2025年8月19日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、トランプ米大統領がこれまで「最大の脅威」とみなしてきた中国への態度を軟化させた理由について考察する記事を掲載した。

記事は、トランプ大統領が当初中国を「最大の脅威」と位置づけ、最大145%もの高関税を発表したものの、数か月後には対中関税の停止期間を延長して関税の上限を30%に抑え、習近平(シー・ジンピン)主席を「強力な指導者」と称賛するなど、その姿勢を軟化させたと紹介。

一方で、インドやブラジルには最大50%の関税を発動しており、中国への「特別扱い」が際立つ形になっているとした。

その上で、トランプ大統領が態度を変えた背景を米国自身の思惑、中国による戦略という二つの側面から分析。まず、米国自身の思惑については、目前に迫ったホリデーシーズン商戦を前に、小売業者への打撃となる関税引き上げを回避する、技術、エネルギー、稀土類鉱物などより広範な貿易協定の交渉時間を確保するといった狙いがあるとした。また、トランプ大統領が国内外の課題を多く抱えており、解決のために対中強硬戦略を一時棚上げにしたとの見方も出ていると伝えた。

一方、中国による戦略としては、米国の強い姿勢に対して唯一屈しなかった中国の態度に、深刻な経済ダメージを恐れるトランプ大統領が受け身になった可能性があると指摘。中国の強硬な態度を支えている最大の武器は世界供給の大半を握るレアアースであり、過去にも高関税の報復として発動したレアアース輸出規制が奏功したという実績も自信を下支えしているとした。

このほか、米中交渉の中で米国が「大豆輸入の4倍増」などを求め、中国は「先端チップへのアクセス確保」などを求めるといったように、双方の利害が複雑に絡み合っていることも、駆け引きの中でトランプ大統領が譲歩の姿勢を見せた要因の一つとなっている可能性も示唆した。

記事はまた、トランプ大統領が中国に対して決して「譲歩一辺倒」ではないことも合わせて指摘。中国が関税逃れのために東南アジア諸国で行う「産地偽装」に対して最大40%の新たな関税を課すなど、形を変えて中国への圧力を継続していることを紹介した。

記事は、今後の米中交渉により米国が先端チップ、中国がレアアースに関する輸出規制を緩和し合い、その流れで米国企業が中国市場へのアクセスを改善することになれば、欧州連合(EU)や日本、韓国といった米国の同盟国が不利益を被ることも考えられると予測した。また、交渉が中国優位に進んでいるように見えても、トランプ大統領は混乱を好み、予測不可能な行動をとる可能性があるため、状況の変化に対する油断は禁物だとする専門家の意見を伝えた。(編集・翻訳/川尻)

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