健康的な筋肉美を競うBIKINI選手として活躍する一方、自身が経営するパーソナルトレーニングジムで正しいダイエットの知識を伝える鳥巣愛佳さん。「摂取カロリーを減らし、有酸素運動で痩せる」といった従来のダイエットに警鐘を鳴らす彼女が提唱するのが「ケトジェニックダイエット」だ。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=鳥巣愛佳)
「脂の代謝でエネルギーを作り出す」ケトジェニックダイエット
――ダイエットにおいて、筋肉を落とさずに痩せるためには、どのような食事が理想でしょうか?
鳥巣:基本的には「痩せる食事」ではなく「太らない食事」を心がけることが重要です。3大栄養素である脂質・タンパク質・糖質のうち、脂質か糖質のどちらかを減らすのがダイエットの基本となります。脂質と糖質の両方を減らしてしまうとエネルギー源がなくなり、リバウンドしやすくなるので注意が必要です。タンパク質は体を構成するのに欠かせない大切な栄養なので、積極的に摂るべきですね。
――脂質と糖質が組み合わさっている食事は多くあると思います。おすすめの食事法はありますか?
鳥巣:私が実践しているのは「ケトジェニックダイエット」です。もともとは糖尿病やてんかんなどの治療に用いられる医療的な食事法でしたが、私の師匠でもある山本先生がフィットネスの分野に広めてくださいました。具体的には、三大栄養素の中の糖質の量を極限まで減らし、脂質をしっかり摂ることで、体内で「ケトン体」をエネルギー源として生成し、脂肪を燃焼させる仕組みです。糖質ではなく脂質をエネルギー源に変えていく食事法なので、多くの方がイメージするダイエット食とは真逆の食材を使うことになります。
――たとえばどんなものを?
鳥巣:基本的にはお肉・お魚・卵やアボカドなどがメインになります。脂身たっぷりのステーキや豚バラ、チキンステーキにチーズやマヨネーズなど、脂質を足せる調味料もたっぷりかけて食べています。
――マヨネーズもOKなんですね! タンパク質と脂質のバランスはどのくらいが理想ですか?
鳥巣:脂質のほうがグラム数としては多くなります。
※PFCバランス…Protein(タンパク質)、Fat(脂質)、Carbohydrate(炭水化物)の摂取比率。

減量期でも2500キロカロリーを摂取。具体的なメニューとは?
――一日にどのくらいのカロリーを摂取して良いのでしょうか?
鳥巣:ダイエットにおいて食べても痩せていく摂取カロリーは人によりけりですし、その都度カロリーや栄養バランスも変えていきます。その前提でのダイエット開始時のカロリーは、ケトジェニックの場合は女性で2000キロカロリー以上、男性で平均2500キロカロリー以上の摂取を推奨していることが多いです。脂質がエネルギー源となるケトーシス状態になり、キレイに痩せるためには多くの摂取カロリーが必要です。他のダイエット方法よりも食べられる量が多いので、筋肉が減るリスクやホルモンバランスの乱れも抑えられます。ただし、最適な摂取量やバランスは人によって異なるので、個別にアドバイスしています。
――タンパク質と脂質に限定して2500キロカロリーを摂るのは意外と大変そうですね。
鳥巣:そうですね。当ジムで指導させていただいているお客様のほとんどが「食べるのが大変だ」とおっしゃいます。脂質の量を減らす食事のローファット(低脂質)ダイエットでは、痩せなければ糖質の量を落としていくしか方法がないのですが、ケトジェニックダイエットでは、食事の満足感を得られながら体質が変わっていくので、ストレスが溜まりにくいです。
――増量期の具体的なメニューを教えてください。
鳥巣:これまで私が一番脂肪をつけすぎないで増量できていると思った時は、1日2700キロカロリーほど食べています。朝は代謝を上げつつ、中性脂肪を合成させないためにケトジェニックの食事をしています。MCTオイルを10g入れたコーヒー、卵3つにチーズを20gくらいトッピング。朝に糖質を摂らない代わりに、昼と間食では糖質をしっかり入れています。たとえば魚介のパスタや、わらび餅などの和菓子を食べます。その糖質を夕方以降のトレーニングのためのエネルギー源にしています。
――糖質のエネルギーをトレーニングのパワーに変えているのですね。
鳥巣:糖質を入れておいたほうがトレーニングのパフォーマンスが上がるので、昼に糖質をしっかり貯蔵しています。
――増量期と減量期でメリハリをつけているのですね。
鳥巣:増量期はトレーニングの重量をしっかり上げないといけないので、糖質のエネルギーを使っていますが、減量期はケトジェニックで糖質を取らない脂質のエネルギーなので、そこは大きなメリハリですね。減量期の2500キロカロリーの食事は、朝と夜のメニューは増量期と大きく変えず、昼は糖質を抜いたメニューを取り入れます。焼きサバとブロッコリー、厚揚げを炒めたものや、間食にチーズ・ナッツ類を食べています。減量期でも多くのカロリーを摂って美味しいものを食べてお酒も飲んでいるので、ストレスは感じません。

大事なのは“再現性”
――増量期・減量期のメリハリをつけたり、自分に合うカロリーやPFCなどの栄養バランスを把握することが大切なのですね。
鳥巣:一般的な健康管理で増量期は設けなくていいと思いますが、痩せたい時に正しい方法で無理なく痩せるスキルが大切だと思います。「ご飯を半分にした」「いつもより野菜を多く食べた」など工夫される方もいらっしゃいますが、そのやり方だと、気をつけた行動がどのぐらい自分の体に影響したのかを認識できません。栄養を数値で把握することが、ダイエットの精度と再現性を高めます。
――まずは「食べているものを知る」ことからですね。
鳥巣:はい。もちろん数値は誤差があるものですが、まずは基礎的な数値を把握し、意識を持つことが大切です。意外と、全然食べてないのに太っている方も多いんですよね。

食べて痩せる。目指すのは“糖から脱却した体づくり”
――しっかりと食事を整えた上で、トレーニングはどれくらい必要ですか?
鳥巣:「痩せる」「体重を落とす」ことが目的なら、筋トレはまったくしなくても大丈夫です。実際、私のジムで指導させていただいてるお客様の半数は日常的な運動をしていません。筋トレは、「ボディラインを整えたい」「リバウンドしたくない」などの希望があれば取り入れていただくスタンスです。「運動して脂肪を燃焼しましょう」というジムがほとんどだと思いますが、運動したところで大して痩せはしません。運動によるカロリー消費は、食事で摂っているカロリーと比べたら大したことがないですし、運動をすることで食欲が増して余計に食べてしまうケースも多いです。基本的には食事改善で体質を変えてキレイに痩せて、筋肉が減ってリバウンドしないために筋トレを取り入れていただくことを目指しています。
――女性の場合、極端なダイエットで生理が止まることもありますよね。しっかりとカロリーを摂ってダイエットできるのは、ホルモンバランスにも良さそうです。
鳥巣:そうなんです。私がケトジェニックにフォーカスしている理由は大きく2つあります。まずひとつがホルモンバランスを整えるために必要な脂質をしっかり摂れることです。もうひとつは、糖の依存から脱却した体をつくることが健康につながるからです。日本人は糖質をうまく代謝できない体になっているせいで痩せにくかったり、生活習慣病になっている方も非常に多いです。ケトジェニックを行うことによって、糖に依存せず脂質をエネルギーにできるような体質になるので、実際にお客様は「健康診断の数値がよくなった」「高血圧の薬を飲まなくてよくなった」との声も多くいただきます。
――ケトジェニックダイエットでは、「チートデイ(*)」は取り入れているのですか?
鳥巣:ありますよ。ただ、ボディメイクの観点での正しいチートデイは、適切なタイミングで適切な量を摂ることが必要になります。取り入れる条件は3つあって、一つは完全に代謝が落ちて、「これ以上何をやっても痩せない」という状態になっていること。
(*)「cheat」=英語で「騙す・欺く」の意味。ダイエットの目的を成功させるため、一時的に脳を騙すことを目的とする。チートデイは「好きなものを食べる日」で、ダイエット中に停滞期を乗り越えることや代謝を活性化させることを目的として取り入れられる
※次回連載(後編)は4月21日(月)に公開予定
【連載前編】痩せるために有酸素運動は非効率? 元競技エアロビック日本代表・鳥巣愛佳が語る逆転の体づくり
<了>
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[PROFILE]
鳥巣愛佳(とりす・あいか)
1993年生まれ、福岡県出身。合同会社AERIY代表。元競技エアロビック日本代表選手。早稲田大学商学部を卒業後にトレーナーとして独立し、ダンスやスパルタンレース競技において日本トップクラスで活躍。BIKINI競技に転向後、選手としての活動と並行して2022年から上野御徒町にて「ボディメイクサロンVIAS」を経営している。師匠はボディビルダーの山本義徳氏。