。
そこで注目の一戦の開催を前に、今季山形を取材した高橋アオ記者と千葉を追う浅野凜太郎記者が両雄について寄稿した。
PO進出は「自分たちの手にある」
千葉は山形に勝利すれば文句なしでPO行きが決定するが、仮に引き分け以下でも同時刻に行われるJ2ベガルタ仙台対J2大分トリニータ戦(ユアテックスタジアム仙台)の結果次第では進出の条件をクリアできる。
それでも小林慶行(よしゆき)監督は山形戦前の囲み取材で「(仙台vs大分戦が)気にならないかといえばウソになります」としながらも、他会場によって翻ろうされてはいけないと強調した。
FWドゥドゥ(左)、小林慶行監督(右)「例えば勝点1でも大丈夫という情報が入ったとしても、ロスタイムに向こうのゲームが動いたらどうなるのかという話です。そのように考えれば、自分たちにフォーカスして、勝点3を取るために闘い続けることがベストだと思います」
長崎戦の試合後、指揮官はJ1昇格PO進出の可能性について「自分たちの手にある」と、矢印を内向きにした。あくまでも勝利を目指すマインドはイレブンにも共有されており、選手たちは「勝つしかない」と足並みをそろえている。
PKを獲得したら
好材料は長崎戦を累積警告によって欠場していたMF品田愛斗(まなと)の復帰。ビルドアップでチームの攻撃をけん引し、豊富な運動量を駆使して守備面でも貢献し続けてきたレジスタは、「身体のコンディションを含めていい時間になった」と決戦に向けて英気を養った。
「自分は試合をフラットに観ながらやりたい」と語った背番号44番は、両チームの気持ちが高ぶる決戦の中で、冷静な視点をチームに加える。
淡々と最終節に向けて話す品田だったが、胸に秘めたチームメイトへの想いは隠しきれていなかった。
品田は長崎戦でPKを失敗したFW小森飛絢(ひいろ)について「紛れもなくエース。
ここまで23ゴールを奪い、J2得点ランキングトップに立つ小森は「決めていれば勝てた試合。下手さが出た」と悔しさを口にし、試合中もなかなか気持ちの切り替えができていなかった。
そんなエースを勇気づけようと選手たちは声をかけあった。千葉イレブンはベテランを中心として、長崎戦後に落ち込んでいた数選手をフォロー。今季の千葉に表れる『総力戦』の精神が、チームをより良い雰囲気で山形戦へと向かわせる。
長崎戦で小森にPKを託したDF佐々木翔悟は「(PKを託した場面で)『決めろよ』と言いました。エースに決めてもらわないとダメなので」と10番への信頼を口にした。指揮官も「いまのチームであれば小森飛絢が蹴るべきだと誰もが思う」と、チーム全員がヒーローのゴールを期待している。
小森は「次、自分のゴールでチームを勝たせたい」と山形戦での得点を誓った。前節PK失敗のエースに対する信頼は揺らいでいない。
山形は「大人なチーム」一方の千葉は
指揮官は山形を「大人なチーム」と形容。夏に実力者を補強し、したたかにPO圏まで登ってきたライバルに警戒心とリスペクトを示した。
では、千葉はどんなチームなのか。しばらく考えこんだ小林監督は「少年らしさを失わないチーム」と自らの哲学を明かした。
「僕自身が『大人になるな』と思っているんです。表現が難しいですが、いろいろなことができるようになれば1番いいと思います。でも、ウチが『大人になる』ことを選択したら、こじんまりとしたチームになると思う」
今季ここまでリーグ戦14敗を記録した千葉。J1昇格PO圏を争うチームの中で最多の敗戦数を喫しているが、リーグ2位タイの総得点数67と積み上げてきた勝点3が、自分たちをいまの順位に押し上げた。2年連続のPO進出に手がかかっているチームは、トガり続けたスタイルでここまで来た。その姿勢は最終節も変わらない。
小林監督は「『1発食らわしてやる』という気持ちで進んできました。予算が3倍あるチームに対して、俺たちはバランスの取れたチームで闘っていけるのか。
ジェフユナイテッド千葉はいつまでも未完成だ。だからこそ、チームはこの先もまだまだ成長できる。イレブンは山形戦を『引き分けでもいい』などという大人な考えはとっくに捨てている。
(取材・文 浅野凜太郎)
大当たりの夏補強で勢いづく山形
J1昇格POを争うチームの中で山形は、攻守ともに隙がないチームを形成している。クラブ新記録のリーグ戦8連勝で絶好調をキープしている最大の理由は、夏補強が功を奏したからだ。夏移籍期間に加わった大当たりの3選手の実力を明かす。
まず7月25日にJ1鹿島アントラーズから完全移籍で加入した元日本代表MF土居聖真が加入してから11勝1分1敗と好成績を出しており、土居個人もリーグ戦13試合4得点2アシストと結果を出している。トップ下に君臨する山形出身のチャンスメイカーは、「そこが見えているのか!?」といった盲点にパスを出せる優れた攻撃センスを持っており、DFラインをすり抜けるようなドリブルも健在だ。山形が求めていたピースとして中核をなしている。
そしてリーグ戦13試合7得点とゴールを荒稼ぎするFWディサロ燦(あきら)シルヴァーノの存在も欠かせない。6月20日にJ1湘南ベルマーレから完全移籍で山形に復帰してから点取り屋として先発に定着し、第31節ザスパクサツ群馬戦から第34節レノファ山口戦まで4試合連続弾を決めてチームを常勝へと導いている。ちなみにディサロが山形所属時にゴールを決めた試合は14試合(J1昇格PO1試合を含む)の内13勝1分負けなしと不敗神話が継続中であり、背番号90が得点を挙げれば勝利の女神がほほ笑むに違いない。
クレバーな守備を見せる高身長センターバック(CB)のDF城和隼颯(しろわ・はやて)は、負傷者が続出するディフェンスラインを支えている。DF熊本雄太が6月に全治約5カ月の大ケガで長期離脱となり、今季リーグ戦33試合先発出場の主力DF西村慧祐(けいすけ)が先月行われたトレーニング中に全治約3カ月の負傷を負った。8月13日に群馬から完全移籍で加入した城和は中々定位置を確保できなかったが、第34節山口戦から先発に定着。第36節ロアッソ熊本戦で決勝点となるヘディングシュートを決めて山形の連勝を継続させた。優れた足元の技術と187センチの空中戦の強さを生かした現代型CBが千葉を迎え撃つ。
この他に山形アカデミー出身のFW高橋潤哉(じゅんや)がリーグ戦34試合11得点3アシストとチームトップスコアラーとして活躍しており、途中出場から9ゴールを奪うすさまじい決定力でゲームチェンジャーとして期待されている。鋭いドリブルを持ち味とするMFイサカ・ゼインや高精度キックを武器にするMF國分伸太郎など既存戦力も優れた選手が多く在籍している。
控え層も実力者を備えており、既存選手と新加入選手が調和したことで攻守のバランスがJ2でも屈指の域に到達している。ホーム負けなしだった清水エスパルスを2-1の逆転勝利を収める力は本物だ。強固なブロックから相手のこぼれ球を回収し、即座にカウンターにつなげて土居がチャンスを創出し、ディサロや高橋がフィニッシュを決める。J2でも傑出しているカウンターを中心に、多彩な攻撃で千葉を打ち破りたい。
2季連続の最終節ジンクス
山形は相手からすれば恐怖のジンクスを持っている。
2022年シーズンは6位に位置していた徳島ヴォルティスが8位山形と最終節に対戦し、ホームで3-0の勝利を収めた山形が順位を6位に上げてPOへと駒を進めた。
翌2023年シーズンは6位だったヴァンフォーレ甲府が7位山形と最終節に激突。ホームで2-1の逆転勝利を挙げて5位フィニッシュでJ1昇格PO進出を決めた。
現在6位の千葉は条件に当てはまっており、最終節にホームで山形と対戦する。ジンクス通りであれば、山形が千葉から白星を手にしてJ1への挑戦権を手にすることになるが果たして(これまで順位が上の相手を破って逆転でJ1昇格PO進出を決めてきたので、条件が完全に一致していない部分が懸念点ではあるが)。
ただ迷信じみたジンクスはまやかしといってもいい。これまで一丸となって戦ってきた選手、スタッフの努力によって後半戦の大躍進につながった。クラブ新記録の9連勝を達成して、J1昇格POでは勢いそのままに10季ぶりのJ1復帰につなげたい。
(文 高橋アオ)