中国では、一時期の経済の「超高度成長」が影を潜めた状態だ。人々が「明日は今日より裕福」を前提に大胆に出費する状況も、ほぼ見かけなくなった。
「たとえ歩いているのでも、われわれの方がホカより速い」――。50代のSさんは笑いながら、中国経済と競争相手の現状を表現した。Sさんは主に不動産販売で財をなした。今も、まだ比較的うまくやっている方だ。もちろん、状況が良いとは言えない。空き家が多く、マンション価格も高すぎるという。今後はどうなるのか。Sさんは肩をすくめて「どうにかなります」と言った。
天津市で開催された夏季ダボス会議で、中国の李強首相はいつものように強気だった。李首相は世界各地から集まった1700人を前にした講演で、中国の今年第1四半期(1-3月)の国内総生産は5.4%成長し、第2四半期以降も主要な経済指標が引き続き好転しているなどと述べた。
しかし、多くの中国人は政府の説明に疑念を抱いている。彼らは出費するよりも、貯金することを選んでいる。天津の大型ショッピングモールを歩くと、あちこちが閑散としていた。腕時計、宝飾品、高級ハンドバッグなどが一通り揃っているが、客はほとんど見当たらなかった。美容室では、平日でも客足が途絶えていた。4人のスタイリストがいるのに、客は1人もいなかった。
しゃれたデザインの自動車販売店では、店員が手持ち無沙汰にスマートフォンをいじっていた。蔚来(ニオ)の最新モデルの電気自動車がショールームの中央にぽつんと置かれていたが、見に来たり、乗ってみたりする人はいなかった。中国の消費の低迷は、自動車業界にとりわけ大きな衝撃を与えている。
自動車の検査や安全評価などを行うドイツのデクラグループのキリアン・アビレスアジア太平洋地域総裁は、中国における自動車販売の現状について「消費者にとっては良いことです。非常に低価格で、極めて先進的かつ競争力のある自動車が手に入るのですから。しかし同時に、企業の利益率は低下しています」と指摘した。アビレス総裁は、「生き残れるのは最も強く、最も健全な企業だけです」とも述べた。
自動車業界については輸出を拡大すること、例えば欧州の輸出などが状況を改善するかもしれない。ただし、それには欧州側が関税をこれ以上引き上げないことが前提になる。関税の問題が解消されなければ、中国がこれまで強く依存してきた輸出中心の経済モデルは、もはや長期的に維持できるものではない。
ロンドン中国分析センターのディアナ・チョイレバ上級研究員は「中国はすでに、輸出主導型成長の時代が終わったことを認識しています。当然ながら、過剰投資と過剰生産という問題に対応しようとしています」と説明した。
中国は同時に、できる限り多くの産業分野で世界市場のリーダーになることを目指している。天津で訪問者らは厳選された企業へと案内された。天津は世界第5位の港湾都市であり、同市が重点的に発展させている分野の一つにロボット技術がある。
案内された場所の一つが新松ロボットの天津工場だ。同社の産業用ロボットは世界40カ国に輸出されており、その中には原子力産業用のロボットもある。ただし、工場に最新型のロボットモデルは展示されていなかった。来場者が目にしたのは、自動車産業向けなどの標準的なロボットだった。生産マネージャーは、成長の可能性は非常に大きいと述べ、興奮気味に「まもなく、ロボット自身がロボットを製造できるようになります」と述べた。しかし「それでは労働者はどうなりますか」の質問には答えてもらえなかった。
天津を流れる海河のほとりでは、人々がのんびりとピクニックを楽しんでいた。子ども連れの家族や高齢者、そして多くの若者がいた。