中国メディアは最近になり、「新型コロナ用ワクチンの父」と呼ばれる楊暁明氏の不正問題を改めて取り上げるようになった。楊氏は一時、「医学科学界の英雄」のように扱われていたが、ワクチン生産設備の調達や科学研究資金の承認などの過程で巨額のリベートを受け取った疑いがもたれているという。

中国科学技術協会は11月28日付で、楊暁明氏と仕事仲間だった徐佐氏への全国創新争先賞(全国イノベーション競争賞)の授与を撤回すると発表した。同賞は中国政府の人力資源社会保障部、科学技術部、国務院国有資産監督管理委員会、中国科学技術協会が共同で設立した賞で、科学技術の研究に従事する個人またはチームを授賞対象にしており、中国国内で科学技術人材に与えられる賞として、格式が極めて高い。

楊氏は長期間にわたり製薬会社の中国国家医薬集団(国薬集団、シノファーム)でワクチンの研究開発や産業化に従事し、同集団の科学技術関連の最高責任者も務めた。また、国薬集団の中核企業で、ワクチンの研究開発や生産、供給を行う中国生物技術でも科学分野の最高責任者も務めた。

新型コロナウイルス感染症が発生すると、楊氏は中国生物技術を率いて独立自主で4種類の新型コロナ診断試薬、4種類の新型コロナ特効治療薬、4種類の新型コロナワクチンを研究開発した。うち新型コロナウイルス不活化ワクチンは開発着手から335日間という異例の速さで開発に成功し、中国国外でも広く使われるようになった。同ワクチンは発展途上国で開発されたワクチンとして初めて、世界保健機関(WHO)が指定する新型コロナウイルス用ワクチンの「緊急使用リスト」に入れられた。

楊氏が筆頭著者または責任著者となった論文は2023年11月までに201編が、国際的に権威ある生物科学誌の「セル」などに掲載された。被引用数は累計4533回で、うち5編は被引用回数で世界の上位1%内だった。楊氏はまた、23年11月までに、第一発明者として国家発明特許を23件取得した。

中国科学技術協会は「楊暁明氏は中国のワクチン産業が国際的なトップグループに入るために重要な貢献をした」と評価した。中華国際科学交流基金会は「楊暁明氏は新型コロナウイルス肺炎との戦い、人民の生命と健康の保障のために重大な貢献をした。

彼は生命を大切にし、健康を守るという理念を堅持し、『愛と責任』を心に抱く中国生物技術のメンバーと共に、研鑽(けんさん)に励み勇猛に前進し続け、新時代において夢を築くさらに素晴らしい物語をつむぎ出し、中国の生物製品事業の不朽の栄光を書き記した」と評価した。

楊氏は23年3月に任期が始まった第14期全国人民代表大会の代表(議員)にも選出された。しかし24年4月23日に、楊氏の全人代の代表資格が停止されたことが発表された。理由は「深刻な規律違反および違法行為の疑い」とされた。

楊氏に対する主要な容疑は、ワクチン生産設備の調達や科学研究資金の承認などの過程で巨額のリベートを受け取ったことと、規則に違反して研究開発資金を移転したことだ。関連する金額は数億元(5億元=約110億円)に達するとされる。

当局は、楊氏の違法行為はワクチンの安全性とは無関係であり、ワクチンの品質には権威ある検証で、問題が発見されていないと説明した。

なお、楊氏と同様に不正行為のために告発され、名誉なども剥奪された徐佐氏には24年12月に、終身懲役、終身政治権利の剥奪、すべての私有財産の没収などの判決が言い渡された。(翻訳・編集/如月隼人)

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