サッカークラブの強さは“お金”で決まる――。もはやこれは紛れもない真理だ。
中でもプレミアリーグが稼ぎ出すお金は莫大だ。デロイトが毎年発表している収入ランキングではトップ10に6クラブもランクインしているのだ。
しかし彼らのビジネスに対する貪欲さはとどまることを知らない。さらなるビッグマネーを狙って生み出された、最新の「金の稼ぎ方」をお伝えしよう――。
(文=川内イオ、写真=Getty Images)
YouTubeで収益化を狙うリバプール
プロサッカークラブの収入源といえば、ユニフォームやスタジアムに広告を掲出するなど契約しているスポンサーからの契約金と、テレビの放映権料が主だった。しかし、新興のネットメディアの登場で、サッカークラブの稼ぎ方も多様化してきている。
昨年12月3日、イングランド・プレミアリーグのリバプールはクラブの公式サイトで、YouTubeのチャンネルメンバーシップサービスを利用する世界初のスポーツクラブになったと公表した。
チャンネルメンバーシップとは、毎月定額の視聴料金を支払う有料チャンネル会員(ファン)に対して、限定のプレミアム動画、コメントとチャットでユーザー名の横に表示するメンバー用バッジ、チャットで使えるカスタム絵文字などのメンバー限定の特典を提供するサービスである。
リバプールはもともとYouTubeチャンネルを運営していて、363万人のチャンネル登録者が、2019年の1年だけで10億回分のコンテンツを視聴している。リバプール公式サイトは「世界で最も視聴されているスポーツチームの一つ」としており、チャンネルメンバーシップサービスはこのコンテンツ力を収益化する動きといえるだろう。
料金は月額0.99ユーロと2.99ユーロの2パターン。0.99ユーロの会員には試合前後の選手インタビュー、毎試合の特典映像などが提供され、2.99ユーロの会員は毎週のトレーニングシーン、18歳以下と23歳以下のチームの試合のハイライト、毎週のプレビューとレビューなどが視聴可能になる。
リバプールのデジタル、メディア、マーケティング担当上級副社長であるドリュー・クリスプ氏は、チャンネルメンバーシップサービスの始動にあたり、次のようにコメントしている。
「世界中のどこにいてもお気に入りの瞬間を再現したり、チームを身近に感じることができるこのようなコンテンツが、サポーターにとってどれほど重要か、我々は理解している。YouTubeメンバーシップの開始により、ファンがプレミアムコンテンツにアクセスするためのより柔軟な機会を提供する」
Amazonと提携するチェルシー
同じくプレミアリーグに所属するチェルシーは、Amazonを通して新たな収益を得ている。
Amazonはプレミアリーグと推定9000万ポンドで2019-20シーズンから3年間、年間20試合をAmazonプライムでストリーミング放送する権利を獲得しており(イギリス国内のみ)、昨年12月3、4日に一挙10試合のライブ配信を行った。そのうちの1試合、チェルシー対アストン・ヴィラ戦に先立ち、Amazonとチェルシーがアメリカの大手電池メーカー・デュラセルとパートナーシップ契約を締結したと発表した。
この契約によって、ライブ配信の際、デュラセルのモバイルデバイス充電器「Power Bank」に関する10秒間の広告がユーザーに最初に表示された。この広告にはチェルシーの3選手、メイソン・マウント、ミシー・バチュアイ、カラム・ハドソン=オドイが登場しており、チェルシーの公式サイト、アプリ、全てのソーシャルチャンネルにも掲載された。
デュラセルUKのマーケティングマネージャーはメディアに対して、Amazonプライムによるプレミアリーグ配信が始まるタイミングで、さらに最初に視聴者に表示される権利を「逃せなかった」と振り返っている。
「ライブストリーミングは、モバイルデバイスのバッテリー寿命が消耗する最大の要因の一つであるため、外出先で全てのアクションをキャッチすることを計画しているサッカーファンにとって『Power Bank』は理想的なアクセサリーです。彼らがサッカーをより長く観戦する助けになるでしょう」
この広告の効果はまだ明らかにされていないが、プレミアリーグの配信はAmazonにとって大きなメリットがあったようだ。イギリスの大手新聞『ガーディアン』は、12月3、4日の2日間でAmazonプライムの加入者(月間7.99ポンド/年間79ポンド)が史上最大の増加率を記録し、数百万人がAmazonプライムで試合を視聴したと報じている。
この実績が、デュラセルのような広告主に好印象をもたらすのは確実で、今後、Amazonとクラブ、広告主の3者が組んだ広告が増える可能性は高い。
中国のアリババと手を組むマンU
マンチェスター・ユナイテッド(マンU)は昨年12月6日、中国に7億人のユーザーを持つアリババグループとのパートナーシップを発表した。この提携によって、アリババのビデオストリーミングプラットフォームである「Youku」にマンUチャンネルが開設される。
このチャンネルでは、トップチームの一部の試合、ハイライト、トップチームがオフシーズンに行うツアーの試合のほか、アカデミーや女子チームの試合、ローカライズされたオリジナルコンテンツなどが配信される予定。
さらにこのパートナーシップには、アリババのBtoCマーケットプレイスである「Tmall」で中国のファン向けにマンUの商品を販売する公式オンラインストアの創設も含まれている。「Youku」と連携して、さまざまグッズが購入できるようになるようだ。ちなみに、「Tmall」は、取引額が年間48兆5846円に達する中国のナンバーワンECサイトである。
マンUは以前から中国市場の開拓に力を入れており、2019年7月にプレミアリーグのクラブとして初めて中国語のモバイルアプリをリリースしている。さらに同月、北京中心部にクラブの文化や歴史を体感するエクスペリエンスストアをオープンした。
今回のアリババとの提携に関して金額面は公表されていないが、「Youku」での配信と「Tmall」での販売によって、中国におけるマンUのプレゼンスはさらに高まるはずだ。
マンCはスタートダッシュに失敗!?
ライバルのマンチェスター・シティ(マンC)は昨年12月19日、プレミアリーグのクラブとして初めて、YouTube Kidsでオリジナルチャンネル「Man City Kids」を立ち上げた。
このチャンネルでは、トップチームの舞台裏を映した動画、ピッチの内外でクラブのニュースを議論するウィークリーショー「Xtra Time」、12歳未満の子どもを対象とした試合のハイライトと短編コンテンツが配信される。
マンCは2018年4月に子ども向けアプリ「Man City Kids app」をリリースしており、子ども世代のファンの開拓に乗り出している。
しかし、「Man City Kids」の滑り出しは順調とはいえないようだ。
視聴者数やチャンネル登録者数、滞在時間を競うネットメディアの覇権争いは、スポーツクラブにとってチャンスになる。日本のスポーツクラブも、ネットメディアと組んでユニークなチャレンジを始めれば、新たな収益源を確保できるかもしれない。
<了>