中国メディアの観察者網はこのほど、中国系カナダ人研究者のダン・ワン氏による米中比較論を紹介する記事を発表した。ワン氏は同時期に始まった米中の高速鉄道建設が、中国では成功しているのに米国ではほとんど「手つかず」である状況などから、「弁護士支配型国家」の米国は、国の運営の方式を変更しないかぎり、「技術型国家」の中国にはとうていかなわないと主張した。
米中の両方を体験したからこそ見えてきた「米国病」
ワン氏は中国雲南省出身で、7歳の時に両親とともにカナダに渡った。現在は米スタンフォード大学フーバー研究所の研究員で、長年にわたり中国での科学技術の発展の状況を研究してきた。2016年から18年までは香港の金融系会社で、顧客に中国の政治と経済の動きを説明する仕事に従事し、18年から23年までは中国大陸部で暮らした。その過程で、米国と中国の状況を比較する機会を多く得たという。
ワン氏は23年に米国に戻った後、イェール大学ロースクールで接した学生が、抱負こそ持ちながら主体性に乏しいと感じた。ワン氏はこのことから、行政法の専門家であるミシガン大学ロースクールのニコラス・バグリー教授の「米国政府は手続きにあまりにこだわる」との見解を思い出した。ワン氏はこのことで、自らの米中比較論を改めて構築していくことになった。
弁護士に支配された米国では、物事が進まない
ワン氏によれば、中国は「工学的思考」によって統治される国家であり、工学的背景を持つ人々が主導しての統合的な建設事業に長(た)けているのに対し、米国はすでに「弁護士主導型社会」へと変質し、あらゆることに阻害を設けられがちであり、連邦政府はすでに「弁護士に支配され、弁護士のために奉仕し、弁護士を代弁する政府」に堕してしまった。
ワン氏はさらに、米国では「法律エリート階層」が結果よりも手続きを優先し、その制度設計が富裕層向けに偏向する状況になった。ワン氏は、1984年から2020年までの間の米国の民主党の大統領および副大統領候補はすべて法科大学院に在籍した経歴を持っていたと指摘した。
ワン氏は「米国では過去も今も、エリート法学院は野心ある者が政府の中枢に入るための最も手っ取り早い経路だ。弁護士がエリート階層で支配的地位を占めていることで、アメリカは訴訟至上の『拒否制国家』になってしまった。何かを進めようとしても、反対者は必ず弁護士を使った手段で否決してしまう」と指摘し、「もし米国が、富裕層と権力者層に主に奉仕するこの体制を固持し続けるなら、強国の地位を維持し続けることなど不可能だ」と主張した。
明暗が完全に分かれた米中の高速鉄道建設
ワン氏は、米国と中国の「統治方式の差」が最も典型的に現れている例として、高速鉄道の建設を挙げた。08年には米国のカリフォルニア高速鉄道の予算案が可決された。
中国の高速鉄道は3年後に正式開業した。総建設費は300億ドル(約4兆4000億円)余りであり、開業から最初の10年間で延べ約14億人を輸送した。これに対し、カリフォルニアの高速鉄道は最初の区間ですらいまだ影も形もなく、24年に約490メートルの橋が完成しただけだ。開通時期は30年へと再び延期され、建設費は1280億米ドル(約19兆円)に膨れ上がった。
ワン氏は、「中国は資源豊富な国の良好な運営モデルを築き上げた。過去40年で、何マイルの道路を敷設し、新しい原子力発電所を何カ所建設し、どれほどの鉄鋼を生産したか―。それを書き出せばまさに驚愕に値する」「米国が中国のインフラ建設モデルをそのまま模倣する必要はない。しかしそれでもなお、中国の経験から学ぶことだ。都市建設の分野で中国はすでに数多の成功を収めている」と主張した。
「シリコンバレーの栄光」を信じたのでは、さらに悪い結果が
ワン氏は「シリコンバレーの伝説」を信じ込むことも、米国のこれからの発展を阻害する要因になると主張する。ワン氏によれば、「シリコンバレーの発想」とは、最新の画期的発明、たとえば新世代の生成型人工知能モデルに固執することにあるが、そうでなくて、技術は製造能力を構築するために必要な人材の蓄積とプロセスの知識として理解されるべきだ。
ワン氏は米アップル社のアイフォンを例に挙げた。アップルはアイフォンを発明したが、ほとんどの装置は中国で製造されている。この状況は、深センが世界で最も革新的な電子産業の中心となることに寄与した。ワン氏は、米国は「建設」への情熱を取り戻すべきであり、中国のやり方を参考にして、ハードコアな工学を誇るべき事業として再び手がけ、「ビットで構築された仮想世界ではなく、原子で構成された実体世界を称賛すべきだ」と主張した。
ワン氏はさらに、米国は新設の政府効率化省(DOGE)の業務の重点を「人員削減」ではなくて「官僚手続きの簡素化」に転換し、明確な政府統治モデルを再構築して「弁護士による統治」の硬直化した束縛を脱し、自国の工学技術力を再興すべきと主張した。
ワン氏の新著に西側メディアも注目
ワン氏は最近、「Breakneck : China’s Quest to Engineer the Future (猛進:未来を形成する中国の挑戦)」と題した書物の著作を終えた。8月末には発行されるという。多くの西側メディアが同書に注目するようになった。英紙「フィナンシャル・タイムズ」は16日付で、この新著について「中国の強みと弱点を深く論じると同時に、米国の指導層が自己破壊的な決定によって、競合相手との技術軍拡競争でいかに受け身に陥っているかを鋭く批判」と評した。ブルームバーグはワン氏の新著について、「米国は現在、ワン・ダン氏の提案と正反対の方向に進んでいる」と、より悲観的な見方を示した上で、ワン氏の新著を「警告の書」と評した。
ワン氏は自らのウェブサイトで同書に関連して、「米国はしばしば、自らが技術的優位に上り詰める至るためのはしごを設けたが、最上部まで最初に登ったのは中国だった」「今や、米国のあまりに多くの場所が、かつて繁栄した文明が残した保存状態の良い廃墟のように見える。米国人は通常見過ごされ、軽視されがちな産業上の成果を、より明確に見つめ直すべきだ」などと記した。